満員電車。
「チッ、たくっなんで俺がこんなこと・・・・。」
「つべこべ言わないの、あと3駅だから。しょうがないでしょ桜井さんに頼まれたんだから。」
「そうだよ澤村、それに僕たち1年だしね・・。」
(はぁ、やっぱり巻き込まれたか・・・。)
上南バスケ部、澤村正博、成瀬徹、女子マネージャーのは、今、満員電車の人ごみの中にいた。
3年の桜井に頼まれ買出しをした帰り、帰宅ラッシュに巻き込まれてしまったのだった。
「しかしすごい人だね・・・。」
成瀬がつぶやく。
「お前人に流されてはぐれんなよ。」
澤村がに嫌味な笑顔で言った。
周りは普通のサラリーマンだが平均的に背は170位ある。
成瀬、澤村は平均以上の背なので流される心配はないが、
は女では平均だが160しかないので周りに流される心配がある。
「そんなにどんくさくないわよ!キャ・・・!!」
が言い終わるのと同時に電車が揺れた。
「どんくさくないんだって?」
にやりと笑いながら澤村が言う。
バランスを崩したを澤村が抱きとめたのであった。
「・・・・。」
はくやしさと恥ずかしさで顔を赤くする。
「ちゃんとつかまってろよ。」
澤村はに言った。
「・・・・・・・。」
けれどはじっとしたまま黙りこくっている。
澤村は黙っているを不思議に思って声をかけた。
「・・・どうした?」
「・・・・どこにつかまればいいの?」
はは澤村に聞いた。
ここはちょうど車両の真ん中、つり革もなければ棒もない。
そんなとこで「つかまってろ。」と言われてどこにつかまればいいのか。
そんなことをは真面目に悩んでいたのである。
「・・・・・・・。」
澤村はそんなことで真面目に悩んでいるを、
少し呆れた顔で見たあと、何を思いついたのかにやりと笑った。
「俺に抱きついてれば?」
「なっ・・・・!」
は赤面しながら澤村の顔をにらみつけた。
その反応を見ながら澤村はニヤニヤと笑っている。
この二人はいつもこうだ。
澤村はの反応が楽しいらしくいつもからかう。
もいつもからかわれてるとは気付くのだが、
いつも気付くと澤村のペースに乗せられている。
むかついたは澤村のすねを蹴った。
「いっ・・・!てめぇ・・・。」
澤村がをにらみつけた。
がはそんなことは気にせず、
「あっ、ごめんねぇ〜。電車揺れたから間違えて蹴っちゃった〜。」
っと、わざとらしく言った。
「・・・・・・・。」
澤村は黙っていた。
は勝った!と心の中で思っていたが、転んでもタダでは起きない澤村。
澤村は何かをたくらんでいるような笑顔でを見ていた・・・。
それでも揺れると危ないので「マジでつかまってろ。」と言う澤村の一言に従い
一応澤村のシャツにはつかまっていた。
達が降りる駅の一つ前の駅で電車が止まりドアが開いた。
その途端、乗っていたサラリーマン達がどっと降りた。
「わっ!」
は澤村のシャツをつかんでいたが
指先で掴んでいただけなので人に流されてしまった。
(いや〜、あたしの降りる駅はここじゃない〜〜!!)
っと心の中で叫んでいたがどうしようもない。
は戻ろうと必死に人波に逆らって歩こうとしたが、
あっけなく流させてしまっていた。
っと、その時、グイッっと誰かがの手を引っ張った。
「ったく、だからつかまってろって言っただろう。」
の手を引っ張ったのは澤村だった。
澤村はが必死に流れに逆らったが、流されてしまった人ごみの中のを、
片手でいとも簡単に自分の方へ引き寄せてしまったのである。
はその力の強さに一瞬ときめいたが、すぐに我に返させられた。
「なっっ!!!!」
澤村はの手を自分の腰に回し、
自分の手をの腰に回し、
さっき言っていた抱きつくような格好にしたのだった。
は真っ赤になり澤村に文句を言おうとしたが、
人が降りて、すいたと思った車内にまた人が乗ってきて、
さっき以上の満員状態になってしまった。
こうなっては身動きできない。
は澤村をにらもうと顔を上げたが澤村はニヤニヤと笑っている。
は気付いた。
澤村はこれはさっきの復讐だと・・・・。
(この男わっっっ!)
は心の中で思ったが、
どうしようもないのでもうあきらめ、
開き直り澤村に抱きついていた。
一駅の間だったがにはとても長く感じた。
おまけにぎゅうぎゅうの満員電車のせいで澤村とぴったりとくっついる。
(へ〜、見かけは細いけど意外と筋肉ついてんだ・・・。)
はシャツごしの澤村の体に触れながらそう思った。
そしては、さっき自分の力では進めなかった人波を、
片手でいとも簡単に自分の方に引き寄せてしまったことと、
今、自分が寄りかかってもびくともしない澤村にたくましさを感じていた。
(そうだよね、一応バスケ部だもんね・・・・。)
と思いながら澤村の方をみると澤村ものことを見ていた。
そしてにっこりと、普通の女なら誰でもイチコロ。という営業用スマイルをに送った。
「!!」
そしては真っ赤になる。
「くっ・・・・。」
その反応を見て澤村は笑いをこらえる。
そしてまた澤村は蹴りを食らうのだった・・・・。
そのころ、成瀬はの降ろされそうになった駅で
人に流され降ろされてしまっていた。
「わ〜〜〜、澤村〜〜〜さ〜〜〜んどこにいるの〜〜〜!?」
終。