激戦の痕。













(また・・負けてしもうたな・・・。)




千堂は、先ほどまで二度目の一歩との激戦をしていたホールから、控え室までの階段を降りていた・・・。



「千堂、大丈夫か?」


柳岡が声をかける。
それもそのはず、今まで激闘を繰り広げていたのだ・・。
そして実は肋骨も何本か折れている・・。


「ああ・・平気や・・・柳岡はん・・・・。」


と、千堂が返事をした時だった・・。
バタバタとこちらへ走ってくる足音が聞こえた。
負けたのに記者か何かか?と思っていると・・。



「っ千堂さん!!!」


曲がり角から現れたのは、ぼろぼろと号泣しているだった。

「・・・・・・・。」

千堂は少し唖然とする。

「っ・・千堂さん!・・千堂・・千堂さん・・・。」

はぼろぼろ泣き、しゃくりあげながら真っ直ぐ千堂を見て歩いてきた。

「・・・・・・。」

ぽん、と千堂の肩を叩き、柳岡は気をきかし他のスタッフ共々先に控え室へと行ってしまった。







「・・・何、お前が泣いとんねん。ぶっさいくな面やわ。」



千堂はいつもの調子で笑って言う。

「・・・・・・・・。」

しかし、そんなものは今のに通じなかった・・。
は千堂の近くに寄ると、俯き加減にしゃくりあげながらまだ号泣していた。
本当は千堂の服でも掴んで泣きたかったが、あいにく服はズボンしかない。




「・・・・また・・負けてしもうたわ・・。」



そんなを見て、千堂はぽつりと言った。


「あんだけやったんやけどなー・・・また勝てへんやったわ・・。」


はは、と千堂は自嘲的に、少し、悲しそうに笑った・・・。




「っそんなの!・・・負けても・・・負けても・・・!千堂さんは格好良かったよ!!!」



は泣き顔で叫んだ。
廊下の奥からは一歩が優勝した騒ぎがまだ収まらず、廊下まで響いていた。

でも、そんなものは二人の間には関係なく・・。



「格好良かったよ!強かったよ!凄かったよ!!もう・・見てたら涙出てきちゃっ・・て・・・うっ。」


そしてはまた泣き出した。
その涙は何の涙なのか・・・。

千堂が負けて悔しい涙。
千堂が格好良かった涙。
千堂の身体が心配な涙。

こんな人と出会い、こんな試合が見れて嬉しい涙・・。


色々な涙だった・・・。






「・・・・・・・・。」




うぅ〜・・。と顔に手をあて、泣くを見ていた千堂・・。



「・・・・!」


千堂はすっと・・手を出し・・を優しく抱き込んだ。
それは怪我のせいで優しくしか出来ないせいもあるが・・・。


「お前が泣くなや・・馬鹿・・・泣きたいんわ・・こっちや・・・。」


そして千堂はの肩に額を置いた。

「・・・・・。」

そしてにかすかに伝わってくる震えと、肩にポタッと感じる熱い物・・・。


千堂も泣きたかったのだ・・・。
リングを降りるときに込み上げてきたが抑えてたものが・・・
に会い、今、堰を切って溢れてきた。

負けて悔しいからじゃない・・・。
それももちろんあるが・・・・。

色々なものが混ざり合って・・。

と同じ・・色んな物の涙だった・・・・。




「・・・・っ・・千堂さん・・・・。」


も千堂の身体を抱きかかえた。







「・・・・お前がいてくれて・・・良かったわ・・・。」






千堂はそう小さくつぶやいた。

その言葉にはどう反応していいか困惑したが、相変わらず泣いていた。







ここから・・。

ここから始まるんや・・・。


ボクシングも・・・。




こいつとも・・・。







全てがな・・・・・。













終。


2003/06/28....