可愛いあの子。
それはある曇りの日の夕方のこと・・。
「これで終り〜?」
部活用品の買い出しにスポーツ用品店を
回っていたはメモを見ながら澤村に聞く。
「ああ・・・・。」
の横で大量の荷物を抱えた澤村は少し顔を引き攣らせながら答えた。
「さーて、じゃあ帰るか〜。」
とは手には鞄だけを持ちぶらぶらさせてたったか歩く。
「・・ってめぇな・・少しは持ちやがれ!!」
と、荷物を両肘にぶら下げそれでも尚、
もうひとつ荷物を抱えている澤村はいい加減切れた。
「男の子じゃな〜い、それくらい持ちなさいよ〜ほほほ。」
は笑いながら言う。
「てめぇな・・」
澤村が暗雲を辺りに立ちこませていると
「うそうそ、一つおもちしますよ。」
は笑いながら澤村の荷物を一つ、けれど一番軽いやつを持った。
「澤村君体力ないもんね。」
「余計なお世話だ・・。」
今日もぼちぼち、そんな嫌味の応酬をしていると・・。
「ん?」
「げっ・・。」
「「雨だ・・・・・・。」」
空から雨が降ってきた。
「うあー!!雨だよ!!しかもなんかどんどん強くなってない!?」
「やべぇな・・濡れる・・。」
が叫ぶなか、澤村は冷静に辺りを見渡す。
ここは、華やかな街とは違い、住宅地に併設する少しすたれた商店街。
こんなところに雨宿りできそうな喫茶店はなかった・・。
雨宿りできそうなのは肉屋の前に出ている少しの雨よけくらいだ・・。
おまけにそうこうしているうちに雨はどんどん強くなる。
「どうすっかな・・。」
「どうしようか・・・・うーん・・あ!!」
と、そこでが閃いた。
「ここってうちの家から近いんだよね。
走っていけば5分くらいで着く!澤村君!うちの家行こう!!」
とが突然言い出した。
「あ?」
澤村は突然の提案に焦る。
「ほら!濡れちゃうよ!!早く早く!!」
と、思い立ったはすぐさま走り出した。
「お!おいちょ!!」
澤村はを見失わないうちにの後を追った。
二人は雨の中の家へと走りだした。
「はぁ・・はぁ・・はぁ・・!」
「お・・い、少しスピード落と・・せ・・はぁはぁ・・。」
たったか走るに澤村は消え入りそうな声で叫ぶ。
「何・・いってんのよ・・バスケ部員が・・・はぁはぁ。」
そんな澤村にかまうことなくはたったかと走る。
もう、既に髪は濡れ、結構雨に打たれていて、これ以上濡れるのはいやだったからだ。
(俺はけったいな荷物持ってんだよ!!!!)
と、澤村は額に怒りのマークがでんばかりに心の中で叫んだ。
そして澤村は段々、みたことある景色になってきたことに気付く。
の家が近くなってきた証拠だ。
そうこう考えていると・・。
「あ!着いた!!」
の声を聞き、澤村が顔を上げると、
数メートル先にもう、見慣れたの家が見えた。
「やっと・・か・・。」
澤村はの家の前につくとぜぇはぁ息をしながらつぶやいた。
「お母さ〜ん!」
は玄関のドアをがちゃっと開けると中に入り叫んだ。
「澤村君、はい、入って。」
と、母を待つ間、両手に荷物を抱えてる澤村にドアを開け、待つ。
「あらあら、どうしたの!あら、澤村君も。
どうしたの?そんなに濡れて。」
「うん、買い出しに近くまで来てたんだけど雨降ってきちゃってさ。
どうせならうちで雨宿りしよう。て走って来たの。」
おろおろする母に説明をする。
そんなの後ろから澤村は息を整えながら挨拶に頭を下げる。
「あら、そうなの、待ってて、今タオル持ってくるから。」
との母は去って行った。
「うあー・・結構濡れたね、澤村君。」
「ああ・・・。」
は服についた雨を、もう染みこんではいるが
少しでもはらいながら、
澤村は額にくっつく水の滴る前髪を払いながら話す。
「あたし着替えて服乾かしてからまた学校戻るけど
澤村君も着替えるでしょう?なんか弟の服でも貸すね。」
「え・・ああ・・。」
の提案に戸惑いながらも、まぁ良いか。と澤村は承諾した。
そして、タオルを受け取った二人は、水が落ちないよう適度に拭き、
濡れた靴下を脱ぎ、服を取りにの部屋へと向かった。
