乱世拳闘物語。01













全ては、夏の合宿のたった一つの出来事から始まった・・・・。





「んー・・やっぱり、自然はいいなー。」

は澄み渡る青い空と、周りの煌く緑の葉を付けた木々を見て両手をあげ、伸びをする。

ここは猫ちゃん事、猫田のペンション。
夏のある週、鴨川一行とは夏の合宿に、ここを訪れていた。

「さて、そろそろ夕飯の準備しないと・・・」

はそう言いながらペンションの表玄関から辺りを見渡し、その人物がいないのが分かると、
ペンションの裏手に周りながらその人の名を呼ぶ。


「猫田さーん!」


ちゃん、呼んだダニか?」


ひょいとペンションの裏手の物置から顔を覗かせたのは、赤い鼻をした、
ひょうきんな顔をしたおじいさん・・・鴨川会長の友人、このペンションのオーナー猫田だった。

「あ、猫田さん。」
いたいた。とは猫田の近くに駆け寄る。

「今日の晩御飯の材料どうしようかと思って・・この時期、山に何かありますかね?」

合宿にご飯係りや洗濯などで同伴している
折角、山の近くにいるのだし、経費も安く済ませたいので、山の幸を利用しようと思ったのだが・・・
自分では今の時期生えている物や、場所など分からない・・ので、猫田に聞いてみたのだが・・・

「そうダニなー、今の時期だとキノコもまだ早いダニ・・これと言って・・・おお!そうダニ!」

季節的にないかと思われたが、猫田は何かを思い出し、ポンと手を打った。

「今の時期、その場所でしか生えないキノコがあるダニ!ここいらでも知ってる人は少ない幻のキノコダニよ・・」

猫田フフと微笑む。

「そのキノコは、食べると翌日には疲れがきれいさっぱり取れる、不思議なキノコなんダニ、
みんなの為にもそのキノコが良いと思うダニよ!」

「へー・・不思議なキノコ・・・」

若干、大丈夫なのかな?とは思うが、地元の人がずっと食べてるみたいなので、
多分大丈夫なのだろう。と、一抹の不安は残しながらもは猫田に場所を聞いた。






『上の林道を真っ直ぐ行くと、木の間に岩がゴロゴロある場所があるダニ、
その岩と木がたくさんある所に生えてるはずダニ。』



「岩と木か・・・・」

猫田から聞いた言葉を思い出しながらはキノコを入れるかごを持ち、歩いていた。
一人で行くのは危ないと言われたのだが、今は熊が頻繁に出る季節でもないし、
真昼間なのもあり、猫田も仕事があり悪いと思ったのでは鈴を持ち一人で行く事にした。

(熊・・出ないよね・・・)

はチリンチリンと歩く度になる鈴を見つめて、少し難しい顔をする。
前回このペンションに来た時・・・鷹村が熊と遭遇し、戦った・・・らしい。
まさかとは思ったが、鷹村の追った傷と、その後猫田が夕飯に出した熊鍋を見て、
本当なんだと確信した・・・なので、一応不安なのだが・・・。

(でも、猫田さんには悪いしなー・・今、よく出没する時期じゃないらしいし・・・)

と、思いながらがキノコのある場所へと向かっていると、
林道に行く前に通る、車が一台やっと通れる位の、ここらではそこそこ大きい坂道で・・

「お。おーいちゃん。」
「あー、みなさんお疲れ様ですー。」

背後から鴨川一行が走り上ってきた。
「どこ行くんだー?こんなとこ通って。」
声をかけて来た木村の後に続いて、青木もの前で立ち止まり、話しかける。
鷹村、一歩も一緒にロード中だったらしく、皆で道の真ん中に立ち止まり、話し始めた。

「これから夕飯に使うキノコ狩りに。」
はカゴを持ち上げる。
「おー、夕飯はキノコか。」
「って、こんな時期にあるのか?」
「猫田さんによると、地元の人もあまり知らない珍しいキノコが今の時期あるそうで・・」
「・・何かそれ怖ぇな・・」
そうなんですよね・・と、はははと会話をしていると、


「キノコか・・・貴重なキノコなら・・・高く売れるかもしれねぇな・・・・」


上から見下ろすように、その会話を聞いていた鷹村が、ポツリとそうつぶやいた。
「え・・・」
皆がそんな鷹村を見ると、
「おっし!一人じゃ危ねぇからな!俺様がついて行ってやろう!」
鷹村はそう言うと、ガッとの首を小脇に抱える。

