THE★秘密。02













そして、一日開けたバイトの日はあっという間にやってくる・・。








「・・・・・・・」


いつも通り練習し、いつも通り休憩していた宮田は
いつも通り汗を拭いていたのだが・・・

「・・・・・・はぁ・・」

と、少し苛々の混じったため息をして、ちらっと何気なく横を見た。

少し離れた横には、複雑そうな表情で、宮田に声を掛けようとするが、踏み止まっている・・・
そんな事を何回も繰り返しているの姿があった・・・。
そして宮田と眼が合う・・・。
すると、あは。と、ぎこちなく微笑むとは宮田に話しかけた。



「み、宮田君・・」



はいつも通り鴨川ジムに来た。
そして仕事をした。

が、完璧に、明らかに、ジムの人々を・・男を避けていた。

「・・・・なんだ?」

だが宮田は、いつも通りのポーカーフェイスでに言葉を返す。

「あ、これね。会長からお父さんに渡してくれって・・。」

は封筒に入った書類を渡す。

「ああ・・悪い。」

と、宮田が封筒を受け取ると
パッとは即座に手を離した。

「・・・・・・・」

そんなの態度に、宮田は一昨日の事を思い出し更にイラッとする。

おまけにの立っている位置も気になる。
何時もならもっと近くに来て話すのに、今日は近いような・・遠いような・・微妙に離れた位置だ。

「・・じゃ。」

そしては、ぎこちない笑顔で去って行った。

この時のの心境は・・・

(あああ・・どきどきだった・・・)

と、一気に疲れたわ・・・と、内心溜息を吐いていた。
やはり男の人の前に立つと勝手に緊張する・・。

(・・・・はぁ、やだなぁ・・)

どうやら自分でも避けているのは嫌らしい・・。

しかし、自分ではどうすることもできない様子で・・

一体には何があったのか・・・


そして、出来れば今は近寄りたくも、話したくもないという、そんな勝手な理由で仕事はおろそかに出来ない。
というかさせてくれない。
会長や八木さんなどはは別にもう気にしていない物として仕事を頼んでくる・・・当たり前なのだが。

