審神者になった日。16












「うまかったぜよー!ごっそうさん!」



オムライスをたいらげ、スプーンを皿の上に置く陸奥守吉行。
そのまま、後ろに両手をついて、リラックスしている。

「私もごちそうさまでした。」

も食べ終わったので、スプーンを皿の上に置くと、両手を合わせた。

「・・・・ごちそう・・・さま・・・」

途切れ途切れに言いながら、山姥切国広もスプーンを置く。

「おなかいっぱいですー!ごちそうさまですー!」

スプーンを皿の上に置き、陸奥守吉行と同じように、後ろに手を置き、
今剣はお腹をさすった。

皆がちょうどよく食べ終えるが・・・・

「あ・・・す、すみません・・・僕・・・まだで・・・・・」

五虎退はあと三分の一ほど残っていた。

「あ、大丈夫だよ。ゆっくり食べてね。」

は五虎退にほほえむ。

(五虎退くんは食べるのが遅いんだなー。)

それもまたかわいい・・・と、思いながらもふっと息をつく。

「ご飯食べ終えたら、お風呂ですかね。」

陸奥守吉行にそう声をかける

「そうじゃなー、風呂に入って後は寝るだけぜよ。」

陸奥守吉行は身体を起こした。

「あ、そういえば、皆さんお部屋決めたんですか?」

そう、全員に対してが問うと、

「はい!ちゃんのへやにいちばんちかいへやですよ!」

両手を上げて嬉しそうに言う今剣。

ちゃんのへやのとなりは、しごとべやとけんげんのまなので、
そのとなりのへやにしました!」

今剣はうきうきと嬉しそうにしている。

「とりあえず、四人一緒の部屋にしたぜよ。」

それでもまだ部屋が広くてのう・・・と、陸奥守吉行は苦笑いする。

「あー、そうなんですか・・・・」

ちょっと部屋見てみたいな・・・と、思う

「あ・・・すみません・・・食べ終わり・・・ました・・・」

すると、話しているうちに五虎退が食べ終わり、皆に声をかけた。

「あ、終わった?じゃあ、食器片付けようか。」

は手を伸ばして皆の食器を集めようとする。が、

「ああ、ええきにええきに。自分の皿は自分で持って行かせるぜよ。」

陸奥守吉行のさえぎる手と言葉には手を止める。

「洗い物もわしらでやるきには風呂に入って早く休め。」

陸奥守吉行はニカッと笑う。

「え・・・でも・・・・・」

戸惑うだが・・・・

は今日、色々あって疲れたじゃろ?早く寝たほうがいいぜよ。」

陸奥守吉行はほほえみながらそう言った。

「・・・・・・・・」

確かに今日は色々とあった。

雨に打たれ、薄暗い部屋に召喚され、刀を選び、階段を上り・・・・
本丸に来て、顕現し、審神者の仕事の説明を受け、日が暮れた・・・・。
夕飯もが中心で作った・・・・。

だが、不思議と体の疲れはあまり感じていない・・・・。
それはおそらく、気を張っているからだろうとはも薄々思っている。

(確かに・・・・色々あったし、早く寝たほうがいいのかもしれないけど・・・・)

が思っていると、

「ほれほれ!はよう風呂の湯沸かしてくるぜよ!」

そう言って、追い払うように手を振る陸奥守吉行。

「だいじょうぶですよ!ちゃん!ぼくたちもてつだいますから!」

今剣もにっこりほほえんでいる。

「ん〜・・・・・」

まだどうしようか悩んでいるだが・・・・

「じゃあ、お言葉に甘えます。すみません。」

あまり好意を断るのも申し訳ないのでは皆の言うとおりにすることにした。

「じゃあ、お風呂沸かしてきますね。」

そう言いながら立ち上がり、自分の食器を持つと、

「ああ、食器もいいぜよ。あとでわしらで運ぶきに。」

陸奥守吉行はそれをも制す。

「あ・・・いや、でも・・・・流しに置くくらいはします。お水も飲みたいし。」

眉をひそめながらほほえむに、陸奥守吉行はしかたないのう。と、
ため息をついて答えた。

「じゃあ、お先に失礼します。」

食器を持っては台所へと向かった。






「ふう・・・・・」

台所の流しに食器を置くと、コップを探し、水を飲む
水道の水を飲んでも大丈夫かな?と、思いつつも飲むと、
どこから来ている水なのかわからないが、とてもおいしかった。

水を飲みながら台所を見ると、フライパンやまな板、包丁・・・・。
調理器具が、調理したままの状態で置いてあった。

(これ・・・・皆さんに片付けさせるの申し訳ないな・・・・)

かと言って、片付けたらまたむっちゃんさんに何か言われそうだしな・・・・。
はそう思い、すみません。と思いながら、湯をはりに、風呂場へと向かった。







ガラガラっと赤いのれんをくぐりながら、引き戸を開ける。

(やっぱり広いなぁ・・・)

