ベルト。













「なー・・・部屋がまた散らかっちまってよぉ、また掃除しに来てくれねぇか?」







事の発端はそういえばこの言葉だったかもしれない・・・・。










「え・・・嫌ですよ・・・・。」


場所は鴨川ジム、まだ練習中だと言うのにゆったりと
ベンチに座っている鷹村にそう頼まれたは苦い顔をして断った。



「あんだよ、良いじゃねぇか。今度は何もしやしねーよ。」


「・・・・・あてになりませんので・・・。」



そう・・・以前、鷹村の家に迂闊にも一人で行ったは・・・・とんでもない目にあった。
まぁ、その話は前の話を参照してもらってはあれから心に誓ったのである・・・・。







二度と一人で鷹村の部屋には行かない。と・・・・。







だから鷹村の言葉をすぐさま断ったのだが・・・・。




「良いじゃねぇーかよー、ビデオでも何でもやるからよー。なんならベルトもやるぜ?」




「な・・・・・・・・」



その言葉には唖然とする。



「鷹村さん!いくら日本チャンピオンのベルトで
自分が興味ないかもしれませんけどそれは凄い物なんですよ!?
もっとベルトを大切にしてあげて下さい!!!」


そしては鷹村にぶち切れた。




「あー・・・おうおう。で、お前は来てくれんの?」





「っ・・・・・行きません!!!!!!!」











そんなこんなでその日は過ぎたのだが・・・・。

















「おいっすちゃん。」

「うぃーす。」


「あ、木村さんに青木さん。こんにちはー。」


数日後・・・は今日も元気にジムで働いていた。
そしてそこへ木村と青木が来る・・・・。


「あれ?鷹村さんいねーの?」


いつも自分達より早く来ているはずの鷹村の姿が見当たらなく、
木村はにつぶやいた。

「あ、そうなんですよー。何かまだ来てなくて・・・そろそろ来ないと
あたしが会長に呼んで来い・・・って言われちゃう・・・・・・・・。」

は泣きそうな顔になる。


「あ、はは・・・。」


(そんなに嫌なのか・・・・。)


と木村は思う。


「そしたら木村さん一緒に来てください!!!」


するとは泣きそうな顔で手を合わせて懇願した。

「え・・・あ、おう。」

木村は頼ってもらっているそんなの言葉と泣きそうな・・少し色っぽい顔に嬉しそうに頷いた。
しかし、そんなところに・・・・・。




「おーっす・・・・。」




鷹村がやってきた。



「あ、鷹村さんやっと来ましたねー。遅いですよー。」


やってきた鷹村には即座にむっとしながら言う。

(なんだ・・・きちまったか・・・。)

そして「鷹村さん家まで二人っきり・・」が叶わぬ夢となった木村は少しがっくりする。



「おう・・・。」



しかし、その日の鷹村は珍しく難しい顔をしてジムへとやってきた。



「「・・・・・・・・。」」



と木村はそんな珍しい鷹村を見て顔を見合わせた。

そこへ青木が・・・・。


「どうしたんすか鷹村さん?そんな難しい顔して。」


聞こうかどうか迷っていたはそんな青木の質問に答える鷹村に注意を向けた。





「それがよー・・・どうやら昨日、女にベルトあげちまったようなんだよ・・・。」







「はぁ!?」

「え・・・まじっすか・・・?」



青木と木村は呆然とする。


「ああ・・・酒飲んであんま覚えてないまま部屋に入れてよー、
何か話したらほしいとか言い出してやっちまったみたいなんだよなー・・・。」


鷹村はそんな事をさらりと話す。。


「・・・それ・・まずくないっすか?」


青木は鷹村さん・・・と言う。

「まぁ・・・鷹村さんがベルト奪われることはないからあれですけど・・・
挑戦者と戦う時にベルト一旦返還するし・・・世界にチャレンジする時も返しますよ?」

と、木村は言う。


「だよなー・・・俺も酔っててなー・・・なくしたから新しいの作ってくれ。とかって駄目か?」


鷹村は悠長にそんなことを言う。


「鷹村さん・・・・・。」


そんな鷹村に呆れる木村だが・・・・・・もっと呆れてる人物がいた・・・。





「・・・・・・・・鷹村さん・・・。」




ボソッとの声がして、鷹村は振り返る。

「おう。何だ?」

鷹村は呑気に答えた。



「ベルト・・・あげちゃったんですか・・・・・?」



そこには呆然と、どこか少し悲しそうな顔をしたがいた。


「あ?おう。」


「なんて事すんですか!全く!!
でも、彼女さんなんでしょ?今から返してもらいに行ってくださいよ!!」


そしては怒りながら叫ぶ。

しかし・・・。




「ああ?彼女なんかじゃねぇよ。昨日、知り合った女で、昨日会ってヤって
今日の朝にはおさらばした女だよ。だから連絡も取れねぇから考えてんじゃねぇか。」




鷹村はさらりとそう言った。






「・・・・・・・・・・。」





その鷹村の言葉にの顔がどんどん歪んで行った。






「昨日会ってヤった女って・・・何でそんな人にベルトあげちゃうんですか!!!」






そしては大声で叫んだ。


「「「・・・・・・・・。」」」


その声にジム中が静まり返り、三人は固まった。


「そんな・・・ただヤっただけの女って・・・・。」


は信じられない。と言う顔で鷹村を見た。


(ああ・・・ちゃんはこの人の女癖しらねぇからな・・・。)


