嬉し恥ずかし人込み闊歩。
バスン!ドシン!
今日も元気に鴨川ジムでは練習の音が響く。
「・・・・・はぁ〜・・。」
しかし、それに混じってこんなため息もちらほら・・・・・・。
「はぁ〜あっと。」
と、木村はあまりやる気なく最後の一発をサンドバッグに食らわした。
(何が悲しくてこんな日まで練習してなきゃいけないのか・・・。)
木村はつぶやいた。
そう。
今日は。
「よー木村ー。何だ〜?やる気のねー面しやがって。
俺なんか今日この後デートだからな。うきうきだ〜。
あ!!!ごっめんな木村ー!お前今日予定ないんだっけ!!!」
青木はわざとらしくそう言って笑った。
そう、今日はクリスマスイブだ。
「うるせぇ!青木!お前はトミ子とデートでもしてろ!!!」
くふふ。と笑う青木に木村は吠えた。
「あーあー・・・ちゃんも彼氏いないらしいけど・・・。
こんな日にジムなんて来るはず無いだろうしな〜・・・・・・。」
と、木村がグローブを外しながら言ったときだった。
「こんにちはー!」
「!」
この声は!?と木村は背にした入り口を振り返る。
「あ、今日もご苦労様です。木村さんー。」
「ちゃん!?」
「へ?」
そう、このジムのアルバイト。
がやってきた。
別にバイトだからやって来ておかしいはずは無いのだが・・・。
「今日・・バイト?」
「はい!」
木村は思わず聞いてしまう。
「だって今日クリスマスイブだよ?」
そう、今日はクリスマスイブ。
彼氏はいなくてもバイトは休んで友達と遊びに行ったり
何かしらするだろう・・・が。
「あー・・そういえばそうですね。
でも、あたしクリスチャンじゃないんであんま関係ないですし。」
あははー。
とは言った・・・・。
(クリスチャンじゃなくったって・・・・。)
別に遊びに行くとか・・・と木村は思うが、口にはしなかった。
「それよりもバイトしてた方がお金になるし皆さんと会えて楽しいしー。」
とはにこやかに言う。
「・・・・・・・そうか・・・。」
最後の「皆さんと・・。」の部分に木村は泣けてきた。
前の部分は聞かなかったことにして・・・。
そして木村はある事を思いついた。
「あ!じゃあさ!今日ジム終わったら駅前の・・・!」
「え・き・ま・え・の?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
木村は固まる。
背後に何がいるのか知っている。
わかっている。
何がいるかって・・・・・・・。
「あ、鷹村さーん。ご苦労様ですー。」
がにこやかに挨拶した。
そう。
木村の背後には鷹村が・・・・・・。
「あー、そういえば駅前の明かりがなんか凄いとか言ってたっけなー。
よーしじゃあ練習終わったら見に行くか。」
「く・・・・・。」
また、鷹村さんに取られる・・・。と木村は思う。
されどこの人には逆らえないので・・・黙るしかない。
下手に会話に混ざるとの前で何を言われるかわからない・・・・。
「へ・・・。」
そしていきなりそんな事を言われて焦る。
それはデート・・・・?
