千堂武士という人。
「うへ〜、遅くなっちゃった・・。」
は暗い夜道を歩いていた・・。
ここは大阪の中心部から少し離れた住宅街だ。
は今日、学校帰りに少し離れた中心部の大型本屋へ行き参考書選びなどをしていた。
早めに切り上げるつもりだったが、選んでいたらあっという間に時間が経ち、
は今、こうして暗い夜道を帰路についていた。
「紙飛行機が〜・・♪」
とは暗い夜道で一人の自分を元気つけるために小声で歌を歌う。
そして歩いていると・・・・。
(う・・・・・・。)
前方の自動販売機の前に、いかにも大阪のチンピラ。
という感じのお兄さん方が数人たむろしていた・・。
ちょっとやだな〜。とか思いながらも、他に道はないし・・。
まぁ、別にあたしに絡んできたりはしないだろう・・。
とは思い、そのまま内心ドキドキしながら歩いていった。
「・・・・・・・・・・・。」
そしてそのまま真っ直ぐ行くと・・・。
チンピラの一人が歩いてくるに気がついた。
は気にせず歩いて行くが・・通りすがるとき・・。
「よぉ、姉ちゃん。学校帰りか〜?」
チンピラの一人が声をかけてきた。
「あ・・・・はは。」
とは苦笑して通り過ぎようとする・・が。
相手したのが悪かったのだろうか・・・。
「待ちぃや待ちぃや、兄ちゃん達と一緒に飲まへんか〜?」
そのうち一人がの前にスッと立ち、行く手をはさんだ・・。
「・・・・・・・・・。」
はビクッと立ち止まり・・。
(うわ・・絡まれちゃったよ・・・)
とは心の中でつぶやいた。
「い、いや、結構です〜。早く帰らないと親心配してるんで・・。」
は断って機嫌を損なわせないようにあはは〜。と少し無理した笑顔で言った。
「大丈夫やて、少しくらい。ジュース奢ってやるからな?」
と、一人が言う。
「そぉや〜、何なら後で兄ちゃん達が送ってやるさかい。」
そしてもう一人がそう言いながらの手を掴んで引っ張った。
「い・・いや、帰らないと・・・。」
はそれでも笑顔を崩さず、苦笑しながら心の中で叫んだ。
(なんであたしなんかに声かけるのよーーーー!!!)
は自分の外見を客観的に見て思いそう言う。
しかし、その謎はすぐに解ける。
「セーラー服やで〜、ええな〜。」
と、そのうち一人がの傍に立ち、言った。
(これか!!!)
この制服のせいか!とは涙ぐむ。
の学校は学らんとセーラー服である。
制服・・・それは人の心を惑わせる物・・・。
(ひぃ〜!!!)
そしてはいつの間にか四方をチンピラ兄ちゃん達に囲まれていた。
おまけに良く見れば、チンピラ達は酒を飲んでいるらしい・・。
「セーラー服か〜ええな〜。」
そして、一人の兄ちゃんがのスカートをめくった。
「きゃあ!」
は叫んでスカートを押さえる。
「きゃあやて!可愛ええな〜。」
叫んだのが余計逆効果らしかった・・。
「このまま兄ちゃん達とどっかいこか!?」
と、またもや一人が言い出した。
「おー!行こう行こう!」
「よっしゃ〜!」
その言葉に全員が上機嫌に同意し、一人がの腕を掴み歩き出した。
「ちょ!ちょっと!!!」
は抵抗しながらもずるずる引きずられる。
(嫌だ〜〜!!)
そしてどうにもならず、涙目になって泣き出しそうになった時・・・。
「おー、何しとんのや、あんさん達。」
チンピラ兄ちゃん達に引きずられ進むの背後で声がした。
は、え・・と振り向く。
そこには・・・・・。
(・・・千・・・・堂さん・・・・。)
そう、同じクラスの千堂がいた。
「・・・・・・・っ・・。」
は助けてもらえそうな知り合いと出会い
抑えていたものがあふれ出し、涙目だった眼からぼたぼたと涙を流した。
「おわ・・・・・・ん?何ややないか。」
そして、振り向いて、号泣しているに千堂は気づき、
少し焦りながらそう言った。
「ああ?何や兄ちゃん。」
と、そんな中、チンピラ兄ちゃん達が邪魔され不機嫌そうに千堂を睨み付けた。
「その手離してもらおうか・・嫌がってんのに無理矢理連れてくんは良くないで・・。」
千堂も負けじとチンピラ達を睨み付けた。
「何やと〜?偉そうな口叩きおるな・・。」
との手を掴んでいたチンピラが手を離し、千堂へと向かっていった。
そしてそれに続き、ぞろぞろとチンピラ達・・五人は千堂へと向かっていった。
(あ・・・・。)
は手を離されたことにほっとしながらも、
これからただではすまなそうな千堂を見て焦る。
確かに、喧嘩が強いらしいが・・・喧嘩慣れしているようなチンピラ五人相手じゃ・・。
とはどうしよう・・助けを呼ぼうか・・とおろおろする。
「何や、やるんかいな?」
が、そんなに比べ、千堂は、面倒くさそうに、はぁ・・とため息をついた。
「おんどれが喧嘩売ってきたんやろが!!!」
と、そんな千堂の言葉に余計切れたチンピラの一人が千堂目掛けて拳をだした。
(あ・・・・・・・!!!)
