審神者になった日。08













二人と一匹は、鍛刀部屋を離れ、刀装部屋へと向かった。
そして、刀装部屋の前に着くとはすっと障子を開ける。

中には先ほど案内されたときと同じ、祭壇のようなものが部屋の中央にあった。
何個も置かれた玉がきらきらと輝いている。

「では、刀装の説明をいたします!
まず、刀装の書を開いてください!」

こんのすけにそう言われは後ろを振り返る。

「陸奥守吉行さん、すみません、刀装の書を・・・・」

がそう言うと、陸奥守吉行は先ほど渡された短刀を
抱えながら、器用に刀装の書をに渡す。

「これじゃな。あ、そっちの本と札もっちゃる。」

陸奥守吉行は、刀装の書を渡しながら、そう言った。

「・・・こんのすけさん、刀装は依頼札と手伝い札使いますか?」

はふと思い、こんのすけに聞くと・・・・

「いえ、刀装では両方とも使いません。」

こんのすけはそう答える。

「あ・・・・じゃあ、すみませんが・・・・」

はそう言いながら、陸奥守吉行に、鍛刀の書と札束二つを渡した。
代わりに刀装の書を受け取る。
そして刀装の書を開くと、中は鍛刀の書と大体同じ作りになっていた。
依頼札と手伝い札の数と欄がない。

「それでは、鍛刀のときと同じように、資源の欄に数を書いていきましょう。
刀装は、50から299までの数を記入できます。
そして御札を使うことでよい刀装が手に入る可能性が高くなります。
まずは、全て50でやってみましょう。」

そう言われは鍛刀の時と同じように、各資源の欄に、
50と書いていき、御札の欄にはなしと書いた。

「書きました。」

が本を閉じて言うと、こんのすけは次の指示を出す。

「では、玉に兵士を宿しましょう。刀装は、近侍が作ります。
陸奥守吉行さん、座布団の上に座ってください。」

こんのすけの言葉には驚いた。

「え、刀装って私じゃなくて、陸奥守吉行さんが作るんですか?」

「はい、近侍が作ります。」

こんのすけの言葉に、更に疑問がわく。

「あ、あの・・・きんじってなんですか?」

「近侍とは、あるじさまのそば近くに仕える刀剣男士のことを言います。
第一部隊の部隊長が近侍になります。」

「そうなん・・・ですか・・・・・」

またもや新しい言葉や制度には戸惑う。

「あの・・・そもそも刀装って何なんですか・・・・?」

は部屋を案内された時にも聞いた質問を、再度こんのすけに尋ねた。

「刀装とは、刀剣男士たちを守る装備です。
ここでは玉の中に入っていますが、戦場では兵士の姿になり、
刀剣男士たちを守ったり、投石兵、弓兵、銃兵などは攻撃もします。」

「兵士さん・・・なんですか・・・・」

「はい。」

「で、わしが作るんか?」

二人の会話を聞いていた陸奥守吉行は、ひょいと顔をのぞかせる。

「はい、よろしくお願いします。」

こんのすけがそう言うと、どれどれ・・・と、陸奥守吉行は、
座布団の上にドサッとあぐらで座った。
そして脇に本や札を置く。

「で?こんあと、どうすればいいんじゃ?」

陸奥守吉行は、後ろを振り返り、こんのすけとを見て問う。

「一つ玉を持ってください。」

こんのすけにそう言われ、陸奥守吉行は、近くにあった玉を一つ手に取る。

「それに神力を込め、兵士を召喚してください。」

「んー・・・そんじゃあまぁ、いっちょやってみるかのう!」

陸奥守吉行はそう言うと、玉を両手で持ち、目を閉じて、玉に額を近づけた。

「!」

その瞬間、カッと玉は光り鍛刀部屋にいた小人のようなものが、
祭壇の中央、金色のマークのような所から出てきて、玉の中へと入っていった・・・・。
そして光りは消える・・・。

「どーじゃ!わしの斬新な作品は!」

陸奥守吉行は、パッと目を開き、振り向くと、玉を見せてニカッと笑った。
玉は透明な玉から青と緑が混ざったような色になっていた。

「すごいですね!陸奥守吉行さん!」

がすごい!と驚きながら近づくと、
玉の中には刀を持った小人が映っていて、『軽歩兵・並』と書かれていた。

「けいほへい・・・なみ・・・・」

が声に出して言うと、

「あるじさま!刀装の書を開いてみてください!結果がのってると思われます!」

こんのすけにそう言われは慌てて刀装の書を開いた。
そこにはこんのすけが言ったように、
結果の欄に『軽歩兵・並』と、筆文字で書かれていた。

「・・・・・・・・。」

勝手に字が書かれてる本に、改めて凄いな・・・と、不思議がっていると、

「このように、近侍によって刀装は作られます。
まだまだたくさんの種類がありますので、それはまた後ほどご説明いたします。」

こんのすけがの側に来て、尻尾をゆさゆさと振りながら、微笑んでそう言った。

「はい。」

がそう返事をすると、こんのすけは出来上がった刀装は
そこの台に置いておきましょう。と言う。
部屋の右横の壁には、玉が置ける細長い台が置かれていた。

「ここでいいんか?」

陸奥守吉行がそう聞くと、はい。とこんのすけは答えた。





「ありがとうございます、陸奥守吉行さん。」

二人と一匹は部屋を出る。
障子を閉めて、歩きながら少し振り返りがそう言うと・・・・

「あー・・・なぁ。」

と、陸奥守吉行は口を開いた。

「その、『むつのかみよしゆきさん』ちゅーの・・・なんとかならんかのう。」

陸奥守吉行は苦笑いし、頬を指でかきながら言う。

「え?」

はきょとんとする。

「なんちゅーか・・・堅苦しくてのぉ。もっと”ふらんく”に呼んでくれんかのう?」

「・・・・・・・」

堅苦しいのは苦手じゃ。と、言う陸奥守吉行の言葉には戸惑う。
確かに、『陸奥守吉行』とフルネームのような名前で呼ぶのはも違和感を持っていた。
それに言いにくい。毎度毎度、陸奥守吉行さん。と呼ぶのは面倒だ。
だが、”ふらんく”と言われても・・・・・

