審神者になった日。06
「あ!そうでした!外の案内がまだでした!」
休憩をするため、広間の前まで来ると、こんのすけはハッと思い出し、そう叫んだ。
「外・・・ですか?」
「はい、外にも畑と馬小屋がございます。休憩の前に見に行かれますか?」
こんのすけに聞かれ、どうしようかな・・と思う。
だが、一応見に行った方がいいだろうと思い、こんのすけに、はい。と返事をする。
ずっしりとした刀を抱えたまま、靴を履き、外に出るとこんのすけ。
玄関を出て、左にこんのすけは歩いていく。
そのままぐるりと周り、しばらく家の側面を歩くと、裏庭に出た。
「うわぁ・・・・」
は思わず声を出す。
そこに現れたのは、広い畑だった。
そして畑の横には、大きな木造の馬小屋らしきものが見える。
「ここの畑には様々な野菜が植えられています。
季節関係なく作物が実りますので、食事にお使いください。
あそこに見えるのが馬小屋です。」
こんのすけはそう言うと、てってと馬小屋へと向かっていく。
「・・・・・・・・」
もこんのすけの後についていくと、
そこには木製の、真新しい大きな馬小屋があった。
中にはまだ馬はおらず、世話をする道具などしかなく、がらんとしていた。
「馬は任務を達成すると手に入れられますので、頑張って手に入れてください。」
こんのすけは馬小屋の前にちょこんと座ると、そう言った。
「・・・・・・・・・」
馬小屋の中は屋根があり、日差しが遮られていて薄暗く、少しひんやりとしていた。
(任務・・・か・・・・)
はそう思いながら、胸の前で両手で刀を持ちながら、馬小屋を眺める。
「奥へまいりますか?」
と、こんのすけに聞かれる。
「あ、いいです。大丈夫です。」
なんとなく、淋しい雰囲気がしては入るのをためらった。
「では、屋敷の中へ戻りましょう。」
休憩にいたしましょう。と、こんのすけは言い、身体をひるがえし、
玄関へと戻ろうとする。
もこんのすけの後に続いた。
しかし、玄関の前に来たとき、こんのすけはピタッと足を止めた。
「そうでした・・・・もう一つ大切なことがあります。」
そして後ろにいるを振り返る。
「あるじさま。庭や畑はよいのですが、あの竹垣の外には決してお出にならないで下さい。」
竹垣?と、思いは後ろを振り返る。
そこにはここへ来たときに立っていた、竹垣が途切れた入口のような場所がある。
そこから左右に竹垣は広くこの屋敷を囲っていた。
「この本丸、竹垣の中は、神力によって敵から守られています。
敵に気配を察知されることも、見えることもありません。
しかし、竹垣から一歩外に出たら、やつらに見つかってしまいます。
ですので・・・絶対に竹垣から外へは出ないでください。」
「・・・・・・」
こんのすけの言葉にはごくり・・・と、唾を飲む。
(竹垣の外に出たら・・・・殺されちゃうのかな・・・・)
はそんなことを思いながら竹垣を見た。
そしてそれと同時に・・・・・
(じゃあ、私・・・しばらくこの竹垣の中で暮らすんだ・・・・
外へは出れないんだ・・・・・いつまでになるのかな・・・・・)
運動不足になりそう・・・・あとなんか息詰まりそう・・・・。
とは思いながら竹垣を見ていた。
「さて、では休憩にいたしましょうか。」
こんのすけはそう言うと、にこっと笑いの心を少し和らげた。
「ふー・・・・・」
コトンと、テーブルの上に緑茶の入った湯のみを置く。
(やっと休憩できたー・・・・)
はそう思いながら目を閉じ、はぁ・・・と、息を吐くと、体の力を抜いた。
外の案内をされたあと、家の中へと戻り、台所でこんのすけに教えてもらいながら、
茶葉の入った缶や、急須、湯のみなどを見つけ、お茶を入れた。
茶葉の缶が入った戸棚には、インスタントコーヒーや紅茶、ココアなどもあったが、
何だか申し訳ないので、緑茶を選んだ。
その後、広い広間の隅にあったテーブルを一つ持ってきて、
どこに置こうか迷ったが、日当たりのいい台所に近いところに置き、ようやっと座って休憩に入った。
「・・・・・・・」
ただ、畳の上に正座しているのが、休息にならなくては少し考える。
「あの・・・足伸ばしてもいいですか?」
はすぐそばに座って、こちらを見ているこんのすけにそう聞く。
「はい!あるじさまの好きになさってください!」
こんのすけはそう言いながら、ふさふさの尻尾を揺らしていた。
「じゃあ・・・・すみません・・・・・」
はそう言いながら、正座していた足を崩し、足をテーブルの下へと伸ばした。
(あー疲れたー・・・)
膝に両手を置き、目を閉じて背中や足を伸ばしながら、
はふうっとため息のような息を吐く。
(やっとリラックスできたなー・・・何かいろんなことの連続で・・・・)
はそう思いながらゆっくりと目を開く。
(これからここで暮らすんだよなぁ・・・さにわとして・・・敵を倒すまで・・・)
そう思いながら下げていた顔を上げ、広間を見渡す。
「・・・・・・・・」
広間は広すぎて、少し淋しさを感じた。
太陽の光がぽかぽかとふりそそいでいるのが救いだ。
部屋は明るいし、暖かい。
寂しさや不安が和らぐ。
「・・・・・・・・・」
こんのすけも開けている障子から差し込む春の日差しのような日光に、
暖かそうに座ったまま目を閉じてあたっている。
(この日差し気持ちいいもんね・・・・)
私も横になりたいな・・・と、思いながら、少しぬるくなりちょうどいい温かさのお茶をすする。
「・・・・・・・」
そして傍らに置いている刀を見た。
綺麗な模様に太陽の光がさし、鞘はきらきらとしている。
はなんとなく、その鞘に触れた。そしてなでる。
鞘はつるつるとしていて気持ちよかった。
(この刀を顕現したら、あの男の人が出てくるんだよね・・・・うまくやっていけるかな・・・・・)
はそんなことを思いながら、鞘に触れたまま、しばし刀を見つめていた。
(まぁ・・・いい人そうだったし・・・・私もできるだけ頑張るし・・・頑張ろう!)