だからには・・またもや普段ならなんて事ないのだが、
今のには辛い仕事が課せられた。



「・・い、一歩・・君・・」

はまたもや数分間悩んだ挙句、一歩に声をかけた。

「ん?何?」

と、一歩はの方に振り向く。
しかし、その距離が意外と近くは、うっ・・と一歩下がってから一歩に話をする。

「あ・・あのね、八木さんがロードワーク終わったら来て・・だって。」

は一歩に伝える。

「あ・・ありがとう・・」

そんなの態度に、一歩も少し微妙な笑顔でお礼を言う。

「・・じゃあ・・」

そしては去って行った。

「・・・・・・。」

一歩が、ははは・・と複雑な笑みをしていると。



「まだ引きずってるみたいだな・・ちゃん・・。」

「そうだな〜。」

「・・・・・・・・・・。」


と、木村と青木、そして鷹村がやってきた。

「・・ジムだけじゃなかったんですよね・・」

と、一歩が言うと、あ?と木村と青木が聞き返した。
鷹村は腕組みをして黙り込んだままだが、眼で聞いている。

「学校でも・・すれ違う男子生徒とかにビクビクしてたっていうか・・避けてたっていうか・・」

その言葉を聞いて、

「何かあるよな・・」

「ああ・・確実にな。」

「どうしたんでしょうね・・」

と、木村、青木、一歩の三人はの後姿を見て話していた・・。

そして鷹村は一人、ずっと黙り込んだままだったが・・そんな三人の後ろで同じく、
の後姿を見つめて・・・


「・・・・・・」


誰も気づかなかったが、人の悪い笑みをしていた・・・・



そしてそんな時に限って、神様は味方してくれずにとって最悪・・・
とまでは言わないが、一番嫌な仕事が舞い込んで来た・・・それは・・・


「じゃ、わしはちょっと出かけてくるから、留守番頼む・・」

「あ、はい。わかりました。」


会長が出掛けるとの事で、八木もいない間の少しの留守を任された
どうやら会長はもう平気らしく、いつも通りに接しられている。
そしてにこやかな笑顔で見送るが・・・

「あ、そうじゃ。鷹村に何時も通りの練習だと伝えて置いてくれ。サボるなともな。
あとすまんが、手伝いがいるメニューじゃろうから、鷹村の手伝いをしてやってくれ。」

「え!?」

会長の最後の一言には思いっきり叫んでしまった。

「ん?なんじゃ?どうした。」

そんなに会長は驚いた顔をしながらそう言った。

「あ・・いや・・」

まさか嫌ですとは言えない・・・。

「な、何でもないです・・わかりました。」

は、あは、は・・と、苦しい笑顔で会長のお言葉に了解の返事をした。



「・・・・・・・」


そしては会長を見送り重い溜息を吐いた。

出来れば今日は、関わりあいたくなかった・・・
他の人は緊張はするがなんとかなるが、流石に・・この間の張本人の鷹村には・・

まだ、合わせる顔が無い。


でも・・・仕方が無い。



まだロードから帰ってきていないのが救い・・出来れば今日はこのまま帰って来ないでくれ・・。

はそんな馬鹿げてるとは分かってはいるが、
願わなくてはいられないお願いを誰にとも無くしていた。



しかし、そんな願いは叶わない願いで・・・それからほどなくして、
鷹村はロードから帰って来た。


(・・・い、行かなきゃ・・・)

ロードが終わり、あれよあれよと次の練習を始めようとしている鷹村を、
遠くから見つめては思う。

そして、足を踏み出した。




「た・・・鷹村さん・・・」


「ああ?」


と、鷹村はに声をかけられの方を向く。


「・・・・・・・」


「あのですね・・・」


今日はじめて言葉を交わす鷹村は、直に話してはじめて気付く。
話す時のとのこの微妙な距離感。
そしてのぎこちない笑顔・・。

「・・・・・」

鷹村はそんなの態度に少し苛々してきた・・
なので鷹村は話を続けているに一歩近づいた。

「で、あたし手伝えって言われたんで・・・」

するとは話しながら一歩後ろに下がった。

「・・・・・・・」

鷹村の顔がムッとする。
だからまた近づいた。
するとはまた下がる。
また近づき。
また下がり・・・

こんな態度をとって、鷹村が切れないわけが無い・・・



「こらぁ!てめぇ!何、俺様から逃げてやがる!!!!」



と、鷹村はガバッとを抱え込んだ。
逃げれない様にする為である。

「うわぁあ!!!」

そしては反射的にビクッ!と、まさにボクシングの構えをし、
そしてそのまま見事に鷹村の腕の中に収まった。

「な、何ですか!?離してください!!!」

は、ひぃーー!!!とジタバタ動き、
前に持って来ていた腕で鷹村の胸を押すが・・・
の力で敵うはずがなく・・腕がほどける事もなかった。


「俺様を避けるとは良い度胸じゃねぇか!
たかが、ち○こ見た位で三日も四日もビクビク逃げやがって、あ〜ん?
これは昔、何かあったとしか思えねぇなぁ〜ん〜?」


鷹村は愉しそうなむかつく表情で微笑んでいた。


(結局それが聞きたいだけじゃねぇか・・)

(面白がってる・・この人、絶対面白がってる・・・)

(ああああさんーー!!)


練習していた木村や青木、一歩は、鷹村のその行動で練習を中断し、
そんな二人を見つめ、心の中でつぶやく。


「っ・・て、鷹村さん・・!真面目に苦しい・・痛いっ・・です・・!」


はどんどんと鷹村の胸を叩く。
本当に真面目に苦しかったのだ。

「あ?おお、わりぃわりぃ・・」

鷹村はにそう言われ、少し力を弱くした。

「っ・・・うはぁ・・はぁ・・」

は力を緩められ、逃げ出すことは出来ないが、
体を回転することは出来たので、やっとこさっとこ180度回転し、一息ついた。

「・・・・・ん?」

しかしの瞳には、忘れていた周りの世界が飛び込んでくる。


「「「「・・・・・・・・・・・・。」」」」


他の練習していた木村、青木、一歩、宮田を含む、ジムで練習していたボクサー達が、
練習を一時中断し、二人をじーっと見ていた。


(ひぃいぃいい!!!!!)


はやっと今の状況を把握し、みるみる恥ずかしさに顔を赤くする。


「た!鷹村さん!!何なんですか!?離してください!!!」


は必死で、鷹村のがっちり繋がれた両腕により作られた輪から、
なんとか出ようとするが鷹村の繋がれた手が、
の力などで外れるはずもなく・・。

は、やんちゃな子供に捕まえられ、
じたばたともがく可哀想な子犬状態であった・・・


(・・・・・・・・。)

そして、鷹村はじたばたともがくが、大して抵抗になっていない、
それでも必死になっているを見て、なんか愉しいな・・。と思うのだが、
まぁそんな事より今はもっと楽しい『訳アリな昔話』を聞こうと鷹村は・・・