とが思っていると
ヒュッ!
と、千堂は軽々とそれを避けた。
「おわっ!」
そして、拳を出したチンピラは肩透かしされバランスを崩し前へよろける。
そこへ・・・
ドカッ!
と、千堂の一発が飛んだ。
「ぐっ・・・・・。」
そしてそのチンピラは崩れた・・・。
「ほい、一人終わり・・・。」
そして千堂はつぶやく。
「こっ・・のやろう!!!」
そして二人目が行くが・・。
ドスッ!
と、またもや千堂の一発が入った。
「二人目・・っと。」
そして千堂はタンタンタンと、ステップを踏み始めた。
そして手を前に構える・・・。
「くっ・・そ!」
しかし、チンピラは捨て身で突進してきた。
が、結果は分かりきっていること・・・。
「ぐはっ!」
「うぅ!」
「ぐぇえ!」
残りの三人は前の二人同様、千堂のパンチを食らい地面へひれ伏した。
(つ・・・強っ・・・・。)
千堂はあっという間に軽々と五人を倒した・・。
がその光景を一人呆然と見ていると・・・。
「おう、大丈夫か?。」
千堂が足で、チンピラ達を端に寄せながらの元へやってきた。
「・・・あ・・・千堂・・さん・・・。」
は、はっと千堂を見る・・・。
しかし、その眼にはまだ涙が溜まっており
瞬きすると涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「う・・・・まだ、泣いてんやん・・・。」
の顔を見て千堂は少したじろぎながらそう言った。
どうやら千堂は女の涙に弱いらしい・・。
「あ・・・ははは。」
は焦りながら涙をふく。
が、安心したからだろうか・・・余計涙が出てきた。
「あは・・とまらないや・・。」
は涙声で言う。
「・・・・・・・・・・。」
すると千堂は・・・・
ポンポン。
との頭を撫でた。
そして・・・。
「無理してとめへんでもええで。まっとるから思いっきり泣き・・・。」
そう言いながら自分の胸に抱き寄せた。
「・・・・・っ・・。」
はその言葉に、千堂のジャージを掴み、すがりつきながら泣いた・・。
「あ〜あ、怖かった。」
ひとしきり泣いた後は千堂と一緒に夜道を歩いていた。
千堂の送ってやる。と言うお言葉に素直に甘えたのだ。
「しかし、何であんな道歩いてたんや。」
と、千堂がに言う。
「へ・・?」
は千堂に聞き返した。
「お前・・・知らんのか?あの道はああいうやつらがわんさかおる危ない道なんやで。」
千堂は少し呆れながらそう言った。
「あ・・・そうなん・・ですか・・。」
はまじですかい・・と焦る。
もし、千堂が来てくれなかったらどうなっていただろう・・。
「いや〜、千堂さんが偶然通りかかってくれて良かった・・。」
は少し冷や汗をかきながらそう言った。
「偶然・・ゆうかあの道はわいのコースやしなぁ・・。」
「・・・・・コース?」
そして千堂の言葉に首を傾げる。
「おう、ロードワークのコースや。」
千堂はにそう言う。
「ロードワークって・・千堂さん・・・。」
そしてはその言葉にさっきの光景を思い出す・・。
あのステップ・・・。
あの構え・・・・。
「千堂さん・・もしかしてボクシングやってるんですか・・?」
は、あれ?と千堂に聞いた。
「そや。」
千堂はさらりと答える。
(・・・・・どおりで強いはずだよ・・。)
は、はははと空笑いをした。
「あの道通ると必ずお前みたいに絡まれてるやつがおんねん。
だからそいつ助けてあーいうやつらでトレーニング・・みたいなもんやな・・。」
(トレーニングって・・・。)
とは突っ込むが・・フフっと少し微笑んだ。
「・・・・千堂さんって・・・・。」
そしてつぶやく。
「ああ?」
千堂は答えるが・・・。
「・・・・・・・何でもないです。」
はそう言うとにっこり微笑んだ。
「なん・・・」
「あ!家、着きました!」
なんやねん!と言おうとした千堂だがの言葉に遮られた。
「どうも、今日は有難う御座いました。」
は玄関の前でぺこんとお辞儀をする。
「ああ、別に気にすんなや。」
そんな言葉に千堂はそう言った。
「ほなな。」
そして手を上げ、千堂は走って行ってしまった・・・。
その走る姿はテレビでしか見たこと無いようなボクシングをしている人の走りだった・・。
(やっぱりボクシングやってんだ・・。)
とはそんな事を思いながら千堂の走り去っていく後ろ姿を見つめた・・。
千堂さんって・・・良い人なんだな・・・。
さっき言おうとした言葉をもう一度心の中で繰り返す・・。
の中での千堂武士という人の印象が変わった瞬間だった。
終。
2003/05/15....