審神者になった日。17
その後は色々な物をかごから出していた。
風呂用品に、衣類、タオル・・・・。
「もうこのくらいで大丈夫かな・・・・」
出して、ふたをしめて、願って、出して、を繰り返していたため、
かごとの周りには、たくさんの物があふれていた。
「あ、あと時計・・・・・」
壁掛け時計、広間と台所と自分の部屋用に出しておこう。
そう思い、かごに入るサイズなのでは壁掛けも三つほど願い、かごのふたを開ける。
「・・・・・・・」
中にはちょうど良い大きさの壁掛け時計が三つ、ちゃんと入っていた。
取り出した時計は、もうすぐ九時になろうとしていた。
三つとも同じ時間だった。
(これ・・・多分、時間あってるんだよね・・・・)
はそう思い、時間のあっている時計が出てきてよかった。と、ほっとする。
「ふう・・・・・」
一息ついて、周りを見ると、物があふれている・・・。
(いっぺんに出しすぎたかな・・・・)
はは・・・とは苦笑するが、立ち上がり、それらを空いているタンスの中へとしまいはじめた。
衣類とタオル類はタンスの中へ。
風呂用品は後で持っていくので、まとめて置いておく。
「よっし、お風呂入ろ。」
全てタンスや鏡台に置き、片付けると、
はシャンプーなど風呂用品と、下着、パジャマを持ち、立ち上がった。
(お風呂広くて気持ちいいだろうな〜)
少し楽しみで、ニコニコとしながらは部屋の明かりを消し、障子を閉めた。
「・・・・・・」
廊下に出ると、わいわいと話す声が聞こえる。
それは廊下に出て右側から・・・・仕事部屋などがある方からだった。
三つ隣の部屋から明かりが漏れている。
(あそこがみんなの部屋か・・・みんな部屋に戻ったんだ。)
部屋近いな・・・と、思いながらは月明かりの照らす廊下を歩き、風呂場へと向かった。
引き戸を開け、明かりをつける。
着ている冬服のセーラー服を脱ぐと、洗面台の隣のスペースに畳んで置いた。
(あ、後でハンガー出そう。制服シワになるからなー・・・)
コートもかけなきゃ。と、そんなことを思いながらは服を全て脱ぎ、
シャンプーなどを持ち、ガラス戸を開けた。
むわっとした温かい蒸気がを包む。
(もうお湯はり終えてたんだ、よかった・・・・)
そんなことを思いながら、銭湯の様な青いタイルで出来た湯船を見る。
湯船からは蒸気がもくもくと立ち上っていて温かそうで、広さもあり、
早く湯につかりたくなった。
は少しにやけながら、早く入ろうと思い、シャワーを出し、身体を洗った。
「ふあー・・・・」
身体を洗い終え、湯船に肩までつかると、自然と声がもれた。
(気持ちいいなー・・・・)
広いお風呂は想像通り、気持ちよかった。
ちょうどいい温かいお湯に、手足が伸ばせる湯船。
肩までつかり、じんわりとした温かさに身体がふるえる。
「はー・・・・・」
もう一度ため息のような声がもれる。
お湯で顔を洗うとは背中をタイルにつけ、リラックスする。
(気持ちいいー・・・・このお風呂は最高だわ・・・)
そう思いながら天井を見上げ、ぼーっとする。
「はぁ・・・・・」
しばらくぼーっとしていると、眠気が襲ってきた。
(あ、やばい・・・寝る・・・・もうそろそろ出るかな・・・。)
はそう思うと、湯船から立ち上がった。
「あ・・・・・」
風呂から出て、脱衣所で身体を拭き、パジャマを着ようとした所で、
はふと、あることに気がついた。
(まずい・・・ノーブラだ・・・・・)
そう、つい、家と同じ感覚でいたので、ブラジャーをせずパジャマを着てしまった・・・・。
たたんだ制服の上にブラジャーはあるが、正直風呂上がりにつけたくない。
(どうしよう・・・・)
さすがに、この男所帯でノーブラでブラブラと歩くことはできない・・・・。
(とりあえずバスタオルとか抱えてごまかして部屋戻ろう。)
誰にも会いませんように・・・・と、思いながら、
はこれからどうしよう・・・と、少し考える。
正直ずっとブラジャーをつけているのは嫌だ。
日中は我慢できるが、食事とお風呂の後は外したい。
(あー・・・・何かカップ付きのキャミソールとか出すかな・・・・
でもキツイの嫌だなー・・・サイズ大きめのにすれば楽かな・・・・)
そんなことを色々と考えながらは自室へと戻ろうと、
脱いだ制服や下着、バスタオルを胸の前に抱えて、引き戸を開けた。
(あ・・・みんなお風呂入ってるんだ・・・・。)
