審神者になった日。11
ぞろぞろとと手を繋いだ今剣、五虎退を先頭に、
こんのすけ、陸奥守吉行、山姥切国広の順で長い廊下を歩く。
このやしきはひろいですねーという今剣と会話しながら、
は広間へと向かっていた。
広間につき障子を開くと、今剣が手を離し中へと駆け込んだ。
「わー!とてもひろいのですー!」
きゃーと広間の中をかけるのは、子供らしくてとても可愛かった。
は可愛いなぁ・・・と思いながら今剣を見る。
「ほんとうに・・・広いですね・・・・」
と、手をつないだままの五虎退も少し微笑んで言った。
「・・・・・・・」
その微笑みに、胸を打ち抜かれる。
「ほれほれ、遊んどらんで台所でお茶の用意するきに。」
陸奥守吉行がはしゃいで走り回る今剣にそう言うと、
みんなでぞろぞろと広間の隣にある台所へと向う。
「ここがだいばんどころなのですか?」
「? だいばんどころ?」
台所に入ると、今剣がそう言ったのでは意味がわからず問う。
「あ、だいどころのことです。」
今剣はそう言いの隣でにこっと微笑む。
昔の言葉では、だいばんどころって言うのかな・・・とは思いながら、
壁にそって置かれている大きな食器棚の戸棚を開き、
茶葉やインスタントコーヒーなどが置かれているのを確認すると、
台所の入口で立ち止まっている皆に振り向き声をかけた。
「みなさん何がいいですか?緑茶にコーヒー、紅茶、ココアもありますよ。」
がそう言うと、わらわらと山姥切国広を除いた三人が戸棚の前にやってきた。
「コーヒーかー、飲んでみたいのう。あ、紅茶も飲んできたいきに。あ、ココアも捨てがたいのう。」
陸奥守吉行はの隣でニコニコと嬉しそうに言う。
「ぼくはここあがいいですー!あまくておいしいのですよね?」
今剣は背伸びをして戸棚のふちにつかまりながら、中を見てそう言った。
「うん、甘くて美味しいよ。じゃあ今剣くんと五虎退くんはココアにしようか。」
「わーい!やったですー!」
「あ・・・はい・・・・」
がそう言うと、二人は喜んで返事をした。
「むっちゃんさんはどうしますか?」
「そうじゃのう・・・はどうするんじゃ?」
陸奥守にそう問われは少し考えたあと、
「私はコーヒーにします。牛乳入れてカフェオレにしようかと・・・あ、牛乳あるかな?」
はそう言いながら冷蔵庫を見る。
「そんじゃあ、わしも同じのにするぜよ。」
陸奥守吉行はニコッと笑いそう言う。
食器棚とは反対の、冷蔵庫まで行くとは扉を開く。
「あ、牛乳ありました。」
はそう言いながら振り向く。
「お、じゃあ同じのを頼むぜよ。」
陸奥守吉行の言葉には、はい。と答えるが、
ふと、台所の入口で、片手をもう片方の腕の肘にあてながら、
顔を伏せて立っている山姥切国広に気づいた。
「・・・山姥切国広さん、山姥切国広さんは何にしますか?」
とが笑顔で問うと、
「・・・・・・・同じのでいい・・・」
と、山姥切国広はぽつりと答えた。
「・・・はい・・・わかりました。」
一言の返事には苦い微笑みを浮かべながら、返事をする。
そしては五人分の飲み物作りに着手した。
(まずココアから作るかなー・・・・どうしよう・・・電子レンジでいいかな。)
電子レンジがあるのはさっきの案内でわかっていたので、
はそう思いながらマグカップを探す。
(どこかな?)
