君のために。
「・・・お前何してんだ?」
時は数分前までさかのぼる。
「あ〜あ・・だりぃ・・。」
部活を終えた澤村は疲れた身体に鞭を入れ、いつも通りバイト先のバーまでやってきた。
「お疲れ様ですー。」
そしていつも通り中へ入る。
しかし、そこにはいつも通りではないことがあった。
「あー、澤村君〜遅ーい。」
そう、そこには澤村が密かに思いをよせている
上南バスケ部のマネージャーがいたのであった。
いるだけならまぁ、遊びにきたのだと思えるが、
はここの定員の服を着ていた。
「・・・・・・・・。」
澤村は頭に手をおいて考える。
「・・・お前何してんだ?」
「え?バイト。」
(やっぱり。)
澤村はがっくりと肩を落とす。
「お前なんでこんな場所でバイトしてんだよ!!」
「え?だって澤村君もいるし楽しそうだから。」
「バカ!そういう意味じゃねぇよ!
危ねぇだろ!こんな酔っ払いがいるところで女がバイトなんて!!」
しかも、自分が惚れている女だ、気が気ではない。
「バカっていわないでよ!バカって!!
どこでしようがあたしの勝手でしょ!酔っ払いなんてうまくかわせるわよ!!」
本来負けん気が強く、男っぽい。
そのためか危機感と言うものがあまりない。
「はぁ〜・・。」
澤村は重いため息をつく。
「・・・マスター。なんでこいつ雇ったんですか。」
澤村は怒りの矛先をマスターに変えた。
「え・・ああ、どうも押されちゃってね〜。
どーしてもって言うからさ。それにお前の知りあいだっていうし。」
マスターははは。と笑っている。
「はぁ〜・・・。」
澤村は今日2度目の重いため息をついた。
(なんでこんなことになっちまったかな・・。)
結局に勝つことは出来ず、仕事をし始めた澤村。
お客さんと何やら楽しく話しているを見ていた。
は女用の制服がないため澤村と同じ男用のバーテンダーの格好をしている。
その姿もいつもとはまた違う色気がありいい。
(・・・・ま、これはこれでいいけどな・・。)
澤村は一人にやつく。
「おらぁ〜!お客様が来たぞ〜!!」
と、新しい客が入ってきた。
これまたべろんべろんに酔っ払った、
たちの悪そうな中年のサラリーマンだ。
店内中がシーンと静まり返る。
「・・・いらっしゃいませ。」
澤村は表面上。いつもどうり愛想良く挨拶をした。
が、内心嫌な客が来たぜ・・。と悪態ついている。
その客はドカっとイスに座ると酒ー!と叫んだ。
がぱたぱたとカウンターに走りメニューを取り、お客の元へ行こうとした。
「!」
が、その手を澤村がつかむ。
「何?」
「・・・俺が行く。」
澤村はぼそっとつぶやく。
「え、いいわよ。」
「よくねぇよ・・あの客見りゃわかんだろ。」
「でも・・・大丈夫。」
はニッコリと笑った。
「・・・・・・・。」
澤村はの笑顔には弱い。
しょうがねぇなぁ。とぱっと手を離した。
「いらっしゃいませ。こちらメニューです。」
はたちの悪いお客のところへ行くと、
いつも通りの言葉を口にした。
「・・・・ようねぇちゃん。かわいいね〜。」
思った通り、客はに絡んで来た。
「・・・ありがとうございます。」
はにっこりと微笑む。
「おじちゃんとどっかいかないか?」
「今仕事中ですので・・。」
はなおもニッコリと微笑む。
「いいじゃないか。」
酔っ払った中年サラリーマンはの手を握った。
しかしその瞬間。
「お客様、申し訳ございません。その手をお離しください。」
にっこりとされど異様な空気を放った澤村がサラリーマンの手を握った。
「だから危ねぇっつてんだ!!」
「何が危ないのよ!?」
閉店後、店内には澤村との怒声がこだましていた。
あの後、澤村がうまく誤魔化し、あの場はなんとか納まった。
が、澤村は一人怒りを募らせていた。
「さっきの酔っぱらったオヤジだよ!」
「あんなのただ手つかまれただけでしょ!?何が危ないのよ!!」
「お前・・なぁ・・。」
澤村の顔がひきつる。
澤村は心配で心配でしょうがなかった。
されどにそんな危機感はゼロ。
おまけに逆切れしている。
「お前はもうすこし危機感てやつを持ちやがれ!!」
澤村は怒鳴る。
「危機感なんてないもーん!」
「おまっ・・!」
「だって、澤村君が絶対助けてくれるってわかってるから。」
「・・・・・・・・・・・。」
はさらっとすごいことを言った。
澤村はいきなりな言葉に不意打ちを食らう。
「・・・でしょ?」
は確認する。
どうやら本人は当然のことだと思っているらしい。
「あ・・ああ・・・。」
澤村はしどろもどろに言う。
「さ〜て、じゃあ帰ろうか!」
はぱたぱたと入り口まで走る。
澤村はその後姿を見て一人思う・・。
ああ・・助けてやるよ。
いつでもどこにいても。
必ず・・・・。
「澤村く〜ん?早くー!!」
「・・・ああ、今行くよ!」
終。