風呂場から出て廊下に出ると、隣の男湯からわいわいとした声が聞こえた。
(よかった、誰にも会わずに部屋戻れる。)
はそう思いながら引き戸を閉め、廊下を進む。
「・・・・・・」
台所も広間も明かりが消え、真っ暗だった。
しかし、月明かりが差し込んでいて、薄く明るい。
(わー・・・綺麗ー・・・・)
廊下を歩いていると、窓から月が見えた。
煌々と、白い満月が輝いている。
(星とかも綺麗なんだろうなー・・・今度、外出て見てみよう・・・・)
そんなことを思いながら、外を見つつ歩いていると、自分の部屋についた。
障子を開け、明かりをつける。
「ふう・・・・・」
部屋に着くと、風呂上りのせいか、何だかどっと疲れが出てきた。
身体が重い・・・・・。
(早く片付けて寝よう・・・・)
はそう思いながら、持っていたバスタオルや脱いだ下着、
身体を洗ったタオルなどをちゃぶ台の上に置くと、
かごの前に座り、ハンガー五本下さい・・・と念じて、かごのふたを開けた。
(よかった・・・出てきた。)
そして出てきたハンガーで、制服とコート、濡れたタオル類を鴨居にかけた。
(あ、カップつきのキャミソールも・・・・あー・・・それはもう明日でいっか・・・)
は先程考えていた物を出そうと思うが、
温かい湯につかったせいか、眠くてたまらない・・・。
正直、髪も乾かさずに寝たい所だ。
なのでもう、明日にすることにした。
最後の力を振り絞りは鏡台の前へ行くと、
先程かごから出したドライヤーをコンセントに差し込み、スイッチを入れる。
(めんどくさい・・・眠い・・・・)
大きな音を立てながら温風を出すドライヤー・・・・。
髪を手ですきながら、ひたすらあてて髪を乾かす。
この時間は面倒だな・・・と、風呂に入るたびに思う。
「よっし!乾いた!」
しばらく髪を乾かしていると、ようやく大体、乾いた。
寝るぞ!とは立ち上がり、ちゃぶ台を少しどかし、
かごを押し入れの中にしまうと、押入れから布団を出した。
部屋の奥、押し入れの前辺りに布団を敷くと、
は部屋の明かりを消す。
そして布団の中へともそもそと入った。
(あ〜・・・気持ちいい・・・・)
横向きに寝ながら、旅館の布団みたいだ・・・と、
はふかふかの掛け布団に枕、
糊のきいたパリッとしたシーツに掛け布団カバー、枕カバー・・・・
そんな寝具に包まれ、目をつむってため息をついた。
「・・・・・・・・・」
そっと目を開くと、向かいの障子から白い月明かりが柔らかく差し込んでいる・・・。
(・・・・今日・・・色々あったな・・・・)
まだ一日・・・今日のことなんだよな・・・・とは思いながら、
布団の中でもそもそと動く。
(神社で雨宿りして・・・あそこから全部始まったんだっけ・・・・。)
とは月明かりで白く光っているような障子の紙を見つめて思った。
審神者になって下さいとお願いされ、刀を選び、階段を上って本丸に来た。
こんのすけに案内され、本丸の中を見て、顕現して陸奥守吉行に出会った・・・。
そのあとも審神者の仕事の説明を受け、鍛刀と顕現で、今剣や五虎退、山姥切国広に出会った。
そして夕飯を作り、お風呂に入り、今・・・・・。
たった一日のこと・・・・・。
もし自分のいた世界、時代と、時間が同じなら、五時間か六時間の間のことかもしれない・・・・。
それよりも、もっと長い気もするが・・・・と、思いながら、
たった一日の、慌ただしく目の回るような展開の今日に、
はほっと息をつけた今、出来事を振り返る・・・・・。
(そうだよなぁ・・・まだ今日のことなんだよなぁ・・・・)
はそう思いながら、家族のことを思い出した。
(・・・・家に帰ってこないとかで騒ぎになってるかな・・・・)
いきなりここに来たんだもんなぁ・・・・と、思っていると、少し家が恋しくなった。
家族にも会いたい・・・・。
これから、歴史修正主義者を全て倒すまで、家には帰れない・・・・。
「・・・・・・・・・」
は月の明かりで白く輝く障子を見つめていた・・・・
(審神者・・・・・か・・・・・・)
なんで私が選ばれたんだろう・・・・はそう思いながら、
少し淋しく、悲しくなってきて、そっと目を閉じた。
そして、襲ってくる睡魔に素直に従い、そのまま眠りへとついたのだった・・・・。
こうしての審神者になった日は終わった・・・・。
これから、彼女と刀剣男士達の日々が始まる―――。
終。
2015/11/06....