ロマンチック鷹村。
「そろそろ帰ってくるかな・・・。」
はそうつぶやくと、押入から畳んでおいたタオルをとりだした。
すると、ドンドン!と、扉を叩く音がする。
「はいはい!」
慌ててタオルを持ってが鍵を開け、扉を開けると、
「戻った・・・。」
そこには、雨の中ロードワークを終え、びしょぬれの鷹村。
そう、ここは鷹村のアパート。
一緒の布団に寝ていた鷹村がロードワークに行くのはもうなれているので、
いってらっしゃい。と、寝ぼけ眼でいいはそのまましばらくまどろんで、
窓の外を見ると、今日は雨だったので、タオルや着替えを用意して待っていたのだ。
「はい、タオル。雨の日も大変ですね。」
がそういいながら渡すと、
「ん・・・別にもうなれてるよ。」
「ああ!鷹村さん!ちゃんとふいて!ていうか上着脱いで!」
鷹村は玄関できちんとふかずに、ふきながら部屋の中へと入ってくる。
「あー、腹減った!飯は?」
「できてますけど・・・・。」
畳の上でびしょぬれの服を脱がないで・・・まぁ私の部屋じゃないけど・・・と、
は思いながらも、げんなりする。
「あー!うまかった!ごっそさん!」
その後、鷹村にご飯を出してが服や畳の後始末をしている間に、
鷹村は朝食を食べ終え、また布団に寝転がった。
一緒に食べようと、待つなどという気遣いはない。
もうなれたが。と、思いながらが朝食を食べようとしているとふと気がついた。
「ていうか、鷹村さんの誕生日って七夕ですけど、七夕って毎年、梅雨ですよね。」
「あ?」
何気なく見ていたテレビの天気予報で、
雨マークばかりの梅雨まっただ中だったので、そう言ったのだが、
そう、今日は鷹村の誕生日なのだ。
「天の川ーとか、笹ーとか、短冊ーとか。
はれた夜空のイメージですけど、梅雨まっただ中ですよね。」
「だからあんだよ。誕生日も七夕もなんも関係ねぇよ。」
鷹村はそういうと、ばさっと布団を羽織って背を向けた。
「せめて夜晴れたら、夜、星見に行きたいじゃないですかー。」
「・・・夜の浜辺ならぬ、夜の草むらセッ・・・」
「違いますよ!!!!」
せっかくがロマンチックなことを言ったのに、
鷹村が台無しにしたので、ご飯粒を飛ばしながらは叫んだ。
「ったく・・・だから、誕生日がこんなじめじめした梅雨なんですよ・・・。」
が玉子焼きを頬張りながらむっとして言うと、
「・・・お前・・・オレ様と一年に一度しか会えなかったら、大勢に見られたいか?」
突然、鷹村がそんなことを言った。
「へ?」
きょとんとする。
「そういうこった・・・。」
そういうと、もぞもぞと鷹村は布団の中で丸くなり、
その大きな背中はそれ以上、何も語らなかった。
「・・・・・。」
は箸を持ったまま、鷹村の言葉を反芻させる。
『オレ様と一年に一度しか会えなかったら、大勢に見られたいか?』
つまり、織り姫と彦星が一年に一度会うのを、雲が隠し、
そっと逢瀬を二人だけにしてあげているということ・・・。
「ブフッ!!」
あまりにもロマンチックでは吹き出してしまった。
「鷹村さん、かわいーーー!!!」
「うるっせぇなぁ!!!犯すぞ!!!」
すると少し顔を赤くした鷹村が布団を払い、起きあがってこちらを向いた。
「昨日、誕生日だからって、散々やったじゃないですか!!
あれしろこれしろ、もう一回って!これ以上するなら金取りますよ!」
「・・・ぐっ・・・・お前・・・何か変わったよな・・・・。」
「え?あ、でも今日、昼には雨やむみたいですよ。」
「もういい、寝る・・・・。」
つきあいが長くなり、鷹村は段々と変化していく関係性を感じた、
もう何度目かの誕生日なのだった。
終。
2021/07/07...