スーパースターの背負うもの。
06












第8ラウンド、ゴングが鳴った。


どうなるかと思われた8ラウンドは、ホークの猛ラッシュから始まった。
しかし、鷹村はカウンターを合わせる。
強烈な一打。

リングの中央で強烈な打ち合いが繰り広げられる。


「鷹村さんーーー!!」

「いけーー!!!」

「あと少しだーーー!!!」


応援にも力が入った。
も大声で手を振り応援する。

あと少しという打ち合いの中で、スッと、ホークが上体をそらした。


「あ。」


皆がぞっとする。

「下からくる!もらっちゃう!?」

「狙われた!」

「もらったら・・・!」



「鷹村さん!!!」


は声を上げた。

しかし、下から突き上げられたパンチは、鷹村の頬をかすり・・・
いや、鷹村が冷静に顔を背け、パンチを避け、
ホークの顔面にパンチを振り下ろしたのだった・・・・。

ドン!という低い鈍い音と共に、マットに沈むホーク・・・。



『倒した〜〜〜!!!死闘にピリオドが打たれるのかぁ〜〜〜!!!』



期待に満ちたアナウンスに歓声に沸く場内。


「やっただニー!」

「決まったー!!」

「間違いねぇ!!!」

「世界チャンピオンだーーー!!!」


そして鴨川メンバーたちも勝ちを確信していた。

「や、やった!やった!!!」

も固く握り締めていた両手を拳に変え、
ぎゅっと握り、期待を抱く。

しかし、場内が静まる。
ホークが立ち上がったのだ。

「し、しぶてぇ・・・」

「往生際が悪いぜ・・・」

青木と木村がつぶやく。

鷹村はフラフラと立つホークにワンツーを決める。
しかしレフェリーが割って入った。
立ったまま、カウントがはじまる。

『1!』

『2!』

カウントは観衆にまで行き渡り、大合唱の10カウントが始まった。

『6!』


「青木!」


カウントがシックスまで行った所で、青木が飛び出した。

「板垣くん!さんも!」

「え!?は、はい!」

一歩も飛び出していきも慌ててそれについていく。
何をするのかわからない。
でも、大合唱の10カウントの中、鷹村の勝利が刻一刻と決まる中で、
走って鷹村の元へ駆けていく・・・・この嬉しさは・・・最高だった。


『7!』

『8!』

『9!』



『10!!!』




『新!世界チャンピオン誕生ぉーーー!!!その名はーー!鷹村守だぁーーーー!!!!』







「・・・・・・・・」


アナウンサーの声、会場の大喝采・・・・。

両国国技館が揺れるように声が響いた。





「・・・・・・」


一歩たちと走ってきたはいいが、皆がリングを上りはじめたので、
それはさすがにできないとはコーナーに寄りかかっている
鷹村の背後に立ち止まって、鷹村を見上げていた。

ぜえぜえと肩で息をしている鷹村は、10カウントを聞くと、
ズルズルと沈み、マットに尻もちをついた。

その後は上からダイブしてきた一歩たちにもみくちゃにされ、
いつものように怒りながら、「じじいはどこだー!」と、叫んでいる。

「・・・・・・・」

リングの下から見上げると、リングの上はライトのせいもありとても眩しい・・・。
リングの上でぎゃあぎゃあやっているのをぼうっと見ながら、

(鷹村さん・・・勝ったんだ・・・・。)

はぽつりと思った。

(そっか・・・勝ったんだ・・・・)

そう思いながらリングの上を見続けていると・・・

「あ?んなとこで何ぼけっとしてんだよ。ほら、上がれ。」

「!」

鷹村がに気づき、ロープを開き、隙間を作った。

「え!?」

は驚き焦る。

「い、いや、いいですよ!私なんかが上がっちゃダメですから!!」

そう、自分のようなただの女がボクシングのリング・・・
それも世界戦が行われたリングに上がってなどいけない・・・そう思ったのだ。

「何ぐだぐだ言ってんだよ!おら!あ・・・」

そんなを引っ張って無理やりあげようとしたが、
手はグローブをつけたままだ。

「・・・・・」

は目の前にあるグローブを見た・・・・。

そこには、汗と血が・・・ついていた・・・・。

「・・・・・・」

の眼にじんわりと涙がにじむ・・・。
鷹村の顔を見上げた。

「ッチ・・・ほら、はやくしろ!」

その顔は腫れて、血だらけで、髪はぐしゃぐしゃで・・・・
お世辞にも綺麗とは言えないが・・・・汗や血にまみれていても、
いや、まみれているからこそ、最高にかっこよかった。