「で?昔、何があったんだい?」


と、にんまりと笑って言った。


「・・・・・・・・・・」


その言葉でピタッとの抵抗が止まる。

「・・・な、何もないです・・」

そしては下を向き、口を引き攣らせながらそう言った。

「・・・・・・・」

すると鷹村は・・・


「そうか・・じゃあ、このまま俺の家にでも担いで持って行くか・・・」


を小脇に抱えようとする。

「わー!!!!」

は慌てて暴れ、叫ぶ。
そこで、はっ!と眼に入った人物。

「み、宮田君助けてー!」

傍観していた宮田に助けを求めるが・・・

「・・・・・・・」

宮田はを見つめ・・・フイっと明後日の方向を向いた。

「!!!!」

は、ええ!?と予想外の宮田の行動に焦るが、
実は宮田もさっきの事を、少し根に持っていたり・・している。

それに何気に昔の話も知りたかったりする・・・。

「一歩君!」

と、次には一歩に助けを求めるが・・・。

「・・・・・」

一歩は『ごめんなさい、鷹村さんには逆らえません。』という言葉を、
引き攣った笑顔でに語っていた。

そしてそれはジムの全員がそうだった・・・。


このジムで鷹村に逆らえるのは、勝てるのは・・会長位だ・・・。

「ん〜?どうする〜?」

と、鷹村はむかつく笑顔でそう言った。


「・・・・言いますよ・・言えば良いんでしょう!」


は逆切れする。

「だから、とりあえず離して下さい!」

鷹村が手を解いたら、速攻で逃げよう・・・と、思っていただが。


「いやだ。」


という鷹村の一言に、その微かな希望は掻き消えた。

鷹村が逃げることを予想していたのか、それとも野生の勘か、
それともただ単にこの方が楽しいからか・・・
どれかは、鷹村以外にはわからない・・。

でも、その場にいた大半が一番最後だと思っていた・・・。

「・・・・・」

そして・・・は、眉間に皺を寄せ考え込み・・・

「はぁ・・・」

という重いため息をつき、観念した。


「・・・む、昔・・」

そして嫌そうな、恥ずかしそうな表情をしては、ぼそぼそと話し始めた・・・


「昔・・学校からの帰りが遅くなって・・もう暗くなった・・道を歩いてたら・・
前から男の人が一人歩いて来て・・別に普通のなんでもない人だったんですけど・・」


と、ぼそぼそとは下を向いて話す。
気のせいか徐々に顔が赤くなっていく。

「・・・道の端と端を歩いてたんですけど・・すれ違いそうになった時・・
ちらっと私、その人の方見たんですよ・・・そしたら・・・・」

の顔が赤く染まり、泣きそうな顔になった・・



「・・・チャックだけ・・開いてて・・なんか・・出してたん・・です・・っ」



そして消え入りそうな声でそう言った。

言い終わると、うぅ〜と唸りながら、自分の胸の前でがっちりと組まれている
鷹村の腕に手をのせ、顔を伏せた。


なんでこんな事をこんな大勢の、しかも男の前で言わなきゃならん!!!


は恥ずかしくて涙が出そうだった。
というかもう溢れていて、零れ落ちる寸前だ。

そして、穴でもあったら入りたい。という心境のの話を聞いて・・


「そういうことか。」


と、木村と一歩や青木、その他のボクサー達は、心境は微妙だがの為に、
ははは。と作った空笑いをする。
そして話を聞き終わった宮田は、何事もなかったかの様に、そろそろ練習に戻ろうとしていた。
しかしそんな中、鷹村が・・・


「なんだよ、露出狂にあっただけかよ、出してただけじゃねぇか。」


とあっさり、つまんねーの。と言う。
しかしその言葉はの癇に触った。

「出してるだけ!?違いますよ!たっ・・」



あ。



はギリギリに言葉を止める。
思わず勢いで言い返してしまった・・
も周りのボクサー達も黙り込み、一瞬ジムが静まり返る。

もちろん、みんな続きの言葉は分かっている。


「っ〜〜〜〜〜」


そしてそろそろ、良い様にされていたもぶち切れた。


「大体なんでこんな事、こんな大勢の前で言わなきゃいけないんですかー!!!!」


きぃー!と叫びながらは鷹村の腕をどかどか殴りつけた。

「大体わかります!?高校入ったばっかの時にあんなもん見せられて!
道は暗いし!あたしとあいつだけしかいないし!怖いし!キモイし!早足で逃げてっ・・」

は次々に溢れて来る涙を、ぼたぼたと零しながら怒り、叫んだ。

「あの・・あの男の通り過ぎる時に浮かべた薄ら笑い!!!!
あ〜!もう!!思い出すだけで鳥肌が立つ!!!!!
しかもそれから半月くらい周りの人がなんか知らないけど、怖くって仕方なくて!
別に関係ないってのは分かってるんだけど怖いもんは怖くて・・・
最近すっかり忘れてたのに・・また思い出しちゃって・・・っ」