いや・・・でも・・・そんなことより何よりも・・・・。
鷹村と二人は怖い・・・・・・・。
「あ!じゃあ皆で行きましょうよ!!!ね!木村さん!」
「え・・・・ああ!!!」
そして黙っていた木村はの言葉に今日二度目の涙目になる。
「皆さんで何処行くんですか?」
と、何気なく会話を聞いていた一歩もやってきた。
「あ、一歩君も今日練習終わったら駅前のイルミネーション見に行くー?」
少し誘われるのを期待していた一歩にが声をかける。
「あ、うん!!」
そして嬉しそうな一歩。
「あー!残念だなー!俺はトミ子とデー・・・・・」
「おーし!じゃあ皆で行くぞーー!じゃあ、また後でなー。」
「おーう。」
「・・・あ、はい・・・。」
「え・・・・。」
青木の言葉を鷹村が遮り、木村も無視し、残りの二人は困惑しながらも
皆、ばらばらにと散っていった・・・。
「・・・・・・・・・・。」
そしてそこには青木だけが残された・・・・。
そして、皆うきうきしながら練習は仕事を終わらせ、少し早めにジムを出た。
そして駅前・・・・。
「うわーーー!綺麗ーーー!!!」
はぁ。と白い息を吐きながらマフラーに手袋をしたは
暗闇にキラキラと光る駅前の通りを眺めていた。
駅前のイルミネーションは駅の大通りの両脇の木に電球を付け、
トナカイやサンタの形のイルミネーションも植え込みに
備え付けられ、とても綺麗だった・・・。
「うわー本当だー。」
「おお、結構すげーな・・。」
と、一歩と木村。
「そうかぁ〜?」
しかし、鷹村だけが耳をほじくりながらそうつぶやいた。
「・・・鷹村さん一人雰囲気ぶち壊さないで下さいよ・・・・。」
とは言う。
「それよりもさみぃなぁ・・・どっか入ろうぜ。」
鷹村は言う。
「ええー、見てるのにー。」
「まだ見たいよね。」
と一歩はブーイング。
「こんなん何時間も見たってなんもかわんねーし寒いだけなんだよ!どっか入るぞ!!」
「・・・・はーい。」
王様には逆らえない・・・。
はしぶしぶ了解した。
「あ!じゃあイルミネーションの真ん中の通り歩いていきましょうよ!」
しかし、それでも少しでも楽しもうとは鷹村に行った。
「ああ、どうせあそこ通らねーと店ねーだろ・・・。」
と、言うことでイルミネーションの真ん中の通りを歩くことになったのだが・・・。
「うおー・・すげー人ごみ・・・。」
と、鷹村は人より二つくらい飛びぬけた余裕の視界で言う。
しかし他の三人は・・・・・。
「はは・・凄い人ですね・・。」
「あー・・何かはぐれそう・・・ちゃんだいじょう・・・。」
ぶ。と、木村は後にいるに話しかけた。
「木村さーん!待ってーーー!!」
するとは人波に押され、違う方向へと流されかけていた。
「ああああ!!!」
と木村は慌てての手を引っ張り自分達の方へと誘導する。
「大丈夫?」
「は、はい。」
待っていた鷹村と一歩の元へ無事これたは、木村にそう返事をする。
「何やってんだ〜?」
と、鷹村は言う。
「鷹村さんは背高いから良いけどあたしには大変なんですよ・・・。」
は少しぐったりしながら言った。
「・・・・ほら手かせ。」
「へ?」
すると鷹村にぐいっと手のひらを掴まれた。
「ほれ行くぞー。」
すると鷹村はそのまま歩き出した。
「え!ちょ!!」
そう、普通に手を繋いでいるのだ。
「・・・・・・・・・・・・は・・はは・・。」
は後ろにいる木村と一歩に苦笑いをした。
「はは・・・。」
「あ・・ははは・・・。」
三人は笑い合った・・・・・・・・・・・・。
しかし内心、木村は・・・。
(こんちくしょう・・・鷹村さんめ・・・。)
と、思っていたりする。
しかし、そんな事を思ってうつむいて歩いていると・・。
「うおっと!」
と、人波に流されそうになる。
そんな時。
「あ、木村さん!手!」
が鷹村に手を引っ張られながら振り向いて言った。
「へ?」
木村は何?と聞き返す。
「手、繋ぎましょう・・はぐれちゃう・・・・。」
少し恥ずかしそうにだが・・・・・はそう言った。
「あ・・・ああ!」
木村は少し戸惑いながらも嬉しそうに差し出されたの手を握った。
はたから見れば鷹村、木村の三人が手を繋いでいて異様な光景だが・・・
木村にはたまらなかった。
から差し出された手・・・・。
これだけで幸せなクリスマスプレゼント・・・・。
「あ!あ!待ってーーー!!!」
と、手を繋いだ木村の後ろで一歩が人波に流されながら叫んだ。
「ああ!一歩君!!!」
は叫ぶが
「一歩なんかほっとけ・・。」
「・・・・ヤローとなんか手繋げるか・・・・。」
二人は呟いた。
「え!え!?」
そうこうしているうちに一歩は人波に消え・・・・・。
その後、三人で入った喫茶店に一歩は数十分遅れで
やってきたとかなんとか・・・・・・・。
終。
2003/12/24....