先生。01













「おう。これ片付けてくれ。」



「はい・・・」




鷹村がに使っていた縄跳びを渡す。
そしては覇気の無い声で返事をした・・・


「・・・・何だ何だおめぇ、最近元気ねぇぞ。」


と、鷹村はの頭を撫で回す。


「そうですか・・・?」


いつもなら「やめてくださいよー!」と、ぐちゃぐちゃにされた
髪の毛を押さえて逃げる・・だが、
今は黙って頭をぐるんぐるん撫でくり回されていた。

「そうだよなー、ここ二、三日ちゃん元気ねぇよ。どしたんだ?」

と、木村が話に混じってきた。

「なんだー?悩み事なら俺達が聞いてやるぜ!」

続いて青木。

「・・・・・・・」

そんな皆の言葉には泣きそうな顔になり・・・



「誰か・・・誰か、数学得意な人いませんか?」



と、つぶやく様に言った。


『は?』


と一同。


「もうすぐ・・もうすぐ期末テストなんです!!!だけど数学が分からないー!」


は頭を抱え、叫びながら語り始めた。

「毎晩毎晩、数学と格闘するんですけど何言ってるのかわからなくて!
毎晩毎晩、毎日毎日もうすぐテストだテストだ、数学が・・・って、
数式が頭の中を回ってるんです!!!もう嫌だ〜〜〜!!!!」


「・・・そんなことかよ。」

しかしそんなの言葉に、けっと鷹村は言い放った。

「そんな事じゃないですよ!あたしの数学の出来ない度は凄まじいんですよ!?
だから誰か!出来る人!教えてください!!」

は三人に泣きついた。
しかし・・・


「数学かー、懐かしい言葉だな・・・」

「数学・・・算数・・・?」

「ああ・・あの数学の先公、嫌いだったなー・・・」


三人は懐かしい思い出を語るかの様な瞳で、遥か彼方を見つめ、そう言った。
ここはボクシングジム。
学校なんて。と、青春時代をすごした者達がほとんどである。

「・・・・・・・・」

は「話したあたしが馬鹿だった・・・」と俯く。
良く考えればすぐ分かることじゃない・・思っていると。

「てーことで。俺達に勉強の事は無理なんで、
同じ学校なんだからよ、一歩に教えてもらえばいいじゃねぇか。」

そう、同じ学校の同じクラスの人がいるのだから、何故一歩に聞かない。と、皆思うが・・・



「・・・・・一歩君・・・あたしと同じくらい、数学やばいんです・・・・」



今度はがどこか遠くを見る様に、宙を見て言った。

ジムに通いだしてから、結構仲の良い一歩になど、
同じクラスなのだからとうに聞いている・・しかし、帰ってきた返事は・・・

ごめんなさい・・・

という申し訳なさそうな表情と共に一言・・一歩もと同じ位の成績だったのだ。



「そ、そうか・・そりゃついてねぇなぁ・・・。」


木村が苦笑いしながらそう言う。

「へー、一歩、頭悪いのか。」

意外だなぁ・・あんだけ練習の鬼なのに・・ボクシングだけか?と青木も言う。


「いや・・・一生懸命・・やってる・・みたいなんですけど・・・」



(一生懸命やっても出来ない、一番報われないタイプか・・・)



の言葉に皆が思う。


「数学出来そうなやつね〜・・・・八木さんとか・・?」


と、木村がつぶやいた時、木村の瞳にある人物がとまった。


「・・・宮田・・って、同い年だよな・・?」


その瞬間「あ。」という顔をする

そしてその直後。


「宮田くーーーん!!!!」


は一目散に、宮田の元に駆けて行った。



「・・・何だ・・?」


自分の名前を叫びながら勢いよく走ってきたに、
シャドーをしていた宮田は、怪訝な顔で少し後退りしながらそう言った。


「宮田君って、どこの高校!?」


「・・・・・○×校・・・」



「・・・・・・・・」


その瞬間の顔が輝いた。

「ここいらじゃ有名な進学校じゃない!!宮田君、凄い!頭良いんだ!!!!」

そう、宮田の口にした高校は、ここいらじゃ有名な頭の良い高校だった。

「・・・別に・・合格圏だったから、近場だし、そこにしただけだ・・・」

うわ、ムカつく台詞。とは思いながらも、
今はそんな事を言っている場合ではないので、心の中に閉まっておいた。

「じゃあ、宮田君数学できるよね!!!」

「・・・普通に・・」


いた!ここに神がいた!!!宮田大明神!!!!!


と、訳の分からない台詞を心の中で叫びながらはパン!と手を合わせて宮田に頭を下げた。



「お願い!!あたしに数学を教えて!!!」



「・・・・・・」



そんなに宮田は・・・


「・・・・悪いが、俺は人に物を教える柄じゃないんでね・・・」


と、怪訝な顔をして断った。
しかし、そんな宮田の言葉には怯まなかった。

「そこを何とか!人助けだと思って!ね!お願い!!!本当にやばいの!!!!今度の期末!!!」

やっと見つけた数学の出来る、進学校生。
こいつを逃すものか!!!!とは食い下がる。

絶対逃がさない!!!!

と、心の中で叫んでいた。


「ね!お願い!!!分かんないとこだけちゃんとメモって来て、聞くだけだから!時間は取らせません!!」


は両手を口の前で合わせ。
上目遣いで眉をひそめ必死に懇願した・・・


「・・・・・・・」


宮田は実は最近が少し気になっていた・・。
それが何を意味するのか、少し気付いていて・・でも見て見ぬ振りをしていて・・・
だからなるべく、近づかないようにしていた・・・・・だがしかし。

そんなのお願いポーズに、宮田は少しうっと怯み・・・


「・・・下手したら・・あたしジムのバイト止めて、塾通いさせられちゃうんだ・・・」


そんな悲しそうに言った台詞が決め手だった。

「分かった・・・」

次の瞬間、宮田は返事をしていた。

「本当!!?宮田君!ありがとう〜〜!!!!」

宮田の了解の返事には手を上げて嬉しそうに微笑んだ。


「・・・・・・」


宮田は喜ぶを見つめていて・・・はっと我に返った。


(・・・引き受けちまった・・・・)


宮田はつい、反射的に返事をしてしまい、ふと我に帰り後悔していた・・。

喜んでいるから視線をそらしながら、
仕方がない・・と、宮田は溜息を吐きながら心の中でつぶやく。

が成績悪化でバイトを止めさせられるのは・・・ジムから居なくなるのは・・嫌だった。
それに・・数学を教えるだけだ・・・

別に大した事じゃない・・・


大丈夫・・・・



宮田はそう思っていた。




この先・・どうなるかも知らずに・・・・







続。


03/09/26...