兄vs弟 ROUND2
「お疲れ様ですー。」
「おー、おつかれー。」
鷹村はベンチの前を通り帰宅する練習生達に挨拶をされ、王様気取り・・もとい、このジムのボス気取りで、
ベンチに態度でかく座りながら、機嫌良く挨拶をする。
事実上ボスなのだが・・・ホークにも勝ったあの鷹村に勝てる人がいない事など明白で、周りが鷹村を褒めるせいか、
鷹村もここの所ずっと機嫌が良い・・・。
そんなホーク戦が終り数週間経ったある日の事だった。
「・・・・・・」
「あ?」
が自分を見ている事に気が付くと、鷹村はああ?と、眉を顰めてに問う。
シャワー上がりで髪が濡れて下りているせいか、見慣れている普段よりも、凄味がある。
「あー・・えーっと・・・」
は問われて、躊躇いながら言葉を濁していると、
「あんだよ!何かあんなら言えよ!!」
ぐずぐずしているに鷹村が痺れを切らし、そう怒鳴る。
「あー、言いますよ、怒鳴らないで下さいよー。」
うるさいな・・とは怒鳴られる事と、この声は慣れっこなので、耳を押さえながらそう言葉を返す。
「あのですねー・・黙ってろって言われてたんですけど・・髪下りてる鷹村さん見てたら思い出して・・・」
は鷹村を見つめながら・・・
「あの・・・お兄さんに・・色々、高価な物を送るの止めてくださいって、鷹村さんからも言って貰えませんか?」
と、そう言い、苦く笑った。
「・・・・・・・・・」
その瞬間、鷹村の顔が無になったのと同時に、ジムが静まり返り、凍り付いた。
「え・・・」
そしてその静まり返った異様な空気のジムには戸惑いながら周りを人達を見渡す。
皆が思っていた。
鷹村の兄と言えば、鷹村財閥の長男・・・御曹司・・・・超の付く、金持ちである。
そんな鷹村財閥の御曹司が、このジムにいる鷹村と血の繋がった兄弟だと分かった時には、
木村や青木や一歩もかなり驚いたが、それより何より、今の言った事の方が驚きである。
あの、鷹村財閥の御曹司の鷹村卓から、プレゼントを・・しかも高価な物をかなり贈られているらしい・・・・
こんな庶民の、ごく普通の中流家庭の女がだ。
しかしはごく普通でも、鷹村を知らぬうちに虜・・と言ったら、
そんなんじゃねぇ!と、鷹村に怒鳴られそうだが、
ほぼそんな様にしてしまっている女なので・・・鷹村家の男を手玉にしてしまう、
何か不思議な力があるのか・・・?
と、木村、青木、一歩はごくり・・と、端から二人を見つめていた。
しかし、三人は身構えていた。
何に?
それは・・・・
「・・なんで・・・卓兄が、お前に貢いでんだあぁぁ!!!」
「うわぁあ!!!!」
「「「わー!鷹村さん!!!」」
これである。
無表情になった鷹村は、一拍置いてから、ビキビキと眉間に青筋を立たせ、
そしてガタッと椅子から立ち上がると、殴りかからんばかりの勢いでに詰め寄ろうとした。
殴りはしないだろうがは驚いて、身体をびくつかせ後退りする。
そして、三人は殴りはしないだろうが、何するか分からないので、
に何かあったら大変と、鷹村にしがみついて止める。
それほど本気ではなかったらしく、鷹村は三人に押さえ付けられると、身体を止めた。
しかし止まったのはの背後には壁。そして、鷹村の顔はの顔から2、3センチの距離だ。
しかも、表情はかなり怒ったままで・・そして、そんな恐ろしい目付きで、
をじっと、見つめ・・睨みつけている。
「わ、私だって分かりませんよ!!
