花言葉を知らない君がくれた花
8月のとある日。
今日もは鷹村のアパートで片付けやら炊事やら何やらとしていた。
付き合って数年、これが日常になっていた。
そして今日はの誕生日である。
しかし、は既に鷹村に何も期待していなかった。
付き合って初めての誕生日で何もなく、自分から誕生日だと告げたら・・・。
『そうか・・・めで、たい。』
と、目が出るようなジェスチャーと、釣り上げられた鯛のように
ビチビチと体をゆする真似をして終わりだった。
は?と思い、色々と言っただったが、
テレビを見て、そうか・・・とスルーされたので、
別れようかと思ったが何とか踏みとどまり、
それからも誕生日には色々と呆れることばかりだったので、
もう期待はしていなかった。
だから今回の誕生日も、普通の1日を過ごして終わりなのだろうと思っていた。
カンカンカンと階段を上る音がして、鷹村さんかな?と、は台所で顔を上げる。
ガチャガチャと鍵を開ける音がしてドアが開くと、
「おう。」
と鷹村が帰宅した。
「お帰りなさいー。」
がそう言って近づくと、
「ん。」
と、5本のバラの花束を差し出された。
「え・・・。」
硬直する。
「お前、今日誕生日なんだろ?」
鷹村の言葉とはじめて貰う誕生日プレゼント。
しかもバラの花束にが動揺していると・・・・。
「板垣がバラ5本買って渡せってうるせえから買ってきた。」
その言葉に、嬉しさが少し込み上げていたの気持ちはしぼんでいき、
ハハ・・・と言う空笑いが漏れた。
「でもなんでバラ5本なんですか?」
バラの花束を受け取りながらが問うと、
「知らん、ハナコトバ?がどうとか言ってたな」
鷹村は部屋へと入っていく。
「花言葉・・・・。」
はポケットからスマホを取り出し、
『花言葉 バラ5本』
と検索する。
出てきた言葉に、少し瞳を見開いた。
そしてふっと嬉しそうに微笑みながら・・・
(板垣くんモテるはずだな・・・・。)
と、は部屋の中で座っている鷹村に近づき・・・。
「鷹村さん。」
声をかける
「あ?」
振り返った鷹村に、
「これあげます。」
はもらったばかりのバラ5本の花束を差し出した。
「・・・お前にやったんだろう。それに今日、誕生日なんだろ?」
鷹村は訳が分からない顔をする。
「いいから受け取ってください!そしてまた私に渡してください!
誕生日のわがまま・・・聞いてください・・・。」
「・・・・・。」
そう言われてはさすがの鷹村も断れない。
なんだかんだ言いつつも、誕生日にありえない態度をとっても、愛する彼女だ。
鷹村はバラの花束を受け取り、そしてまたに差し出した。
「ありがとうございます。」
嬉しそうに微笑んで、は台所へと戻った。
「?」
意味がわからないという顔をしている鷹村。
彼は知らない・・・。
バラ5本の花言葉の意味が、
『あなたに出会えてよかった』
という言葉だということを。
(板垣君には何かお礼しないとな・・・・。)
嬉しそうに台所に立つは、バラを見つめながら微笑んでいた。
終
2025/10/16...