審神者になった日。10













はうきうきとした気分で廊下を歩いていた。

を先頭に後ろに陸奥守吉行とこんのすけ。
三人は顕現の間を目指して長い廊下を歩いていた。

(今度はどんな人が来るかな〜。)

4人になるんだもんね。だいぶ賑やかになるなーと、
思いながら足取り軽く廊下を進む。


そして顕現の間に着くと、すらりと障子を開いた。

「えっと、じゃあ、今剣から顕現します」

は鍛刀した順に顕現しようと思い、そう言うと、後ろを振り返り、
陸奥守吉行の持っている今剣を受け取り、五虎退を預ける。
そして祭壇の前の刀掛けに今剣をすらりと抜き、かけると、
座布団の上に座った。

「・・・・・・・・」

両手を合わせ、心の中で祈る・・・・

(顕現して下さい・・・顕現して下さい・・・・)

そして、何度目かの祈りを捧げたとき・・・・

「!」

カッと光ったのが、目を閉じているままでもわかった。
同時に風と、おそらく桜の花びらであろう物が頬にあたる。

「・・・・・・・・・」

そおっと目を開くと・・・・・・


「ぼくは、今剣!よしつねこうのまもりがたななんですよ!どうだ、すごいでしょう!」


「・・・・・・・・・・」

そこには灰色の髪に赤い瞳をした、小さな可愛い男の子が立っていた。

(か・・・かわいい・・・・・)

は思わず口元が緩んだ。

「!」

しかし、ハッとし立ち上がると、

「さにわのです!よろしくお願いします。」

と、頭を下げた。

「・・・・・・・・」

「・・・?」

下げた頭を上げると、今剣が不思議そうにを見ていた。

「え?」

が戸惑っていると、今剣はにこっと笑い、

「わーい!やっとあえました!あるじさまー!」

の腰辺りに抱きついてきた。

「!!」

が驚いていると、

「あるじさま、ぼくのことなかなかけんげんしてくれないんですもん、まちくたびれました!」

と言い、頬を膨らませている。
か・・・かわいい・・・・・とは思いながら、

「あ、ご、ごめんなさい。色々説明があって・・・・」

と、困った表情で言いつつも、心の中では嬉しい悲鳴をあげていた。
本当は「かわいいねー」と、言いながら、頭をなでてぎゅーっと抱きしめたい。
そう思いつつもそんなことはできないのでが緩む口元をぎゅっと抑えていると、

「あ!そうだ!ぼくにもあだなをつけてください!」

と、今剣は顔を上げて言った。

「え?あだ名?」

がきょとんとしていると、

「むつのかみにあだなをつけてたじゃないですか!ぼくにもつけてほしいですー!」

と言って駄々をこねる様に抱きついたまま身体を左右に振っている。
かわいい・・・・再度、そう思いながらは言葉を発した。

「あー・・・でも・・今剣さんだと・・・今剣さんとしか・・・・」

はあだ名を頭の中で考えみる・・・・いまちゃん?つるぎちゃん?
つるちゃん?などと考えながら、それはいまいちだな・・・と思い、結局、

「あー・・・今剣くん?」

としか答えがでなかった。

「・・・・さんがくんにかわっただけじゃないですかー。」

と、今剣は頬を膨らましむくれた。

「んー・・・でも、それしか思い浮かばないし・・・ご、ごめんね。」

がすまなそうにしながらそう言うと、

「しょーがないですねー。わかりました!それでいいです!」

今剣はまだ少しむくれながらも、了承し、再度、ぎゅっとに抱きついた。

「あ!そうだ!ぼくもあるじさまのことちゃんってよんでいいですか!」

そして顔をパッと上げ、うきうきと嬉しそうにそう言う。

「え・・・あ、うん、いいですよ。」

はそう言いながら笑顔で返事をする。

「わーい!ちゃんありがとうなのですー!」

そして再度、ぎゅっとに抱きつく。

(人懐っこいなー、今剣くん・・・・)

