審神者になった日。02













目を開く直前から、聞こえる、香る、音と声と香り・・・・・


「・・・・・・・・・」



「おお・・・」

「お越しになられたぞ・・・!」


が目を開くと、そこは薄暗い室内だった。
明かりは中央の焚き火のような火だけ。
にはよくわからないが、木の囲いの中に火が燃やされ、
その周りを平安時代のような格好をし、顔を白い紙で隠した人々がぐるっと囲っていた。

そして、その人たちを少し見下ろすように立っている自分・・・・・

「え・・・・・」

はぽかんとしながら、目の前の光景を・・・呆然と見ていた。

「ようこそお越しくださいました、審神者様。」

白い着物のような服に、顔に白い紙をつけた人々は、
の姿を見ると、ザッとの方を向き、深々と正座をし、頭を下げた。


「え・・・・・」


突然の状況には戸惑い、凍りついた。

ここはどこだ?なんでこんな所にいる?ここは?神社にいたはずなのに・・・・。


そんなことが、頭の中をぐるぐると駆け巡った。


「審神者様、こちらへどうぞ。」


が呆然としていると、正座をし、頭を下げていた人々のうちの一人が、
立ち上がり、手をスッと出し、こちらへ・・・と、手で促した。


「え・・・あ・・・あの・・・・・」


は戸惑いながら、ようやっと少し辺りを見渡す。

そこは神社の社の中の様だった。

自分の背後には、鏡や榊、名前は知らないが、神社でよく見る紙や、道具。
そして、自分が立っている場所は、鏡の真ん前の、少し段になっている所だった。
辺りは暗く、お香の香りが充満している。


「こちらへ・・・・」


が戸惑っていると、立ち上がってを促した、声からして男性らしき人が、
一歩近づき、再度促してくる。


「・・・・・・・・」


は顔を隠したその人も、この空間も、全てが不気味で怖くて、
促されるまま、静かに段を降り、指示の通りに歩き出した。




が歩き出すと、スッとその男は前に出て、歩き始めた。

他の人々が、正座をし、頭を下げたままの中、
その人々を横目には歩く。

すると、ぼんやりとした薄明かりの中、障子が見えた。
その男性は一度座ると、スッと綺麗な所作で障子を開ける。
そして立ち上がり、また歩き出した。


「・・・・・・・・」


も障子を越え、隣の部屋へと入る。
そこは先ほどの部屋同様、明かりは蝋燭だけの、薄暗い部屋だった。

壁に点々とある蝋燭と、右手にある、お殿様が座るような一段高い所に座布団があり、
その脇にも長い蝋燭立てに蝋燭が灯されていた。


「そちらへどうぞ・・・・」


が部屋へ入った所で、立ち止まっていると、
男はスッと手を差し出し、一段高い所にある座布団を示した。


「・・・・・・・はい・・・」


そんな所に座っていいのだろうか・・・と思いながらも、
まだ何が何やら状況を掴めていないは、素直に従い、その高級そうな座布団に正座で座った。






男はの前に、裾や袖を綺麗な所作で払い、座ると、再度深々と頭を下げた。

「・・・・・・・」

にはなぜ頭を下げられるのかわからない。
不気味だった。
この部屋も、ここの人々も・・・・。


「審神者様・・・ようこそおいでくださいました。」


男は頭を下げたまま、そう言う。

(さにわ・・・様・・・・・?)

は聞き慣れない言葉に心の中でつぶやく。


「お越しいただきましたが、審神者様はこの状況に戸惑われているかと思われます。
私から、少し説明をさせていただきます。」


よろしいでしょうか?と、男は顔を上げる。

「あ、はい・・・・」

一番この状況を知りたいのはだ。
はそう言われて、即座に返事をする。


「審神者様は、きっと現在ではない時から来られたと思いますが、
現在、この日本は2205年でございます。」

「え!」

は思わず大きな声を出してしまい、咄嗟に口を手で塞ぐ。

「驚かれるのも無理はありません。私たちが、審神者様をこの時へとお呼びしたのです。」


「・・・・・・・・・」


は男の言葉に言葉を失う。

(2205年って・・・え?何年後・・・?)

は頭の中で引き算をする。


「ただ、ここは正確には2205年ではありません。
私たちが歴史修正主義者から神力で守っている、時空も、空間も異なる、神聖なる場。
どこでもあり、どこでもございません。」


「・・・・・・・・・」

は男の言葉に、呆然として言葉を失くす。


「審神者様をお呼びしたのは、歴史修正主義者から、
この国が歩んできた歴史を守っていただきたいからです。」


「・・・・・・・」

は黙って、男の話を聞く。


「今、歴史修正主義者たちは、この国の歴史を変えようとしています。
奴らを倒し、歴史を守れるのは、審神者様と、刀に宿りし付喪神たちだけなのです。」


(刀・・・・?)

は男の言葉を聞きながら、疑問を抱く。


「どうか、歴史修正主義者たちを倒し、今までのこの国の歴史を、
今の時を、そして未来を、守っていただけないでしょうか・・・・」


男はそう言うと、再度深々と頭を下げた。


「・・・・・・・」


は薄暗く、お香の香る空間の中、黙り込むしかなかった。

正直、いきなりそんなことを言われても・・・・と・・・。
それ以前に、説明をされてもただ呆然としてしまうだけで、話を飲み込めない。

(歴史修正主義者・・・・歴史を変えようとしてる人たち・・・かな・・・・
それを倒せるのが・・・私・・・・と、刀の付喪神・・・だっけ?)

は黙ったまま、頭の中で先ほど話してくれた内容を確認する。

(あ、もしかして夢?)

はふとそう思った。
神社で眠っちゃったのかな?と、思いながら、試しに手の甲をつねってみた。

(痛い・・・・)

手の甲も痛いし、正座している足も痛い・・・・。

(夢・・・じゃ・・・ないのかな・・・・ないよね・・・こんなリアルだもん・・・何もかも・・・・・)

はそう思いながら、部屋をぐるりと見た。

(・・・・どうしよう・・・・)

は戸惑う。

ここで無理です。と言ったら返してくれるのだろうか。
それならそれがいいのだが・・・と、思いは言ってみることにした。


「あ、あの・・・すみませんが・・・・私にはちょっと・・・できそうにないので・・・
元の場所に・・・・戻してもらえませんか・・・・・?」

が恐る恐る言うと・・・・


「・・・・・申し訳ございませんが、元の場所にお返しすることは、
歴史修正主義者を倒した後でしかできません。」


男は顔を上げ、少し冷たい声でそう言った。


「・・・・・・・・」


(そ・・・それって・・・・・もう引き受けるしかないじゃん・・・・拒否権ないじゃん・・・・)


はそう思いながら、男の冷たい声に、ぎゅっと身を縮める。



拒否権がないのなら・・・・・仕方ない・・・・じゃないか・・・・・。

選択する道は一つ。



「・・・・・わかり・・・ました・・・・・」


は小さな声で、そう返事をした。



「ありがとうございます・・・・」



が返事をすると、男は再度、深々と頭を下げた。












続。


2015/10/09....