この前、ジムの前で鷹村さん待ってたみたいで、今日は来ませんよって教えたら、
ありがとうって後日お礼に・・・なんか・・高いブランド物の鞄が・・・」
は戸惑いながら言うが、少し、どこか嬉しそう・・・
「何、嬉しそうな顔してんだてめぇは!!!!」
そんなの表情が更に鷹村の癇に障った。
「わー!ちょっと鷹村さん!!」
更に詰め寄ろうとした鷹村を抑えながら、木村は言う。
ひーっと、下に逃げ腰の・・・嬉しそうな顔をするなと言われても・・・
女なら自分は特に好きではなくても、お金持ちの御曹司からそんなプレゼントをされたら、
誰でも嬉しそうな顔を少しはするだろう・・・女は打算的だ。
「で、でも!ちゃんと送り返しましたよ!!あんな高い物受け取れないし!!!」
は鷹村に告白の様な物をされたのだが、鷹村は一方的に言って、答えも聞かないまま、
お前は俺のもんだ!と去って行ってしまったので、別には弁解などしなくてもいいのだが、
一応、周りにも誤解なきようは必死に言葉を続ける。
「でも、送り返しても『気に入らなかったのならこれは?じゃあこれは?』って、
送り返しても返しても、次から次へと・・・」
と、または困っているのだが、少し嬉しそうな顔をする。
そんなに青木が「ちゃん!」と目配せをする。
「あっ・・そ、それで、仕舞いには『それじゃあ、気に入る物を一緒に買いに行こう。』って・・・・」
やるな、鷹村兄・・・・
と、その場にいた全員が思った。
「・・あの野郎・・・殺す・・・」
「!?」
「「「!!」」」
すると、鷹村がゆらりととは反対の方向・・ジムの出入り口へと向かった。
皆、これから鷹村がどこへ何をしに行くのかが分かっていた。
「たっ!鷹村さん!!待って下さい!大丈夫ですから!私ちゃんと断りますから!!」
「鷹村さん!身内が相手でも、殺人はまずいです!!」
「ていうか、鷹村さんが言うと冗談になってませんから!!!」
「冗談じゃねぇよ!それにあいつがここに来たのも、こいつ目当てに決まってんだろ!!
俺様になんて会いに来るか!!!」
引きずられる三人との言葉に、鷹村は振り返りつつ、そう言い返す。
「いいなー。僕、ブランド物たくさん貰ったら、質に入れてお金にしますよ〜。」
ぎゃあぎゃあと会話する5人を見て、板垣がのんびりとそんな事を言った。
「・・・・・・・・・」
その言葉を聞いて、鷹村がぴたっと身体を止める。
そしてしばらく、何かを考えた後・・・・
にひっと笑った。
「「「「・・・・・・」」」」
その笑顔を見て、4人は・・・・
「板垣!お前、さすが師匠の息子だ!そうしよう!
あいつの貢いだモン金に変えて、みんなで飲みに行くぞ!遊ぶぞ!!」
鷹村の言葉に、やっぱり・・・と、うなだれた。
「鷹村さん・・それは・・・」
「あんだよ、どうせあいつからのなんだから心配すんな。
それにもうにあげたんだからのモンだろ。それどう使おうとの勝手じゃねぇか。なぁ?」
一歩の言葉を無視して、鷹村は青木に聞く。
「まぁ〜・・確かに、そうっすよね〜。」
「っていうかそれ、あたしが一番後で大変じゃないですか!?嫌ですよ!!」
木村のあ〜あ・・という表情と共に、横にいたが叫ぶ。
「うるせぇ、ばつだ!ばつ!」
「罰って・・あたし何にも悪い事してないですよ!?」
「よーし!今日は後で換金するとして、とりあえずの奢りで飲み行くぞー!!」
「わーい!やったぁ〜!」
そして、鷹村の掛け声に、板垣の喜びの声が上がるのだった。
「え!?ちょ!ちょっとーーー!!!」
その後は卓兄を上手く騙し切ったのか、飲み代を自腹切り、何とか丸く治めたのか・・・
そして卓兄とはどうなったのかなどは・・・定かではない。
終。
2009/06/20....