やってきたあいつ。03













澤村とが出会い、蹴っ飛ばした日から数日後の放課後。

「おい。担任が呼んでるぞ・・・。」
帰ろうと、廊下を歩いていたが、澤村に呼びとめられた。
はぴたっととまり、ゆっくり振りかえる。
「・・・・なんでもいいけど、その『』って呼びつけにするのやめてよね・・・。」
が、あからさまに不快な顔で言う。

は澤村のせいで、ここ数日、ずっと、女子の質問攻めに合いつづけていた。
しかも、結局、澤村とはなんでもないとは、信じてもらえていなかった。

「べつにいいだろそんなこと。」
澤村がついて来いと歩き出す。
「どうでもよくないわよ!こっちの身にもなってよね!!これ以上皆に誤解されたらどうすんのよ。」
「言いたいやつのは言わせとけ。」
澤村が、どうでもいいと言わんばかりの態度で言う。
(・・・誰かこの男をどうにかしてくれ・・。)
はそう思いながら深いため息をついた。


(ん・・・?)
澤村の後についていきながら、喋っていたは、
ふと、自分が、体育館に行く渡り廊下にいることに気付いた。
「・・・ねぇ、先生こっちにいるの?」
もうこの先には体育館しかない。
「あ?ああ、ついてくりゃわかる・・・。」
澤村は歩きながら振りかえりもせず、素っ気無く答えた。
(・・・一体何の用かなぁ〜?あたし何にもしてないよね?)
が、いらぬ心配をしていると、澤村が止まった。

「・・こんなか・・・。」
「・・へ?体育館?」
澤村が止まり、示した場所は体育館だった。
今の時間はバスケ部が練習しているはずだ。
が「どうしてこんなところに先生が?」っという顔をしていると。
澤村が戸を開ける。
「・・いいから早く入れよ。」
「な、何なのよ・・。」
がむっとしながら中に入ると、やはりバスケ部が練習していた。
どこにも先生の姿などない。
(やっぱり・・どこに先生がいるのよ・・。)
「ちょっとあんたね・・・。」
澤村に文句を言おうと、振り向いたとき。

「今川さ〜ん!マネージャーになりたいってやつ連れてきました!!」

「え!?」
澤村に肩を捕まれた。おまけに、何か言っている。
(ま、まさか・・。)
は、いやな予感がした。

「本当かい!?いや〜、ありがとう助かるなぁ〜。丁度俺一人で大変だったんだよ。」
すかさず今川と呼ばれている人のよさそうな男がに話しかけてきた。
(やっぱりあたしのこと・・・・?)
はいまいち、状況がわからないでいると
「だってよ、よかったなぁ入れて。」
澤村がにっこりといつもの、営業用スマイルで言った。
(・・・こっの男・・はめたわね!!!)
状況を、理解できたは、キッと澤村を睨み付ける。
「何いってんのよ!あたしは・・・。」
澤村に文句を言おうとしたとき。

「よっしゃーーー!!とうとううちの部にも女子マネが来たぞ〜〜〜!!!」

練習していたはずの部員達が騒ぎ始めた。

澤村がさっき、大きな声で叫んだ為、部員達にも聞こえていたのだった。
もっとも澤村の策略だが。

「どうした?もちろんやるよな?」
「・・・・。」
澤村は、ここ数日ですでにの性格を把握していた。
部員達は喜び、向こうで大騒ぎをしている。こんな雰囲気の中の性格上、断れるはずがない。
それに加え逃げ出そうにも澤村ががっちりと肩をつかんでいるため、逃げれない。
澤村が笑顔で言う。しかし目が笑っていない。

「や、やらせてもらいます・・・・。」
はうなだれながら言った。

そして、そこには
うなだれる。新しいマネージャーがはいってきて、喜ぶ今川と部員達。
そしての後ろでニヤニヤと笑っている澤村の姿があった。


そのあと、早速、手伝って欲しいと言われ、いきなりさっぱり分けが分からない世界で過ごしたせいか、
が気付くと、練習は終わり、澤村、成瀬と、帰路についていた。


「って・・・・なんであたしがマネージャーやってんのよーー!!!」

は道の真ん中で、ぶち切れた。

「大っ体!あんたに、先生に呼ばれた。って、言うからついてったのよ!あんたはめたわね!
 誰もマネージャーになりたいなんて言ってないじゃない、この詐欺師!!」
は澤村に向かって思いっきり叫んだ。

「・・うっせえな、いいじゃねぇか別に。どうせお前、帰っても家でゴロゴロしてるだけだろ?」
澤村はあさっての方を向きながら言う。
「うっ・・・。」
は、澤村の言うことは当たっていたので言葉に詰まった。
「それに、ちょうどうちのバスケ部、マネージャーが今ちゃん一人で困ってたんだよ。
・・お前みたいなやつでもいれば今よりは便利になるだろうし。」
「・・なっ・・あたしみたいなやつって・・しかも、便利って・・・。」
の怒りはピークに達していた。
「じゃあ何!あたしは、あんたの便利のために、マネージャーに無理やりならされたって言うの!!
大体ねぇ!あんたが声かければ、マネージャーになってくれる女なんていっぱいいるじゃない!
なんであたしがなんなきゃなんないのよ!!」
「あ?・・ああ、お前みたいな、初対面の奴に、蹴りくらわすような奴なら、
かなり体力あると思ったからな、体力なけりゃ役にたたねぇし・・・。」
「な・・役に立つ立たないって・・あーーー!ムカツクーーーー!!なんなのよあんた!!」
「いっ!いってえなてめぇ!すぐ殴んなよな!!」

