看護記録。
01
「こんにちはー。」
は今日も変わらないジムでのバイトを過ごすはずだった・・・・・・。
「あ、ちゃん、ちーっす。」
「よぅ。」
「あ、さん。」
「あ、今日もお疲れ様でーす。」
は中に入って三人で固まっていたいつもの
木村、青木、一歩の三人に挨拶され、挨拶を返した。
そして気付く。
「あれ?鷹村さんは?ロードワークですか?」
いつもならそこにある巨体が今日は無い事に・・・・・。
『・・・・・・・・・・。』
すると三人は『あー・・・』と顔を見合わせ言葉を詰まらせた。
「?・・・どうしたん・・・・」
ですか?とが言おうとした時。
「全く!あいつ何しておるんじゃ!!!!!!」
バッターン!!とドアが開いた。
出てきたのは・・・・・。
「会長・・・・・。」
そう、叫びながら出てきたのは額に青筋を立てた会長だった・・・・・。
「・・・・会長・・・こんにちは・・・。」
と、は一応、恐る恐る挨拶をする。
「ん?なんじゃか・・・もうそんな時間か・・・。」
会長は苛々しながらそんな事を言う。
「・・・・・ど、どうかしたんですか?」
は恐る恐る聞いた。
しかし・・・それが後から考えればいけなかった。
「・・・・・・・・行ってこい。」
「は?」
会長の言葉には何?と聞き返す。
「鷹村がこんのじゃ!!!電話かけても出やしない!!!ちょっと家に行って引っ張って来い!!!」
会長は叫んだ。
「は、はい!」
は怒鳴られ勢いで返事をする。
「頼んだぞ!」
すると会長はバタン!とドアを閉め、トレーニング室から去って行った・・・・。
「・・・・・?」
そしてそこには頭に疑問符を浮かべ、冷や汗だらだらなが残った・・・。
「あー、ちゃん・・・タイミングがまずかったなー。」
木村が声をかけて来た。
「どういう事ですか・・・?」
が問うと、今日は午前中に来るはずだった鷹村が
もう午後なのに一向に来ないそうだ。
会長が家に電話したのだが、留守電になって出ない。
もうすぐ試合も近いのに練習を休んでいる鷹村に会長はおかんむりで、
自分がアパートに行こうと思ったのだが、
大切な電話がかかってくるため、ジムを離れられないらしい・・・。
「で、あたしが行けと・・・・・・・。」
は三人に言う。
「丁度良いタイミングで来ちゃったからな〜ちゃん。」
「僕たちはトレーニングがあるから行けないしね・・・。」
「今行ったら『お前達は自分のトレーニングをしろ!!!』とか言われそうだしな〜。」
「は!?じゃあ、あたし一人で行くんですか!?」
は今更の事を言う。
「そうだね〜・・・・まぁ・・・気をつけて。」
「痴漢撃退ブザーでも持っていって頑張れよ〜。」
「さん・・・気をつけて・・・・。」
と、目をそらしながら言う三人・・・・。
「いやー!嫌だ!あの部屋入ってろくな事が無かった!!!!」
はあの部屋に入って今まで起こった事を思い出しながら叫ぶ・・・。
「!」
しかし、そこではっとした。
「鷹村さん・・・電話に出ないって事は家に居ないんじゃないんですか・・・?」
と。
「そうですよー、またどっか飲みに行って
どっかのお姉ちゃんの部屋に・・・それならあたし行かなくても!」
と言うが・・・。
「でも・・・今の会長の怒り鎮めるには行って居なかったって言わないとなぁ・・・。」
青木がぽつりと言った・・・。
居ても居なくてもどの道には行く道しかないらしい・・・。
「ま、まぁ!どうせいねぇよ!な!一歩!」
「そ、そうでよすね!さん!行ってノックして帰ってくれば良いんだよ!!」
二人はを慰める・・・。
「・・・・・・・・・い、行ってきます・・・・。」
そしては泣く泣くそのままジムを出て、
鷹村の家・・・太田荘へと向かった・・・・。
カン・・・カン・・・カン。
(どうか居ませんようにどうか居ませんように・・・・。)
はブツブツと祈りながら太田荘の階段を上っていた。
あのまま嫌々ながらもジムを出て、は太田荘へとやってきた。
そして階段を上がり、今、鷹村の部屋の前まで来ている。
「・・・・・・・・・。」
そして、よしっ!と心を決めてノックした。
コンコン・・。
「・・・・・・・・・。」
コンコン・・・・。
「・・・・鷹村さ〜・・・ん。」
は小声で鷹村の名を呼ぶ・・・。
「・・・・・・・・・・・・。」
しかし中から返事は無かった。
やったぁ!!!居ない!!!!
