寒い日にはご注意を。













それは水溜りも凍る冬の事・・・。



「そこ!ボサッとしてるな!!」

小林新キャプテンのもと、今日も練習に励む上南バスケ部の面々。
そんな熱気溢れる体育館で・・



「・・・・・・寒・・い・・・。」



マネージャーのは震えていた。
もう、気を抜くとガチガチガチと歯が鳴るくらいに凍えていた。
何故なら、冬の体育館は信じられないほど冷えるからだ。
皆さんもご経験がおありだろう。
あの凍えるほどの寒さの体育館を・・。

走っている部員達は良い。
運動していて逆に暑いくらいだろう。
だが、それをただただ立って見ているマネージャーは
相当冷えるのだ。

もちろん、防寒具はそれなりに来ている。
コートも着て、ちゃんとジャージをはいている・・・
しかしそれでも寒い。
手先や足の指先からじんじんと寒さが伝わってくる。
指先が痛い・・・。

早く・・・早く練習終ってくれ・・・。

そして家に帰って温かい部屋でお母さんの作ってくれたご飯を・・。
は現実逃避に入った。


「集合!」


と、小林新キャプテンの声がかかる。

(終わりだ!!!)

は不謹慎ながらとてつもなく喜んだ。
そして失礼ながら、説教臭い話が終わると解散となった。

「お疲れ様ですー。」

「お、ありがとうー。」

はマネージャーらしくタオルを全員へ配る。
そして最後に成瀬と澤村の元へ・・。


「はーい、お疲れさん二人とも。」


「あさん有難う。」

成瀬はにこやかに受け取り。

「ああ、サンキュ。」

澤村はいつも通り無表情で受け取った。
そして澤村へタオルを渡した時・・。



「・・・・・澤村君、温かい。」



手が触れた。
そしてその手は運動直後の人間らしくとても熱を持っていた。

「あ?あたりめぇだろ動いてたんだから。」

まだ息荒く呼吸しながら澤村は言う。
「・・・・・・。」
そんな澤村をは暫く見たあと・・。



「・・・・澤村君・・抱きつかせてください。」



は真面目な顔できっぱりと言った。

「ブッ!!」

その言葉に側にいた成瀬は飲み物を吹き。

「・・・・何言ってんだタコ。」

澤村はそう言った。


「お願い!!抱きつかせて!!!!」


しかしはいたって真面目にそう言い澤村の腕を掴んだ。
その言葉に成瀬と澤村は何が何だかわからずたじろぎ。



「あたし寒いの!!!!!」



そしてその言葉になんとなく理解し。
「ああ・・こいつはこういうやつだった・・。」と
溜息にも似た息をついた。


「さっきから凍えそうなのよー!!人間ホッカイロ!!抱きつかせて!!」


はそう言うと手を引っ張り、
手からじわじわと身体の方へ乗り移る。


「てめぇはなぁ・・少しは人の眼とかやることを良く考えた方が良いぞ!あ!?」


澤村はよじ上ってくるを片方の腕で突き放す。


「良いじゃない!!ちょっとくらい!」


「だから!!!」


と、嫌がってる澤村にも訳があった。
まぁ・・澤村は一応に惚れている訳で・・。
好きな女に抱きつかれたらたまったもんじゃねぇよ。
というわけで・・・。
拒否していたりする。

でも、そんなことをしていると・・・。


「・・・・・・。」


ピタッとの侵食行動は止まり。


「じゃあ良いわよ。別に動いてる皆が温かいわけだし。
小林さんに抱きつかせてもらうから。」


はそう言うと小林のもとへ走り出した。


「小林キャプテンー!」




「ちょっと待て!」


とそこで澤村がの服を掴んだ。


「・・・・何よ。」


の眼は冷たい・・。





「っ〜〜〜あ〜・・・わかった。抱きつかせてやるよ。」




暫く悩んだあと、澤村はそう言った。
他の男・・ましてや小林に抱きつくくらいなら
こっちの方がまだましだ。と澤村は決断したらしい。


「本当!?わーい!」


そしては嬉しそうに眼を輝かせた。


「・・・そのかわり汗臭いは我慢しろよ・・。」

「ああ、全然平気!わーい!」


そしては澤村に抱きついた。

ぎゅうっと抱きつき思ったのは一言。




(温かい・・・・・・・。)




「澤村君温かいね〜。」

は澤村のジャージごしに伝わる体温が温かく嬉しそうに微笑む。

「はいはい・・・。」

しかしの見えない後ろではまだ帰っていない部員達のどよめきがおこっていた。


そりゃそうだ。
練習が終ってマネージャーと部員。
ましてや前から片方は否定してはいるが噂のある二人が
大衆の眼も気にせず抱きあっていたらどよめきも走るだろう。

そして新キャプテン小林もその一員であった。
ましてや彼は密かにに惚れている・・。
「・・・・・・っ。」
小林が口をぱくぱくしていると。


「・・・・・・。」


澤村はそんな小林を見て人の悪い笑みをすると


「温かいか?ならもっと温めてやるよ・・・。」


「え?」


が聞き返すまもなく澤村はをぎゅうっと抱きしめた。



「っ!?」


自分からは抱きついてくるだが抱きつかれるのはまた別物で。
澤村の胸の中、さっきよりも増した温かさに少し幸せを感じながら慌てていた。

「っちょ!ちょっと澤村君!?離してよ!!」

「あ〜?さみーんだろ?だから温めてやってんだろ〜。」

澤村はの力じゃ澤村に絶対敵わない事を知っているため
のうのうとを閉じこめたまま話す。

そうこうしていると少し動揺しながらあの人は来た。


「・・・・澤村・・何してる・・。」


「おー小林『新』キャプテン。」

澤村は嫌味を言う。


「こいつが寒いから温めて。て言うから温めてやってるんです。」


あくまでこいつから。という所を強調して澤村は言う。

が・・・・・。」

その会話を顔をふせられたまま聞いていたは叫ぶ。


「もういいーー!!もういいですーーーー!!!!」


「・・・・・もういいと言っているが?」

小林は澤村の手を外そうとする。

「いえいえー。寒そうなのでもう少し温めてやります。」

澤村はひょいっと身体をずらし小林の手を払った。




「「・・・・・・・・・・・・・。」」




二人の間に火花が散る・・・。


「・・もういいそうだ。」

「いえいえ。」

「・・・もういい。」

「いーえ。」


小林が手を伸ばし澤村がくるんとよける。
その行動は限りなく続いた。



(もう帰りたいよーーー!!!)




が澤村の腕の中でそう思っていると。








「ほら、あんたたち早く帰れー。」




体育館を閉めるため用務員さんが来た。


「チッ・・・。」


そして澤村は舌打ちをし、腕を放した。






永遠に続くかと思われた事に終止符を打ったのは用務員さんだった。

そして成瀬含む部員達もほっとし帰路についたのだった。







終。