夏の終わりのプロポーズ。
「チッ・・・あ〜・・・だりーなー・・・誰だよ、毎年、夏の終わりに花火しようって言い出したやつは。」
「そういえば誰が言い出したんだっけね。成瀬君覚えてる?」
「んーっと・・・コースケだったかな?」
「そのコースケはこねぇし。」
「ははは。しかたないよ。もう子持ちだし。」
「尾崎くんらしいよね。デキ婚であっと言う間にお父さん!」
そんなことを話しながら、
澤村、成瀬、みずきの4人は海辺を歩いていく。
「もうそろそろ終わりにしねぇ?俺も忙しいんだけど。」
澤村がここらでいいか。と、バケツを置き、言う。
「あー!若手ベンチャー企業の社長さん!この間、雑誌にでてたねー!みたよー。」
「テレビにもでてたでしょ!」
とみずきは波の音を聞きながら花火の準備をする。
「凄いよねー。何かするかと思ってたけど・・・やっぱり何かしたわ。」
「でもまだ大学生でしょ?出来るの大学生で?」
「バカにはできねぇよ。」
澤村はそういいながら小さな打ち上げ花火をセッティングしていく。
「またそういうこという!」
は澤村にライターを投げつけた。
「おまっ!この暗闇で投げんな!見つからなくなるだろ!」
「へーん!賢い澤村様には見つかるでしょー!」
ねぇー?みずきちゃーん?手持ち花火やろー!
とはみずきに手持ちはなびを渡す。
ストリートバスケから、上南高校バスケ部で出会ったメンバーは、
高校を卒業し、今は大学生になっていた。
成瀬は教師になる夢を。
みずきは海外留学。
澤村は大学生でありながらIT関係のベンチャー企業を起こし、今ではやり手の社長である。
そしてはごくふつうの大学生だ。
進路は未だ特に決めていない。
普通に就職するにしても何系にするか・・・。
自分だけが置いてけぼりなのは今も昔もかわらないな。と、思っていた。
「おら!打ち上げつけるぞ!」
ライターを携帯の明かりで見つけた澤村が小規模の打ち上げ花火を点火する。
「わあ!」
「きゃー!」
「すごいね!」
「まぁまぁだな。」
4人はその花火をみながら横に並ぶ。
花火は消えた。
「後は手持ちか?」
澤村が成瀬に問う。
「うん。あんまり持ってきてないよ。もう夏も終わりだからあんまり売ってなくて。」
「いーよ。どうせこの後の飲みが本番だ。」
「あはは、そうだね。」
もう飲酒も出来る年になった。
僕たちは成長した。
成瀬はそう思って線香花火を持ちながら海を見る。
女子二人は手持ち花火で少し離れた所で騒いでいた。
「・・・澤村はさ・・・。」
「んー?」
澤村は岩場に腰掛け、持ってきたペットボトル飲料を飲んでいた。
「いつさんに告白するの?」
「ブフォ!ゲフォ!フォォ!」
勢いよく澤村がむせた。
「もう回りくどい手つかってさんに彼氏作らせないようにするのやめなよ。
それにわかってんでしょ?さんの気持ち・・・・。」
「おまっ・・・なっ・・・。」
澤村は口元を拭いながら驚愕の目で成瀬を見た。
そう、澤村はに近づく男がいよう物なら他校だろうがあらゆる手段を使い阻止ししてきた。
しかし、未だに告白は出来ていない・・・。
高校で出会って・・・いつの間にか好きになって・・・・
それからずっと・・たまにこうしてみんなであって・・・
二人で会うこともなかった・・・。
なんとなく知っていた・・・の気持ちも・・・・。
いくらやり手の現役大学生ベンチャー企業の社長でも・・・出来ないことはあるのだ。
「今日さ・・・告白しなよ。誕生日なんだし。」
「誕生日は関係ねぇだろ!」
澤村は叫ぶ。
「男としてのけじめ、つけたら?」
「っ・・・・」
成瀬にこんなことを言われるなんて・・・と、澤村は思った。
だが、そうかもしれない・・・もう潮時かもしれない・・・。
大学生になり、もうすぐ社会人になる。
社会人になったらもっと忙しくなるだろう・・・。
こうして夏の花火大会も出来なくなるかもしれない・・・みんなで遊ぶことも・・・・。
「わかった・・・」
澤村は海を見つめた。
「じゃあ、俺とみずきは飲物買ってくるっていなくなるから・・・がんばって。」
成瀬は立ち上がり、ぽんと肩に手をおいた。
こいつに励まされるなんて・・・と、澤村は舌打ちをした。
「澤村くーん!」
するとが澤村の腰掛ける岩場にやってきた。
