賭けるモノ。













「はっはっはっ・・・。」





一歩は今日もいつも通りロードワークをしていた。

そしていつものコース、川の土手を走る。


今日ははバイトが休みの日だった。
そのせいか皆、覇気が無いが、一歩はそんな日でも真面目に練習をする。

欠かすことなく練習を・・・。









「ん?」


土手を走っていると見慣れた後姿を見つけた。





「・・・・・・・さん?」


「おわ・・・一歩君・・・。」


そう、それはだった。





は土手の斜面に座っていた。
一歩は近寄り声をかけるとの様子がいつもと違う事に気づき・・・。


「・・・・隣・・座ってもいいかな?」


そう声をかけた。
優しい一歩らしい行動だった。






「・・・・・・・良い天気だねー。」



一歩はそんな他愛も無い会話をしながらの様子を見る。



「うん・・・そだね。」



は暗かった。
周りの空気が重く・・・何か悩んでいるようだった・・・・。





聞いてあげた方が良いのか・・・。
それとも人のプライバシーに口を挟まない方が良いのか・・・。




一歩は悩む・・・。

彼自身としては彼の性分から悩みを聞いてあげたい。

が・・・・・。



と、一歩が悩んでいると・・・。







「・・・・一歩君は凄いな・・。」



は下を向き、草をブチブチと抜きながら言った。

「え?」

一歩はの突然の言葉に焦る。



「一生懸命頑張って・・もうすぐ日本一か・・・・
あたしは・・何を頑張ってるんだろう・・。」



は今度は空を見上げながら言った。




「どれも普通にこなしてるだけ・・・最後にあたしには何が残るんだろう・・・・。」





「・・・・・・・・・。」


一歩はの悩んでいることになんとなく察しがついた・・。

そしてうつむいたり空を見上げたりしながら・・・・彼らしく、

恐る恐る言った・・・・。



「僕は・・ボクシングと出会って・・・一生を懸ける物をこんなにも早く見付けられた・・・・。」



「・・・・・・。」


一歩の言葉には俯く・・。



「でも・・・見つけられる時は人それぞれで・・・一生見つけられない人もいるかもしれない・・・。
でも・・・でもまださんは見つけてないだけなんだと思うよ・・・。
振り返ると普通にこなしてただけだけど・・・、
それはこなして来た物が懸けられる物じゃなかっただけなんじゃないかな・・。
・・・・僕だってボクシング以外は普通にこなしてるよ。
どんどん普通にいろんな事しいてけばコレってのが見付かるんじゃないかな・・・・。
そしたらそれを頑張ればいいんじゃないかな・・・・

何もしなかったら何も見つからないからね・・。」






一歩はそう言うとにっこりとあの笑顔で笑った。



「・・・・・・・・。」


一歩のその言葉とその笑顔に・・・もほほえみを返した。




「おっしゃー!何でもやってやる!!」



そしてはバッと立ち上がり、握りこぶしを天にかざした。


「色んな事やって色んな知識得て雑学王にでもなってやる!!!」



それはちょっと違うと・・・。と一歩は思ったが、
が元気になったのならそれで良いや・・。と、思った。




「あ!一歩君ロードワークの途中!?」

「あ、うん。」

「話し込んじゃってごめんね!!もうすぐ日本一の試合なのに!!!」

「ううん、大丈夫だよ。」





「じゃ、あたしも頑張るから一歩君も頑張ってね!」



はそう言うとにっこりといつもの笑顔で去っていった・・。








「うん・・・頑張るよ・・・。」


一歩はの後姿を見ながらそうつぶやいた。





君の笑顔が力になる・・・。












終。


2003/06/16....