やってきたいあつ。05













「フフフ〜♪」

上南バスケ部マネージャーは、ニヤニヤしながら練習を見つめる。

澤村の意味深な笑顔を見てから二日後。
最近、実はは、この部活の時間を少し楽しみにしていた。
それは思ったほどマネージャーの仕事が大変ではなかったこともあるが、
なんと言っても一番の理由は・・・


「すまんが・・・タオルを取ってくれないか?」


彼、小林純直である。


は澤村に騙され、入った初日、彼、小林純直を発見した。
小林はのタイプそのものだった。
学年が違うため、めったに小林を見れないにとって、
数少ない小林が見れるチャンスのこの時間を、少し楽しみにしていたのだった。

(きゃ〜小林さ〜〜ん!)
「はい。どうぞ・・。」
「すまん・・。」
「・・・・・・・」
は平静を装いながらタオルを渡すと、去った小林の後姿をぼーっとを見つめていた。

「あさん。僕にもタオル取ってくれる?」
成瀬がに話しかける。
「・・・・・。」
「・・・あの・・タオルとってほしいんだけど・・・・。」
「・・え?・・あ!・・はは、ごめん成瀬君。」
小林を見ていたに成瀬の言葉など聞こえるはずもなかった。 








「・・成瀬君・・・小林さんてカッコイイよね〜。」
タオルを渡しながらは小林の方を見て言った。
「え・・・さん・・・小林さんのこと好きなの?」
成瀬はの言葉にびっくりしながらいう。
「え、ええ!!・・す、好きって・・好きではないんだけど・・。」
は成瀬の言葉に顔を少し赤めながら叫んだ。


「誰が好きだって〜?」


「うわっ!」
とその時、いきなり澤村がにやにやと笑いながらによりかかってきた。
澤村は細身だが一応男。
体格差があるは重さに耐えきれず、一瞬バランスを崩しそうになった。
が、なんとか持ちなおすと、澤村に怒鳴った。

「ちょ・・っと、あんたねぇ〜!危ないでしょ!倒れそうになったじゃないよっかかんないでよね!!」
は自分の肩に寄りかかっている、澤村を睨みつける。
「ああ?こっちは走ってきて疲れてんだよ・・・それに俺によりかかられてんだ、ありがたく思え。」
澤村がフンっと言う。
「なっ・・。」
(なにこいつ・・。)
澤村のその自信満々な態度にの顔がひきつる。
「・・・あんたねぇ、なにいってんのよ。あんたに寄りかかられて嬉しい人なんかいないわよ。」

(確かにかっこいいけど・・・・)
澤村は確かに顔はいい。
が、いうのもしゃくなのでは心の中だけで言った。

しかし、澤村はフッと笑う。
「それはどうかな・・・。」
澤村は顎で後ろを見ろと合図をした。
「?」
は何?っと振りかえる。



「・・・・・・・・な!!」



は振りかえって呆然とした。
・・なぜ今まで気付かなかったのだろう・・。
なんと、体育館ギャラリーが女子生徒で埋まりかえっていたのだった。

(何・・これ・・。)

あっちもこっちも人人人。しかも女だらけ。
おまけにみなのことをすごい目で睨みつけていた・・・。

(な、何!何なの!?)

そのことに気付くとは青ざめる。
しかし、何故自分が睨み付けられているのか分からない。
すると澤村がにやりと笑った。
「・・・だから言っただろう。」


(・・・・ま、まさか。)


の予想は見事適中した。
そう、彼女らは澤村の姿を一目見ようと集まってきた、澤村のファンだったのだ。
そのため澤村と接触していて、しかも前から噂のあるは睨みつけられていた。


『カッコイイ1年が転校してきた。』


澤村のことは転校初日、学校全体に広まった。
そして澤村との教室の外には、
噂の転校生を一目見ようとやってきた人達であふれかえっていた。
それこそ男女学年問わず。
そして、みな、澤村の姿を見ては澤村の虜となっていったのだった・・。
もちろん、澤村は、教室の外に人垣が出来ようがなんだろうが、
そんなことには慣れっこなので気にはしていなかったが。








(澤村君・・・確かに顔はカッコイイけど・・まさかここまでとは。)
は呆然とする。
「・・だから言ったろ。羨ましがるやつはたくさんいるってな。
・・・・例えば・・こんなことしたらどうなるかな。」
澤村はにやっと笑った。

「え・・・。」

この笑いは何か企んでいる顔だ。
は無意識に後退りする、しかし遅かった・・・。





『いやー――――!!』





その瞬間、体育館に女達の悲鳴が響いた。
澤村がのことを抱きしめたのである。

「な!!!」

は澤村の腕の中にすっぽりとおさまった。
「ちょ!!な、何!!」
は真っ赤になりながら澤村をはがそうと押す。
すでにパニック寸前。
「・・・・。」
しかし澤村はびくともしない。
「〜〜〜〜〜!!!」
「・・・・・くっ」
澤村は、真っ赤になりながら、腕の中であばれているの姿を見て、思わず笑う。
そしてパッと手を離した。

