ささいなしあわせ。
「鷹村さん、お待たせしました!」
「おう。」
ジムの練習終了後を待つのが鷹村とが付き合い始めてからのいつもの光景だった。
今日も、仲良く二人で帰る。
「さむっ!」
ジムの扉を開けると、外はとても寒かった。
季節は冬真っ只中。
息も白くなる。
「今日も寒いですね。」
「あー。」
鷹村はを待って一緒に帰りつつ、送ってくれるが、会話は結構少ない。
夜道を心配してなのか、一緒にいたいのか・・・よくわからないところがにはあった。
「・・・・・・」
暗い夜空と見えにくいが星を見上げながらは白い息を吐いて鷹村の隣を歩く。
ふいに、なんだか空虚のような、不思議な気持ちになった。
肌に触れる空気が冷たくて、暗くて広い夜空を見ていたら、
なにか・・・心が不思議な気持ちになる。
でも、それは・・・・
「・・・鷹村さん・・・・手、つなぎませんか・・・?」
寂しさや恐怖に似た気持ちだった。
は、鷹村はあまりしてくれないのは知っているが、そんなことをちらりと鷹村を見て、言ってみる。
「あ?あー・・・まぁいいか。」
今日は機嫌がいいのか、鷹村は少し考えてそう言うと、大きな手を差し出してきた。
「ありがとうございます!」
は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
嬉しそうにほほえみながら、鷹村の手に自分の手を重ねる。
鷹村の手は、温かかった。
手をにぎるのは久しぶりなのではとても嬉しかった。
それに寒い冬で、鷹村の手から伝わる体温がとても心地良い。
嬉しくて、にこにことしながら歩く。
「そんなうれしいかねぇ・・・。」
呆れ気味に鷹村はいう。
「え?んー・・・うれしいですねぇ。」
は少し照れたような、嬉しさに満ちたほほえみで答える。
「まぁ・・・いいけどよ。」
そう言うと、鷹村は前を向いた。
寒い夜に、暗い夜に、大好きな鷹村の手を握り、硬い手のひらから、温かい体温を感じるのは、とても幸せだった。
「あー!しあわせだな!」
突然少し大きな声では言う。
そんなに鷹村は少し驚いたが、呆れた顔をして、言葉を発する。
「・・・・よかったな。」
「はい!」
なんでもない、寒い冬の夜の帰り道。
大好きな人と手をつなぎ、体温を感じられるのは、とても幸せだった。
ささいなことかもしれない。
でも、そのささいなことが、なんだかにはとても幸せに感じた。
終。
2021/09/04...