「・・・はい!」

は素直に鷹村の言葉に従うことにした。

この人のいた世界を見たい。
この人が闘っていた場所に、立つだけでいいから立ちたい。

こんなチャンス、一生に一度。
今しかないのだ。



「わぁ・・・」

がリングによじのぼると・・・そこは、思ったよりも狭い空間だった。

「・・・・・・」

反対側ではホークが倒れていて、セコンドたちが応急手当をしているようだ。
床には血と汗、それが混じった物がたくさんこぼれている・・・。
そして天井からそそぐ眩しいライト。

そして・・・・。

四方八方にいるたくさんの人と、降り注ぐ歓声と拍手・・・・。


(鷹村さんは・・・こんな中で闘ってたんだ・・・・。)


物凄い緊張とプレッシャーだったろうな・・・と、今更になって思う。
こんな大観衆に囲まれて・・・・。
既には自分は見られてないのは承知だが、緊張して萎縮してしまっている。

(本当に・・・凄い人だなぁ・・・・。)

は思いながら、誰がベルトをつけると揉めている鷹村含め、
いつものメンバーを見た。


そしていよいよ、鷹村の腰に、ベルトが巻かれた・・・・。


「どうよ、似合うだろ?」


鷹村はベルトをポンと叩き、皆に言う。


「うおっしゃあああ!!」


すると、青木が鷹村を肩車した。

「わっ!」

が驚いていると、鷹村も両手を上げ、そのまま鷹村コールに沸く観衆に答える。



そして、勝利者インタビューがはじまった。

観衆の声はおさまらない。

『よくやってくれた!!』
『お前は日本の誇りだ〜〜〜!』
『憧れちゃうぜーー!』
『超カッコいいーー!!』

などの言葉が次々に飛んでくる。

「新チャンピオン!どうですか?ベルトを巻いた感想は。」

インタビュアーが鷹村にマイクを向けた。

「い、いや・・俺的には当たり前の事なのだが・・・
皆さんがこんなに喜んでくれるとは・・・少々戸惑っている・・・
本当に・・・なんと言っていいか・・・・・」


鷹村らしからぬ、神妙な面持ちと言葉に、観衆は静かになった。

『胸を張ってくれよチャンピオン!』
『そうだよ!英雄が下向いちゃさまにならねぇよ!』

「え、英雄?」

その言葉に、鷹村がぴくりと反応する。

『俺たち感動してんだよ!』
『超かっこよかったよ!』

「ちょう・・・かっこいい?」


『日本の誇りだ〜〜〜!!!』


わああああ!!!と、沸く観衆。
しかし、試合を終えた鷹村は・・・・・そう、いつもの鷹村だ。



「そうかぁ!みんな、俺様みたくなりてぇんだな!?」


元気を取り戻した鷹村に観衆が沸く。

「気持ちはわかった!よーし!日本中を俺様で埋め尽くしてやる!!!」



(あ・・・・)

は嫌な予感がした。




「女共よ!俺様の許へ来い!!俺様の精子をくれてやる!!!
20年後、日本中俺様だらけだぜ!!!」






『・・・・・・・』


観衆は静まり返った。


「し、知〜〜らね。」

「あ、他人ですから、他人。ほらさんも行こう・・・。」

「うん・・・・」

静かにすごすごとリングを下り、去る、一歩や青木たち・・・・。
そして、一瞬の静寂を置いて・・・・・



『バカ野郎!!!それじゃ、ホークと同じじゃねぇか!!!!』


『日本の恥だ〜〜〜!!!!』


『すぐにベルト返上しろ〜〜〜〜!!!!』



リングの上には罵声が降り注いだ・・・。



『お客様に申し上げます!リングに物を投げないでください!!
物を投げないでください〜〜〜!!!』




そんな場内アナウンスを聞きながらはため息をひとつつくと振り返り、
リングの上で罵声とブーイングとゴミを浴びている鷹村を見た。


(まったく・・・この人は本当に・・・・・・)


そして、呆れた表情で見る。
だが、ふっと表情を和らげるとじっと鷹村を見つめる。

腫れた顔、身体。
血まみれな顔。
ぐしゃぐしゃな髪・・・。

リングの上でブーイングに疑問の顔をしている鷹村・・・。

それが、さっきまで、死闘を繰り広げ、
試合前までのキツい減量やトレーニングに耐え、勝利を手にした鷹村なのだ。



「・・・おめでとうございます・・・鷹村さん・・・・。」



は小さくそう言うと、帰ってくるだろう控え室へと急いだのだった。














続。



2017/11/09...