そしてかわいい。そう思いながら抱きつかれて嬉しいながらも、
少し困っていると・・・・・


「今剣、そのへんにしとき。が困ってるきに。」

こっちゃこい。と、陸奥守吉行がそう言い、こいこいと手招きをした。

「えー、いやですー。ちゃんのそばにいたいですー。」

今剣はそう言いから離れない。

「まだ顕現する刀、残っちょるきに、邪魔したらいかんぜよ。」

陸奥守吉行もいつまでも離れない今剣に少し呆れた様子で言う。

「あー・・・そうだね、ごめんね今剣くん。他の刀も顕現しないといけないから。」

陸奥守吉行の助けにも上手く乗ろうとする。

「むー・・・・わかりました。」

そう言うと、今剣はから離れ、陸奥守吉行の元へと歩き出した。
いい子じゃ。と陸奥守吉行はいつもの爽やかな明るい笑顔で言うと、
に声をかけ、次の刀を渡した。

「ほれ、次は山姥切国広じゃ。」

「あ、はい!」

そう言われ渡された刀を受け取る。
やはり打刀は少し重い。

は山姥切国広を刀掛けにかけると、
座布団に座り、再度、祈る・・・・・。

(・・・顕現してください・・・・・・)

と、何度目かの祈りのあと、カッと光り、風と桜が頬にあたった。
今度はどんな人かな・・・・と、思いながらそおっと目を開くと・・・・・


「・・・・山姥切国広だ・・・・・・」


そこには、金色の髪に青のような緑のような・・・何とも言えない瞳の色をした、
外見は西洋の王子様のようなとても綺麗な容姿をした青年が立っていた。
ただ、気になるのは・・・頭からすっぽりと被っている白い布だった。

「・・・・・・・・」

そして一言そう言うと、彼、山姥切国広は目をそらし、黙り込んだ・・・。

「あ・・・さにわのです!よろしくお願いします!」

は毎度のことながら、立ち上がってそう言うと、頭を下げ挨拶をする。

「・・・・・・・」

頭を上げると、山姥切国広は下げているときはを見ていたらしく、
パッと顔をそらした。


「「・・・・・・・・・」」


二人は黙り込む・・・。

(うーん・・・・・)

はそんな山姥切国広に笑顔で少し困る。

今剣のような積極的なタイプもいれば、山姥切国広のような人見知り・・・
なのかよくわからないが、そういうタイプもいるのか・・・・と、
陸奥守吉行や今剣のような明るく人見知りしないタイプが続いたので、
どうしたもんかとは戸惑う。

しかしふと、あることに気づいた。

(あれ・・・この人・・・・どっかで見たことあるような・・・・)

がそう思い少し考えていると・・・・

「あ!」

は思い出し、少し大きな声で叫んだ。

「!」

山姥切国広はビクッとし、少し驚いている。

「あの!あの・・・・あの薄暗い部屋で、最初の刀選ぶときにいましたよね!?」

そう、本丸に来る前、階段を登る前のあの薄暗い部屋で、
陸奥守吉行を選んだときに並んでいた他の刀のうちの一人だと、
は思い出したのだ。

「あ・・・・あの時はすみません!選ばなくて!どれ選べばいいかわからなくて・・・・」

頭を下げ、えっと・・・・とは必死に言い訳をする。
刀の状態でも意識があることは知っている。
ならば、あの時選ばなかったことも覚えているだろう・・・・・
なんて言い訳をすればいいのか・・・とがあせっていると・・・・・

「・・・・別に・・・気にしなくていい・・・・どうせ俺は写しだからな・・・・」

山姥切国広はそう言って顔を伏せた。

「・・・・写し・・・?」

と言いながらは言葉の意味がよくわからなくて戸惑う。

「・・・・・・・・」

山姥切国広は黙っている。

「えっと・・・あの・・・でも・・・・・ほんとに・・・・選ばなくてすみませんでした・・・・。」

黙っている山姥切国広が怒っているのかどうなのか・・・
よくわからないが、でも、気持ちよく思っていないのは確かだろう・・・・
はそう思い、再度謝りながら頭を下げた。

「・・・・だから・・・もういい・・・・・主がそう簡単に何度も頭を下げるな・・・・・」

山姥切国広はそう言うと、白い布をさっとひるがえし、
祭壇の前から立ち去った。

そして、陸奥守吉行たちの元へとゆく。

「・・・・・・・」

あの時のことがここで尾を引くとは・・・・は気まずい関係になりそうだな・・・
と、思いながら、他にも選ばなかった刀たちを思い出し、はっとする。

「・・・・・・・・・」

何人いたっけ・・・・と、思いながら、うろ覚えの彼らが来たら、
またこんなことになるんだろうか・・・・と、思うとは頭を抱えたかった・・・・。

「まぁまぁ!そんなに気にせんとき!」

すると陸奥守吉行がの元へ来て、そう言って頭をポンポンと軽く叩き、慰める。

「・・・・・・・・」

いつもの輝くような明るい笑顔だった・・・・。
それに加えて頭を撫でられた・・・。

「・・・・・むっちゃんさん・・・・」

その優しさが今のには、心にしみる・・・・。

「ほれ、次の刀がまっちょるぞ。」

そう言うと、陸奥守吉行は短刀、五虎退を渡してきた。

「・・・ありがとうございます・・・・」

はまだ少し落ち込みながら五虎退を受け取る。

「・・・・・・・・」

そしてちらりと山姥切国広を見た。

「・・・・・・・」

彼はみんなから少し離れた所に立って、俯いていた。

(うっ・・・・・)