路上でぎゃあぎゃあやっている二人を見ていた成瀬は言った。

「・・ま、まぁまぁ二人とも、落ち着いて・・ここ道路だしさ・・。」
「・・・・・・。」

が気がつき、周りを見ると、周りには結構な人だかりが出来ていた。


「はぁはぁはぁ・・あー疲れた・・・。」
「・・はぁはぁ・・だりぃなぁ・・走らせんなよなぁ。」
「はぁはぁはぁ・・。」
人だかりに気がついたはあの後、二人を連れて、ダッシュで逃げてきた。


「・・・・・なぁ、お前そんなにマネージャーやりたくないのか?」
澤村は壁に寄りかかりながら髪をかきあげる。

「は?何いきなり・・・。」
は澤村の唐突な質問に首をかしげる。が、澤村が真剣な目でこっちを見ているのがわかると
も、壁に寄りかかりながら、真面目に話しだした。

「・・う〜ん・・嫌・・じゃないんだけどね・・不安なのよ・・・。
ほら、なんでも初めてやるときってなんでも不安じゃない。
・・一応バスケは好きだけど、今まで授業くらいでしかやったことない、無関係だったのよ?
それなのにいきなり、バスケ部のマネージャーやれって言われても・・ね・・・。」
さっきまでの元気はどこへ行ったのか。
はしゅんっとし、下を向きながら言った。

「・・・そうか・・。」
澤村は少し考え込んだ後、言った。
「なら『お試し期間』ってのはどうだ?」
「・・・は?」
はわけがわからないと言うような顔で言った。
「・・だから、試しに1週間やるっていうことだよ。1週間やってできそうかどうか判断するってな。」
「・・・・。」
「もしお前が1週間やって、本当に嫌だったら、俺から今ちゃんや他の部員に言ってやるし。
俺もあきらめてやるよ。」
「・・・え・・。」
はしばらく考え、これは絶好のチャンスだと思った。

このまま嫌だといって入らなくても、澤村だったらあきらめるはずがないとは思っていた、
またいろんな手を使ってマネージャーにしようとするだろう。
だがが一週間いってやめます。と、言えば、本人があきらめると言っている。
それにあんなに喜んでいる部員達に自分で「やめます。」っと言うのはかなり言いずらい。
澤村ならうまくなんとか誤魔化してくれるだろう。

「本当?・・ほんっっとに本当ね!?いい?後で取り消し無しだからね!?」
は、さっきとは打って変わって明るく言う。
「・・・ああいいぜ。男に二言はねぇ・・・・まぁ・・お前がやめられたらの話だけどな。」
澤村がにやっと笑う。
「は?・・何言ってんのよあんた。あたしが言うのよ?言うに決まってるじゃない。」
「どうだかな・・・。」
「・・何?何かあんの・・・???」
「・・別に・・・。」
澤村はにやにやと笑い続けている。まるで、『お前は絶対やめられない。』とでも、
言われているようだった。
はそんな澤村の態度に自然に眉間にしわがよる。
どうやら澤村にはがやめられなくなるような確信があるらしい。
(・・何なのこの男は・・なんでもお見通しみたいな顔しちゃって・・・。)

「・・いいわよ・・・こうなったら絶対やめてやるわよ。1週間後見てなさい!」
が澤村を睨み付ける。

「ああいいぜ、望むところだ。」
澤村がを見下ろす。

二人の間に火花が走った・・・。
もはやバスケ部のマネージャーどうこうの話ではなくなり意地の張り合いになっていた。

「成瀬君!あたしやるね!!」
「えっ・・あっ、う、うん。」
いきなり話しを振られた成瀬は焦る。

「じゃあねあたしこっちだからばいばい!・・・澤村君もさようなら。」
は澤村には皮肉を込めて言うと角を曲がっていった。

「あ、ばいばーい・・・。」
「・・・・フン。」

(なんなのっ!あの男は!!)
は怒ったまま成瀬、澤村と別れて家に帰っていった。


こうしてはめでたく、上南バスケ部マネージャー(仮)となったのだった。


そのころ、成瀬と澤村はとわかれた後、得に話す事もなく、無言で歩いていた。

「・・じゃあな。」
「あ!・・・ねぇ澤村。」
澤村が角を曲がろうとすると成瀬が呼びとめた。
「あ?」
「・・・さっきからずーっと思ってたんだけど・・なんでさんがやめないってわかるの?」
「・・・ああ俺の勘が正しければな・・・ま、見てればそのうちわかるさ。」
澤村は、フッと笑いながら、手をひらひらと振って、角に消えていった。 

さんがやめられなくなる理由ってなんだろう・・・?)

成瀬の頭には疑問符がいくつも浮いていた。







続。