「待ってて、今弟の部屋からなんか取ってくるから。」
と、部屋につくとはそう言い、部屋から出ていこうとした。
「あ、濡れてんの上だけだから上だけで良いぞ。」
と、澤村はに付け足すように言う。
「あ、わかったー。」
そしては出て言った。
(・・・なんだかなぁ・・。)
澤村は濡れたシャツを脱ぎながらこの展開にため息をつく。
「・・・・・・・。」
結構久し振りのの部屋は大して変わったこともなく。
前のままだった。
そんなことを考えているとがチャっとドアが開いた。
「はい・・・・・て、いきなり脱がないでくれる?」
ドアを開けたら、シャツを脱ぎ掛けの澤村がいて、
は少し嬉しくも少し迷惑そうにつぶやいた。
「あ?」
が、澤村はそんなことはおかまいなしらしい。
「あたしがここで着替えるから、澤村君上だけだし廊下か隣の部屋で着てきて。」
そう言うとは、はいはい。と澤村を追い出した。
「・・・・・・。」
そしてまぁ、澤村は渡された服を見て、濡れた身体を拭き、頭からかぶった・・。
「あ〜・・気持ち悪かった・・。」
とも部屋の中、濡れたシャツを脱ぎ、少し寒いのでパーカーをかぶりながらつぶやいた。
下のスカートは大して濡れていず、服が乾いたら傘をさしてでも学校に戻るので
はそのままでいた。
そしてちょうど着終わったところでドアをコンコン。とノックする音が聞こえる。
「入るぞ。」
「あ、どうぞー。」
そしては澤村が入って来るだろうドアを見ていると
がちゃっと、ドアが開き、澤村が入ってきた。
「・・・・・・・・・・・・。」
そしては眼を奪われた。
「・・・あ?」
澤村はが自分をじっと見ていることに気付き何だ?と首を傾げる。
「さわ・・澤村・・君・・あなたが着てるものって・・。」
はぽつりぽつり話す。
「・・・お前が持ってきたパーカーだろ・・。」
澤村がさらりと答えると・・。
「あっはっはっはっは!」
は側にあるテーブルをばんばん手で叩きながら下を向き、大声で笑い出した。
「な、なんだよ・・・。」
澤村は突然のの奇行に焦る。
「澤村君がパーカー着てる!!」
は澤村を指差して涙眼で笑った。
「ああ?」
澤村の眉間に皺が寄る。
「澤村君・・って、そう言えばパーカーとか着たとことか見たことなかったんだけど・・。」
は笑いをこらえながら話している。
どうやら澤村がパーカーを着ていることが笑えるらしい・・。
「・・なんだよ、着ちゃいけねぇのかよ・・。」
と、澤村はむっと不機嫌になる。
「違うの!全然着ておっけー!だってパーカー着てる澤村君・・」
そしては言った。
「可愛過ぎ!!」
そしてはまた腹を抱えて笑い出した。
「ああ?」
しかし、その言葉は更に澤村の機嫌を悪くした。
口が引き攣っている。
「澤村君パーカー着ると若返るねぇ!!可愛い!!高校生みたい!!」
じゃあ、普段は高校生じゃねぇのかよ。
と、澤村はぶちぶちと額に青筋を立てながら思うが
のテンションは更に上がる。
「あ!ねぇ写真とって良い!?これ絶対売れるよ!!ていうかあたしが写真に撮っておきたい!!」
と、部員の写真を売り、部費に工面しているは
ばたばたとカメラを探しうきうきとはしゃぐ・・。
「・・・・・っ・・」
どこの世に可愛いと言われて喜ぶ男がいるだろうか・・。
の態度にそろそろ澤村も切れた。
「帰る!!!!」
と、澤村はバターン!とドアを開けた。
「ええ!?ちょっと待ちなさいよ!まだ写真撮って無い!」
「誰が撮らすかこの馬鹿!!」
「ちょっと待ちなさいよ!!写真撮るまで帰さないわよ!!」
「何いってんだてめぇは!!シャツどこだ!?帰せ!」
「さぁ〜?写真撮らせてくれたら渡してあげる。」
「こっの女・・・・・。」
そして、ぶち切れそうな澤村と愉快気なの攻防戦は続き、
結局バスケ部生写真には澤村のパーカー姿が新しく出たとかでなかったとか・・。
しかも売れ行きは半端じゃなかったとかあったとか・・・。
終。
2003/02/26....