台所を見渡すと、入口の近くの壁に沿って、二つの大きな食器棚がある。
そこにしか、おそらくないだろうと思いはガラスではない部分の棚を開いていく。
「あ、あった。」
茶葉やコーヒーなどが入っている隣の棚に、マグカップがぎっしりと入っていた。
(またかなりの数があるなー・・・)
刀剣男士は全員で何人なのか・・・・はそのことを毎度疑問に思う。
白い簡素なごく普通のマグカップを、台所の中央にある木製の、広い作業台の上に五つ置いていく。
そして冷蔵庫から牛乳を取り出すと、二つに八分目ほど入れ、
は電子レンジの扉を開き、二つ一緒に入れた。
(何分かな・・・二つだから三分でとりあえず行くか。)
そう思い、ピッピっと電子レンジを操作し、スタートボタンを押した。
「これは『でんしれんじ』というのですよね。」
すると、台所の入口付近に立っていた今剣が電子レンジのそばまで来る。
「うん。そうだよ、よく知ってるね。」
がそう言うと、
「けんげんされたときに、きづいたらしっていたのです。」
「え?」
今剣が不思議なことを言ったのでは聞き返す。
「いままでしらなかったことも、しってました。だからなんでもしってます!」
今剣はそう言うと、にっこりと笑った。
「え・・・そうなんですか?」
が他の三人を見ると、五虎退は柔らかい笑顔で、はい・・・と頷き、
山姥切国広は顔を伏せたまま動かず、陸奥守吉行はと今剣の元へやってきた。
「そうなんじゃ、今までおった場所で見たことや聞いたことはわかってたんじゃが、
顕現された時に、他の知識も頭の中にいつの間にか入っててのう・・・・
だから電子レンジの操作も風呂の沸かし方もわかるきに。」
今剣の肩に手を置きながら、陸奥守吉行はそう言った。
「へー・・・そうなんですか・・・・」
それはよかった・・・助かるな・・・でもすごいな・・・不思議・・・と、思いながらは驚く。
「じゃが、味なんかはさすがにわからんからのう、『こーひー』飲むのが楽しみじゃ。」
陸奥守吉行はそう言うと、ニッと笑った。
「あ、味はわからないんですね。」
「ああ、肉体がないとわからんことはわからんぜよ。」
戦い方はわかるがのう。と言いながら陸奥守吉行は笑う。
そっかー・・・不思議だなー・・・・とは思いながらハッとする。
(のんびり話してる場合じゃなかった、お湯沸かさなきゃ。)
は電子レンジの残り時間を見る残り一分ほどだった。
できれば冷めないように、全員分ほぼ同時に出来上がるようにしたい。
は話をやめ、きょろきょろと台所を再度見る。
台所には普通の家庭用電気ポットが二台置いてあった。
しかし電源は入っていないようだ。中は空だろう。
今から沸かすには時間がかかる・・・し、
カフェオレ三杯分ならやかんで沸かした方が早い。
はそう思うと、お湯沸かしますね。と言い、
業務用のような大きなコンロの方へと向かった。
(やかんどこかな・・・・)
と、コンロ下を見ると大きな鍋や小さな鍋、フライパン、中華鍋などに混ざって、
小さいやかんと大きなやかんが置いてあった。
良かった。と、思いながらは小さいやかんを取り、
コンロの脇の流しでやかんをすすぎ、勘で大体この位かな・・・と、水を入れる。
すると電子レンジが止まったようで、ピーピーと音がした。
やかんを持ったまま振り返ると、今剣と陸奥守吉行が暗くなった電子レンジの中を覗いている。
「あ、むっちゃんさん、すみません。
もしわかったらココア入れてもらってもいいですか?」
は先ほどの「知識はある。」という言葉を思い出し、陸奥守吉行にそう頼む。
「おう、まかせとき!」
陸奥守吉行はそう言うと、電子レンジのドアを開く。
「あ、危ないから今剣くんと五虎退くんはカップとか触っちゃダメだよ。」
は二人にそう言う。
「はーいなのです。」
「わかりました・・・・」
二人は素直に聞き、台所の入口へと下がる。
「・・・・・・・・・」
二人が下がるのを見たは、台所の入口で同じように立っているが、
どことなく気まずそうに身じろぎしている山姥切国広に気がついた。
「・・・・・・・・」
(何か頼んだほうが・・・いいかな?)
