夕日。













それは、暑さも大分和らいで来た、秋も近い夏の日の夕暮れ・・・・




カンカンカン・・と階段を上る金属音が、オレンジ色に照らされている壁や道路、辺り一帯に響き渡る。



「〜♪」


階段を上っている人物、このアパートに住む鷹村は、口笛を吹きながら階段を上り、自分の部屋へと向かっていた。

しばらく前に家を出て、コインランドリーへ行っていた鷹村。
洗濯を終え、アパートへと戻って来たのだが・・・

「・・・・・」

鷹村は、鍵穴に鍵を入れようとしていた手をふと止め、そのままドアノブへと持って行き、ドアノブを掴んだ。
そして回しながら部屋の扉を引く。

すると、部屋の扉がカチャッと開いた。


数センチ開いたままの扉を見つめ、鷹村は眉間に皺を寄せるが、
鷹村に恐れる物などそうそうないので、そのまま扉を開いた。


「・・・・・」


そして鷹村はやっぱりか・・・と、心の中でつぶやく。


鷹村が目を向けたのは玄関にある靴。
そこには見慣れた女性物の靴があった。

閉めたはずの鍵が開いていて、そしてこの靴があるという事は間違いない。
それに今の所・・と言ったら本人にどやされそうだが、今の所、この部屋の鍵を渡している女は一人しかいない。


「おー、来てんなら一応、鍵しめ・・・・」


鷹村は部屋の中にいる人物に向け、そう言いながら部屋に上がるが・・・



「スー・・・・」



鷹村から部屋の鍵を渡されている女・・・は、部屋の中で窓を開けて寝ていた。


「・・・・・・」


ゆらりゆらりと、静かに窓辺のカーテンが揺れる。

沈む夕陽の、暖かなオレンジ色一色に染まる部屋に、開け放たれた窓から、夏特有の香りを持った風が流れ込む。
そして、ひぐらしの音が遠くから静かに入ってくる部屋の中で、
は窓辺に寝転がり、薄いタオルケットをかけ、眠っていた。


「・・・ったく・・・」


鷹村は部屋で眠っているを見て、チッと舌打ちをしながらを睨み付ける。
そして洗濯物を適当な場所に置きながら、一応鍵閉めとけよ、危ねぇなぁ・・・などと、ぶつぶつとぼやく。
いくら鷹村の部屋だからと言って、鍵を開けたまま眠るのは危ない・・と、鷹村は鷹村らしくもなく、心配したのだ。


そしての脇にしゃがむと、肩を揺らし起こそうとする。

「お・・・・・」

しかし「おい。」と声をかけようとして、鷹村は声も手も止めた。



「・・・・・・・・・・」


窓から差し込む夕陽の光に照らされた、オレンジ色のの寝顔が・・・余りにも幸せそうだったので・・
鷹村はつい起こすのをためらったのだ。

「・・・・・」

鷹村はふっと息を吐き出すとの横にそっと座った。



(・・・・もう夏も終わんなー・・)

そしてひぐらしの音が聞こえてくる、夕暮れの空を窓から見上げながら、鷹村は思う。


「・・・・・・・・・」

視線を下げるとの寝顔・・・鷹村はふん。と、息を吐くとの頬にかかる髪の毛を耳にかけてやる。
そしてと夏を越すのは何回目だろう・・と、ふと考える。
そして、後何回過ごすのか・・・過ごせるのか・・・・・
などと考えている自分に、鷹村はイラッとする。


(・・・なんで俺様がこんな女に惚れたんだか・・)


そしての頬に触れながら、鷹村は思う。
それでも、間抜けな顔をして、心地良さそうに寝ているを見ていると、口元が緩む。


「・・・・仕方ねぇ・・か・・」


こればっかりは・・と、思いながら鷹村は身を屈めの耳元に唇を近付ける。






「・・・・いい加減起きねぇと襲っちまうぞ・・・」


そしてそう言うと、べろんとの耳元を舐めたのだった。



「ひぃあ!!!」


耳に異様な感覚を感じは飛び起きる。

「おー、起きたか。」

飛び起きたをひょいとかわして、何食わぬ顔で横に座っている鷹村。

「い、今!耳に何かしましたか!?」

横にいる鷹村に、耳を押さえながらは聞くと・・・・



「ああ、起きねぇーから舐めた。」



と、当然の事かの様に、何故か威張り気味に鷹村は言った。


「・・・何で起きないからって舐めるんですか・・・・」

そんな鷹村には顔を少し赤くしながら耳を押さえて、苦い顔でつぶやくしかなかった。
いつもの事だから。










終。


2009/02/26....