「なっっ!何すんのよばかっ!」
は真っ赤になりながら、肩を振るわせ笑いをこらえている澤村を突き飛ばした。
「・・・さ〜て、これからガンバレよ。」
の言葉を無視し、笑いを抑えた澤村は、腕を組みながら、今度はにやにやと笑っている。
「・・・は??」
は澤村が何を言っているのかわからなかった。




「・・・・・・・・・・。」



しかしつぎの瞬間は澤村の言葉の意味に気がついた。
それは、背後に物凄い殺気を感じたからだ。
はおそるおそる後ろを振りかえる。
するとそこには、ギャラリーから物凄い目で睨みつけてくる女たちの姿があった・・。
「・・・・・・・・・・。」
その時は何かがプチっときれるような気がした。




「・・・さ〜わ〜む〜ら〜く〜〜ん!!!なんてことすんのよ〜〜〜〜〜!!!」




もとはと言えばこうなったのも澤村のせい・・・。
は我を忘れ、澤村に怒りをぶつけた。 
「なんてことすんのよ!!みんなにみられたでしょ!あれどうするつもりよ〜〜!!」
はギャラリーからこちらを睨んでいる女たちを指差して澤村に叫ぶ。
またそれが、『いちゃついている・・。』っと女子の反感をかうとも知らずに・・。
「・・・おいおい、そんな大声で叫んでいいのかぁ・・・誰かさん見てるぜ?」
しかし、澤村は涼しい顔をしながらに言った。
「・・・・・・!」
はバッと後ろを振りかえった。
はすぐ隣りで、部員達が練習していることを思い出したのだ。
あれだけ女達が騒いだんだ、部員達も『さっきの』を見ていたに違いない・・
そしてその中には小林も・・。


『・・・・・・・。』


そして案の定、練習していたはずの部員達が、あっけにとられ、みんなこっちを見ていた・・。
女達の叫び声との声・・あれだけの声が聞こえれば、皆にこっちをみていてあたり前だ。
ましてやここは体育館・・声が響き、大きさ倍増。
そして見ていた人部員達の中にはもちろん、小林の姿もあった。


(いっっや〜〜!!!みんなに見られてる!!しかも小林さんに怒鳴ってる姿見られた〜!
はっ!しかもさっきのも・・・。)


はふと、忘れていたさっきのことを思い出す。
澤村に抱きしめられたことを・・・。
は瞬時に真っ赤になった。
(もうなんなのよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!)


「・・・やっぱりな。俺の勘は当たってたか・・・・。」


がパニックになっていると、澤村がにや〜っと後ろでつぶやいた。
「は?」
何の事かとは澤村を見る


「お前、かさはりのこと好きだろ。」


澤村はにやっと笑った。
「・・・・・は?」
は澤村の言葉に唖然とする。

(あたしが小林さんのこと好き・・・?)

「さ〜てやめられるかなぁ〜・・。」
「え・・ちょ、ちょと、別にあたし好きじゃないわよ?」
は澤村の誤解を解こうとする。
実際は小林のことをカッコイイとは思っているが、好きではなかった。
勘違いされて、小林や部員に変なことを言われては困る・・・。
は勘違いをとこうとした。
しかし。
「・・・・あっそ。」
澤村はにやにやと笑ったまま、信じようとしない。
「本当に違うってば!」
「・・・・じゃあ、マネージャーやめんのか?」
「え・・・。」
澤村の言葉にはつまった。
マネージャーを辞める。ということは小林の姿を見れなくなる・・それは困る。
「いいのか〜?もう会えなくなるぜ・・・誰かさんと。
あ、そういえば、他の学校とかと試合したりするんだよなぁ〜。」
「!!」
その言葉には反応した。
「確かあの学校の4番が・・・。」
「〜〜〜〜〜〜っっみ!水飲んでくる!!」
澤村の言葉をさえぎりはそう言うと、一目散に体育館から出ていった。


「・・・・フッ。」


が体育館の外に出るのを見とどけると、澤村は満足そうににやにやと笑い、
練習に戻っていった。
そのころは、水道の前に手をつきながら一人絶望の淵に立たされていた。



(・・・どうしよう・・そうだよ!やめちゃうと小林さん見れないし・・・
しかも他の学校との試合があるじゃん!なんで気付かなかったんだろう〜!!
他の学校の選手・・・見たいーーーーーーー!!
・・・でもやれば澤村君の思惑どうりだし・・・あ〜〜〜〜〜〜!!!
どうすればいいの〜〜〜〜!!!!)



こうして『お試し期間』は刻一刻と過ぎていくのだった。







続。