はそう思い、少し気まずいのだが、山姥切国広に声をかけた。
「あの・・・山姥切国広さん・・・・もしよかったら・・・手伝ってもらえますか・・・?」
おそるおそるがそう言うと、
「・・・ああ・・・・」
山姥切国広はそう言いの方へと歩いてきた。
やかんに火をかけているの横に来ると、
「・・・何を・・・すればいい・・・・・」
とに話しかける。
「えっと・・・・」
呼んだはいいが何を頼もう・・・とは思う。
「あ、コーヒーの粉と砂糖を、カップに入れてもらえますか?」
が思いつき、そう言うと、
「・・・わかった・・・・何杯だ?」
山姥切国広はそう聞いてきた。
「えーっと・・・・コーヒーは小さじ一杯と、砂糖も一杯で」
量は好みがあるんだけどなぁ・・・とりあえずいいか。とは思いながら、山姥切国広にそう言う。
「できたぜよー。これでいいんかのう?」
すると今度は陸奥守吉行が話しかけてきた。
が陸奥守吉行の手元を見ると、ちゃんとココアが二杯出来上がっていた。
色も薄くなく濃くなく、ちょうどいいくらいだ。
「はい、大丈夫みたいです。ありがとうございます。」
がそう言うと、陸奥守吉行は嬉しそうに笑った。
そうこうしていると、お湯が沸いたようで、やかんがふつふつと言っている。
「山姥切国広さん、できました?」
とが問うと・・・・
「・・・・・国広・・・・・」
と、山姥切国広がぽつりと言った。
え?とが思っていると、
「・・・・国広と呼べ・・・・・」
と、山姥切国広は顔を伏せて小さな声で言った。
「・・・・・・・・・・」
なぜいきなり呼び方の話しになるのだろうか・・・と、
思いながらも、顔を伏せている山姥切国広からは
少し負のオーラを発している気がしたのでは素直に答える。
「あ・・・はい・・・わかりました・・・国広さん・・・と、お呼びします・・・・」
が少しビクビクとしながらそう言うと、
「・・・さんはつけなくていい・・・・」
と、山姥切国広は言う。
「あ・・・・いや・・・・そういうわけには・・・・」
が戸惑いながらそう言うと、
「・・・好きにしろ・・・・」
と、山姥切国広は顔を少し上げて言う。
「・・・・・・・・・」
負のオーラが少し消えたのでは少しほっとしながら
山姥切国広の手元を見ると、カップにはインスタントコーヒーの粉と砂糖が入っていた。
「あ・・・国広・・・さん、コーヒーと砂糖、入れてくれたんですね。」
がぎこちない笑顔でそう聞くと、
「・・・ああ・・・・」
と、山姥切国広は言い、カップの前から離れ、一歩下がる。
「・・・・・・・」
お湯を入れるから下がってくれたのかな・・・?とは思いながら、
山姥切国広・・・国広さんは黙ってるが気の利く人なのだろうか・・・などと思いながら、
やかんを持ち、お湯をカップにそそいでゆく。
やかんをコンロに置くと、冷蔵庫に戻した牛乳を再度取り出し、そそいで、カフェオレを完成させた。
「できましたー。じゃあ、持っていきましょうか。」
はそう言うと、辺りにおぼんかトレイがないが探す。
(あ、あった。)
電子レンジと電気ポットが置いてある棚の下に、
四角い木製のおぼんがあったのではそれを取り、
五つのカップをおぼんにのせた。
が作業台から広間へと歩き出すと、
入口付近にいた四人もぞろぞろと広間へと歩いてゆく。
(あれ・・・・)
広間に行くと、いつの間にかテーブルの位置が変わっていた。
台所に近い隅にあったのが、広間のど真ん中に置いてある。
誰が変えたのかな・・・あんなど真ん中に・・・と、思いつつも、
なんとなくむっちゃんさんかな?とは思い、少し苦笑しながらテーブルへと向かった。
「はい、ココアです。熱いから気をつけてね。」
テーブルに着くと、長方形のテーブルの長い面にから見て、
左手に今剣と五虎退、右手に陸奥守吉行と山姥切国広という並びで座っていたので、
はそのまま手前にある短い面に座り、
おぼんをテーブルの上にのせて、ココアを今剣と五虎退の前に置いた。
「こっちはカフェオレです。」
そう言いながら陸奥守吉行と山姥切国広の前に置いていく。
そして自分の前にも置くと、お盆を下げ、ふうっと一息ついた。
「そんじゃあ、いただくきに。」
陸奥守吉行はそう言うと、カップを手に取る。
そして今剣や五虎退、山姥切国広もカップを手にとった。
「いただきます。」
もそう言いながら、カップを持ち、口をつける。
こくんと一口飲んだカフェオレは、いつも飲んでいた味と変わらない味で、
ほっと一息つけた。
(おいし・・・・)
がそう思っていると、
「ちゃん!これとってもあまくておいしいのです!!」
今剣がきらきらと目を輝かせてに言う。
「あはは、そう?よかった。」
が今剣にそう返すと、
「僕も・・・すごく、おいしいです・・・・ありがとうございます・・・主様・・・・」
と、五虎退も嬉しそうに微笑んでいた。
「うん、よかったね。」
は喜ぶ今剣と五虎退を見て、にこにこと微笑んでいた。
そして反対側の大人チームに顔を向けると、
「!うまいぜよ!これがコーヒー・・・カフェオレか!