は入った脱衣所を見て、心の中でそう思った。
そのままガラスの引き戸を開けて、風呂場に入る。

(あ、お湯はり自動なんだ。追い炊きもできる。)

湯船を見ると、壁にが家で使っていたような、給湯器のボタンがある。
家と同じようなのでよかった・・・と、安心しながら、
湯船をサッとシャワーで洗い、お湯はりのボタンを押した。
すると、『お湯はりを、開始します。』という声が聞こえてくる。
少しびっくりした。
この家は昔と今が混ざってるな・・・・ほんとに不思議だ・・・・。
は思いながら、風呂場を見る。

(換気扇に、窓に、シャワーに・・・・あ、シャンプーとかない。)

どうしよう・・・・とは思う。

(脱衣所は・・・・・)

と、思いながらは脱衣所に戻ると、脱衣所を見て、物品チェックを始めた。

(そういえば、足りない物だらけだったんだっけ・・・・)

そう思いながら脱衣所を見渡す。
脱衣所にも風呂場にも、必要最低限の物しかなかった。

風呂場にはシャンプー類や身体を洗うタオルもない。
脱衣所には洗濯機はあるが、洗剤がない。
風呂場から出た所に、バスマットはある。
洗面台の横には手拭き用らしきタオルがちゃんとかかっていて、
予備のタオルも反対側の壁にある棚に五つくらいあった。
だが、バスタオルはない。

(あ、洗濯物入れるかごもないや・・・・あと、ブラシとか化粧水とかもないよなぁ・・・・)

部屋にあるかな?と、思いながら、お湯はりのボタンもおしたので、
は部屋に戻ることにした。




廊下を歩いていると、台所から賑やかな声が聞こえてくる。

「おんしたちは今度じゃ今度。」
「またなのですかー!おてつだいしたいのです!」

そんな声が聞こえてきてはほほえましくて、クスリと笑いながら、
そのまま部屋へと向かった。

明かりのついている広間を通り過ぎ、月明かりが照らす廊下をしばし歩き、
自分の部屋へと着く。

障子を開けると、中は真っ暗だった。
だが、目が慣れているせいか、月明かりが部屋の中にも差し込んでいて、
ほんのり明るかった。
障子を閉じても、光は障子の紙を通り抜け、ほんのりとさしこむ。

(さっきは気づかなかったや。)

そう思いながら部屋の明かりをつけた。

「・・・・・・・」

そして部屋を見渡す。

押入れに、タンス二つ。鏡台にちゃぶ台。
あとは自分のカバンとコート。

(あ、そうだ。)

あることに気づきは座り、カバンを開ける。
カバンの中には教科書やノート、筆箱やタオルなどが入っていた。
そしてお目当ての物を見つける。

(あった!)

そう思い、手に取ったのは携帯だった。
しかし、電源ボタンを押すが、画面は真っ暗だ。

「あれ・・・・」

は何度も電源ボタンを押すが、画面はつかない・・・・。

(まー・・・しかたないか・・・・・)

ここは不思議な場所だからな・・・・。
そう思いながら、携帯をカバンの中に戻した。
そして部屋を見渡し、向かったのはタンス。

(うわー・・・・綺麗・・・・それにいい香り・・・・・)

タンスは高級そうな木製のタンスだった。
木の色がまだ白っぽく、新品のようだ。

二つ並んでいるタンスは種類が違っていて、
一つは上三分の二くらいが、観音開きの扉になっていて、
下は引き出しが三段あった。

「・・・・・・・・」

は観音開きの戸を開ける。
すると中には平な木が何段もあって、一つ引いてみると、
そこには白い紙に包まれた、着物らしき物が入っていた。
他の段も着物ばかり・・・・。
戸を閉めて、下の引き出しを開けると、今度は帯や襦袢など、
着物用の物がたくさん入っていた。

(着物だらけだ・・・・着物なんて着付けできないし、着ないよ・・・)

服は着物だけしかないのかな?と、思いつつ、隣のタンスを見る。
隣のタンスも真新しいタンスだが、先程のとは違っていて、
一番上に引き戸があり、その次に三つに別れた引き出し。
その下には普通の引き出しが何段かあった。

「・・・・・・」

上から開けていく
しかし、そのタンスには、どの段も何も入っていなかった。

(こっちは空だ・・・・)

そして最後の段を閉めながら、洋服どうしよう・・・・と、思う。

「・・・・・・・」

近くにあった鏡台を見ると、畳に座るタイプの鏡台で、鏡には布がかかっていた。
そしてその下は少し広い台になっていて、その下に引き出しが何個かある。

「・・・・・くしだ・・・・」

鏡台の台には、木製のくしだけが置いてあった。
引き出しを開けてみても、やはり何もない。
ちゃぶ台の上にも何もないし、押し入れの中には布団だけ。
しかし、布団が入っている方とは反対のふすまを開けると、
下に、ふたのついたかごが入っていた。

「・・・・・・・・」

押入れから出してみると、結構大きい。

(なんかこんなの時代劇で見たことあるような・・・)

そう思いながらふたを開けてみる
しかし、そこには何も入っていなかった。

やはり、必要な物が全くない・・・・・。

(どうしよう・・・・・)

は腕組をしてしばし考える。

「あ。」

そこでふと、こんのすけのことを思い出した。

(そう言えば、困ったことがあったらお呼びくださいって言ってたよね・・・・?)

