秋雨の庭。
それは、審神者の仕事にももう慣れ、早一年がたとうかという頃の事・・・・。
「雨だ・・・。」
本丸の執務室で、文机に向かっていたは、
文机に向かうと大きく放たれた障子から真正面に見える広い庭に、
しとしとと雨が降ってきたのを、静かな部屋にかすかに響く雨の音で気づいた。
広い庭はすでに秋の色一色だった。
紅葉したもみじが綺麗な色を見せてくれている。
「・・・・・・。」
はふぅっと一息つくと、持っていたペンを起き、立ち上がった。
そのまま開け放たれた障子のところまで行くと、障子に手をつき、外を眺める。
どんよりとした鈍色の空に、空からこぼれ落ちる無数の雫。
そして赤や橙色の綺麗な草葉。
「・・・・・・。」
はなんとなく、そのまま広縁に歩いていき座り込み、横になった。
「・・・・・・。」
横になり、暗く寒々しい秋雨の庭を見つめる。
その時間は、少し悲しく、切なく・・・懐かしいような・・・・心が落ち着く。
そんな時間だった。
しかし、この本丸はそんなにひとりの時間が楽しめるほど、人の少ない本丸ではなくなっていた。
「あ、主!どうなさったのですか!」
さっそく今日の近侍、蜻蛉切に見つかった。
は、あー・・・とうなだれる。
「なんでもないよー、蜻蛉切さん。ちょっと横になってただけ。」
は少しめんどくさそうに体を持ち上げた。
「な、なぜこのような場所で!?
風邪をひかれますぞ!小雨も降ってきましたし・・・。
休憩なされるのでしたら暖かい所で・・・・横になられるのでしたら布団をご用意いたしますので。」
案の定、蜻蛉切らしく慌てたようすでの心配をする。
「大丈夫ですよ、蜻蛉切さん、そんなに心配しなくても。
ちょっと・・・・物思いにふけってただけなんで。」
その場で体育座りをしながらは相変わらず雨の降る庭を見つめる。
「・・・・・。」
そんなの様子に、胸の内を少し感じ取ったのか、
蜻蛉切はすっと落ち着いた雰囲気になり、ふっとほほえんだ。
「それでは、何かかけるものをお持ちいたしましょう。」
「あ、蜻蛉切さん。」
立ち去ろうとした蜻蛉切をは引き止めた。
「は?」
足を止め、振り返る蜻蛉切には少し照れくさそうにほほえみながら、ちょいちょいと、手招きした。
蜻蛉切は意図がつかめず立ち尽くしているとは自分の隣を指さしながら、座って。と、言った。
「・・・・・・。」
蜻蛉切は少し動揺しながらも、これも主命。と思いの横に少し間を空け、座った。
「!」
しかしは間をつめる。
触れた蜻蛉切の体が硬直しているのがわかった。
「あ、主・・・。」
蜻蛉切が戸惑っているとはこてんと、蜻蛉切のたくましい二の腕に頭をあずけた。
蜻蛉切のあたたかい体温が、伝わってくる。
「雨の日って・・・人恋しくなりません?」
そしては語りだした。
「物悲しくなるっていうか・・・んー・・・でも、人恋しいとか、
人肌恋しいんだけど・・・・ちょっとちがうかな・・・・。
それは確かにそうなんだけど・・・・・ひとりでいたい気分ではある。
でも、誰かにそばにはいてほしい・・・・でも、黙っていてほしいし・・・・。
はは、わがままですね。
でも、そんなときに蜻蛉切さんはぴったりだ。」
そして、にっこりとは蜻蛉切にほほえみかけた。
「・・・・ええ・・・そのお気持ち・・・少しわかりますぞ。」
蜻蛉切はほほえみ返すと、それだけいい、静かに顔を庭へと移した。
(やっぱり・・・蜻蛉切さんはこんな日に最適な人だな・・・。)
それからしばらく、二人は雨の降る庭を眺めたのだった――――。
終。
2017/09/17...