「うわっ!ちょ、鷹村さん!私欲で地元の大切なキノコ乱獲しないで下さいよ!」
「おらおら、キノコはどっちだ!!」
「うわっ!く、首持ったまま走り出さないでー!!」

「・・・あーあちゃん可哀相・・」
走り出した鷹村に、引きずられない様に首を持たれたままの格好で、
必死に走って行くを見て、青木がポツリとつぶやいた。
「まぁでも、熊だろうとなんだろうと、何がっても安全だろ。
あの人といれば。 逆に鷹村さんと一緒つー事があぶねぇよな。」
「ははは・・」
そんな木村の言葉に、一歩は少し困った顔で笑うしかなかった。





「た、鷹村さん!首!首がっ!!」

は鷹村の腕をバシバシと叩きながら言う。
「キノコキノコ〜♪」
しかし、当の本人には聞こえてない様だ。

「っ・・あ!ほら鷹村さん!道行き過ぎましたよ!」

そこで視界の隅に見えた、進むべきはずの林道を指差しはまたもや腕をバシバシと叩く。
「む?行き過ぎたか。」
そう言うと、鷹村はパッとの首を締めていた腕を離し、戻る。
「・・・はぁ・・」
ようやっと離されたは、首をさすりながら、大きな溜息を吐く。
「おーい!早くこねぇと置いてくぞ!」
すると、先を行く鷹村の呼ぶ声が聞こえる。
「・・ったく・・はーい!!」
はむっとしつつもいつもの事なので、はいはい今行きますよ・・と、ぶつぶつ言いながら鷹村の後を追った。





「フンフフーン♪おい、まだか?」
「あ、もう少し進むと多分、木の間に岩がゴロゴロある場所に出るんで・・・」

林道を歩きながら、ご機嫌に闊歩する鷹村の質問には答える。
「・・・ここか。」
するとその言葉通り、少しすると、林道の脇に岩がゴロゴロとある場所が見えた。
林道はその先にも続いているのだが、猫田情報によると、どうやらこの辺り一帯に生えているらしい・・。

「おっし!お宝探しと行くか!」
「夕飯探しですけどね・・」

と、二人はキノコ探しを始めた。
しかし・・・

「・・・・」
「・・・・・・」

探し出して五分後・・

「・・・・・・」
「・・・・・・・・」

十分後・・・


「・・・・そっちあったか?」
「・・いえー」

「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・」



「ねえじゃねぇかーーー!!!!!」

「!」


探し出して20分位だろうか、一本も見つからない状況に鷹村が切れた。
静かな森の中に鷹村の声が響き渡る。

「びっ・・くりした・・・鷹村さんいきなり叫ばないで下さいよ!」
「んな事言ったってみつからねぇじゃねぇか!!」

の言葉に鷹村はガア!と言い返す。
「・・貴重な物は見つからないから貴重なんですよ・・・」
と、言いながらはまた身を屈め、探し始めようとする。
「・・・俺様やーめた。寝る。」
鷹村はそう言うと、近くにある岩の上に横になった。
「・・・・・」
はそんな鷹村に溜息を吐く。

(・・ほんと自由奔放な人だなぁ・・)
羨ましくなるわ・・と、思いながらはキノコを探す。

(しかし、本当ないなぁ・・・)
そう思いながらガサガサと木の根元やじめじめしてる所を探すが、キノコらしき物は見つからない。
「あ・・おーい!あんまそっち行くんじゃねぇぞ!その先、段差になってっかんな!」
すると、気付けば寝ていた鷹村と結構離れていたらしく、背後から鷹村の叫ぶ声が聞こえる。
「え?ああ・・」
かけられた声に、屈めていた体を起こし、一度鷹村を振り返ったは、そのまま前を見て、
少し先に大きな岩が2、3個群れて重なっている事に気付く、少し近寄ってみると、
その部分だけ飛び込み台の様に地面から飛び出ている様で、その先は3m位の崖になっている。
下にはまた草が生えていて、岩はないので自分から飛び降りれば怪我はしなさそうだが、
気が付かないで落ちていたら危なかった。

(おお・・良かった・・・ん?)

がその岩に上り、傍らにある木に手を置き下を見ていると、ふと足元の岩の隙間にキノコを見つけた。

「あ!あったーー!!!」

は思わず大声で叫んだ。
しゃがみ込んでキノコを採ろうとする。
根元からそのキノコを採ると、立ち上がりながら鷹村に見せようと顔を上げると・・・

「鷹村さっ・・!」
「うおっ!!」
「きゃっ・・!」

の声に、お宝キノコを目掛けて猛進して来た鷹村と、
立ち上がろうとしたがドンッとぶつかり合い、ぐらっとバランスを崩した。

(落ち・・る!)

