大きな手。
「鷹村さん、はい、ビール。」
「ん。」
そう言っては缶ビールを渡しながら、ふと、今更ながらなことに気づいた。
「・・・鷹村さん・・・手、出してください。」
「あ?」
ビールのプルタブに手をかけていた鷹村は、
座って自分の方を向いて真顔でそう言ってきたに怪訝な顔をした。
「あんでだよ。」
「いいから!」
「・・・・・」
疑問に思いながらも、鷹村は右手でビールを持ち、
左手を出した。
すると、
「わー!今更だけど、やっぱり、鷹村さん手、おっきーーー!」
「・・・・・・・・。」
は差し出された鷹村の手に、自分の手をピタリと当てて、
楽しそうな笑顔でそう言った。
おい、オレら付き合ってどんだけたってんだ。
と、あまりの今更感に鷹村は心の中で思った。
手だって握ったりしてきただろうに・・・・。
「え、ちょっと待って!かなり大きくないですか!?」
(だから・・・・。)
鷹村はイライラしてきた。早くビールも飲みたい。
「!」
「あ、やっぱり手、まめとかあるんですね。硬くなってる部分もある・・・。」
すると今度は、手をもみもみと手のひらや裏をもんだり触ったりしてきた・・・。
飲む前にヤリてぇのか・・・と、思いつつもそうではないのはわかっているので、
鷹村は大きくため息をつく。
そしてに向き直ると、
「おめーの手はちいせぇな・・・。」
との手を握り返し、よくわからない手の点検返しをしてやった。
「え!」
は慌てている。
「つーか、ほそ!指細すぎじゃねぇのか!?折れるぞこれ!!」
鷹村はそう言いながら、指を反対側へと反らせる・・・。
「いたたた!!!しゃれにならないからやめてください!!!!!」
「む・・・マジで折れそうだな・・・。」
「折れます・・・確実に・・・・。」
は涙目だった。
「女ってこんなに細くてちいせぇ手だっけ・・・・。」
鷹村はの手をふにふにともんでいく。
やわらけ・・・と、思いながら。
「んー・・指細くないですけど、標準だと思いますよ。だいたい。
っていうか、もういいでしょ!ハンドケアもネイルもしてないから恥ずかしい!」
「あー・・・・。」
そういいながらはひっぱるが、鷹村は離してくれない。
なんだか鷹村は、さきほどが自分の手を触っていたのがわかるような気がした。
手入れしていないというがの手を触っているのは、気持ちがいい。
柔らかくて、すべすべで・・・なにより体温が気持ちいい。
ふにふにともんでいるだけで、とても心地よい気分になるのだ。
「鷹村さんばっかりずるいーーー!!!!鷹村さんも手貸してくださいよー!」
するとそんなの大声が聞こえた。
「あ?・・・しゃあねぇな・・・。」
ふと、どこか遠い所に意識が行っていたような鷹村は、
我に返るとの手を離し、自分の手を差し出した。
「へへへー。」
は嬉しそうに鷹村の手を触る。
鷹村はきっと自分が今思っていたことと同じことを思っているんだろうな・・・。
と、思い、なんとも言えない気持ちになった。
嬉しいような・・・恥ずかしいような・・・くすぐったいような・・・。
(鷹村さんの手、ほんと大きい・・・ゴツゴツして、かっこいいな・・・。)
そしては鷹村の手を触って見つめながら色々なことを考えていた。
手をひっくり返して手の甲を見て・・・・
(この拳が・・・世界チャンピオンの拳なんだよなぁ・・・・。)
なんとなく、リングの上の鷹村を思い出した。
この手が・・・毎日の努力を重ねて・・・激戦を越えて・・・世界を獲った・・・・。
「!」
鷹村はを見る。
「へへへ・・・・。」
はうれしそうにほほえんで、鷹村の手のひらを、頬にあてていた・・・・。
「っ・・・・。」
鷹村はうつむいて、メキッと缶ビールが潰れた。
「てめぇは!!!!襲われてぇのかコノヤロー!!!!」
「うわあああ!!!え!?ちょ!!!ちょっと!!服脱がさないでくださいよーーー!!!!!」
色々と鷹村は我慢した方だと思うのだが、理性の限界だった。
その後どうなったかは・・・・誰も知らない・・・・。
今日も平和である・・・・。
終。
2021/05/28...