「えっと・・・・良いんですか?もっと、フランクに呼んでも・・・・」

は再度確認する。

「おう!ええっちゃええっちゃ!なんかないがか?」

陸奥守吉行はパッと表情を明るくさせてに微笑む。

「んー・・・そうですね・・・・じゃあ、陸奥守さん・・・とか?」

が言うと、

「んー・・・・何か堅苦しいのう・・・・」

と、陸奥守吉行は言う。

「じゃあ・・・吉行さん?」

が再度提案すると、

「んー・・・・吉行ちゅーのもなぁ・・・・」

まだ納得いかない風に、陸奥守吉行は腕を組んで悩むように目をつむっている。

(え・・・じゃあなんて呼べばいいの・・・・)

は提案を却下され、戸惑う。

「なんかこーもうちょっと気さくに・・・・」

「・・・・・・・・」

はそう言われ、悩む・・・・。
上の名前らしき物も、下の名前らしき物もダメだとすると・・・・・
もう、あだ名しかない。

だが、あだ名なんかで呼んでいいのだろうか・・・・。
でもフランクに・・・と言っている・・・・
あだ名だとしたら・・・とは考える。
何パターンかあだ名はできたが・・・・いいのか?言ってみるか・・・?
は少し不安になりながらも、陸奥守吉行の性格上
怒ることはないと思うので、言ってみることにした。

「あ、あの・・・あだ名・・・とかがいいですか?」

おそるおそるが言うと・・・・・

「おお!ええかもしれんな!呼んでみい!」

と、明るい顔で陸奥守吉行は言う。

「えっと・・・・じゃあ・・・・・」

は心に不安を抱きながら、小さな声で言った。


「・・・・・むっちゃん・・・・・・・・とか・・・・・」


「・・・・・・・・」

陸奥守吉行は真顔でを見る。

(あ!やっぱりだめ!?)

ひぃ!ごめんなさい!とが思っていると・・・・

「むっちゃん!おお!ええじゃないがか!それで呼んでくれきに!」

の肩をバシバシと叩きながら、陸奥守吉行はハッハッハッ!と笑っている。

(・・・ええ・・・本当にいいの・・・?)

は不安な表情をしながら、心の中でつぶやく。

「い、いいんですか・・・むっちゃん・・・なんて呼んで・・・・」

が不安そうに言うと・・・・

「ええっちゃええっちゃ!気に入ったぜよ!」

陸奥守吉行は満面の笑みで笑っている・・・・。
じゃあ・・・・とは陸奥守吉行をむっちゃんと呼ぶことにした。
しかし・・・・・

「じゃあ・・・次の・・・手入部屋に行きましょうか、むっちゃん・・・・・さん。」

思わず『さん』をつけてしまった。

「・・・・・『さん』はいらんぜよ。」

陸奥守吉行は真顔で言う。

「あ、いや!何か・・・さすがに、むっちゃんって呼ぶのはまだできなくて・・・・
しばらくしたら呼びますので!当分は・・・むっちゃんさんで・・・いいですか?」

多分、そのうち呼べるようになると思うんで・・・・とが苦く笑いながら言うと、

「んー・・・まぁ、ええかのう。『陸奥守吉行さん』よりはましやしのう。」

陸奥守吉行は顎に手を置き、んー。と、うなっているが、納得したようだ。

「じゃあ・・・しばらくは、むっちゃんさんで・・・・」

は少し戸惑った笑顔をしながら言った。
すると・・・・

「あるじさま!あるじさま!」

足元で二人のやりとりを見ていたこんのすけがぴょんぴょんと跳ねながらを呼ぶ。

「? 何ですか?こんのすけさん。」

がしゃがんで答えると、

「私のことも『さん』などつけずに呼んでいただいてよろしいですよ!
あるじさまに『さん』をつけてもらうなど、おこがましいです!」

こんのすけは困った顔で頭を振りながら言う。

「え・・・・・」

次はこんのすけさんか・・・・と、思いながらはあせる。

「呼び捨てでかまいませぬ!」

こんのすけはそう言う。

「いやー・・・でも・・・・」

が言うと、かまいませぬ!!と、こんのすけは語気強くそう言う。

「えーっと・・・・」

次から次へとなんなのだろう・・・・とは思いながら考えた。

「えっと・・・じゃあ、『こんのすけくん』で・・・・」

ダメですか?とは言った。

「むう・・・・呼び捨てでいいですのに・・・・」

こんのすけはまだ納得いかないようだ。

「呼び捨てはできませんよ。」

が少し困った表情で微笑むと、

「・・・・では、わかりました。」

と、こんのすけはまだ腑に落ちない様子だが、納得した。

「じゃあ・・・むっちゃんさん、こんのすけくん。行きましょうか、手入部屋に。」

は立ち上がると、少しぎこちない笑顔で微笑みながらそう言ったのだった。










続。


2015/10/20....