いつかの日のために。













カシャ。


は道端の花を撮った。


「あにやってんだよ。置いてくぞ。」


先を歩いていた鷹村が振り返り、めんどくさそうに言う。


「ああ!待ってください!」


一緒に歩き出してから、鷹村はちらっとの手元を見た。

「お前、最近ずっとそれ持ってんな。」

の手元には、アンティークのフィルムカメラがあった。

「はい!最近、写真撮るのにはまってるんです!」

カメラを持ち上げてはうれしそうに言う。

「おもしろいのか、そんなん。」

あきれた顔でふっと息を吐く鷹村。

「おもしろいですよー!ちなみに、鷹村さんの寝顔もひそかに撮ってます。」

ふふっとが言うと、

「壊す。」
「ああああああ!!!!」

鷹村はカメラをつかみ、その握力で握りつぶそうとした。




「カメラ高かったんだからやめてくださいよ!」
「おめぇが、余計なことすっからだろ。」


なんとか懇願して手を離してもらうと、壊れてないかなーと、心配しながらはカメラを見つめる。


「だって・・・大切な思い出になるじゃないですか・・・。」


そうがつぶやくと・・・。


「・・・・思い出が、やっかいなことになる時もあるかもしれねぇぞ・・・・。」


鷹村がぽつりとつぶやいた。


「え?」


鷹村の言葉には顔を向ける。
鷹村はただ前を向いて無表情だった。


二人は、なんとなくただ黙々と、鷹村のアパートまで歩き続けた。


「・・・・・・」


はカメラを見つめながら、鷹村の言葉の意味を考えていた。


思い出が、やっかい・・・・・。



ああ・・・そういう意味か。




いつか、別れる時がきたら、たくさん撮った写真たちは、
苦しみを産む物にしかならない。


今は、幸せでも・・・・いつか・・・別れがきたら・・・・。



鷹村が、アパートの階段をのぼっていく。


は、カメラをかまえ、ファインダー越しに、
鷹村と鷹村のアパート捕らえ、
そしてそのままカメラを空に向けて、シャッターを切った。



いつかの日のために、


想い出は、


心の中にだけにしとこう。


きっとそれでも、


ものすごく、


苦しむのだから・・・・。







終。



2021/05/01...