「なんか二人とも飲物かってくるって。まだあるのに。
私も行くっていったら酔っぱらってる澤村くん見ててって言われたんだけど酔ってるの?」
のそんな問いと成瀬の言い訳にイラッとした。
「酔ってねぇよ!」
澤村は、がぁ!と言い放つ。
「やだ・・・ほんとに酔ってる・・・・。」
「・・・だから酔ってねぇって。ほら、見ろ。茶だろ。」
澤村はペットボトルのお茶を見せた。
「あらほんと。じゃあなんだろ。」
鈍いである。
「まぁ、いいから座れ。ほれ、海と月がきれいだぞ。」
澤村はお決まりのせりふを行ってみる。
「え?ほんとに澤村君どうしたの?大丈夫?」
「おまえ殴るぞ」
澤村は握り拳をに向けた。
「ふふ・・・変わらないね、ベンチャー企業の社長さん。」
はそんな澤村の態度が昔と変わらなくて、懐かしくて笑う。
そんな少し大人びたの笑顔を見て・・・。
「そのベンチャー企業の社長さんの妻になってもらえませんかね、
バカでのろまでいつも一生懸命で優しかった、元バスケ部女子マネージャーさん。」
と、澤村はの顔を見つめて言った。
「・・・・・」
は真顔になる。
波の音と月明かりだけが辺りを照らしていた。
「へ?」
「だ〜〜〜!!!!!二度言わせんな!!!!YESかNOで答えろ!!!!早く!!!!!」
澤村の顔はよく見えないが、おそらく真っ赤な顔を
長い足の間に顔を挟んで叫ぶ様に言った。
「え!え!?だって!え!!??」
「えじゃねぇよ!!早く答えろよ!!!」
澤村が顔を上げ、両手を顔の前に出してに詰め寄ってきた。
顔が真っ赤だ。
こんな澤村くんを見たのは数回しかない。
と思いながらは先ほどの言葉を思い出す。
ベンチャー企業の社長の妻に・・・・。
プロポーズ?
「え!いきなり結婚は無理!!」
も顔を真っ赤にして叫んだ。
澤村の顔が死んだ。
「そう・・・か・・・・・。」
声がどんどん小さくなる。
「あ!違う!違う!!結婚はいきなりは無理だけど!!
その・・・つきあうのは・・・大丈夫・・・です・・・もしよければ・・・・。」
「・・・・・・・」
澤村の顔が真顔になる。
「そうか。」
「うん。」
「そうだよな、いきなり結婚はないよな。」
「そうだよー!」
「「あははははは!」」
と、二人は笑う。
「そっか・・・つきあうのはいいのか・・・。」
「うん・・・。」
「え?つきあうの?」
「らしいな。俺とおまえが」
「あたしと澤村君が?」
「ああ。」
「ぷっ・・・」
「くっ・・・」
あっはっはっ!と、二人は大笑いする。
「そっかー・・・なんか不思議な感じ。
あ、私も・・・その・・・ずっと好きだったんだよ。高校の時から。」
「知ってた。」
「え!?」
膝の上に肘をのせ、手のひらに顎のせて海を見てさらりと言う澤村に、
は叫ぶ。
「俺が気付かないわけないだろ。」
そして澤村はを見て、にしっといつもの嫌味な笑顔で笑った。
「ええ!!??」
恥ずかしい・・・とは顔を覆う。
「まぁ、俺もだけどな。」
と、澤村も言う。
「え?」
はよく意味がわからず聞き返す。。
「・・・俺も・・・高校のときから好きだった。」
ぽんっと言い放つ様に澤村は海を見ていう。
「え・・・ええええ!!???澤村君が!?あたしを!?高校の時から!?好き!!??」
「うるっせぇよ!!」
バンっ!と肩を叩かれた。
さすがに恥ずかしくなったらしい。
「いた!ちょっと殴らないでよ!」
「おまえがいちいち繰り返すからだろ!」
「だって澤村君が!あの澤村君が!」
「俺だって謎だよ!おまえなんか!」
「おまえ何かって!あ!そういえばさっき何かバカとか何か!」
「あー・・・これはそろそろ出ていった方がいいね・・・。」
「そうね・・・全く・・・これであの二人やっていけるのかしら・・・。」
「まー・・・喧嘩するほど仲がいいっていうし。大丈夫じゃないかな・・ははは。」
陰に隠れて見ていた成瀬とみずきはひそひそと話、成瀬は苦笑いする。
「そんなんなら、あたしなんかじゃなくてもいいじゃない!」
「おまえじゃないとダメなんだよ!」
「っ!・・・・・。」
「っ!何言わせんだよほんとにこの女は・・・・。」
そこには波の音と、月明かりの中、
普段はクールぶってる男のげんなりとした真っ赤な顔があったのだった。
お幸せに。
終。
2019/08/31....