校門前。
その日はたまたま先生との面談で帰りが早かった。
それが災いの種・・・・・。
「こんにちはー。」
二者面談で学校が早く終わったは、
いつもより少し早めにジムに来た。
何だか鴨川ジムも結構人手不足らしく、
は掃除、洗濯などの雑用以外、次々と色んな仕事を任され、
「来週学校早く終わるんですよねー。」
と言った所、
「じゃあ早めに来てくれる?」
と言われた。
はジムのバイトは楽しく好きなので・・・お金も貰えるし、
二言返事で了解した。
そんなこんなでその日もジムへ来たら・・・・。
「あ・・・・・さん。」
と、入り口付近で何か考え事をしていた宮田の父に至近距離で声をかけたれた。
「あ、宮田君のお父さん。こんにちはー。」
は何してるんだろ?と思いながらも、
未だ下の名前を知らない宮田の父に挨拶をした。
「・・・・・そうだ・・・さんに・・・・・・。」
と、宮田の父はをじっと見て言う・・。
「へ?」
が首を傾げると・・・・。
「すまないんだが・・・今から一郎の学校に行って一郎に鍵を渡して来てくれないか?」
と言われた・・・。
「え!?宮田君の学校にですか!?」
は訳が分からず叫んだ。
「そうなんだ・・家の鍵を一郎に届けて欲しいんだ・・・。」
「・・・宮田君、家出る時鍵忘れたんですか?」
「そうなんだ・・・。」
「・・・今日はジムに練習に来る日じゃないんですか?」
ジムに来れば一緒に帰るか、鍵が渡せるので自分は行かなくて良い。
しかし、
「今日は練習は休みなんだ・・・・。」
そうであれば元からこんな事をに頼みはしない。
「・・・じゃあ!家に一度帰って鍵が無い事に気付いてジムに来ますよ!」
そうよ、そうじゃない。とは思い言った。
しかし、
「それじゃあ遅いんだ・・・・・・。」
と、宮田父は沈痛な面持ちで言った。
「え・・・何か・・あるんですか?」
が言うと・・・。
「雨が降るんだ・・・・。」
父は言う。
「え、ええ・・今日は午後の降水確率高いですから・・・。」
宮田の父の言葉に、自分も傘持ってきたし・・・と、思いながら、
雨が降るからなんだ?と、思っていると・・・。
「洗濯物をたくさん干してきてしまったんだ・・・・・・・。」
宮田父は顔を左右に振りながらしまった・・という感じに言った。
そしては・・。
(・・・せ、洗濯物・・・・・・・・・・?)
と、呆然とする。
「今日の朝、見事な快晴だったから、天気予報見ないで溜まってた洗濯物を全部干してきてしまったんだ・・・。
それでジムに来たらさっき天気予報で降水確率80%でな・・・。
まぁ、一郎が雨が降る前に取り込んでくれるだろうと思ったら、今日あいつ鍵忘れて行ってな・・・・。
まぁ、何時もならジムに来て渡して帰れば良いんだが・・・。
今日は雨が降るから一度ジムに来ていたら雨が降ってきてしまうかもしれなくてな・・・。」
だからに宮田の学校まで行って鍵を渡して欲しいとの事・・・。
「でも、お・・・・・。」
奥さん。と言いかけては口をつぐんだ。
確か宮田くん家は父子家庭・・・・・・・。
う〜〜〜〜・・・とは考え込んだ。
たかが洗濯物。
されど父には大変な事らしい・・・。
さっきからをじっと見つめて真剣に言ってくる・・・・。
けど・・・宮田の学校・・・・・・・・・。
は心の中で葛藤しながらも結局は・・・・・・。
「はい・・・・分かりました・・・・。」
はぁ。とため息をつきながら折れた。
元々、人の良いである。
宮田父の真剣な眼差しには勝てなかった・・。
「そうか!有難うさん!!!これ、家の鍵だから。
あ、会長には私から言っておくからよろしくな!」
まだ下校時刻じゃないから校門で待ってれば会えるぞ!