と、思った瞬間、なだれ込む様に一緒に落ちようとしていた鷹村の腕がを抱きかかえ、庇うように抱き込んだ。
それは一瞬の出来事で、次の瞬間には、瞳を閉じた暗闇の中で、少しのドンッ!という衝撃がを襲っていた。







「っ・・・・・」

はそっと瞳を開く。

目の前には、白い・・・布・・そしてその下に、人のぬくもり・・・


「!」

はガバッと起き上がる。

「っ・・てぇ〜〜〜」

目の前にあった白い布は鷹村のTシャツ。
そしてその下にあったのは、鷹村の体だった。

「た、鷹村さん!大丈夫ですか!?」

は青褪めながら鷹村の上で、そう叫ぶ。そして頭上を見上げた。
上にはさっきまで居た岩。
先程ぶつかり合った二人はそのまま下に落下してしまった様だ。
そして鷹村は自分が下に来る様にを庇い・・・今のこの図である。

「ご、ごめんなさい!」
は慌てて鷹村の上からどく。
「くそっ・・・」
そしてチッと舌打ちしながら、鷹村は半身を起こした。
落下した時にトレードマークのリーゼントが崩れたらしく、
下りた前髪と顔の間に手を置き、顔を顰めながら頭を振る。

「・・・・・」

不謹慎ながらも、そんな鷹村をカッコいい・・と、一瞬思ったはハッとして、鷹村に問う。

「た、鷹村さん大丈夫ですか?怪我は!?怪我はないですか!?」

試合は近くないとはいえ、こんな事で怪我をさせてしまったら、取り返しがつかない・・・とは青褪める。
しかしそんなに。
「あー・・大丈夫・・みたいなだな。」
鷹村は肩や腕を回したりしながら返す。
「てめぇ一人抱えて落ちたくれぇで怪我なんかしねぇよ。」
俺様を誰だと思ってやがる。と、鷹村は言いながらズボンをはたき、立ち上がる。
「・・・良かった・・」
はほっとして、地面に膝をつけたまま地面に手をつき、脱力して顔を伏せた。
「・・俺よりお前はどうなんだよ。」
「へ?」
上から聞こえて来た言葉には顔を上げる。
「・・あ、ああ・・えっと、大丈夫みたいです。鷹村さんが庇ってくれましたし。」
鷹村の言葉に、立ち上がって痛い所がないか確認したは、照れくさそうにへへ、と鷹村に微笑むとそう言った。
「・・・全く、小物に付き合うとろくな事がねぇや。もう帰ぇるぞ。」
鷹村はふんっと息を吐くと、そう言い、歩き出した。
「鷹村さんがついて来たんじゃないですかー。」
私のせいですか!?とは思いながら歩き出した鷹村に続く。

「あ、そういえばキノコ・・・」
「あ?」
「採ったキノコ落としてきちゃったみたいで・・・」
「あー、もう諦めろ。上のぼんのめんどくせぇし・・このまま斜めに突っ切ればさっきの道の先に出んだろ?」
「そうですね・・早く帰りましょうか。日も暮れちゃいますし・・って、うわっ!」

そんな会話をして歩いていると、前を歩いていた鷹村が急に足を止めた。
「なんですか鷹村さん。急に止まらないで下さいよ。」
がぶつかりそうになった鷹村の後姿を見上げてそう言うと、


「・・・おい、あれなんだ。」


「へ?」

鷹村が何かを指差した。
がひょいと、鷹村の後ろからその指の先を見ると・・・・


ガッチャッガッチャガッチャ・・・


「・・・・・え・・」


鷹村の指差した先には・・・数人の人がいた。

その人達は・・・何故か・・時代劇で見る様な・・・・甲冑・・と呼ばれる物を身に纏っていた。


「・・・成仏出来ない魂とか・・じゃ・・」

「・・でも・・顔も足もちゃんとあっぞ・・・・」

はは・・と、笑いながら鷹村の服をぎゅっと握るに、鷹村も思わず息をのみ、そう返す。

「と、とりあえず・・見つからない様に・・・逃げましょう・・・」
「ああ・・」

そう言いながら二人が後退りして、体を反転させると・・・


「「・・・・・・・」」


ばっちりと、先程見た甲冑と同じ物を纏った二人組と目が合った。

「・・・・・」
は凍り付く・・自分達が振り返った少し先に、槍を持った男二人がいたのだ。
「き、貴様ら!何者だ!!」
そのうちの一人がそう叫ぶ。
「どうした!?」
その声が発せられると達の背後から声がした。
さっき見たやつらが走ってくる、ガチャガチャという音が聞こえる。

「た、たか、鷹村さん!!」
「お、おい何だよこれ!」
「知りませんし、わかりませんよ!!!」
「なんとかしろよ!」
「出来るわけないじゃないですか!!」

二人が訳が分からずに話していると、甲冑の男達が集まってくる。

「と、とりあえず逃げましょう!」
「・・お、おう!」

二人はそう言うと、駆け出す。

(なんなのよこれなんなのよ!!!)