は心にグサッと刺さるものを感じながら、五虎退を握り、顕現へと向かう。

(この刀はあの時の刀じゃないよね・・・短刀だし・・・・)

よかった・・・と思いながら、少し落ち込んだ心で刀を刀掛けにかけ、座布団に座る。
そして瞳を閉じ、手を合わせ、心の中で願う・・・・

(顕現して下さい・・・・・)

何度目かの祈りのあと、カッと光り、風と桜が舞った。

「・・・・・・・・」

がスッと瞳を開くと・・・・


「僕は、五虎退です。あの・・・しりぞけてないです。すみません。だって・・・虎がかわいそうなんで・・・・」


「・・・・・・・・・」

は手を合わせたまま目を開き、唖然とした。
そこには、小さな子虎をたくさん連れた、ふわふわとした髪の毛の、かわいい少年が立っていたからだ。

(なっ・・・何このかわいい子!!!)

は心の中で叫んだ。

今剣も可愛かったが、この子も可愛い!!!何か声も可愛いし!と思い見つめていると・・・・

「あ、あの・・・主様・・・?」

五虎退はじっと黙ったまま自分を見つめているに、
戸惑っておずおずと声をかける。

「え、あ!ごめんなさい!さにわのです!よろしくお願いします!!」

はバッと立ち上がると、そう言って五虎退に頭を下げた。

「あ・・・・・よ、よろしく・・・お願いします・・・・・」

五虎退はそう言い、ぺこりと頭を下げた。

(・・・・かわいい・・・・)

は頭を上げると、おどおどとしている五虎退を見て、再度、心の中でつぶやいた。

(短刀はみんな小さな男の子なのかな・・・?短刀って何人いるんだろう・・・・)

そんなことを思いながら五虎退を見つめる。

「みゃー」

すると、五虎退の周りにいた子虎が一匹の足にすり寄ってきた。

「あ・・!ご、ごめんなさい・・・!」

五虎退は慌ててその子虎を持ち上げ抱える。

「あ、大丈夫だよ。可愛いねー虎さん。五匹いるのかな?」

はそう言いながら笑顔で五虎退に話しかける。

「あ・・・は、はい・・・・五匹・・・います・・・・」

五虎退はの笑顔に安心して、少し表情がほころぶ。

「名前が五虎退だから五匹の虎連れてるんだね。可愛いねー。」

そう言ってはにこにこと微笑む。
本当は五虎退さんが可愛いね。と言いたかった。

「ぼくだってかわいいですよー!」

「わ!」

にこにこと祭壇の前で五虎退と話していると、
今剣が背後からドンッ!と抱きついてきた。
が腕を上げながら腰に抱きついている今剣を見ると、
今剣は、むーっとむくれていた。

(あはは・・・)

は心の中で苦笑する。

「ご、ごめんね、今剣くんもかわいいよ。」

はそう言って今剣をなだめる。

「ほんとうですかー?」

今剣はまだむくれていた。

「う、うん・・・・あ、そうだ。みんな顕現したし、ちょっと一休みで、みんなでお茶でも飲もうか。」

はそう言って、今剣の注意をそらそうとする。

「あ、でもまだ説明残ってるんだ・・・・いいですか?こんのすけくん。」

そう言いながら振り返りがこんのすけを見ると、

「はい!私は大丈夫でございます!」

と、こんのすけはぴょんと小さく飛び跳ねた。

「じゃあ・・・みんなでお茶しようか。ね?五虎退くんも行こう?」

「・・・・・はい・・・」

今剣の襲撃に、祭壇の前でビクビクと立ち尽くしていた五虎退は、
そう言われに手を差し出されて、少し戸惑いながらもそっとその手を握った。

「あ!ぼくもちゃんと、てをつなぐのです!」

すると今剣は反対の手を握る。

「あはは・・・じゃあ、行きましょうか。」

はそう言って、陸奥守吉行と山姥切国広を見る。
陸奥守吉行はニッと笑い、山姥切国広は小さく頷くと、ぞろぞろとみんなで顕現の間を出た。


こうして、鍛刀した刀を顕現し、賑やかな日々が始まったのであった・・・・。












続。


2015/10/26....