は叫びながら、鷹村の腕に泣き崩れ、顔を伏せた。

「・・・・・・・」

そして全員がの怒りの叫びにたじろいでいた・・・。

鷹村でさえも、少し呆然とした後、やりすぎたか・・と少し悪く思っていた。


男にとっちゃ、あまり大した事ではなくてもやはり女・・・
しかも女の子にとっちゃ相当なショックだったのだろう・・

と、全員は何だか聞き出してしまった事と、同じ男がそんな事をした事に、
関係はないのだが・・何故か申し訳ない気持ちになり、そう思っていた。

おまけに気まずい沈黙が流れ、誰もが誰か早くなんか言え!というオーラを発していた・・・

すると・・・


ポンポン。


と、鷹村がの頭に手を置いた。
軽く優しく頭を撫でた。


「・・・・・・・・」


はピクッと動き、またそのまま動かなくなる。


「あ〜・・・まぁ・・あれだ。」


鷹村はポンポンポンと、何回も、
そのままの頭を叩きながら必死に言葉を考えた。


「わるかったよ・・・」


鷹村のそんな言葉に周りがどよめく。

(た、鷹村さんが謝った!!)

(あの鷹村さんが!!)

そして鷹村は続ける・・


「まぁ・・次、そんなやつが現れたらよ・・見つけ出してボコボコにしてやっから、安心しろや。」


なんだか的外れだったが、鷹村にとっては必死の慰めの言葉だった。

「そ、そうだよ!最近はいつも一緒に帰ってるし、今現れたら僕が助けるから!」

と、一歩。

「ていうか、そんなやついるんだな〜・・・」

「わけわかんねぇ。」

木村と青木も言葉を続ける。


「・・・そんな変態、極僅かだ・・安心しろ・・」


そして宮田もボソッとそう言う。そして練習へ戻ろうとしていた。


「・・・うっ・・」


は皆のそんな言葉を聞いて、余計涙があふれてきた。

あんなやつと皆を・・一緒にしてしまった自分が許せなかった・・・


「うぅ〜〜・・」


そして鷹村の腕にしがみついて、また涙を零した。


「・・・ま、あんまり気にすんなや。」


と、鷹村はそんな言葉と共にの頭をそのまま撫で続けた。

「・・・っ・・ひっく・・」

するとは顔を上げ、鷹村の顔を見上げる。


(・・・う・・)


鷹村はそんなの表情にたじろいだ。

瞳にいっぱい涙を溜め、涙目での上目使い。
そして眉をひそめ、なんともいえないたまらない表情・・
おまけに泣いたせいで、頬がうっすらと赤く高揚している。


その時、鷹村はを女として見てしまった・・・

気づいてしまったらどんどん見つかる、女らしさ・・・


そういえば抱きついているから胸があたっている。
結構胸はあるようだ。

肩幅は狭いし、丸し、柔らかいし、折れそうだし・・こいつも女なんだな・・・

そして上から見える、首筋から鎖骨までの滑らかなライン・・柔らかそうな肌・・・・


(う・・・やべぇ・・・)




鷹村がそんなことを思ってるとはつゆ知らずはまた下を向き、涙を手で拭った。
しかしその時、わき腹辺りに何かがあたっている事に気づく・・・

「・・・ん?」

そしては下を見る・・・・


その時には、野次馬をしていたボクサー達は、それぞれ皆、練習に戻ろうとしていた。
が、



「いやああぁぁ!!!」



の叫び声が響きが全力疾走で、泣きながらジムから外へ出て行った・・・。

「・・・ど、どしたんだ?」

皆、驚きながらが出て行ったジムのドアを見つめる。

そしてそのまま先ほどまでがいた場所・・・鷹村を見る。

「・・・はは・・」

鷹村は苦笑いを浮かべていた。
皆は疑問に思いながら鷹村を上から下まで見る・・・



『・・・・・・・・』



皆の目が、ある一点で止まった。


「っ・・鷹村さん!!!!あんたって人はぁ!!!!」


「今、あんな話したばっかじゃないっすかぁ!!!!」


突っ込む木村に青木。

さーーん!!!」

そして急いで後を追っかける一歩。

「・・・・はぁ」

そして重いため息を吐きながら、うんざりした表情で、額を押さえる宮田の姿がそこにあった・・・


「いやーわりぃわりぃ、ついよぉ。」


そして、はっはっはっと、鷹村は笑っている・・・


一瞬、良い事を言ったりしたが・・・

鷹村はやはり鷹村であった。







その後・・約一週間は鷹村含む男全員を避けていたという。


そして・・・約一ヶ月近くは鷹村を避け続けていたという・・・







終。


03/05/06...