プールへ行こう!! 03
「おーい、一歩くんー、木村さーん。」
はプールのざらざらした床を歩きながら、やっと見つけた二人に手を振った。
「あ、さん。」
「おーう。」
二人はパラソルのついたビーチチェアに座っていた。
騒ぎを起こしている二人が、まぁ、後で来るだろう。と、四つビーチチェアを取っておいてくれたのだ。
そして近づいてくるを見て・・・。
「・・・まぶしいぜ・・・ちゃん・・・。」
と、木村はつぶやいた。
一歩は・・・。
「・・・・・・。」
女の子の水着姿など滅多に見ないので、見惚れていた。
「なに、お前ら涎たらしてんだよ・・・。」
背後からぬっと出てきた鷹村に、二人は耳元でささやかれる。
「うわぁ!」
「ひぃ!!」
驚きに声を上げる二人・・・。
「どうしたんですか?」
そんな二人と、わざわざ背後に回り、
何かを言ったような鷹村を見て
『また何やってんだか・・・。』と、何も知らずには笑う。
「二人はもうプールに入ったんですか?」
ビーチチェアに座りながらは問う。
「いーや、まだ。二人が帰ってくるのを待ってました。」
「あはは。」
木村は言い、一歩は笑った。
「あはは・・・すみません・・・。」
申し訳なさそうには苦笑いする。
もう、この頃のはだいぶ羞恥心も消えたようで、水着姿で木村と一歩の前になんなく出られた。
それは鷹村のあの言葉のせいか・・・。
それともただ、一人に見られてもう踏ん切りがついたのか・・・。
「じゃあ、四人でウォータースライダー行きましょうよ!」
「お、良いねぇ!」
の言葉に木村は賛同する。
「あ・・・でもこの席取られるの嫌だなぁ・・・。」
「それは一歩がいるじゃねぇか。」
と、鷹村。
「え・・・。」
一歩は、一人で留守番かと焦るが・・・。
「そんな事できませんよ!タオルだけしか持ってきてないからタオル置いておけば座られないでしょう。置いて皆で行きましょうよ。」
はそう言った。
「あー、なんでもいいぜ。」
鷹村はどうでもよさそうに言う。
「ありがとう!さん!!」
一歩は涙を腕でこすりながら言った。
「あはは・・・。」
はこんな上下関係図に
あたしがいない時まではどうなってたんだろう・・。
と少し一歩を不憫に思うのだった。
そして、ウォータースライダーに向かう一行だが・・・。
「・・・・あ!すいません!ちょっとロッカー行って来て良いですか?」
急にが忘れ物か、そんなことを言う。
「あ?別に良いけど・・・。」
「何しに行くんだ?」
と、木村と鷹村。
「ちょっと・・・・じゃあ行ってきますね!すぐ戻ってきますから!ウォータースライダーの前で待っててください!」
は用件を誤魔化して去っていった。
「何だぁ?」
「・・・さぁ?」
「どうしたんでしょうね。」
とりあえず、三人はウォータースライダーの前で待つことにした・・・。
そして五分・・・いや、十分後、ようやくはやってきた。
「お待たせしましたー!」
「遅ぇぞ!!」
鷹村は少しご立腹。
「ごめんなさい!!じゃ、行きましょうか!」
はどこか嬉しそうに
ご立腹の鷹村はあまり気にせず、
さっさかと階段を登っていった。
「きゃーー!!」
「うおーーー!!!!」
そして時間が立つにつれ、皆のテンションはヒートアップ。
皆、水の中でバカのように遊んだ。
「鷹村さん!鷹村さん!お願いがあるんですけど!!」
するとは何の仕掛けもない、
普通の100メートルプールで
鷹村に瞳を輝かせながら何かを頼み始めた。
「あ?何だ?」
静かに浮き輪に浮かぼうとしていた鷹村含む三人はを見る。
「あのですね、出来たらで良いんですけど・・・私を放り投げてください!」
「あ?」
鷹村は怪訝な顔をし、他の二人も、え・・・?という表情でを見た。
「昔、学校の先生が体重の軽い子にやってたんですよ!お姫様抱っこ?ていう感じに抱えて、いち、にのさーんで、勢いつけて空中に放り投げて水中に落ちるんです!」
は水が反射しているのか、瞳をキラキラさせて言う・・・。
「あれ、あたしもやってもらいたかったんですけど・・・先生に遠慮してやってもらえなかったんですよね・・・鷹村さんなら出来るんじゃないかと思って!!!」
嬉しそうな期待した表情では鷹村を見つめる・・・。
「あー・・・・」
別に良いけどよぉ。と言おうとして、鷹村ははっとした。
をお姫様抱っこ・・・。
触れる太もも・・・。
抱える感触・・・。
「おっし!やってやる!!」
鷹村はかなり乗り気になった。
そして、それは始まった。
「えーっと・・・あたし鷹村さんの首に掴まりますんで、持ち上げてください!」
「おう。」
はるんるんで鷹村の首に両腕を回した。
今、自分のしている行為がどんなに普段、絶対出来るようなことじゃないかをプールのテンションのせいで麻痺しているのだ・・・。
そして鷹村も嬉しそう・・・。
「持ち上げっぞ。」
そして鷹村は水中のの足を持ち上げる。
「うわぁ!」
は持ち上げられて、ははは!!!と笑い、楽しそうだ。
鷹村も・・・嫌な笑みをしていた。
「じゃあ、いちにのさんで投げてください!行きますよー、いちにーのー、さん!!」
と、が言ったのと同時に・・・。
「おりゃあ!」
「きゃあ!!」
は空中へ投げられた。
その時の表情は満面の笑顔・・。
そして・・・。
バッシャーン!!!
