スーパースターの背負うもの。
05
それは見慣れた、シャワー上がりの前髪の下りた鷹村。
しかし今は、右目は腫れあがり、顔面は鮮血で染まっている・・・・。
ふらふらで・・・ホークのいいサンドバッグ状態だ・・・。
しかし、鷹村はロープに寄りかかり、なんとか倒れずにいる。
「「「・・・・・・・・」」」
会場もも、鴨川メンバーも黙りこくっていると・・・
「あんたら何やってんだ!」
聴き慣れた、怒りの混じった声が近くで発せられた。
「!」
顔を上げると、そこにいたのは、宮田・・・。
「こんな時・・・黙りこくってどうするんだ・・・」
「み、宮田くん・・・・」
「情けねぇ身内だぜ・・・」
涙をこぼす皆に、言い放つ宮田・・・。
宮田もいてもたってもいられなくなったのだろう・・・。
しかし、大声を出して応援するのはガラじゃない・・・。
「っ〜〜〜!」
青木が立ち上がった。
「うるせぇ!俺たちゃ反撃待ってんだ!
負けるなんざカケラも思っちゃいねぇぞ!!
鷹村さん!何やってんだ!!いつもみてぇに豪快にいけってんだよっ!!!」
涙を流しながら、青木は大声で叫んだ。
「そうだ!心配かけんじゃねぇよ!!」
「鷹村さんファイト〜〜〜!!!」
みながいっせいに声を出し、応援し始める。
「・・っ・・・鷹村さん!!頑張ってーーー!!!!」
も立ち上がり、声を張り上げた。
負けないで!
負けないで!!
戦って!
勝ってください!!!
その言葉に答えるかのように、鷹村の綺麗なワンツーが決まった。
そのパンチは効き、ホークは腰を落とした。
「やった!」
沸き返る会場。
も顔を明るくした。
そこでゴングがなった。
第6ラウンド終了・・・・。
「あ・・・」
鷹村はよろよろと、ホークのコーナーへ行く。
ホークに払いのけられ、自分のコーナーへと戻った。
「・・・・・・」
その様子にはまたもや、ぎゅっと手のひらを握り締める。
落ちた前髪、腫れた右目。顔全体がもう腫れている・・・。
そして血で赤く染まって・・・。
(あんな鷹村さんみたことないや・・・・)
はしんみりと、コーナーでつらそうに息をしている鷹村をみながら、
にじむ涙をこらえ、じっと鷹村をみつめていた。
(きっと鷹村さんもこんなにやられたの初めてだろうな・・・・)
はさきほどの控え室でのことを思い出す。
(最初から・・・5ラウンドまでしか闘えないってわかってたんだ・・・。
それに加えて相手の強さも・・・・なんか・・・無責任なこと言っちゃったな・・・。)
自分の不安を払うために、鷹村に言った言葉をは今になって反省する・・・。
(でも・・・!)
まだわからない・・・・鷹村は本当に強いのだ。
さっきのワンツーだって綺麗に決まり、ホークにも効いた。
まだ可能性はある。
(鷹村さん・・・頑張って・・・・!)
は祈りながら、じっとコーナーの鷹村を見つめた・・・。
そして第7ラウンドのゴングが鳴る・・・・。
「鷹村さんがんばれーーー!!」
「鷹村さんーーー!!」
必死の鷹村に巻き返しを期待し、観衆も声を上げる。
しかし、イラついているようなホークに、殴られ続ける鷹村。
そして、何回殴られた時だろうか・・・・・
「!」
鷹村の右が入り、そこから怒涛のラッシュ。
まるで先ほどまでの疲労などが嘘のように、鷹村は反撃をしだした。
「な、なんだ!?さっきのホークのパンチで意識飛んだように見えたけど・・・
なんだよ、わけわかんねぇよ!」
青木もわなわなとしている。
「・・・意識飛んでタガが外れたんじゃねぇか・・・?そ、それでぶっちぎれて・・・」
驚きつつも冷静に状況を判断する木村。
「キレるって・・・・ど、どうなるんですかこの先!?」
歓声に沸く国技館の中で、鴨川メンバーだけが、少しばかりの恐怖を感じていた。
「わかんねぇよ!俺たちだって見たことねぇんだ!」
「本当にキレた・・・あの人の姿は・・・・」
(本当にキレた・・・・鷹村さん・・・・)
もゴクリと唾を飲む。
それからの鷹村はいつも以上に洗練されたボクシングをした。
キレているはずなのに・・・意識があるのかないのかはわからないが・・・、
いつもよりも冷静で、華麗で、急所を的確に狙ったパンチの数々・・・。
そしてついに・・・ホークのダウンを奪った。
「きいてるぞこれ〜〜〜!!!」
「立つなーー!!」
「立たないでーーー!!!」
観衆も、鴨川メンバーも沸き立つ。
(えっ・・えっ!鷹村さん!?勝てる!!??)
あまりの展開の早さにはついていけず呆然としてしまうが、
だが、ホークがマットに沈んでいることは確かだ。
しかもかなりきいているようだ。
「立たないでーーー!!!」
も思わず立ち上がり声を出した。
両手を胸元で握り、お願い!立たないで!勝って!と叫ぶ。
しかし、ホークはじりじりと起き上がろうとしている。
「ああ!立たないで!」
「寝てろよこのやろう!!」
みなの悲痛な叫びが聞こえる。
しかし、ドカンと!鷹村がコーナーを殴った。
「鷹村さん!」
「正気に戻ってる。」
一歩と板垣がつぶやいた。
その言葉にはほっとする。
すると鷹村は腕をぐるぐると回す。
最大の見せ場で最高のパフォーマンスだ。
そしてホークも立ち上がり、なんとかファイティングポーズを取った。
盛り上がる場内。
そして鷹村が飛びかかろうとした時、ゴングが鳴った。
第7ラウンドが終わる・・・・。
額を付き合わせる鷹村とホーク。
まさに息を飲む展開だった・・・・。
第8ラウンドがいよいよはじまる・・・・。
なんとなくにもここが大事な所だということがわかった。
「あ・・・」
会長が、鷹村の前髪を持ち上げるのが見える。
「ふふ・・・・」
鷹村のトレードマークが戻ってきた。
(さぁ・・・ここからだ・・・・)
ぎゅっと両手を握り、祈るように、鷹村を見つめる。
沸き立ち、盛り上がる観衆。
そして、第8ラウンドのゴングが鳴った。
続。
2017/11/08...