ぬくもり。













「・・・お母さんのうそつき!どこが買い忘れたものよ!こんなにいっぱいあるじゃない!」


年末のある日は両手に重たいビニール袋を一つずつ持ちながら、人ごみの中叫んでいた。

今から数時間前。
は母に掃除の邪魔といわれ家を追い出され、ついでに買物を頼まれた。
買い忘れたものと聞いて渋々来たが、その量はビニール袋2つ分・・・。

(ああ、重い・・・・やっぱり無理しないで買わなきゃよかったな・・・。)
はふらふらした足取りで歩く。
おまけに、年末のせいかどこを向いても人、人、人。
荷物があるためうまく歩けず、よけいに重く感じる。
のビニール袋を持っている手がだんだん白くなってきた。
(手が痛い・・・こんな事なら誰か連れてくればよかった・・・。)
がそんな事を思っていた時。

「よう、何ふらふらしてんだ?」

(・・・この声は!)
が振りかえると、そこには予想通り澤村の姿があった。
「澤村君、こんなところで何してんの?」
はこんなところで澤村に会うとは思ってもいなかったったので、驚きながら言った。
「あ?暇だったからぶらぶらしてたんだよ。・・・で、お前は?」
「あたしは買物。ほら見てよ、こんなに頼まれちゃって・・・。」
はそう言うと、両手に持っていた重いビニール袋を澤村に見せた。
「・・・・・・・・・。」
その時、澤村が手を差し出した。
「へ?」
が澤村の行動のわけが分からずにいると、澤村が言った。
「持ってやるよ・・・。」
「え、ええ!?」
は驚いた。
あの澤村が、人が困っていても平気で見捨てる澤村が、自分から持ってやるといった。
今夜は天変地異が起こるのか・・・はそう思った。
「・・・なんだよ、人がせっかく親切にしてやってんのに・・・。」
すると、澤村がむっとする。
「・・・嫌ならいいんだぜ、がんばって一人で持ってかえんな。」
そういうと澤村は手をひらひらと振り、去ろうとした。
「ああ!待って!待って!!ごめんなさい!!」
は焦って澤村を止めた。
これを一人で持ちかえるのはかなり辛い。
今日、天変地異が起ころうが何が起ころうが、今のにとって、
持ってもらえるのは、かなりありがたかった。
「・・・・。」
が止めると澤村は立ち止まった。





「・・・・・・・。」

二人の間に沈黙が流れる。
あの後持ってくれると言うことで、2人は片手に一つずつビニール袋を持ちの家に向かっていた。
2人は特に話す事もなかったので黙っていた。
が、その沈黙は決して居心地の悪いものではなかった、逆に居心地のいい空気が流れている。
2人はあえて黙り、黙々と歩く。
すると突然澤村が言った。

「・・・そっちの荷物も貸せよ。」

「え?」
はいきなりの澤村の言葉に驚いた。
どうやらが持っている荷物も持ってくれるというらしい。
「え、いいよ・・・澤村君だって持ってるし・・・。」
しかしは断った。
ただでさえ持たせているのに、これ以上持たせたら悪い・・・はそう思ったのだった。
「・・・いいからかせって。」
「えっ!」
澤村はそう言うと、無理矢理の片方の手から、荷物を奪った。
澤村の有無を言わさぬ態度には観念し、言われるままもう一つの方の荷物も渡した。
「・・・・・わっ!」
すると、澤村の手がの手を掴んだ。
(何!何!?)
がそう思いながら赤くなっているいると、澤村が顔をしかめながら言った。

「・・ほら見ろ、手こんなにして・・・。」
「え・・・。」
の手のひらは、重い荷物のせいで白くなっていたのだった。

実はの手は限界にきていたのだった。
重い荷物と、袋がビニールのせいで、手に持っている部分が手に食いこんできた。
はかなり痛かったが、澤村に持たせているため、気を使って自分だけ痛いとは言えなかった。
おまけに風が吹いていて寒いための手は冷えきり、ジンジンとよけいに痛かった。
そして澤村はの手が限界だということに気付いていた。

片手にずっしりと重いビニール袋を二つ持つ澤村・・・澤村でさえも結構重い。
これを女、自分よりも一回り小さいが持ったらかなり辛いだろうという事には気付いていた。
しかも、澤村は手袋をしていたがは手袋をしていなかった。
きっとの手は冷え切っているろう・・・澤村はそう思っていたのだった。

「うわっ、冷てぇ・・・。」
澤村の予想どうりの手は冷え切っていた。
「・・・しょうがねぇなぁ。」
そう言うと澤村はため息をつき、下に荷物を置いた。
「・・・・ほら、これしとけ。」
すると澤村は、自分がしていた手袋を取りに渡してきた。
「え!いいよ!澤村君が荷物持つんだし・・・。」
は自分の手が冷え切っているにもかかわらず、まだ気を使って遠慮している。
そんなに焦れたのか、澤村はいきなりの手を掴んだ。
「・・いいからしとけって。」
そう言うと澤村は、器用にの手に手袋をはめ出す。
「・・・・・。」
は赤くなったままじっと澤村に手袋をつけてもらっていた。

澤村の手が、冷えているの手に触れる・・・。
触れたところが暖かい。

冷え切っていたの手を握った澤村の手は、暖かく大きかった。
手袋をするより、手を握っていて欲しい・・・は無意識にそう思っていた。

「ねぇ、見てあそこ。」

するとどこからか、話し声が聞こえてきた。
それはあきらかにと澤村のことを言っている。
道の真ん中で止まり、本人達は違うと思っていても、はたから見ればカップルの2人。
澤村がに手袋をつけてあげている。そんな光景は嫌でも目立つ。
澤村は全然そんなこと気にしてはいないように黙々と手袋をはめている。

(〜〜〜〜っ早く終わらせて〜〜〜!!)
その一方は、恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
しかし、その間も会話は聞こえてくる。

「・・・でもさぁ、あの彼氏カッコイイよね〜。」
「・・そうだね〜。いいなぁ〜あんな彼氏ゲットして。羨ましい〜。」

はその言葉で、ふと思った。
(そう言えば澤村君ってかっこよかったんだっけ・・・。)
日頃、何かと一緒にいるせいか、時々は澤村がカッコイイと言うことを忘れてしまう。
は器用に手袋をつけている澤村をそっと見た。
どこか中性的な整った顔立ち・・・。
より約20cm高い背・・・。
黒いコートを着ている・・・また、黒が似合うためかっこいい・・・・。
は、あらためて澤村のかっこよさに見惚れていた。
そして同時に、こんな澤村と一緒にいることに、少し優越感がにじんできた。

「よし、完了っと・・・。」
澤村はやっと手袋をつけ終わるとを見た。
するとはニヤニヤと笑っていた。

「・・・なんだよ、薄気味悪い笑いしやがって・・・。」
澤村は大丈夫か?と言うような顔をして言った。
「な!フンっ!別になんでもないわよ。」
はむっとしながら歩き出す。
「あ!おい!ちょっと待てよ!!」
澤村は慌てて荷物を持ちを追いかける。
(この性格さえなければなぁ〜・・・・。)
はため息をつきながら、追いかけていく澤村を尻目に、家へと向かって行ったのだった。







終。