オムライスと少年少女。
「よっしゃ景気づけだ!今日は飯、俺がおごってやる!!」
インターハイ6回戦、安井高校に接戦で勝利した上南高校バスケ部一行は、
部長の言葉のもと、馴染みの店『なかや』へとやってきた。
「なんだよ成瀬、オムライスかよ。」
「いーだろ好きなんだからさぁ・・・。」
「おお!あいかわらず見事な魚さばき!!」
店内は、試合が終わった開放感か、皆はしゃぎ、わいわいと騒がしかった。
そんな中、キツネうどんを食べていた澤村に岩倉が声をかける。
「なんだよ、澤村はキツネうどんだけかよ。そんなんだから細いんだぞ、もっと食っとけ。」
「・・・・・。」
岩倉の言葉に澤村は、黙ったまま黙々と食べ続けている。
「はい天丼!あんた細いわりによく食べるわねぇ〜。」
っと天丼が運ばれてきた。
『!!』
よく見ると澤村の脇には、うどんにそばにラーメン、カツ丼・・・。
いくつもの大量のお皿が積み重ねてあるではないか・・。
「・・・く、くぉらーーーーーっ!ひ、人のおごりだと思って、てめぇ〜〜〜っ!!」
皆絶句する中、主将が顔を真っ赤にして怒鳴った。
「だから安いのばっかっすよ。」
しかし澤村は涼しい顔をしてもくもくと食べ続ける。
ここぞとばかりに食いだめをしていた・・・・。
「あはは・・・澤村よく食べるねぇ〜、ねぇさん?」
成瀬はそんな澤村を見て、横に座っていたマネージャーに話しかけた。
「えっ!・・・・あ・・・そ、そうだねぇ〜・・・。」
は一瞬ビクッとしたあと、しどろもどろにそういった。
「・・どうしたの?さん。」
成瀬は、そんなどこかおかしいを見て首をかしげる。
「ベ、別に・・・。」
はそう言いながら何かを隠すように体をかたむかせた。
「ん・・・?」
っと、成瀬はその時の向こう側になにか積み重ねられているのが見えた。
成瀬はひょいっと覗く。
「えっっ!!!」
成瀬は唖然とする。
の横にはなんと、いくつもの積み重ねられたお皿があったのだった。
その量、澤村と同量・・・・。
『・・・・・・。』
店内が静まり返る。
「こ、これ・・さん全部食べたの・・・?」
「・・・・・・・・・・・・。」
見ての通りは実は、かなりの大食いだった。
しかし、いつも学校などでは、ばれることを恐れてや、それでも足りるため、
普通サイズのお弁当箱を使っていた。
そのため大食いだとばれることはなかったが、
しかしその実態は、いつでも食べようと思えば重箱だろうがちゃんこ鍋だろうが、
いくらでも食べられる強靭な胃の持ち主だったのだ・・。
しかし、大食いだとばれることをは恐れていた、ましてやここには小林もいる・・。
そんなにおそれていたのになぜは自分から進んでばれるようなことをしたか、
それは・・・お腹がすいてどうしようもなかったからだった。
そんな単純な理由。が、しかしに時々やってくる、この食欲をなめてはいけない。
たくさん動いた日や、精神的に疲れた日にはとてつもない食欲がを襲うのだ。
も我慢しようとした。
しかし、その食欲には勝てなかったのだった・・・。
「あ、あははは・・・。」
は笑った。
笑って誤魔化すしかない・・。そう思ったからだ。
「そんなに食うと太るぞ。」
その時、一番言っては行けない、禁断の一言を言ったやつがいた。
それは、斜め向かいで、やってきた天丼を食べていた・・・・澤村だった。
「・・・・・・・・・・・・。」
の額に青筋が立つ。
その言葉は一番言ってはいけない言葉だった。
なぜならは、たまにやってくるこの食欲に負け、大量に食べた後、必ず体重が増えていたからだ・・。
まさに図星。はキッと澤村を睨んだ。
「うるさいわね!いいでしょ別に!!あんたに言われたくないわよ、この人間ブラックホールが!」
澤村はの言葉にフッと笑う。
「・・俺はお前と違ってやせてるからいいんだよ。」
「なっ!!」
はその言葉に顔をひきつらせる。
「・・・・フン、そんなこと言って、ばかばか食べてお腹壊してもしんないから。」
「お前とは腹の出来が違うんだよ。一緒にすんな。」
「・・あら、あんたよりあたしの出来の方がいいわよ。」
『腹の出来って何?』
一同そう思う。
しかし、2人の間に流れている雰囲気を割って聞くこともできず、皆、胸の中に閉まっておく。
「フン、俺に決まってんだろ。」
「・・そこまで言うんだったら・・どっちが多く食べれるかはっきりさせようじゃない。」
腹の出来とはどっちがたくさん食べれるか。と言う事だったらしい。
しかし、その会話を聞いていた主将は慌てる。
「お、おいお前ら!金払うのは俺だぞ!!」
「・・・よし、じゃあ負けた方が俺とお前の分おごりな。」
澤村はにやっと笑うとそう言った。
金がかかれば澤村に怖い物など無い。
「いいわよ、やったろーじゃないの。」
また、実はお金にがめついも同じだった。
こんなところで無駄な出費などしたくない。
負けず嫌いの性格も災いして、両者は俄然燃えた。
「はい。オムライス2つ。」
っとその時ちょうど2人とも頼んだのか、オムライスが2つやってきた。
「「・・・・・・・!」」
2人は睨み合うと同時に食べはじめた。
・・1枚・・2枚・・3枚・・4枚・・5枚・・・・。
積み重ねられるお皿は増えていった。
あれだけ食べておいてどこまで食べるのか・・。
一同かたずを飲んで見守っている。
と、6枚目にさしかかったとき、今までずっと動いていた二人の手が止まった。
「・・・・・。」
にそろそろ限界がきたようだ。
いかにも苦しそうな表情をしている。
「・・そろそろやめといたほうが良いんじゃないのか・・・。」
そんなの顔を見て、澤村が言う。
一方の澤村の表情は、食べ始めたときと変わらない・・それ以上に余裕の表情っでにやっと笑っている。
勝負師はいかなるときも、心中を表には出さない。
澤村の勝負師根性が発揮されていたのだった。
「・・フン、まだまだいけるわよ!」
しかしは引き下がらない。
まだいける・・。
はそう思い6皿目を食べきった。
「・・ならガンバレよ。」
そう言い澤村も6皿目を食べきった。
しかし一見余裕そうに見える澤村も、表情を表には出さないが、実はもう限界に来ていたのだった。
そろそろにギブアップしてもらわなければやばい・・。
しかし、負けず嫌いのにはそれは無理な話だった。
そして、金がかかっている澤村にも。
2人は7皿目へと手を伸ばす・・・。
『早くギブアップしてくれ・・。』
と澤村はそう思う。
しかし、それを1番願っているのは、とっくに食べ終わったバスケ部一同だった。
「・・・ねぇこれいつまで続くのかなぁ・・。」
「・・・さぁ。」
「俺、帰りたい・・・。」
「・・・・・・はぁ。」
2人の勝負はまだまだ続くのであった。
終。