はそう思うと、残っていた湯のみのお茶を全部飲み干し、ことんと、テーブルの上へと置いた。
「こんのすけさん、行きましょうか。」
のその言葉に、こんのすけはパッと閉じていた目を開く。
「もう休憩はよろしいのですか?」
こんのすけがそう問うと、はい。とは答えた。
湯のみを台所の流しに置くととこんのすけは顕現の間へと向かった。
「・・・・・・・・」
障子を開けて中に入ると、凛とした清らかな空気に包まれる。
は少しドキドキとしてきた。
「では、顕現を始めましょう。」
こんのすけはそう言うとに顕現の方法を教える。
「まずは座布団に座ってください。」
「はい・・・・」
は祭壇と、祭壇の前にある刀をかける台から、少し離れた座布団の上に正座をして座る。
「そして刀を鞘から抜きます。」
そう言われは持っていた刀を横にし、スッと鞘から引き抜く。
「・・・・・・・・」
キラリと光る刃がとても綺麗だった。
「そして刀を刀掛けの上へ、鞘を下へ置いてください。柄は右で刃は上です。」
「・・・・・あの・・『つか』ってなんですか?」
は知らない言葉をこんのすけに聞く。
「柄は持つところです。」
「あ、はい。わかりました。」
は、持つところ柄っていうのか・・・と、思いながら、座布団から降り、立ち上がると、
刀掛けという刀を置く台まで行き、これも刀掛けって言うんだ・・・と、思いながら、
言われたとおりに刀と鞘を置いた。
「置きましたら、また座ってください。」
こんのすけにそう言われは再度、座布団の上に座る。
「では、神力を使い、顕現いたしましょう!」
「・・・・・・・・」
と、こんのすけにそう言われるだが・・・・
「あ、あの・・・神力って・・・・・・どうやって使うんですか・・・・?」
背後にいるこんのすけに振り向き、苦く笑いながらはこんのすけにそう尋ねた。
「え・・・・・」
こんのすけはその言葉に、ぽかんとしてを見る。
そもそも自分に神力などあるのかは不思議だった。
いたって普通の人間だと自分では思ってきた。
神力と言われても・・・・正直そんなものはないんじゃないか・・・とは思う。
「・・・・・・・・」
の質問に、こんのすけは黙ってしまう。
え?とはあせる。
「神力の・・・使い方は・・・・祝詞を唱えたりするのですが・・・・あるじさまの場合は・・・・」
えっと・・・と、こんのすけは言葉に詰まっていた。
(のりと・・・・あ、あの薄暗い部屋であの人たちが唱えてたやつかな?)
