スーパースターの背負うもの。
01
鷹村さんの世界戦が決まった。
しかし、おめでたいはずのそれは、最初から無茶な試合間隔の仕組まれた試合で・・・・。
そして、鷹村さんの体格にはキツい減量・・・・。
数々の相手の挑発・・・・・・。
おめでたいはずの世界戦は、たくさんの苦労の末、やっと当日を迎えることが出来た。
(ここが・・・・決戦の舞台か・・・・。)
初めてスタッフとして来る両国国技館や、
なによりいよいよ世界戦当日という緊張感の中、
は会長や八木と一緒に両国国技館へと荷物を持ち、やってきた。
「、わしたちは用があるから先に荷物を運んでおいてくれ。」
「あ、はい。わかりました。」
は会長にそう言われ、少し重たい荷物を両手に持ち、
スタッフトレーナーを着て、国技館の中へと進む。
(確かここが控え室・・・だよね。)
そう思いながら、肩で扉を開けると、中には広い空間が広がっていた。
「・・・後楽園ホールとは違うなぁ・・・」
広い・・・と、思いながら、荷物を置く場所を決めかねていると・・・・
「え・・・・」
はピタリと足を止めた。
なぜなら、少し離れたところで、今日の主役、
鷹村守が仰向けで腕を頭の後ろで組み、足を組み、寝ていたからだ。
(ちょ・・・なんで鷹村さんこんなところで寝てるの・・・・)
は唖然とする。
いや・・・まぁ、控え室だからいてもおかしくないんだけど・・・。
え、でも早くない?
などと思いながら、起こさないように荷物をそっと置き、
しばし考えた末、荷物の中から大きめのバスタオルを出すと、
そろそろと近づいていき、そっと大きな身体にかけようとした。
が、
「わ!」
かけようとした所で、手首を掴まれた。
「・・・・・・」
パチリ。と、鷹村が片目を開く。
「あ・・・鷹村さん・・・すみません、起こしちゃいましたか?」
は驚きながらも、咄嗟にそう言う。
「あー・・・まぁ、うつらうつらしてたからな。」
鷹村はそう言うと、手を放し、よいせっと言い起き上がった。
「・・・・・」
なんだかは鷹村にどう接していいか分からず、戸惑ってしまう。
今日は鷹村の初の世界戦。
いよいよの世界デビュー。
念願の世界戦。
も昨夜は緊張してあまり眠れなかった。
鷹村さん勝てるかな?勝てるよね?
でも、相手わけわかんないスタイルで戦うし、一応強いし、
鷹村さん減量苦あるからな・・・・などと考えていた。
そして、朝を向かえ、鴨川ジムに出勤し、準備し、
ここに来たわけだが・・・・。
その、今日世界へ羽ばたく本人が目の前にいるのだ。
そりゃああの、理不尽大王の、いつもははちゃめちゃな鷹村だが、世界戦へ挑む鷹村だ。
最近はホークの挑発のせいで、新聞やテレビで鷹村のことを見ることも多い。
その本人が目の前にいる・・・・。
「・・・・・・・。」
なんだか、緊張してしまう。
「・・・あ?なに今更、俺様にみとれてんだよ。」
「・・・・・・別にみとれてません。」
だが、すぐにいつものペースに戻してくれた。
さすが鷹村とでも言おうか。
(はぁ・・・まったく、世界戦でも緊張しないのかなぁ・・・さすがというかなんというか・・・)
はそう思いながら、背を向け、バスタオルをたたみながらいつものように話しかける。
「随分、早いんですね。一歩くんたちまだ来てませんよ?」
がそう言うと・・・・
「・・・家にいてもそわそわしちまってよ、なんせ俺様が世界チャンピオンになる日だからな。
一番乗りしちまったぜ。」
鷹村はそう言う。
「・・・・・・」
はその言葉に少し引っ掛かりを感じる。
(そわそわ・・・か・・・・)
そう思いながらバスタオルをたたみ、カバンへしまっていると・・・・
「なぁ・・・・」
「はい?」
は振り向く。
「・・・・どっちが・・・勝つと思う?」
鷹村は少しうつむき加減に、床を見つめて言った。
「・・・・・・・・」
は目を見開いた。
しばし呆然とする。
あの鷹村が・・・まさか・・・そんなことを言うなんて・・・・・
思ってもみなかった・・・・。
いつも自信家で、自分は世界最強だと信じて疑わず、やりたい放題・・・。
でも、本当に強くて、試合はいつもKO勝ち。負け知らず。
おまけに本物の野生の熊まで倒してしまうのだ。
その鷹村が・・・・。
「前々からホークの野郎にゃ、腹が立ってた・・・・」
すると、鷹村は語りだした。
「そこへきてあの記者会見だ。」
「・・・・・・・・」
静かな部屋に、低い、静かな鷹村の声が響く。
「好き勝手演説こいて、俺の顎ハネ上げたのはまだいいが、じじいにまで手を上げやがった。
腹が立って気が狂いそうになったよ。」
「・・・・・」
はタオルを持ったまま、鷹村を見つめ、話を聞く。
「帰って、野郎のビデオ見たよ。研究のためじゃねぇ、殴り殺す相手の顔を焼きつけるためだ。」
ごくりとは唾を飲んだ。
「・・・ところが・・・かえって冷静になっちまった・・・・・」
鷹村はふっと息を吐いた。
「ありゃあ・・・強ぇや・・・ベルト持ってるわけがよおくわかった・・・・」
「・・・・・・・・・」
鷹村の・・・まさかの弱気な言葉に・・・は驚きを隠せないでいた・・・。
(あの・・・鷹村さんが・・・・うそでしょ・・・・)
不安になった。
よくないことが起こりそうな。
そんな気がする。
「・・・!」
はバスタオルを床に叩きつけると、つかつかと鷹村の元に歩いて行った。
「おわっ!」
そして、ぐいっとうつむいている鷹村の顔を両手で掴み、上を向かせる。
「!」
二人の顔の距離はわずか数センチだった。
「鷹村さんは強いです!!!」
そしては鷹村の眼をじっと見つめ、そう叫んだ。
「だから絶対に負けません!!!!」
怒りにも似た表情では鷹村に喝を入れるかのようにもう一度叫んだ。
「・・・・・・」
そんなに、鷹村はしばし呆然としてしまう。
「っく・・・・くっくっく!」
しかし次の瞬間には鷹村は笑い出しの手をするりと外すと、
「わっ!」
の腹部にぽんと額を乗せ、腰に手を回した。
「た・・・鷹・・・村さん・・・・。」
は突然の出来事に顔を真っ赤にする。
「あーあー、そうだな・・・俺様は強ぇ・・・そうだそうだ・・・負けねぇわ・・・・。」
鷹村はそう言うと、回した手に、ぎゅっと力を込める。
「っ・・・・」
どうしたらいいものかわからずは両手を上げていたが、
「・・・・・・・」
じっと腹部に抱きつく鷹村を見て、ふっとほほえみ、
そっとその大きな背に手をのせた・・・・。
大丈夫、鷹村さんは強いです。
鷹村さんはきっと勝ちます。
はそう思いながら、鷹村の広い背中を見つめたのだった・・・・。
続。
2017/11/01...