いつもと違う景色。













「なぁ。」


「はい?」




とある日の審神者の仕事部屋。
今日の近侍は御手杵だった。

ももう、審神者の仕事には慣れ、文机に向かい、正座をして書類の処理をしていた。
御手杵はの斜め後ろ背後の、開け放たれた障子の出入り口に座り、暇を持て余していた。

そんな御手杵は、静かな部屋に鳥のさえずりと、ペンを走らせる音、
紙をめくる音しかしない部屋でに声をかける。

は顔を書類に向けたままで返事をする。


すると・・・・・







「俺、たぶん、あんたのことが好きだ。」






ピタッ・・・と、ペンを走らせる音が止まった。
の動きが完全に静止したのだ。


「・・・・え?」


はおそるおそる振り返りながら小さな声で驚いた表情で問う。


御手杵は、長い足を廊下に少し折り曲げて出し、
身体を後ろに少し倒しながら両手を後ろ手に突き、
少し後ろを振り返るようにしてを見ていた。

その顔は平然と、少しほほえんでいた。


「ははは、驚いてる。」


そして明るい笑顔で笑った。

「え!?な!冗談ですか!?やめてくださいよ!!!」

がそう言いながら向き直り、片手を上げると、



「冗談じゃないよ。」



と、御手杵は静かに瞳を閉じた。


「え・・・・・」


上げた手は・・・静かに下ろされる・・・・・。




「なんかさぁ・・・・あんた見てると・・・・こう・・・
ここ?胸?の中?がじんわり?ほっこり?あったかく?なるんだ。」




御手杵は体勢を変えないまま、右手で胸の辺りをおさえてそう言う。



「あんたとしゃべっても、一緒にいてもそうなるし・・・
あと、なんか嬉しい!あと、走った後とか戦闘の後みたいになる。」



「・・・・・・」



は正座して、両手をぎゅっと膝の上で握りながら、
ただ、その、人間ではない人の形を得た刀の付喪神の、
初めてと思われる、不器用な恋の告白を、聞くしかなかった・・・・・。



「あとな〜・・・これ言いたくないんだけど・・・・
他のやつらと話してたり一緒にいるの見ると・・・・
なんかこう・・・・胸が・・・重くなって・・・
もやもやして・・・・・まぁ、そいつ刺したくなるよな!」


「刺さないでください!」



慌ててはツッコミを入れる。


「ははは!だいじょうぶ、だいじょうぶ。いくらなんでも仲間は刺さねぇよ。」


御手杵は明るく笑う。
しかしふっと顔を伏せた。


「でも・・・・そんな気持ちになる・・・・」


「っ・・・・・」




(それは・・・嫉妬・・・だよね・・・・)


心の中では思い、ゴクリと唾を飲んだ。



「で、これなんなんだろうなー?病気かなー?って、
蜻蛉切と日本号に相談したら、そりゃ恋だ。って言われてな。
あー・・・・人間たちがずっと一喜一憂して騒いでたあれか・・・・
って思って・・・・これがかぁ・・・って思って。
蜻蛉切はやめとけって言ってたんだけど、日本号はここにはあんたに惚れてるやつが
ごまんといるから先手必勝だ!って言ってたから、
まぁ、どうするか悩んだんだけど・・・
俺あんま頭よくないからさー・・・まぁ、好きだから好きだって伝えとこうかなって。」