どこに逃げてるのかは分からなかったが、とりあえず二人は走った。
追い掛けて来る甲冑の男達をチラチラと確認しながらも、走り続け、
甲冑を着ているせいで遅い男達よりも早く走れたせいか、上手くまけた。




「はぁはぁはぁ・・」
「はぁー・・・」

取り合えず木の陰にしゃがんで隠れた二人は息を整える。
と言ってもに合わせていた為は息を切らせているが、鷹村は全くの余裕。
体が温まり、溜息を吐いている程度だ。

「・・・たか、鷹村さん・・・」
「・・あ?」
「これ・・夢じゃないです・・よね・・・」

は呼吸の合間に途切れ途切れ言葉を発する。

「ああ・・俺の夢じゃねぇなら夢じゃねぇ・・・」
「あの人達も・・幽霊とかじゃ、ない・・みたい・・・で・・」
「ああ・・・」

鷹村との間に重い沈黙が流れる。

「・・・とりあえず、道に出て、猫ちゃん家に戻るしかねぇだろ・・」
「ですね・・・」

呼吸が落ち着いてきたは、鷹村にもう大丈夫です。と、言うと、
二人は周囲をうかがいながら立ち上がり、歩き出した。
歩きながらは思う・・・

(・・・鷹村さんが一緒で・・良かった・・・)

考える事は他に山ほどあるのだが、とりあえず頭に浮かんだ事はこれだった。
この状況で一人だったら、さっき殺されて死んでいただろう・・・
それにいざとなった戦闘能力が高く、野生の勘も優れている鷹村さんと一緒にいるのは、心強い事この上ない。
それに何より・・・鷹村さんと一緒だという事が、精神的に強い支えになっている。

今がどういう状況なのかさっぱり全く分からないけれど、とりあえず、猫田の家に戻るしかない。
そう思いながら、二人は周りに警戒し、道無き道を歩いていたのだが・・・・




「お、道に出たぞ。」

ガササと、草を分け入って、鷹村は砂利の道に出た。

「よ、良かった〜・・・」

もうっそうとした草木の間から舗装はされていないが、土と砂利の道に足を着くと、ほっと胸を撫で下ろす。
「ここどこの道ですかね?」
「あー・・どこだろうな・・・」
二人はそんな事を話しながらとりあえずふもとを目指して歩き出す。
猫田の家ではなくとも、とりあえず民家のある所に出ようと思ったのだが・・・

「・・・鷹村さん・・・」
「ああ・・・」

しばらく歩いていると、再び青褪めると、眉間に皺を寄せる鷹村の視線の先には・・・・


先程の・・・甲冑を着た男達が、また、現れた・・・・


数十メートル先にいるが、向こうもこちらの存在には気付いている、槍を構えて何か相談している様だ・・・。

「鷹村さん・・・どうしましょう・・・」
「わかんねぇよ・・・わかんねぇけど・・・」

横で凍り付いているの肩に、鷹村はポンと手を置いた。



「とりあえず・・・殺られる前に、殺れ。だ・・・」



「・・・・え?」

はまさか・・と、鷹村の顔を見上げる。


見上げた鷹村の横顔には、試合前の・・・あの張り詰めた表情と眼差しがあった・・・


そして鷹村は足を進める。

「ちょ、え!鷹村さん!?」

は後を追うが、甲冑男数人のうちの一人が、叫び声を出して駆け出して来た。
その声にはビクッと足を止める。

「お前はそこにいろ!」

鷹村は少し振り向きながらそう言うと、ゆったりと歩いて行き、両手を前に構えた。


(・・ほ、ほんとに戦う気なんですか!!?)


