はじまりは、何気ないつぶやき。
ツンデレや俺様が好かれるのは、マンガとかの中だけだ。
私は目の前に立ちふさがる大男とにらみ合いながら、心底そう思っていた。
「だから!ボトルやタオルをそこら辺にポイポイ置かないでください!」
「うるっせぇなぁ!それをやるのがてめぇの仕事だろ!!」
目の前にいる大男、鷹村守。
恵まれた体躯と運動神経で日本ジュニアミドル級チャンピオンになった。
だが、性格は最悪だ。
いや、隠れた優しさとかはある。
仲間思いだし、ボクシングにたいしては真剣で、練習姿に加え、特に試合はかっこいいと思う。
だけど・・・女性関係はふしだら。
一度行った家はぐちゃぐちゃ。
そして何より、王様オレ様精神。
みんなを・・・特に私を召使いか何かと思っているようで、このジムに事務員兼雑用係として入ってからしばらくして、やたらと私に世話をやくように言ってきた。
はっきり言って、迷惑だ。私にも他にやる仕事がたくさんある。
だから今日も言い合いになった。
と鷹村さんがにらみあっていると・・・。
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて。」
木村さんがやってきた。
その後から青木さんも来る。
「鷹村さんー、自分家じゃないんすから、少しは放り投げやめましょうよ。」
木村さんは鷹村さんに笑いながら言う。
「そうっすよちゃんは鷹村さんの召使いじゃないっすよー。」
青木さんも腕を頭の後ろに組みながら、援護してくれた。
「うるっせぇなぁ・・・別にいいじゃねぇか、それが仕事なんだからよぉ・・・。」
「私の仕事は他にもあるんです!鷹村さんだけの召使いじゃありません!!」
なぜかすねた様にそっぽを向いてムスッと言う鷹村さんに、私は怒鳴った。
「でもちゃんが来てからだよな、鷹村さんがこうなったの。」
苦笑しながら木村さんは言う。
「え?」
私が声を出すのと同時に、鷹村さんが木村さんを殴っていた。
「いってーな!なにすんすか!」
「うるせぇ!」
そう一言怒鳴ると、鷹村さんはドスドスと行ってしまった。
「ちゃんがくる前は、ちゃんと自分で片づけてたんだよ。ちゃんにかまってほしいんだろうな・・・。」
そうポツリと青木さんが苦笑いで言う。
「え・・・。」
(なんだその小学生みたいな愛情表現・・・。)
それに私は思った。好意を持たれても困る・・・正直あんなツンデレ俺様とは付き合いたくない・・・。
「ははは。まぁ、あの人は素直じゃないから・・・かまってほしいし、本気でちゃんにイラつかれて悲しかったんだろ。」
一息ついて、木村さんも言う。
「いや・・・素直じゃないにもほどがありますよ、私にかまってほしいって、逆に嫌いになりますよ!!」
私は怒りながら木村さんに言う。
「まぁ・・・普通はそうだよね。」
ははは。と、木村さんは苦笑いする。
「まぁ、すげー嫌ならオレから会長に言うけど・・・どうする?」
そして優しくほほえんで聞いてきてくれた。
さすがに会長に頼むのは・・・と、思い、
「いいです・・・もうほっときます!」
と、私はフン!とむくれた。
「あ〜あ・・・付き合ったり、結婚するなら、ほんと、木村さんみたいなタイプを選びますよ・・・。」
そしてため息のように、私は腰に手をおいて、うつむきながらつぶやくように言った。
「え・・・。」
小さなその言葉に顔をあげると、木村さんは赤くなっていた。
「え・・・。」
私も動揺する。
「ちょ、照れないでくださいよ!やだなー!木村さん優しいから!優しいと、一般的にもてるじゃないですか!」
思わずつぶやいてしまった発言に、私も恥ずかしくなって、笑いながら木村さんにそう言うと、慌てて放っておくはずだった散らばっている鷹村さんの物を片づけ始める。
「あ、そ、そうなんだ!はは、まぁ、俺はモテねーけど・・・。」
照れた笑顔で後頭部をかく木村さん。
でも、改めて思う。
このジムで付き合ったり結婚するなら、木村さんか幕之内くんかな・・・と。
「なぁーに、いちゃついてんだよ、お前ら。」
そこへ青木さんがあきれたように言ってくる。
「!?」
私と木村さんは青木さんをバッと見た。
「い、いちゃついてないですよ!!何いってんですか!!!」
赤くなりながら言う私。
「そ、そうだよ!トミ子と年中いちゃついてるからって誤解すんな!」
そして同じような木村さん。
「そうかー?鷹村さんはちゃんに気があるみたいだけどちゃんはむしろ嫌ってるみたいだし・・・お前チャンスあるんじゃねーの!」
そう言って青木さんは木村さんの背中をわはは!とバシバシ叩く。
「お、おい!うるせぇよ!!!」
木村さんは真っ赤になっていた。
「青木さん!」
私も赤くなりながら名前を呼ぶ。
「ははは。まぁ、お前等がくっついたら鷹村さんぶち切れだろうけどなー。」
そう言いながら青木さんは手をひらひらとさせ、さっていく。
「・・・・・。」
残された私たちは・・・微妙な空気に。
「わ、悪ぃな!青木が変なこと言って!」
木村さんがははは!と、笑って色々ごまかそうとする。
「いえ!もとはといえば、私のせいなんで!」
苦笑いしながら私も気まずい空気をごまかす。
「じゃ、じゃあ、オレ、練習にもどるから・・・。」
「あ、はい・・・。」
そう会話して、私たちは別々の行動に入った。
「・・・・・・。」
私腕の中にある、さっき慌てて集めた鷹村さんの放置したタオルやドリンクホルダーを見て、むかつきがぶり返し、ぺい!とベンチに投げて、事務室へと歩き出す。
しかし、私は何だかどきどきしていた。
なにげなく言った私のつぶやきが、これからの私と木村さんの関係を変えていったことは、今の私はまだ知らない・・・・。
終。
2021/11/12...