木村はそんなことを考える。





「そんな女が貰うくらいなら・・・鷹村さんのベルト・・・あたしが貰えばよかった!!」




そしてはそう叫んだ。
そして叫んだ後、眼を涙でいっぱいにあふれさせ・・・・。



「っ・・・!!!!」



涙を手で拭いながらバタン!とジムの奥へと消えていった・・。








「・・・・・・・・・・・・・。」

木村は青木を見た。

「・・・・・・・・・・・・・。」

青木は何も言わず木村を見た。

が泣いていたことも重大だが、そのの発言も重大だった。




今の言葉・・・・・・大切なのはベルト?それとも・・鷹村・・・・?

何だ?

今の言葉はどういう意味・・・・・・・。





「「・・・・・・・・・・。」」


二人は鷹村を見た。






「・・・・・・・・・・。」





鷹村は無表情で立っていて・・・・・。






ドカドカドカドカ






バンッ!!!







そしてジムから出て行った。




「「・・・・・・・・・・・・。」」


木村と青木はただ、呆然と見ていることしか出来なかった・・・。







その日・・・その後鷹村はジムには来ず。


次の日ははジムのバイトが休みだった・・・。
だからその日鷹村がどうしてたかは知らない。



そしてその翌日・・・・・。










「・・・・・・・・・こんにちはー・・。」



はこっそりとジムの扉を開け、そう小さな声でつぶやいた。


「ん?おうちゃん。今日は来る日だったな。」

中には木村がいて。

「鷹村さんならいないぜ。」

にししと笑う青木もいて。

「え?鷹村さんとどうかしたんですか?」

わけがわかってない一歩がいた。



「あ・・・来てないんですか・・・・そうですか・・・。」


少しほっとしたは中に入る。
そして恐る恐る聞いた・・・。


「昨日・・・鷹村さんどうでした・・・?あたしあんなこと言っちゃったから・・・。」






「それはどういう意味ですか?」





という言葉を飲み込んで木村と青木は言った。


「あー、それがよぉ・・・。」

「鷹村さん昨日来なかったんだよ。」


と。


「え!?」


は焦る。


「な、何でですか!?」


「いやー・・・それが家に電話しても通じねぇしよ・・・
家に行って見ようかとも思ったんだけど皆忙しくてなぁ・・・
ちゃん・・・もいなかったし・・・。」


と、木村は言う。



「鷹村さん・・・・。」




がつぶやいた時だった。









「俺様がどうした。」







「うわぁああ!!!」








は背後からの声に思いっきり叫び、木村に飛びつき、木村のTシャツを握った。





「「「た、鷹村さん・・・・・。」」」



三人の声がハモる。






「あ、あの・・・・。」



そしてが気まずそうに言葉を発した。



「・・・・・・・・・。」



そんなを見た鷹村は・・・






「ほらよ。」




と言って何かを差し出した。


それは・・・・・・。






「「「ベルト!!!」」」






に加え、木村と青木も叫ぶ。

そう、鷹村が差し出したのは鷹村のベルトだった。



「ど、どうしたんですか・・・・これ・・・・。」



は唖然としながらベルトと鷹村を交互に見る。


「ああ?どうもこうもねぇよ。」


鷹村は、はぁ・・とため息をつく。





「ベルトやった女、一昨日と昨日中で探してよぉ。
ようやく見つかったと思ったらあの女俺様のベルトを
ネットオークション?とかいうやつで売ろうとしてやがってよぉ。
もう売り出したから返せない!とかほざきやがって。
でも、むしりとって帰ってきたんだけどよぉ。全くひでー女だぜ・・・。」





(あんたも相当酷いよ・・・・。)


と、木村と青木は思いながら鷹村の言葉を聞いていた。





「鷹村さん・・・ベルト取り戻しに行ってたんですね・・・。」




は鷹村につぶやく。






「・・・・・ほらよ。」




すると鷹村はにベルトを投げた。


「うわっわ!」


はなんとかキャッチする。
ベルトはずしりと重く。投げられて受け取って、手が少し沈んだ。






「お前が持ってろ・・・ベルト・・・。」






「え・・・・・?」







「・・・・・・それはお前に預けとく。」








「それはどういう意味何ですか?」



と、木村と青木はまた頭を悩ませる。





「・・・・・・はい!」





しかしは鷹村のその言葉ににっこりと嬉しそうに笑った。



「おう・・・・・・。」



そして鷹村もそんなを見てフッと笑った。








そうしてその日から・・・・の部屋には
日本ミドル級チャンピオンのベルトが飾られる事となったのである・・・。












「なぁ・・・あの言葉の意味って結局どうなんだよ・・・。」

「わかんねぇ・・・わかんねぇよ・・・・。」

「まさかちゃん・・・そんなわけねぇよなぁ!?」

「わかんねぇよ!!!」



「あの・・・何かあったんですか?」





そして鴨川ジムには疑問だけが残ったのである。







終。


2003/09/07....