お経じゃなくて祝詞だったんだ・・・・確かに祝詞って聞いたことある・・・神社で使うんだよね。
とは思いながら、困っているこんのすけを見る。
「あるじさまは祝詞は知らないですし・・・・どうしたら神力を使えるのでしょうか・・・・」
こんのすけは明らかに困っていた。
おろおろとして汗をかいている・・・・。
こんのすけさんでもわからないことあるんだな・・・・と、
は思いながら、困っているこんのすけを見て、どうしよう・・・と、考える。
「えー・・っと・・・・と、とりあえず!祈ってみます!」
は困っているこんのすけを見かねて、にこっと無理に笑いながらそう言った。
「え・・・」
「とりあえず、両手合わせて祈ってみます!そしたら何とかなるかも!」
はそう言いながら、祭壇へと、刀へと向き直る。
「・・・・・・・・・」
そして両手を合わせ、スッと目を閉じ、心の中で祈った。
(お願いします・・・顕現してください・・・・顕現してください・・・・)
は合わせた手に力をいれ、ぎゅっと目をつむる。
そして祈った・・・・・・。
これで顕現できるのかな?こんなんじゃダメなような・・・・
という思いもあったが、とりあえず祈るしかない・・・はひたすら心の中でつぶやいた。
そして、何回目かの祈りを捧げた時・・・・目を閉じていたが、
カッと何かが光り、閉じたまぶたごしにも瞳が光を感じた。
「!」
そしてぶわっと風が吹く・・・顔や手に何かがあたった・・・・・
「・・・・・・・」
え?と思いが目を開くと・・・・そこには・・・・・・
「わしは陸奥守吉行。やっと、おんしとしゃべれてうれしいぜよ!」
桜の花びらが舞い散る中・・・・男が一人・・・・・刀掛けの前に立っていた・・・・。
この刀を選ぶときに姿を見た・・・あの人が・・・・・・・。
「!!」
は驚いて、目を見開き言葉をなくしたまま、呆然と顕現した刀剣男士、陸奥守吉行を見ていた。
「ん?どうしたんじゃ?」
大丈夫か?と言いながら、刀掛けの前に立っていた陸奥守吉行は、
顎に手を置きながら、少し離れた座布団の上に座っているに近づいて、身を屈める。
「え!?あ!はい!大丈夫です!!」
は近づいてきた陸奥守吉行から逃げるように、少し顔を赤くして、後ろに手を置き、
座りながら後ずさりして、もう片方の手を顔の前で振った。
「そうか?」
陸奥守吉行が屈めていた身体を戻し、首をかしげているとはバッと立ち上がり、
「あ、あの!さにわのです!よろしくお願いします!!」
と、挨拶し、慌てた様子で頭を下げた。
「わかっちょるがな!よろしゅうな!!」
陸奥守吉行はの言葉を聞くと、にっこりと明るい笑顔でそう言い、手を出してきた。
「あ・・・・はい・・・・」
(わかってる・・?)
とは疑問に思いながらも、差し出された手に、自分も手を出し、握手をする。
陸奥守吉行の手は・・・・あたたかかった・・・・。
「・・・・・・・・・」
見かけは人間そのもので、手もあたたかい・・・刀の付喪神を顕現した刀剣男士は・・・ごく普通の人間だった。
はしばし、握手したその手を見つめる・・・・。
「さって、それでわしは何をすればええんじゃ?」
「!」
その言葉には慌てて顔を上げ、握手していた手を離す。
「あ・・・えっと・・・・・」
そして言葉に詰まる。
は背後にいるこんのすけを見た。
「顕現できましたね!あるじさま!」
こんのすけはよろこびながら、ぴょんぴょんとはねている。
「そう・・・ですね・・・・」
なんとか・・・と、言いながらは、ははは・・・と、笑った。
「お!こんのすけか!」
すると、陸奥守吉行は顔を輝かせながらこんのすけに近づいて行った。
「! 私のことを知っているのですか!?」
こんのすけは少し驚いたように、陸奥守吉行に言葉を返す。
「知ってるも何も、ここに来てからずっと案内してくれちょったじゃないがか。」
「え・・・・?」
(え・・・・?)
こんのすけとは陸奥守吉行の言葉に、え?と、疑問を抱く。
「わしはずっと見とったぜよに選ばれてから、ずっとな。」
陸奥守吉行はそう言いながら、にっこりとまた、明るい笑顔で笑った。
「え・・・・」
(選んでからって・・・あの、薄暗い部屋で選んでから?ずっと!?)
はそう思いながら唖然として、こんのすけを見ている陸奥守吉行を見る。
「この姿にならんでも、付喪神やき、ずっと見とったぜよ。」
陸奥守吉行はそう言いながら、腰に両手を置き、ハッハッハと笑う。
(刀のままでも・・・・意識あるんだ・・・・)
は驚いたまま陸奥守吉行を見ていた。
「ん?ああ、確か今は仕事の説明をしてるんじゃったかのう?」
そう言いながら、陸奥守吉行はを見る。
「あ・・・・はい!それで今・・・・顕現してて・・・・・」
「そうじゃったのう!そんじゃあ、次に行くかのう!」
な、こんのすけ!と、陸奥守吉行はこんのすけに言った。
「あ、はい!では顕現の後は鍛刀の仕方をご説明いたします!
一度、仕事部屋に戻り、鍛刀の書を取りに行きましょう。
あ、そのあと、刀装、手入れと説明いたしますので、その書も持っていきましょう!」
こんのすけにそう言われ、たんとうの書?たんとうするのに本が必要なの・・・?と、
は思いながらも、はい。と、答えた。
「そんじゃあ、行くきに!」
陸奥守吉行はそう言うと、スパンと障子を開いた。
(・・・・陸奥守吉行さん・・・・明るい人だなぁ・・・・・)
明るいいい人そうで良かった・・・・。とは安堵しながら、
陸奥守吉行のあとを追い、顕現の間を後にしたのだった・・・・・・。
続。
2015/10/11....