とは宮田父にジムを追い出された。
「・・・・・・・・・・・。」
は今にも降り出しそうな暗い空を見て言う。
「しゃーない・・・行きますか。」
しかし、本当は嫌だったのだ・・・・本当に・・・何故なら・・・。
(うわーあ・・・来ちゃったよ・・県内一の進学校・・・・・・・。)
そう、宮田の学校は県内一の頭の良い学校である。
そして・・・。
(他高の前で他高の制服は目立つよなぁ・・・・。)
は県内一とは程遠い、レベル的には中の下の学校である・・・。
そんなまぁの高校の制服を知ってる人もいない・・とは思うが、
頭の良い高校の前で頭の悪い高校の制服を着て立っているのは・・・・・。
まぁ、自分が頭悪いのは仕方ない事だけど・・・・。
やはり気が引ける・・・・・・・・。
(でーも、頼まれちゃったしなー・・・。)
と、思いは今更引き下がれる事の出来ない事実を受け止め、
校門が見える少し離れた道から宮田を待っていた。
そのうち終業のベルが鳴り。
次々とこの進学校の生徒が出て来た。
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
やはりちらちらと下校の生徒に見られる・・・。
しかし、まぁ・・・あんまり気にするな。
とは思いながら校門を見つめていた。
人の目を気にして肝心の宮田を逃したら元も子もない。
しかし、そんな必要もあまり無かった。
「・・・・・・・・・・・・。」
一瞬で分かった。
校門を出てきたら一瞬で・・・。
(やっぱりオーラでも出てるのねぇ・・・・。)
はしばらく宮田を見つめた後、
周りとは違うオーラを放ちながら歩く宮田を見て、
フフ・・と訳の分からない笑みをして宮田に近寄り声をかけた。
「宮田くん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
は
『その時の宮田くんの顔は一生忘れない。いや、忘れられない。』
と、後に語ったと言う・・。
「くっ!あは!!み、宮田くん!どうしたの!?」
いつものクールビューティーな無表情を崩し、
鳩が豆鉄砲くらったような宮田の表情を見て、
は思わず笑ってしまった。
「!・・・・・・、どうしてここに・・・・。」
宮田はが爆笑してる事に、はっ!とし、我に返り、
いつものポーカーフェイスに顔を戻した。
「くっ・・・・ごほん・・・えっと、あのね、
お父さんから家の鍵渡して欲しいって頼まれたの。」
は最初はまだ笑っていたが、
宮田の少し不機嫌そうな顔を見ると息を整え事のあらすじを話した。
「親父・・・わざわざ何でに・・・・。」
と、宮田は鍵を受け取りながらつぶやいた。
「何か今日、雨降るのに洗濯物たくさん干してきちゃったんだって。
で、それが雨に濡れちゃうから雨降る前に早く宮田君に取り込んで欲しいみたいよ?」
はまたフフ。と笑いながら言った。
「親父・・・・・・。」
何くだらない事頼んでんだか・・・。
と、宮田は顔には出さないが少し恥ずかしく思う。
「じゃあ、あたしはジムに戻ります。宮田君も洗濯物雨に濡れないうちに帰ってね。」
「ああ・・・。」
そうして二人は別れようとした・・・・・・が。
「ちょっとお待ちなさい。」
「・・・・・・・・・・。」
は呼び止められた気がして振り向いた。
するとそこには・・・・・・。
「・・・・・・・・・。」
高飛車そうな、されど顔は綺麗に整った綺麗な女の人が立っていた。
制服からして宮田と同じ高校の生徒らしいことは分かった。
「・・・・え・・・。」
とが言葉に詰まっていると。
「・・行って良い。」
宮田がいささかげんなりした顔でを押し進めた。
「え?」
が戸惑っていると・・・・。
「一郎くん、私はその人に用があるの。」
高飛車そうな女は高飛車にそう言った。
「・・・・・・・えっと・・・。」
は困惑したように立ちすくむ・・・すると。
「あなた一郎くんの何?」
と、その女は聞いて来た。
「は?」
は聞き返す。
何だこれは。
何だこれは。
これじゃまるで・・・・・。
「あなた一郎くんの彼女?」
(やっぱりですかい!)
は徐々に顔を赤くしながら心の中で叫んだ。
そう、この女はを宮田の彼女と勘違いしているのだ。
「い、いやあの・・・・!!」
とがこんな綺麗でかっこいい宮田くんの彼女なんておこがましい!
と、誤解を訂正しようとすると・・・。
「・・・・・・・そうだ・・・こいつは俺の女だ・・・・・。」
・・・宮田が何かを言い出した。
(・・・・・・・・・・はい?)
今度はが鳩に豆鉄砲くらったような顔をしていると・・。
「わっ!」
ぐいっと宮田に肩を引き寄せられた。
トン・・っとの肩に宮田の鍛えられた脇腹があたる。
「・・・・・・っ・・・。」
はいきなりの宮田の訳の分からない行動に更に真っ赤になりながら黙った。
黙りこくるしかなかった。
そんなが真っ赤になっていると・・・・。
「な・・・何故なの一郎くん!なんで私よりそんな不細工な女!」
女はわなわなと怒りながら宮田に叫んだ。
「・・・・・・・。」
その言葉には少し平静に戻る。
「あら・・?しかもその制服・・・・・・。」
女はクスっと笑った。
「まぁ、不細工な上に頭まで悪いのね。」
その言葉には平静に戻った。
というか平静を通り越し・・・・・。
(何だ、この糞女・・・・・・。)
は顔を引き攣らせた。
別の意味で顔が赤くなる。
まぁ、確かに言ってる事は当たってるけどさ。
わざわざ言わなくても良いじゃん。