と、水中へ落ちた。
水中へ落ちたらすぐに足をついて水上へ上がるはずだった。
しかし・・・。
(痛ッ!)
プールの底に足を軽くついた時、の足が攣った。
「っ!!!」
もう片方の足をつけばいいものの、水中でよくあるパニック状態になり、攣った方の足でまた立とうとして、バランスを崩し、水面へ出られない。
そしてそのまま体は回転して・・・・。
見事、水中パニックに陥っていた。
(痛い!息がっ!水面どこ!?)
は手をばたばたさせるが、それが余計に溺れる原因となっていた。
そして、投げた鷹村と、木村、一歩達は・・・。
「おい、上がってこねぇぞ。」
鷹村はばしゃばしゃしてる水面を見て悠長に言っていた。
こんな投げ遊びをしたのは始めてで、まだ、上がってこないものか?と思っていたのだ。
「・・・何かばしゃばしゃやってますけど・・・。」
「お、溺れてるんじゃないんですか!?」
木村の言葉に一歩が焦って言う。
「はぁ!?何で溺れんだよ!!」
と、今度は鷹村が焦って返す。
「知りませんよ!足攣ったとか良くあるじゃないですか!!」
と、一歩。
そう、その良くある事態には陥っていた。
「て!悠長に話してる場合じゃないですよ!助けないと!」
と、木村がに近寄ろうとした時だった。
「あんたら何してんだ!」
プールサイドから声がして、バッシャーン!と誰かが飛び込んだ。
そしてその誰かは水中のを抱えて、二人は水面へ出てきた・・・。
「プハッ!!・・・足!痛っ・・・。」
助けてくれた人の腕をぎゅっと掴んで顔をしかめているを、お姫様抱っこして水中から現れたのは・・・。
「・・・・大丈夫か・・・。」
「宮田!?」
「宮田くん!!」
「あんでお前がここにいんだよ!!」
と全員が叫ぶ。
そう、ここにいるはずのない、宮田だった・・・。
が、そんな事よりもの方が先だ。
「おい、大丈夫か!」
「足攣ったの!?」
「大丈夫!?」
三人はザバザバと水をかきわけ、プールサイドへと座らせてもらったに近づく。
「・・・・・はぁ〜・・・足攣った・・・。」
はプールサイドに手をつき、四人の男に囲まれながらも、目をつむってしばらく沈黙した後、はぁ!と、肩の力を抜き、息をついて言葉を発した。
足などが攣った時は、ただ、必死にこらえてしゃべれないものである。
黙ってるいる間になんやかんやと聞かれたが、は眼をつむり痛みにこらえていたため、の耳には入っていない。
「はぁ・・・。」
と、は一息ついて周りを見ると。
「うわぁ!」
周りをぐるっと、でかい男達に囲まれていて焦る。
「何やってんだバカ!足、攣ったのか!?」
と、鷹村は叫んだ。
「あ、は、はい。水の中入って足ついたら攣っちゃって・・。」
はは・・・とは言う。
「やっぱりか・・・こんな浅いところでも油断できねぇもんなんだな・・・。」
と木村は言う。
「もう大丈夫なの?」
そして一歩は心配そうだ。
「まったく・・・何やってんすか・・・。」
宮田はため息をつきながらそう言った。
宮田が・・・。
宮田が・・・。
「って!何でお前がここにいるんだよ!!」
代表して鷹村が疑問を叫んだ。
「・・・なんでって・・・・に誘われたから来たんですよ。」
と、宮田は水を滴らせながらいい男3割増しで何でもないことのように言う。
「誘われた?」
「誘ったのか!?」
鷹村はに叫んだ。
「あ、はい。さっき、更衣室戻って携帯で『暇だったら一緒に遊ぼうー』て電話したんです。そしたら来るって。いやーナイスタイミングだったわ、ありがとう宮田くん。」
は、あはは。と笑った。
(さっき更衣室戻ったのはこれだったのか・・・。)
三人は察する。
「笑ってる場合じゃないだろ・・・何、危ないことしてんだ。何かしてるやつらがいるな・・・と思って見たら案の定だ・・・。」
宮田はの頭を軽く小突いた。
「あは・・・ごめんなさい〜。」
は苦笑で謝る。
「でも途中まで楽しかったんだよ!!鷹村さんじゃないとこんなことしてもらえないからさ!」
と、はさっきまでの危ない状況を覚えてないかのようにはしゃいだ声で言った。
『・・・・・・。』
その様子に、宮田を含め全員が小さくため息をついた。
「出来ればもう一回やってほしいな〜・・・とか・・・。」
と、は懲りずに鷹村を見た。
「別に良いけどよ、あとでな。今はとりあえず上がるぞ。」
ボクサーで攣る経験を何度もしているためか、攣った直後にまたすぐ攣る事を知っていた鷹村はそう言うとザバッとプールサイドへと上がった。
「その通りだな。行こうぜ、ちゃん。」
「・・・・はい。」
木村の言葉と全員のそうしろという態度にはしぶしぶ返事をした。
それに実は足がまだ完全に治ってはいなかったのだ。
また少し何かしたら攣りそうな・・・そんな気配だったのだ。
そうして一向は、プールサイドへ上がり、タオルをかけたビーチチェアへと向かった・・・。
続。
2024/08/26...