審神者になった日。03
「では、早速ですが・・・・」
男はそう言いながら顔を上げ、立ち上がる。
(う・・・・なんだろうこの嫌な感じ・・・・)
は少しそう思う。
「こちらの中から刀を一つ、お選びください。」
男はそう言うとから見て右手の壁に向かい、するりと黒い布を外した。
するすると次々外していく布から見えたのは、刀・・・五振りの日本刀だった。
男はこちらへどうぞ。とを呼ぶ。
正座の足の痺れに耐えながらはその日本刀の元へと向かった。
(わー・・・綺麗・・・・)
日本刀は、刀をかける台座の様な物に、鞘と、
きらきらと刃が光る本体が、別々に二段に置かれていた。
がカバンを脇に抱えながら日本刀を見ていると、
男が突然、手を合わせ、何かお経の様な、呪文のような言葉を唱え始めた。
(え!え!?何!?)
は戸惑いながら男を見る。
そうしていると、視界の隅に何かが見えた。
え?と、思いがそれを見ると・・・・・
「うわあ!!」
並べられた日本刀の上に、それぞれ人の姿が浮かんでいた。
「え・・・な、何・・・・?」
は戸惑いながら、後ずさりし、身構える。
すると男は唱えるのをやめ、少し疲れた様子でに言う。
「これが・・・顕現した、この刀たちの付喪神の姿です。」
「え・・・・・・けんげん・・・?」
が言葉の意味がわからずに聞き返すと、
「はっきりとした姿で現れる・・・人の姿で現れるということです。」
男はそう説明してくれた。
(はっきりとした姿・・・・付喪神・・・って・・・人の形してるんだ・・・・・)
はそう思いながら、刀の上に現れた、それぞれの人・・・ではないが、人々を見つめる。
時折ぼんやりとしているが、空中にホログラムの様に浮かび上がっている・・・。
「・・・・私の力では、こうして姿をお見せすることしかできません・・・申し訳ありません・・・・」
男はそう言いながら頭を下げる。
・・・・酷く疲れた様子だった。
「私たちでご用意出来たのは、この五口です。
審神者様には一口だけお持ちになって本丸へと行っていただきます。」
(・・・日本刀って、数・・・ふりって言うんだ・・・・)
は男の言葉を聞きながら、そう思う。
しかし、もう一つ気にかかることがある・・・・。
「・・・あの・・・・本丸・・・・って・・・?」
がそう問うと、男は説明してくれた。
「審神者様が拠点とする場所です。そこから出陣などをしていただきます。」
「あ・・・そうですか・・・・」
男の言葉には本丸だから城・・・なのかな・・・・?と、思いながら視線を刀に戻す。
「申し訳ございませんが・・・浮かんでいる姿はそう長くは持ちません。
刀を選んでいただけますでしょうか・・・・。」
私の力がおよばずに申し訳ございません・・・と、男は言いながら頭を下げた。
「あ、は、はい!選びます!すみません!」
はそう言われ、慌ててどの刀にするか選ぶ。
(でも、選ぶったって・・・どう選べば・・・・)
がそう思っていると、男は口を開いた。
「端から各刀の簡単な説明をさせていただきます。」
そう言うと、男は一つ一つ説明をしていく・・・・・
加州清光、新選組沖田総司の打刀。扱いにくいが性能はピカイチ。
歌仙兼定、歴代兼定でも随一と呼ばれる二代目、通称之定の作。
山姥切国広、山姥切の写しとして打たれたが、国広の第一の傑作。
蜂須賀虎徹、虎徹のほぼ全ては贋作と言われているが、本物の虎徹。
陸奥守吉行、幕末の英雄、坂本龍馬の打刀。土佐では名刀として評判だった。
「・・・・・・・・・・」
説明をされた。
しかし・・・・・・正直、説明をされてもピンとこない・・・。
刀に関して無知な女子高生に、誰の作だのなんだのと言われても、正直よくわからない。
(あ・・・でも、これとあれ沖田総司のうち・・がたな?と、
坂本龍馬のうちがたななんだ・・・・すごいなー・・・・)
は知っている歴史上の人物の名前に、少しその刀に興味を持つ。
しかし、どの刀を選べばいいのか・・・・・
「・・・・・・・・・」
刀を見て、顕現した姿を見て、悩みはするが早く選ばなくてはいけない。
どうしよう・・・とはあせる。
刀を見ても、どの刀も同じように見える。
性能はピカイチらしい沖田総司の刀にするか?