は心の中で思う。
「一郎君。そんな女より私の方が断然良い女じゃない。
そんな女捨ててしまいなさい。そして私を・・・・・・・・。」
と、女が言いかけた時だった。
「悪いけど・・・・俺こいつしか良い女だと思えないんで・・・・・・・。」
宮田がまたおかしな事を言い出した。
「・・・・・・・・・・。」
の顔の赤が違う意味の赤にまた染まる・・・・。
「な!私よりそんな女の方が良いと言うの!?」
その言葉に宮田は・・・・。
「・・・・・・・あんたよりの方が数段良い女だな。」
鋭い目つきでそう言い放った。
「・・・・・・・・・・。」
はそんな宮田にもうメロメロだった。
いや、惚れてはいなかったけど、これは女なら誰だって惚れるだろう・・。
こんな事言われちゃあ・・・・・・。
と、呆然と思っていると・・・。
「じゃあな・・・・俺にはこいつがいるからもう俺にちょっかい出すのはやめてくれ。」
宮田はそう言うと。
「行くぞ・・・・・。」
との肩を抱き、宮田は颯爽と歩き出した。
「・・・・・・・・・・。」
は宮田に抱きかかえられながら呆然と歩く。
背後で女のヒステリーな声が聞こえたような気がした・・・・・。
そして、そのまま周りの眼も気にせず、
宮田はの肩を抱きながら数十メートル歩き、曲がり角を曲がった・・・。
「・・・・・・・・・・。」
すると宮田はピタッと足を止め、パッとの肩を離した。
「・・・・・・・・・・。」
そして宮田に離された位置で呆然とは立ち止まっている。
の数メートル先までスタスタと宮田は歩き、
ピタッと立ち止まった・・・・そして・・。
「・・・・・悪い・・。」
はぁ・・と重い溜息をつきながらにつぶやいた。
「・・・・えっと・・・・宮田君・・・今・・のは・・・・・・。」
とは呆然とまだ赤い顔をしながらつぶやいた。
「すまん・・・あの女しつこくてな・・・お前を使わせてもらった。
そうすればあの女も諦めると思って・・・・・・。」
その言葉にはようやく納得が行き。
「あ・・・そういうことね!あーもうびっくりしたーー!!何かと思ったよ!!!」
は堰を切ったかの様に赤い顔を包みながら叫んだ。
もー。とが言っていると・・・。
「・・・・悪いな・・・嫌な思いさせて・・・・。」
と、宮田は顔は見えないが俯いた後姿で悪そうにつぶやいた。
「へ?」
は何が?という声を出す。
「・・・・・・・・あの女・・お前が馬鹿だとかなんだとか言ってたろ・・・。」
そんなの言葉に、宮田は初め沈黙しながら言った。
そんな言葉には・・・・。
「あ、あれ。あー、全然気にしないでー。事実なんだし。」
あは。と笑った。
「確かにあの人綺麗だったもんねー。初め見た時びっくりしちゃった。
それに宮田君と同じ高校って言う事は頭も良いわけだし・・・・・・。」
まぁ、あの性格はあれだけど・・・・。
とは言わず黙っていると・・・・。
「そんな事ねぇよ・・・・。」
宮田は小さな声でつぶやいた。
「え・・・・いやぁ・・お世辞は良いよ宮田君。」
は、あはは。と笑った。
「・・・・そんな事ねぇって・・。」
宮田はさっきより大きな声で言った。
「いやー、不細工も頭悪いのも事実ですし・・・・。」
しかしは、あはは。と苦笑した。
「・・・・・・・・。」
すると宮田がちらっとを見た。
「・・・・・・。」
え・・と、振り向いた宮田のその眼に黙り込んでしまうと・・・。
「じゃあ・・・・俺のも・・・・・・事実だ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・へ?」
は変な声を出してしまった。
事実って・・・・。
とが思っていると・・・。
さっきの宮田の言葉を思い出した。
『悪いけど・・・・俺こいつしか良い女だと思えないんで・・・・・・・。』
とか。
『・・・・・・・あんたよりの方が数段良い女だな。』
とか・・・・・。
とかとかとか・・・・・・・・・。
「・・・・・・・え・・え!?何!?宮田君!?」
が真っ赤になりながら叫ぶと。
「・・・・・・・・。」
宮田はふいっ・・と顔を前に戻してしまった。
最後にチラと見えたその顔は少し赤かったような・・・・・。
「み、宮田君!?」
が宮田に近づくと・・・。
「雨が降る・・・急ぐぞ・・・・。」
宮田はスタスタと歩き出した。
「あ!ちょっと待ってよ!何!?どゆこと!?宮田君!!!」
は後を追う。
しかしが走ると宮田も走り出し、ボクサーに敵うわけがなく。
されど、宮田はが後を追える。
しかし追いつけない速さで宮田は走った。
そんな追いかけっこをしているとポツと何かがの頬にあたり・・。
「あ!宮田君!雨が降り出したよ!!急がなきゃ!!!」
は走りながら叫んだ。
「ああ!急ぐぞ!」
そして宮田も叫んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
しかしは立ち止まった。
すると宮田が振り返る。
「何してんだ、置いてくぞ!」
と・・・・・・・・・・・。
本人は・・・気付いてないらしい・・・・・。
「・・・っ・・・はーーーい!今、行きまーーーす!!」
そしてはまた赤い顔をしながら宮田の後を追った。
鴨川ジムに帰ることも忘れ、このまま宮田の家に一緒に行くようだ。
本人は・・・気付いてないらしい・・・・。
もうお芝居は終わったのに・・・・宮田がまだ、
を『』と呼んでいる事に・・・・・・・・・・・・。
終。
2004/03/02....