御手杵はそう言うと、もう一度、顔をに向け、にしっと、屈託のない笑顔で笑った。


「っ・・・・」


その笑顔は、純粋で、かっこよさもあって、幼さもあって・・・・
思わず心を射抜かれてしまいそうになる。




しかし、自分は審神者。

そして、彼は刀剣男子。




自分は、人。

彼は、人ではない物。




そもそも、自分は御手杵のことをそういう風にみたことがない。

今ここで、はい、私も好きです。など言えるわけもない。






「あの・・・御手杵さん・・・・お気持ちはうれしいのですが・・・・・」




は両手をぎゅっと握りながら返事を返す。




「あ〜〜〜、やっぱり蜻蛉切の言うとおりかー。」


「え?」




全部を言う前に言葉を遮られてはつんのめる。



「いや、蜻蛉切に思いを伝えても断られるだけだぞ。っていわれたんだよ。
いろいろぐだぐだ長々と理由付きで。」


「あー・・・・」



さすが蜻蛉切さん。とは思う。



「ま、いいや。俺の気持ちはつたえたし。すっきりしたし!これでいろいろできるし!」



そう言うと、御手杵は立ち上がり伸びをする。



「え?いろいろってなにを・・・ですか?」



「・・・・・いろいろ。」



御手杵は、にぃ〜。と、笑った。






















「なぁ!新しく庭にできた藤、見に行かねぇか!」



「わぁ!」



それから幾月か過ぎ、御手杵のいろいろが、好き好きアピールだったり、
スキンシップだったりと、いろいろわかってきた頃、
夜、自室にいたは、いきなり障子戸をスパーン!と開けられ、びっくりし、声を上げる。


「御手杵さん!障子開けるときは、声かけてくださいって何度言えばわかるんですか!!」


着替えてるかもしれないでしょ!?とは怒鳴る。

幸い着替えてはいなく、部屋着だったが、寝転がってはいた。
即座に正座をして、顔を赤くする。


「ん?ああ、わり。そんなことより、藤!新しく庭にできただろ?今日。」

「そんなことよりって・・・ああ、はい。昼間、みんなで見たじゃないですか。」

「夜夜!さっき通りかかったら、すっごい!きれいだったんだって!な!見に行こう!」

「え・・・でも、このかっこうじゃ・・・」

「だいじょうぶだって!ほら!」


は御手杵に手を引っ張られ、無理やり立たされる。


「あー・・・もう、わかりましたよー!」


そして、昼間見た、綺麗な藤棚へと向かったのだった。















「うわぁ・・・・・」


「な?きれいだろ?」


夜の藤棚は、誰がライトアップしたのか、地面に等間隔に蝋燭が置かれ、
橙色のほんのりとした明かりの中、ずっと先まで藤が続き、
とても素敵な、綺麗な光景だった・・・・。


「綺麗です!!すごい!ありがとうございます!御手杵さん!」

「ああ・・・うっぷ・・・」

「あ・・・」


御手杵の顔に藤の花がかかる。

「それ、昼間もやってましたよね。御手杵さんもですけど、背高い人みんな。」

クスクスとは笑う。

「藤は垂れてるからな〜・・・まぁ、俺たちが背が高いのもあるけど・・・・」

藤を手で避けながら御手杵は歩く。

「もうここら辺でいいです。御手杵さん、しゃがんでみたらどうですか?
しゃがんでみたらいつもと違う景色で綺麗かもですよ?」

「ん?あー・・・そうだな。」

御手杵はそう言いながらしゃがみこむ。

しゃがんで、太ももに肘をのせ、手のひらに顎をのせた。


見える景色は確かに違った。


いつもより低い世界。


前を歩くの見え方も違う。


(短刀たちはいつもこんな視点なんかな・・・・)


御手杵はそんなことを思いながらを見ていた。


薄暗い橙の明かりの中で藤を見上げたり触ってみたり、
蝋燭を屈んで見てみたり・・・わーすごーい!と、無邪気にくるくる回ってみたり・・・・。



御手杵は、ふっとほほえむ。






「そろそろ帰りましょうか!」



満喫したのかが御手杵の元へやってきた。



「・・・・・・」


「御手杵さん?」



は上半身をうつむかせて落ちてきた横髪を耳にかける。





「ほんとだな・・・しゃがんでみたらいつもと違う景色で・・・きれいだ。」





そして、薄く笑いの髪にそっと触れた。


「!」


は真っ赤になり、バッと顔を上げ、離れる。



「さ、帰るか。」



しかし、次の瞬間にはいつものどこか抜けた笑顔の御手杵に戻っていた・・・・。


「は、はい!」


しかし少し距離をとって、少しドキドキと弾む鼓動を抱えて、












は御手杵と、夜の藤棚を後にしたのだった・・・・・・・・。



















終。


2019/04/23....