それとも傑作と呼ばれてるのにするか・・・それとも・・・・
とは考えるが・・・・・どれにすればいいのかわからない・・・・。
(・・・もう・・・こうなったらしょうがない・・・・)
は少し下を見て、意を固めた。
(人相とか好みで決めよう!)
そしてそう思い、浮かんでいる顕現した姿を見た。
(うーん・・・どの人が好みかなぁー・・・・)
そんな基準で決めていいのか・・・と、思うが、もうそれしかない。
は一人ずつ眺めながら、どれにするか選ぶ。
この人はかっこいいけど・・・・この人は優しそうだけど・・・この人派手だなー・・・・
などと思いながら見ていく・・・・・そして・・・・
(あ、この人・・・・いいかも・・・人相もいいし、何か明るくて優しそう・・・・坂本龍馬の刀だし・・・・)
と、坂本龍馬が持っていたという、刀の前で足を止めた。
(あー・・・いいかな・・・この人で・・・・あーでも、あっちの人も・・・・
あー・・・いいや!この人にしよう!)
はそう思うとを待っている男に向かって、
名前は忘れた坂本龍馬の刀を指さしながら言った。
「この・・・刀にします!」
の言葉を聞くと、男は頷きながら、
「陸奥守吉行ですね。かしこまりました。」
と、言い、『むつのかみよしゆき』という、覚えるのが少し難しい名前の刀を手に取り、鞘に収める。
そしてにスッと差し出した。
「・・・・ありがとうございます・・・・」
と言いながら刀を受け取る。
(うわっ!ちょっと重い!)
しかし、刀は少し重く、男が離した瞬間に、油断していたはよろめきそうになり、ぐっと身体に力を入れた。
「それでは、本丸へと向かいましょう。」
男がそう言うと、ホログラムのような刀が顕現した姿は、もやの様に揺れ、消えてしまった。
「・・・・・はい。」
は受け取った刀を両手で持ち、胸元に抱えるように持ちながら、
消えてしまった宙を少し見つめ、男に向き直る。
すると男は並べられた刀の脇にあった、障子を開ける。
そして中へと入っていった。
も男に続き中へと入る。
「・・・・・・・・」
が、目の前に広がった光景に口を少し開け、呆然としてしまった。
目の前に広がったのは、真っ暗な宙に浮かぶ、
たくさんの、数え切れないほどの、上へと続く赤い鳥居。
そしてその下にある階段だった。
障子のある入口から少し、同じ黒だが床があるとわかる薄い黒色の床が広がっていた。
そこに二人は立っていた。
そしてその床から、同じように、空中の漆黒の黒さとは少し違う薄い黒色の階段だけが、
鳥居と共に上へと続いていた。
「この階段をお上りください。本丸へと続いています。」
「え!?」
男の言葉にはつい、驚いて声を出してしまう。
「あ、いや・・・すみません・・・・」
は慌てて言葉を濁した。
(この・・・階段行くの・・・・?)
高いよ・・・怖いよ・・・ありえないよ・・・落ちたら死ぬんじゃないの?
上についても死にそうだよ・・・・。とは思いながら、階段の前でしばし固まる。
「私たちの過去、そして未来は審神者様にかかっております。
どうかこの国を、歴史を、お救いください。よろしくお願いいたします。」
の横にいた男は、そう言うと、深々と頭を下げた。
「・・・・・・・・」
その言葉には行くしかないという現実を突きつけられる。
「・・・・わ、わかりました・・・頑張ります・・・・」
はそう言うと、それじゃあ・・・と、階段の一段目に足をつけた。
そしてどんどんと上っていく。
「・・・・・・・・」
階段は、幅はそれほど狭くないため、落ちる危険性はないが、
少し光っているような赤い鳥居も不気味だし、階段の外の黒い闇が怖い。
本当に・・・落ちたらどうなるのだろう・・・・。
そんなことを思いながら上っていたが、何段上ったかわからないが、
少し上った所で、ふと立ち止まり、後ろを振り返る。
「・・・・・・・・・」
すると、平安時代のような帽子に着物、顔に紙をつけた男は、
を見上げてまだ立っていた。
その姿は、もう遠く、小さい。
「・・・・・・・・・・・」
は両手で持ち、胸に抱えるように持った刀をぎゅっと握ると、
また前へと向き直り、階段を一歩一歩、上って行った・・・・・。
続。
2015/10/09....