は呆然とする。

相手は良く分からない、甲冑に長槍を持った男だ。しかも、腰には刀まで持っている様に見える。
そんな相手に対し鷹村は・・・素手。
確かに、鷹村だし、ボクサーだし、そんじょそこらのやつじゃ勝てはしないのは明らかだが、
それでも余りにもありえない対戦カードには戸惑う。
と言うかそもそも武器が違う。相手が持っているのはまず本物だろう。
そんな物で切られたら・・・鷹村だって人間だ。血も出るし、怪我もするだろう。

「・・・っ・・・」

は震えそうになる両手をぎゅっと握り締め、口元に持ってくる。
そして、じっと鷹村の後姿を見つめた。思う事はただ一つ。

「うぉおお!」

甲冑男が槍で鷹村の首元を狙う。
「おりゃあ!」
しかし鷹村はそれをなんなく避けると、ゴッ!と思いっきり、その男の顔面に右をねじ込んだ。
「かっ・・!」
「・・・・・・・・・」
男が一回転して地面に叩きつけられる様子を見ていたは、
心配は無用で、本当に鷹村は化け物かもしれない・・と、呆然としながら思った。
その間にも、鷹村は次々と槍を持つ男達を倒して行く。
ほぼ、一発KOだ。
4人いた男達も全員地面にひれ伏し、鷹村はパンパンと手を叩き、一息吐くとの元に戻ってきた。

「おー、楽勝だったわ。さすが、俺様。」

鷹村はそんな事を言いながら、ふふんと得意げに腕を回す。
「・・・あんた・・バカでしょ・・・」
はそう言いながら、はぁー・・としゃがみ込んだ。
「あ?なんだと貴様。俺様に向かって。」
鷹村のむっとした声が聞こえたが、そんな事に構っていられない。
は先程の緊張から開放された安堵感に浸っていたかった。
というか、心配するだけ無駄だったのかもしれない・・・。

「おい、聞いてんのか。」
すると無視された鷹村がの腕を掴み、ぐいっと持ち上げる。
「・・・・心配したんですからね・・」
は持ち上げられた腕越しに鷹村を睨みつける。
その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「・・・・・」
その表情に、鷹村は黙り込みを見つめる。
「・・・馬鹿者め。俺様があんな小物にやられるわけねーだろ。」
鷹村は、真顔でそう言うとの頭をゴンっと拳で軽く叩いた。
「痛い・・・」
は泣きそうな声で顔を伏せて頭を押さえる。

「つーか、こいつら一体何なんだよ。勢いで倒しちまったけどよー。」
鷹村はそう言いながら意識を失い倒れている甲冑の男達の側により、足で男をいじる。
「っ・・ちょっと鷹村さん!足でやるのやめた方が良いですよ。」
はズッと涙を拭った後、鷹村の側に行き、いつもの様に注意する。
「・・しかし本当に・・この人達なんなんだろう・・格好は戦国時代とかそんな感じですけどね・・」
「戦国時代にでも来ちまったかぁ?」
「あはは、そんなまさか〜・・・」


「「・・・・・・・」」


二人は顔を合わせて笑った後、そのまま黙り込んだ。

「・・・・鷹村さん・・もし、もし戦国時代とかに飛んで来ちゃってたら、どうします・・・?」
「・・・ありえねぇ」
「だからもしですよ・・・」
「もしも、かかしもねぇ・・・」
「だってこの状況どう説明するんですか!?」
「しらねぇよ!!おい!てめぇ起きろ!!起きて説明しろ!!」
「ぎゃっ!ちょ、ちょっと起こさないで下さいよ!!」
「あ!?もうてっとり早くこいつらに聞いた方が早いだろ!!!」
「だからって!!」

と、二人がぎゃあぎゃあ騒ぎながら、鷹村が甲冑男の襟首を持ち、ガクガク揺さぶっていると・・・

「ん・・・」
「!?」
「お、起きた。」

(何で起こすのよぉ!!)
が泣きそうになりながら、数メートル一気に離れると・・

「う、うわぁああぁ!!命だけは!命だけは!!」

鷹村に衿を掴まれているその男は、そう叫びながら慌てふためく。
「・・・別に殺しゃしねぇよ。それよりここどこだ。何なんだよてめぇら。」
そんな男に鷹村は淡々と問う。
「へ・・?お、おら達は・・宮田様のとこのもんだけど・・・」



「「宮田様?」」



鷹村との声がぴったりと重なり合った。

「お、おめぇ達・・青木のとこのもんじゃねぇのか?」



「「青木?」」


また二人の声が重なった。


(宮田と青木って・・あの宮田君と青木さん・・・な、わけない・・よね・・・)

どういう事だ?とが思っていると、

「こ、ここは・・鴨川藩と青木藩が戦ってる合戦地の一つだ・・けんども・・・」

「・・・・・・」
「・・・・っ・・」

鷹村とは黙り込むしかなかった・・・

次々と出てくるよく知った名前・・・けれど、明らかに自分達がいた『時』とは違う場所にいる・・・


「鷹村さん・・・さっきの話・・・マジかもしれません・・・」

「ああ・・・・」


二人はそう言うと、また、黙り込んだのだった。












続。


2009/03/27....