れっつアルバイト!02
「じゃあ、そこに座って。」
「あ、はい。」
はそのまま応接室のようなソファとテーブルがある部屋へ通された。
が部屋の中を見渡すと壁に沿って置いてある棚の上に
何個ものトロフィーなどが置いてある・・。
(・・トロフィーとがたくさん・・)
とは思いながらソファに座った。
しばらくすると八木さん・・と呼ばれる人がお茶を出してくれた。
「あ、有難うございます・・。」
そして八木も向かい側のソファに座る。
手には紙と鉛筆が握られていた。
「えっ・・とまずはお名前は?」
「あです。」
「さんね。」
八木はにっこりと笑う。
そして紙にメモをしていた。
ばっちり面接されてる・・・・。
は汗ばむのを感じた・・。
「えーっと・・高校生・・かな?」
八木はの制服姿を見ていった。
「あ、はい!この近くの高校に通ってます。」
「そう・・・あれ、この近くって言うと・・・。」
と、八木は何かを思い出すように沈黙する。
「え?」
が聞き返すと八木は、まぁいいか。との話に戻した。
「高校生だね・・・年は・・何年生?」
「あ、高二です。16です。」
「そっか〜・・若いなぁ〜・・また・・でも大丈夫かな・・。」
「・・・・・?」
八木は何か悩みながらぶつぶつ言う。
そしてが首を傾げていると。
「あ、ごめんね。じゃあ、仕事の話なんだけどね。」
と、八木は本題の仕事について話し始めた。
仕事は主に雑用。ジムや更衣室や事務室などの各部屋の掃除をしたり。
事務も少し手伝ったり。お客さんにお茶だしたり・・。
もこれなら出来るか・・・?
と少しやる気がわいてきた。
そして肝心の時給。
「えーっと時給はね〜。うちもそんなに羽振りよくないし。
高校生だから・・てことで・・780円・・くらいかな?」
と八木は曖昧に言った。
(780円・・・)
良い方か?とは首を傾げる。
バイトしたことないので相場が良くわからないのだ。
「・・えっと・・一日何時間位になりますか?週何回ですか?」
は780円×・・・と考え出した。
「うーん・・学校終わってからだから五、六時位からだよね?
五時からだと・・・八時か九時くらいかな。あんまり遅くまでは駄目だしね。
週・・・まぁこれもその時によって変わるんだけど
一日置きくらいかな。来て貰うの。」
「そうですか・・・。」
とはあまり回転の速くない頭をフル活用して掛け算する。
(最低三時間で月30日として・・・。)
780×3=2340×15=・・・3万以上?
という計算が頭の中で出来上がった。
(まぁ・・これくらいで十分だよね。)
とはお金の問題は大丈夫だな。と結論付けた。
仕事内容も・・結構あれだし・・。
しかし問題は・・・。
「あ、あの・・さっきの人なんですけど・・。」
はあのリーゼントの男を思い出した。
「え!あ、ああ!鷹村君!?」
八木は鷹村のことを言われて焦りだした。
「あの人は・・・・ボクサーの人・・ですよね?」
は、あは。と苦笑いをする。
このバイトで唯一問題なのはそこで練習している人達だ・・。
はっきり言って
怖い。
あの人達の中で仕事するのは・・ちょっとな・・という所だ・・。
「・・鷹村君・・・ね。うん、悪い子じゃないんだよ!
ただ悪戯が過ぎる・・ていうか・・・・。」
八木さんはしどろもどろだ。
「え?」
はただ単純に聞いただけなのに異様に焦る八木さんに不信感を募らせる。
「・・・・・・はぁ。」
そして八木は何か観念したかのようにため息をついた。
「ごめんね・・言わないでいいかな・・と思ってたんだけど
やっぱり言うね。言わなきゃ駄目だよね・・。」
「・・・・・・・・はい。」
は何を言い出すのかわからなかったが
とりあえず八木の様子から何か重要なことなのだろうと唾を飲んだ。
「実はね・・さんの前にも何人かの子が面接に来てくれてね・・
アルバイトしてくれてたんだけどね・・・皆・・・
鷹村君にちょっかいだされて辞めてっちゃったんだ・・・・。」
八木はがっくりと肩を落として言った。
「へ?」
はちょっかい?と首を傾げる。
「今までの子は皆・・君と同じやっぱり若い子でね。
フリーターとか大学生だったんだけど・・鷹村君が・・鷹村君が・・・」
と、八木はくっと涙を飲んだ。
「・・・え?」
(何をしたの!?鷹村って人は何をしたの!?)