と、は喜び帰ろうとした。
しかし、その時中から電話の音がした。
(あ・・・会長が電話してるのかな・・・?)
居ないのになぁ・・・と、が思った時。
ガタン!
と、音がした・・・・。
「・・・・・・・・・・・。」
は帰ろうと扉に背を向け歩き出そうとした状態のまま硬直した。
(居 る の ?)
は会長が電話さえしなければ居ないって事で気付かずに帰れたのに!!!!!
と、その時初めて会長を恨んだ。
「・・・・・はぁ・・。」
仕方が無いのでは観念した。
居るのに居なかった。と嘘はつけない・・・。
元々嘘はつけない、ついてもすぐばれる人間だ。
会長に嘘はつけないよ・・・と、 は思い、またドアを叩いた。
コンコン。
「鷹村さーん。居るんですかー?ですー。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
しかし返事は無い。
なんだぁ?とは思いながら、
もう面倒くさいので試しに開けるか?と、ドアノブを回してみた。
ガチャ・・・・キィ・・・・。
(・・・・・・・・開いた。)
鷹村の部屋のドアが開いた。
物騒だな〜・・と思いつつも鷹村の家に泥棒が入ったら泥棒の方が可哀相か・・・。
と、思い扉を開け、中を覗いた。
「・・・・鷹村さーん?」
は玄関からガラスの戸で見えない部屋の中に声をかける。
「・・・・・・・・。」
部屋の中は電気はついておらず、日の光だけで薄暗かった。
中は静まり返っている・・・・・・。
本当に居るのか?さっきのは違う部屋の音か・・・?
と、は思いながら玄関で立ち往生していた・・・・・。
「・・・・・・・。」
中に入ろうか入らないか・・・は悩む・・・・・。
でも、これだけ声をかけても出てこないということは・・・居ない・・・のだろう・・・・。
と、は思い、一応鷹村が居ない事の確認の為、靴を脱ぎ部屋の中に足を踏み入れた。
「お邪魔しまー・・・す・・・。」
台所を歩き、はガラス戸に手を置き、中を覗いた。
すると・・・・・。
(・・・・・・・何か・・・居る・・・。)
そう、何か・・・誰かが居た・・・・鷹村・・・なのであろうか?
部屋の隅に敷かれた布団に誰かが頭からつま先まで
くるまっているようなのだ・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・。」
顔も指も足も出ていないので鷹村かどうか分からないのだが・・・。
ここは鷹村の部屋だし・・・と思いつつ、は戸惑った。
布団にくるまっているのは鷹村なのであろうか・・・。
でも、鍵が開いていた・・・。
泥棒が来ていて逃げるに逃げ出せず、布団にくるまってるのか・・・?
次第に冷や汗ダラダラになって来た・・・・・。
(どうしよう・・・どうしよう・・・・たか・・鷹村さん・・・????)
と、心の中で問いかける。
もし泥棒だったら布団を剥いだら何されるか分からない・・・。
でも、鷹村さんだったら・・・・どうしたと言うのだろうか・・・。
あの鷹村さんが布団にくるまって出てこないなんて・・・・・・・。
どうしようどうしようどうしよう・・・・。
と、は考える・・・そして、取り合えず・・・もう一度声をかけてみよう。と、思った。
「・・・・鷹村さん?」
「・・・・・・・・・・。」
返事は無い。
「・・・・・鷹村さん!!!!???」
「・・・・・・・・・・・・・。」
返事は無い。
「たーーかーーむーーらーーさーーーーーん!!!!!!!!」
は思いっきり叫んだ。
すると・・・・・ごそごそと布団が動き・・・。
「・・・・・・・・・・・・あ・・・?」
髪は下り、眼を細め、不機嫌そうな鷹村の顔が布団の中から出てきた。
「あ!鷹村さん!良かった〜!居たんじゃないですかー!」
は布団から出てきたのが鷹村でほっとしながら叫んだ。
すると・・・。
「・・・・・・うるせぇ・・・・。」
と、鷹村はつぶやきながらまた布団へと潜ってしまった。
「・・・・・へ?」
はそんな鷹村に疑問を抱く。
「・・・鷹村さん、どうしたんですか?ジムに来いって会長が怒ってますよ?」
そして、布団の虫の鷹村を揺する。
「・・・・・・・・。」
鷹村は布団に入ったまま答えた。
「・・・ジム・・・行かねぇよ・・・寒ぃんだよ・・・・・。」
と。
(寒い?)