はー!肉体を得られてよかったぜよ!」
陸奥守吉行も喜びながらグビグビと飲んでいる。
「・・・・・・・」
山姥切国広は、静かにこくこくと飲んでいた。
「・・・・・・」
何の反応もない・・・・。
「あの・・・国広さん・・・・お口に合いましたか・・・?」
がぎこちない笑顔でそう聞くと・・・
「・・・・ああ・・・・」
をちらっと見て、山姥切国広はそう一言だけ発した。
「・・・・・・・・」
一言の返事に笑顔のまま戸惑う・・・・。
まぁ・・・お口にあったのかな?と、思いながら、自分も再度、一口飲み込む。
「・・・・・・・・!」
そこでふとの隣に座るこんのすけと、五虎退の周りにいる子虎達のことに気づいた。
「あ、ごめんなさいこんのすけくん!こんのすけくんも何か飲みますか!?
あと、五虎退くんの虎さんも!何か・・・お皿に牛乳とか持ってくる!?」
が慌てながらそう言うと、
「いえ!私は大丈夫でございます!気になさらないでくださいあるじさま!」
と、こんのすけは言う。
「あ・・・僕の・・・虎たちも・・・何も食べないし飲まないので・・・大丈夫です・・・・」
そして五虎退も可愛い笑顔で微笑んでそう言った。
「あ・・・いいんですか?お皿に牛乳でも持ってきますよ?」
再度は心配して聞くが、大丈夫だと一人と一匹は言う。
その言葉にほっとするがは五虎退の子虎たちが、
何も食べないし飲まないということに少し驚いていた・・・・。
「ちゃんはこのあとまだおしごとがあるのですよねー?」
すると、今剣がココアを飲み干して、ふうっと息をつくとにたずねた。
「え、あ、うん。ありますよ。」
が顔を向けて答えると、
「じゃあこのあとあそべないのですねー・・・ざんねんです・・・・」
今剣は足をバタバタとさせながら少し拗ねたように口を尖らせていた。
そんな姿も愛らしい・・・と、思いながらはごめんねーと言う。
「・・・・私が仕事・・・というか、説明受けてる間、みなさんどうしますか?」
とが漠然と全員に聞くと、四人は黙ったまま考える。
「お、そうじゃ!わしがこん屋敷ん中案内しちゃろう!」
な?と、陸奥守吉行は他の三人に問う。
「はい!このおやしきひろいので、たんけんしたいです!」
すると今剣がテーブルに手をつき身を乗り出して食いついた。
「はい・・・僕も・・・見たいです・・・・よろしくお願いします・・・・」
五虎退もカップを持ったまま頷いて微笑む。
「・・・・・・・」
山姥切国広は黙ったままだが、お前もええじゃろ?と、
陸奥守吉行が聞くと、ああ・・・と、答えた。
「じゃあ、私が説明受けてる間、家の中探検しててください。
あ、家の中見ながら、どの部屋を自分たちの部屋にするか決めてもいいかもしれませんね。
たくさん部屋ありますから決めといてください。」
後で教えてくださいね。とは言い微笑んだ。
はーい。と、今剣や他のみんなも答える。
こうやって、この広い家の部屋が埋まっていくのかな・・・・と、
は思いながら、最後の一口を飲み込んだのだった・・・・・。
続。
2015/10/27....