はやっぱり辞めようかな・・と思う。
「中年の女性を雇おうか・・とも、思ってたんだけどね。
時間が少ないから良いお金にならなくて人来なくてさ・・。
だからやっぱり学生さんとか若い人になっちゃってね・・・。」
八木はすがりつくような眼をする。
「あ、あはは。」
は苦笑いをするしかなかった。
「お願い・・出来ないかな・・?高校生だから!鷹村君も、
もうちゃんとした年だから、 まさか高校生には手出さないと思うし・・」
八木は、ね?と笑う。
「あ・・・なんかさっきデートに誘われちゃったんですけど・・」
・・そういえば守備範囲とかなんとか言ってたな・・。
とは思い出して言う・・。
「あはは!デートに誘われた「だけ」じゃないか。それなら大丈夫だよ!」
八木は、あははと朗らかに笑いながら言う。
(「だけ」って他の人には何したのよ・・)
はやはりやめようか・・・と真面目に考え込む。
「出来たら頼むよ・・うちも人手が足りなくて・・」
と八木は縋る様な瞳で言う。
ここで辞めますとは・・良いにくい・・・。
は決意した。
「じゃあ・・少し考えさせてください。後でお電話しますので・・。」
後でよく考えて、断るなら電話で断ろうと。
「あ、そうだね・・急には決められないもんね・・。
じゃあこれうちの電話番号ね。何日・・くらいで連絡してもらえるかな?」
と八木は少し残念そうに言った。
「えっと・・明日か・・明後日には。」
「そっかじゃあ宜しくね。」
「はい。」
と八木は微笑み合い。
こうして面接は終わった・・・。
「じゃあ出口こっちだから。」
と、八木は応接室とジムが繋がるドアを開けを出口まで案内しようとする。
「あ、はい。」
とは八木の後を追い部屋を出て部屋のドアを閉めた。
部屋から出てジムを見ると相変わらずドシバシと
重低音が響いている・・・・。
と、横を見ながら歩いていると
「あ、八木さんこんにちはー。」
という声がして前を向く。
「あ、一歩君。今から?」
「は・・い・・・」
と、入り口から入って来た、とげとげ頭の一歩と呼ばれる少年は、そう言いながら八木の後ろを見た・・。
八木の後ろにはがいる。
「・・・・・・・・・・。」
は一歩を見つめた。
「・・・・・・・・・・。」
一歩もを見つめた・・。
「・・・・幕之内・・君・・?」
はもしかして・・と、指を指しながら言う。
「・・・・・・さん?」
一歩も恐る恐る言った。
「あ・・やっぱり!幕之内・・君だよね!」
「う、うん!」
と一歩はあれ〜!?と話し始めた。
「え・・・二人とも知り合い?」
八木は不思議そうに二人を見た。
「あ、同じ学校の同じクラスなんです。」
と一歩が言った。
「そうなんです。」
も後に続き言う。
「あ、そーか!この近くにある高校ってなんか覚えがあったんだけど、
一歩君の学校だったのか!そっか〜、二人は同級生か〜。」
八木は嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔には・・無言の圧力があった。
「あ・・はい。」
はその笑顔の意味を感じ取って焦る。
(やばい・・余計辞めにくくなった・・。)
同じ学校の知り合いがいるとなればやってくれるよね?
そんな事を八木は無言で言っていた。
が、知ってると言ってもはそんなに仲が言い訳ではない。
だたのクラスメイトだ。
何時も大人しく静かで・・時折、不良グループに連れて行かれている・・クラスメイト。
「さんこんなところでどうしたの?」
がそんな考えに耽っていると、一歩はいつものぽけっとした感じに聞いてきた。
「あ、バイトの・・面接に来てたの・・・」
(半ば強制連行されたんだけど・・・)
とは心の中でつぶやく。
「え!バイト!?バイトかぁ・・バイト・・・するの?」
と一歩は言いながらの後ろをはは・・と見た。
「え・・・」
が後ろを向くと・・・。
鷹村がニヒと笑っていた・・・・・。
「あ・・う、うん。今考え中・・・。」
「そっか・・うん・・良く考えたほうが良いよ・・。」
二人は俯き合いながら、しどろもどろにそう話した。
「ていうか、幕之内君は何でここに?」
と、今度はが質問をする。
「え?あ、僕は・・ボクシングしに・・・。」
と一歩は小さな声で言う。
「え・・幕之内君ボクシングやってるの!?」
はいつも通り。他の人と同じリアクションをする。
「う、うん・・」
一歩はなんだか申し訳なさそうに頭をかいた。
「へ〜・・凄いね〜・・。」
は何時もクラスで目立たない、友達もいなさそうなこの人が・・。
ジムの周りの人とは明らかに違う、幕之内君が・・と驚いた。
でも・・そんな一歩にだから聞きたいことが一つあった。
「・・ねえ、幕之内君・・・」
「何?」
「・・・この中でやってて・・・怖くない?」
は、こそっと周りに聞こえないように、一歩に言った。
「あ・・はは。そうだよね、一見すると怖いよね。僕も最初来たとき怖かったよ。
でもね、皆・・・普段はちょっとあれな時もあるけど・・みんな良い人達なんだよ。
そんなむやみやたらに殴ったりしないし、一生懸命だし。まぁ、乱暴だけどね。」
そう言って、一歩はにっこりと笑った。
「・・・・そっか。」
はもう一度、練習している人達を見た。
そう言われれば・・・
怖いのは真剣な眼をしてるから・・
真剣過ぎて怖い・・・そんな感じなのかもしれない・・・
(幕之内君の言葉・・信じてみようかな・・・)
はそう思った。
「ありがとう、幕之内君!今日はこれで帰るから、練習頑張ってね。」
「あ、うん。ありがとう。」
「じゃあね!」
はそう言うと、鴨川ボクシングジムから去っていった・・。
そしてその翌日・・・鴨川ジムに電話の音が鳴り響く・・・
『あです。バイトさせて下さい!よろしくお願いします!』
こうして・・の鴨川ボクシングジムでの日々が・・幕を開けた。
一歩の言葉に鷹村の事をすっかり忘れて・・・
終。
03/05/01...