いつもの何回目かの誕生日。












「あれ?そういえば今日ちゃん見ないけど休み?」


とあるまだ梅雨が明けきらない日の夕方、
ジムに来てトレーニングしていた木村は、しばらくジムで過ごしていて、
の姿を見かけないことに気付き、休憩中に青木に話しかけた。

「バーカ、今日は七夕だろ。休みもらったんだってよ。」

「え・・・ああ!そっか!
・・・今頃アパートでおいしいご飯でも作ってくれてるのかなぁ・・・。
うらやましいぜ・・・・。」

「ま!オレにはトミ子がいるけどな!毎年、彼女のいる誕生日は最高だぜ!」

しょんぼりした木村に、ガハハハ!と、青木が笑いながら言うと、

「・・・いいよなー・・・あんな人でも彼女持てるのに、何でオレは・・・。」

木村はそうつぶやきながら、離れたところで一歩の首を絞めている鷹村を見つめた・・・。

「そうだよな・・・あんな人に・・・。」

「オレなら無理だね。」

「オレも。」


そんな会話をしてると、一歩の首を絞めたまま、ぐるんと、鷹村が二人を見た。


「キサマら!何やらオレ様の話をしているな!」


(なんつー勘だよ・・・。)

と、二人は思いながら、


「いや!今日、誕生日っすよね!」

「おめでとうございます!」


と、ごまかした。






一方そのころ鷹村のアパートでは・・・。


「あとはおにぎり握って・・・。」


鷹村のアパートの狭いキッチンでが鷹村の誕生日祝いの食事を用意していた。

わざわざ有給を使い休み、昼頃にケーキを買って鷹村のアパートへとやってきた。
案の定、部屋はぐちゃぐちゃだったので、
ケーキを冷蔵庫に閉まってから、まず片づけをして、
誕生日のごちそう・・・とまでは言えないが、
ささやかながら精一杯の、鷹村の好物を作っていた。

(鷹村さんの好物は一歩くんのお母さんの料理なんだけど〜・・・
毎年、似たようなもの作っても、
母ちゃんの方がうめぇって言われるんだよなぁ・・・。)

と、調理をしながらは残念そうな表情をする。
まぁ、あのお母さんの手料理には適わないだろう・・・。
と、思いながら時計を見る。

「あと一時間くらいか・・・・。」

はもう出来上がりそうな料理たちを見てほっとした。



鷹村のアパートで鷹村の誕生日を祝いだして何回目だろう・・・。

最初は誕生日プレゼントを渡すだけだったが、

付き合ってから二人でパーティーのようなものをするようになった。

毎年、鷹村は別に嬉しそうにはしていないが、

最後には『あんがとな。』と言ってくれるので、

は鷹村の性格上、一応喜んでくれてるのかな?と、思い、続けている。



「鷹村さんの性格をいちいち考えながら付き合うのは正直めんどくさかったりするのよね。」


はテーブルに料理を並べ終え、ふぅと息をつきながら一人つぶやく。


それでも、付き合っているのは、これだけ誕生日に頑張って料理を作るのは、

そんなめんどくさい人でも・・・やっぱり好きだからだ。


「なんだかんだ嫌いになれないから厄介なんだよなー・・・・
あの人何だかんだみんなに好かれてるしね。」


キッチンに戻りながらは少し微笑んでまたもつぶやく。


不思議な人だ・・・カリスマ性というものだろうか・・・と、
思いながら、鷹村が帰ってくるまでキッチンを片付ける。





カンカンカン・・・と、階段を上ってくる音と、鼻歌が聞こえた。

(多分、鷹村さんだな。)

は、エプロンを外して、すぐそばの玄関へと向かう。


ガチャガチャと鍵を開け、扉が開く。


「鷹村さん、おかえりなさい。誕生日おめでとうございます。」


は笑顔で鷹村を迎えた。


「・・・・おう。」


玄関で出迎えたに面食らう鷹村。
予想はしていたが、思わず一歩後ろに下がってしまう。


「ごはん作りましたよ〜!一歩くんのお母さんの味にはかないませんけど。
あと、嫌いでしょうけど一応ケーキも。これは私が食べます。」


は嬉しそうに背を向け、冷蔵庫からケーキを取り出そうとする。


「・・・・・・。」


わかってはいたし、もう毎年のことだが、

記憶にある範囲では、幼いころに家族に誕生日を祝われた数回と、

ここ数回に誕生日を祝われたのが、

鷹村の、誕生日を祝われた、生まれてきたことを祝われたことなので、

圧倒的に何もなく、一人カップラーメンをすすっていた誕生日が

ほとんどの鷹村は、何だか居心地が悪いような・・・

なんとも言えない気持ちになるのがここ数年だった。


でも・・・・。



「あんがとな・・・。」



靴を脱ぎながら下を向いてぼそりと言った言葉は、

まぎれもなく本心で・・・。


「え?何か言いました?」


振り返ったには、それは聞こえなく、聞こえないように言ったのだが、


「なんでもねーよ。おーおー、たくさん飯作ったな。」

「誕生日ですから。」

「あんま食うと後でつれーぞ。」

「え?何でです・・・」


か?と、言いかけては察して顔が赤くなり、
鷹村はニタニタと笑っていた。


「もう!いいからご飯食べましょうよ!!!」

「へいへい。」



そんな何回目かの、二人で祝う鷹村の誕生日が始まる。







終。



2022/07/07...