不本意ながら。













それはが社会人になってしばらくたった、ある晩のことだった。



「鷹村さーーーん!!!」



バターーン!という大きな音と共に、勢いよく鷹村の部屋の扉が開いた。


「ブッ!」


鷹村は布団の上で飲んでいた水を少し噴出す。


「な、なんだぁ!?」


鷹村があせりながら扉のほうを見ると、靴を脱ぎ、バタバタとスーツを着たが部屋へと上がってきた。


「鷹村さーん!もう聞いてよ!ほんっとやだ!!もう飲むよ!今日は飲むしかない!!」


ズカズカと断りもなしに上がり、テーブルの前まで来ると、
は手に持っていたコンビニ袋をガンッ!と、乱暴にテーブルの上に置く。

袋の中身は、ビールやチューハイ・・・・


「だからなんなんだよ!?お前は!?」


突然のことに、少々切れ気味にに叫ぶ鷹村。
いきなり部屋に来て、ぎゃあぎゃあわめいているのだから、鷹村の気持ちも分かる。


「聞いてよ!もう、ほんっっっと!むかつくの!あのクソ部長!!!」


は鷹村のことなどお構いないしに、あああ!!と怒りをあらわにしながら畳の上にドカッと座った。


「てめぇ・・・・」


俺様の話聞いてねぇな・・・?と、鷹村のこめかみに青筋が立つ。


「はい!鷹村さんも飲んで!!はい!かんぱーい!くたばれ部長!!!」


「乾杯じゃねぇ!聞いてんのか俺様の話!!!」


「・・・・・なによぉ・・・・」


ビールに口をつけながらは眉間にしわを寄せ、むっとする。
的には、今は自分に合わせて一緒に乾杯して、お酒を飲みながら、ひたすらに自分の話を聞いてほしいのだ。

だが、鷹村がすんなりそんなことをしてくれるような性格ではない・・・のはわかっていた。

わかっていたが・・・・イライラしている中、浮かんだ顔は、鷹村だったのだ。



「なによじゃねぇ!!!なんなんだてめぇは!!!」


「・・・・・今日!会社で嫌なことがあったの!!誰かに愚痴りたかったの!!!
だから付き合ってよ!私の話を聞いてよ!!!」


鷹村の怒声が飛ぶとも負けじと声を荒げた。
眉間にしわを寄せ、目をぎゅっとつぶりながらビールの缶を持った手も、
空いてるもう片方の手も、テーブルの上で握り締め、悲痛な面持ちで訴える。


「・・・・・・・・・・」


そんな風に訴えられると・・・・鷹村も無下にはできなかった。

これが木村や青木や一歩だったら、即、『帰れ!!』と蹴り出してるだろうが、
一応、自分の惚れてる相手・・・・そんな、泣きそうな顔をされると・・・・・・


「チッ・・・・一本よこせ。」


自分が折れるしかなかった。

鷹村は片ひざ立てていた格好から、ドカッと畳に座ると、テーブルの上の何本もの酒缶から、
一本ひったくるように取り、はぁ・・・とため息をつきながらプルタブを開けた。


「・・・・うっ・・・・うわぁああああん!!!」


「!?」


しかし、口をつけかけたビールをこれまた噴き出しそうになる。


「なっ・・・!?」


突然が大声を出しながら泣き出したからだ。


「お、おい!?」


子供のように大声を上げて泣きじゃくる・・・・。


「なんで泣くんだよ!?愚痴るんじゃなかったのかよ!!!?」


鷹村にはわけがわからない・・・・。


「うっ・・ひっく・・・・うっ・・・・鷹村さんがっ・・・・」


は手の甲で涙を拭いあげ、しゃくりあげながら、何かを言おうとする。


「鷹村さんがやさしいからぁ〜〜〜!!!」


そしてまた、うぇえええええ!!!と、大声で泣き出した・・・。


「・・・・・・・・」


鷹村にはわけがわからなかった・・・・。


ただ、あぜんとしながらを見ていたが、しゃくりあげ、涙を拭い続けるに・・・・



「おら・・・・こっちこい・・・・」



と、腕をひっぱり、抱え込むと、バサッと一緒に布団の中に寝転がった。


「うっ・・・くっ・・・ひっく・・・・!」


「寝ろ寝ろ!寝ちまえ!」


鷹村の胸に顔をおしつけ、ぎゅっと抱きしめられながらしゃくりあげるに、
鷹村は有無を言わせぬようにそう言うとの頭まですっぽり布団をかけ、ポンッと頭に手を置いた。

「ひっく・・・・スーツ・・・しわになる・・・・」

「うるせぇ。いいから寝ろ。」

がくぐもった声でつぶやくように言うが、鷹村は聞き入れない。


「・・・・うっ・・・うえぇっ・・・・」


布団の中でもはまだ泣いていた。


「・・・・・・・・・・」


鷹村はの頭上でため息に近い息をつく。


きっと入社以来、積もりに積もっていたものが爆発したのだろう・・・・。


最近とはあまり会っていなかった。
平日は仕事。休日は疲れてるから家で寝てる。と、会う日は減り、
たまに会えたとしても、どことなく様子が以前とは違っていて、
疲れているというか、塞いでいるというか・・・覇気がないというか・・・・

そんなにどうしてやれるわけでもなく、
鷹村はいつも通りに接するしかなかったわけだが・・・・

ついに爆発したようだ。


(・・・・・まったく・・・・)


しかし、鷹村は内心、安堵していた。

これでよかったと思う。


溜まったものは適度に発散しないと、壊れてしまう。



壊れてしまってからじゃ、元に戻るのが大変だ。


壊れるのはあっという間だが、回復するのは倍以上の時間がかかるのを、
肉体的な怪我でしか見てきたことはない鷹村だが、他のものにも共通するだろうと、わかっていた。


だから、早めにガス抜きしてくれて、よかったと思う・・・・。







(あ〜〜・・・めんどくせぇ・・・・)



そして今、口には絶対出してはいけないことを、心の中でつぶやく。



(まったく・・・なんで俺様がこんなことしなきゃなんねんだ・・・・)



ぼやきながらも、しかし、鷹村はわかっている。







(まったく・・・・お前だけだかんな・・・俺様がこんなことしてやんの・・・・)







鷹村はムムムッと眉間にしわを寄せながらもを抱きしめる腕にぎゅっと力を入れた。















終。


2012/07/03....