はそんな鷹村の言葉に更に疑問を抱く。
今は冬・・・であるが、もうすぐ春。という季節である。
それに今日はそんなに寒くない。
天気予報も見たが、春並みの温かさである。
しかも、ボクシングに対してだけは真摯な鷹村が、練習に行かないだなんて・・・・。
(まさか・・・・。)
はまさか・・・と思いながら鷹村に聞いた。
「鷹村さん、寒いって背筋が寒いんですか?」
その問いに布団の中から鷹村は・・・・・。
「・・・・・・ああ・・・。」
と、答えた。
「・・・・・・・だるく・・・ありません?」
は更に聞く。
「・・・・・・ああ・・・。」
と、更に鷹村は答える。
「・・・・鷹村さん・・・ちょっと良いですか?」
は鷹村の布団を剥いで顔を出そうとする。
「・・・・・・あんだよ・・・。」
顔を空気に晒された鷹村は不機嫌そうに顔をしかめた。
「・・・・・・・・・。」
鷹村は微かに震えていた。
「ちょっとすいません・・・。」
と、は鷹村の額に手をあてた。
そしてそのまま手を頬に持ってくる。
(・・・かなり熱いですよ・・・鷹村さん・・・・。)
そう・・・鷹村は・・・・・・。
「・・・・鷹村さん・・・風邪ひいてるんですか?」
明らかに風邪をひいて熱を出していた。
「・・・・・・・・・・・・・。」
その言葉に鷹村は・・・・。
「・・・風邪なんか・・・小物がかかるもんだろ・・・
オレ様は・・・そんなもんには・・・かからん・・・。」
布団の中からか細い声でそう答えた。
「・・・・・・・・・・・・。」
あのねぇ・・・とは思う。
が、どう考えても鷹村は風邪だ。
寒い・・・って事はこれから高熱が更に出るのだろう・・・。
あの鷹村がダウンしている今の時点で多分、かなりの熱だ。
と、そこへ電話がかかってきた。
会長かな?と思いは出る。
「もしも・・・・。」
【鷹村ーーーー!!!!!やっと電話に出おったな!?練習サボりおって!!!!】
キーーン・・・と鼓膜に響いた・・・・。
「か・・・会長・・・私ですけど・・・・・。」
は耳を押さえ顔をしかめながら恐る恐る言う。
【ん?おお、なんじゃか。鷹村はどうした。】
会長は声を元の大きさに戻して言う。
「それが鷹村さん・・・・風邪ひいて寝込んでるみたいなんです・・・。」
は小声で鷹村に聞こえないように言った。
聞こえたら『そんなんじゃねぇ!!』と怒り出すと思ったからだ。
【風邪ぇ・・・?なんじゃあいつ風邪なんてひいておるのか!?この大事な時期に!!??】
会長は風邪と聞いて少し信じられないような、呆れたような感じで叫ぶ。
【全く!あやつはこの年になっても自己管理も出来んのか!大体世界チャンピオンとしての自覚が・・・!!】
と、ぐだぐだと語り始めた・・・。
しかし・・・。
【まぁ・・・かかってしまったもんは仕方が無い・・・。】
会長は言うだけ言うと、諦めたのかそう言う。
そして・・。
【すまないが、今日はこっちは良いから鷹村の看病をしてやってくれ。】
と、会長はに言った。
「え!?か、看病ですか!?」
は焦る。
【ああ・・・どうせあやつの事じゃ、風邪なんかひいた事無くて対処の仕方もわからんじゃろう・・・。
もうすぐ試合が近いからな、早急に治さなければいかんのじゃ。頼んだぞ、。】
「は・・・はい・・・・。」
そう言われては断れない・・・はしぶしぶ承諾した。
すると会長はじゃあな。と言い電話を切った。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
はツーツー・・・という電話の音を聞きながら鷹村を見てしばし考えた・・・。
鷹村さんの看病・・・まぁ、風邪ひいてる鷹村さんなら大人しいだろうし・・・まぁ良いか。
それに風邪ひいた鷹村さんなんて滅多に見れるもんじゃないし・・・・。
と、はフフ・・・と少し笑いながら電話を切った。
こうして、鷹村の看病が始まった。
続。
2025/02/14...