呼んでみるか・・・?来てくれるかな・・・・・。

「・・・・・こんのすけくーん・・・・」

そう思っては控えめな声で部屋を見渡しながら、こんのすけの名を呼んでみた。
すると、

「あるじさま、お呼びですか?」

「!」

こんのすけの声がした。
どこから!?と、思い、辺りを見渡すと、閉じてある入り口の障子に、こんのすけのシルエットが・・・・。

慌てては障子まで行き、開くと、

「お呼びですか?あるじさま。」

そこにはこんのすけがいた。
ちょこんと座ってほほえんでいる。

「こんのすけくん!」

は驚いて声を上げた。

「本当に・・・呼んだら来てくれるんですね・・・・」

少しぽかんとしながらこんのすけを見る。

「はい!そうですよ、あるじさま。」

こんのすけはにこにことほほえんでいた。

なんだかこうもあっさり再開できると、
さっきのお別れはなんだったのか・・・・とは少し思ってしまう。

しかし、そんなことよりも用件だ。

「あ、あの、色々と、シャンプーとか服とか、生活に必要な物がなくて、
どうしようかと思って呼んだんですけど・・・・・どうしたらいいですかね?」

そう問うと、

「あ、それでしたらご心配ありません。」

お部屋の中に入ってもよろしいですか?と言われ、
は部屋へと招き入れる。

「あ、すでに出してありますね。」

すると、こんのすけはそう言った。

「このフタ付きのかごで全て解決します。」

先程、押入れから出したかご・・・・中には何も入っていなかったが・・・・
がそう思っていると、

「あるじさま、欲しいものを頭の中に思い浮かべて、かごのふたを開けてください。」

こんのすけが、かごの隣に座りながらそう言う。

「え・・・?」

はフタ付きかごの前に来て、首をかしげる。

「ささ、思い浮かべて開けてください。」

再度こんのすけにそう言われは意味がわからないが、
とりあえず、シャンプーとコンディショナーとボディーソープ。と、
思い浮かべ、ふたを開けた。
すると、

「え!?」

かごの中には、いつもが使っていた
シャンプーやコンディショナー、ボディーソープが入っていた。

「え!何これ!?」

思わずは叫んでしまう。

「このように、欲しい物を思い浮かべてこのかごを開けますと、
それらが出てくるようになっています。
あまり欲に走った物や、大きさ的に無理な物は出てきませんが。」

こんのすけは、尻尾を揺らし、ほほえんでいる。

「す・・・すごいですね・・・・・」

唖然としてしまう

「かごに入らない大きな物で必要な物がございましたら、
私にお申し付けください。ご用意いたしますので。」

「・・・・はい・・・・」

平然としているこんのすけに、2205年・・・本当にすごいな・・・・と、
は一人、まだ信じられず、呆然としていた。

「他に何か御用はございますか?」

こんのすけの言葉にはハッとする。

「あ、いえ・・・・このかごがあれば全部、解決すると思うので・・・・」

まだ信じられないという風には答えた。

「では、私はこれにて・・・・また、何かございましたらお呼び下さい。」

「はい・・・・・」

颯爽と現れ、颯爽と去っていくこんのすけ・・・・。
部屋を出ていこうとする後ろ姿をは見つめながら、
ハッとあることを思い出した。

「あ!こんのすけくん!」

「! はい?」

に呼び止められ、立ち止まり、振り向くこんのすけ。

「あの・・・かごに入らない物なので、お願いしたいんですけど・・・・
今剣くんとか五虎退くんが、台所の流しや作業台に手が届く台が欲しいんですけど・・・・。」

お願いできますか?と、少し申し訳なさそうな表情をする

「はい!わかりました。明朝までにご用意いたします。」

こんのすけは振り向いて座ると、にこっと微笑んだ。

「あ、あと洗濯かごもお願いします・・・。」

がそう言うと、こんのすけは、はい。と、再度、ほほえむ。

「・・・・じゃあ、よろしくお願いします・・・・。」

はい。と頷くと、こんのすけは開いたままの障子の間を通り、
また廊下を歩き、去っていった・・・・・。

「・・・・・・・・・」

こんのすけの去った後、部屋で一人はぽかんとしていた。


呼べばすぐ現れるこんのすけに、なんでも出てくる不思議なフタ付きかご・・・・。

(まぁ・・・これで服とか色々は解決だな・・・・・)


まだ驚きの残る心境ではそう思い、かごを見つめたのだった・・・・。











続。


2015/11/04....