代償。02













(あ、もうこんなところまで来た・・・そろそろだな。)

2人は黙々と歩きながらの家の近くまで来た。

「・・・澤村君、ここでいいよ。」
は曲がり角で立ち止まり、そう言った。
「あ?・・・いいよこのさい、家まで持ってく。」
「え!いい!!」
澤村の言葉には首をぶんぶん振って拒否をした。
「・・・ああ?んだよ、せっかく持ってってやるつってんのに・・・。」
澤村がの態度を見てむっとする。
「え、いや・・・澤村君の親切はありがたいんだけど・・・ね・・・・。」
(ま、まずい・・・。)
は焦った。

実はには家に来て欲しくない理由があった。
しかし、それを澤村にいったら最後、きっと大変な事になってしまう・・・。
は口が裂けてもいえなかった。
しかし、澤村の珍しい親切を仇にするのも悪い。
どうしたものかとは考える。

「!?」

とそのときは固まった。
(あれは・・・。)
は自分たちが来た道の反対側から、学ラン姿の少年が歩いてくるのを見つけた。
その少年はこっちを見てに気づくと硬直している。

「・・・?」

澤村はが固まっているのを見て、何事かと視線の先を見る。
すると、いきなりその少年は走り出した。
走って角を曲がろうとする。
(まずい!!!)
「澤村君!そいつ捕まえて!!」
は叫んだ。
「あ?」
澤村はいきなり言われ、何言ってんだ?と、動けずを見てボケッとしている。
その隙に少年は、角を曲がり行ってしまった。

「ちょ!ちょっと待てーーーーーー!!!」

と、突然はいきなり叫び走り出した。
「えっ!ちょ、おい!?」
何事かと、澤村も荷物を持ちながらの後を追う。
しかし今のには、澤村などかまってはいられなかった。
は、澤村が追っかけているのには気付いていたが、
今の自分には、澤村を気にしている余裕などない・・・。
は後ろを振り向かず、その少年を追っかける。
角を曲がり、また曲がり、住宅地に入った。
すると少年が一軒の家に入る。

「母さんー!姉ちゃんが男連れてきたーーーーーー!!」

家中に、叫び声が響いた。

(イッヤーーーーーーーー!!!)

は心の中で叫ぶ。
「ちょ!ちょっとーーーーーーーー!!!」
は青ざめ、叫びながらその家に入った。
そう、ここは2人が向かっていたの家だった。


「はぁはぁはぁ・・・。」
が息を切らして家の中に入ると、玄関にはさっきの少年・・・
の弟が、はぁはぁと肩で息をしながら立っていた。
すると2階から、すごい音を立ての姉が下りてきた。
「何々!?が男連れてきたって!!?」
すると今度は居間から母がやってくる。
「うそ!本当!!」
「ち、違うってば!!」
はぶんぶんと首を振る。
「嘘だ!俺見たもん!!」
すると、弟が叫ぶ。
「ちょっとーーー!!」
はぶち切れる。

の澤村に家に来て欲しくない理由とは、このことだった。
の家族はなぜか、異様にの男関係に反応し、冷やかしてくるのだ。
昔からそうだった。
連絡網で男の子から電話がくれば、「何?彼氏??」と冷やかされ。
少し帰りが遅くなると、「とうとう、男が出来たか。」と勝手に誤解。
そのたびには強く否定していたが。
当分、その冷やかしは続いた。
そのためは家に来て欲しくなかったのである。
家に来たのを見られたら最後、絶対に誤解されるに違いない。
その冷やかしは当分続く。
ましてや顔の良い澤村だ。


「そんなことより、見よう見よう!!」
の言葉を無視し、姉が外に出ようとした。
「ダメ!ダメダメダメダメ!!」
はいつの間にか自然に閉じた玄関にへばりつき、死守する。
「いいじゃない見るくらい〜。」
母も言い出した。
「だから違うんだってば!」
見られたら絶対にまずい・・・。
は何がなんでも死守しようとした。
が、
「いけ!」
「OK!」
「あっっ!!!」
姉と弟の見事な連携プレーによりは弟に捕まり、
その間に姉がドアを開けた。
バンッ!と言う音と共に、勢いよくドアが開く。
「・・・・・・・・。」
すると外には、いきなり開いた扉に驚いた澤村が立っていた。


「「「・・・・・・・・。」」」


みんな澤村を見て固まった。

「まぁ〜〜〜!かっこいいじゃない!!」
っと、姉の後に続いて、外に出てきた母がそう言った。
「まじ!こんないい男捕まえたの!?」
姉も、思わず叫ぶ。
その後から弟に捕らえられた、青ざめたが出てきた。
「・・・・・・。」
澤村はきゃあきゃあと騒ぐ母と姉の迫力に圧倒される。
「あ、こんにちは。いつもがお世話になってます〜。」
すると母はにこやかに、澤村にあいさつをした。
「あ・・・・。」
澤村が呆然としながらも、口を開いた。
(まずい!!!)
「〜〜〜っっだから違うって言ってんでしょ!!」
はそう言うと弟を振り払い、澤村と母親の間に入った。
そしては必死の形相で澤村に詰め寄り、小さな声でささやいた。
(いい!?何聞かれても何も言わないでよ!?)
「・・・・・・・・・・・。」
そしてふりかえりは母たちに説明し出す。
「あのね!だから〜・・・!」
ところが。

「はじめまして。さんとお付き合いさせていただいてます、澤村正博と言います。」

今まで黙っていた澤村はにっこりと笑うとの後ろからそう言った。

「・・・・・・・・・・・・。」

は固る。
「ほら、やっぱり彼氏じゃない〜。」
母が呑気にそう言う。
「・・・・・・・。」
は『あんた今、何言った?』という顔でふりかえる。
すると澤村は、にっこりといつもの営業スマイルでほほえんでいた。

「あら、買物に付き合ってもらったの?悪いわねぇ〜さあさあ、どうぞ中に入って。」
「あ、そうね。入って入って!」
は突き飛ばされ、澤村はの母と姉に囲まれ、家の中へと入っていく。
「・・・・・・・。」
がぼけーっとしていると、家に入ろうとしている澤村と目が合った。
するとにやっと笑った。

(・・あ、あの野郎〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!)

荷物持ちの代償は大きかった・・・。



はみんなが家の中へ入った後、しばらく外でボーっとしていた。
(もう分けわかんない・・・。)
そして、よれよれと家の中へ入っていく。
すると、居間の方からわいわいと話し声が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・・。」
はそ〜っと居間をのぞく。

「はい、澤村君。これ食べて。」
「あ、ありがとうございます。」
「しっかし、こんないい男がとね〜・・。」
「いやいや、そんな。」

そこにはこたつで仲良く話す、澤村との家族の姿があった。
「・・・・・・・・・・。」
は思わずその場に崩れる。
「あら。いたの?そんな所にいないでこっちに来なさいよ。」
崩れたに気がついた姉が声をかける。
「・・・いい。」
しかしは力無くそう言うと、自分の部屋へ行こうとした。
が、その時、姉がとんでもない質問をした。
「でもさぁ、なんでなんかにしたわけ?
別にかわいくもないし・・・澤村くんならかっこいいんだから
もっとかわいい子とかいっぱいいたでしょう?」
「・・・・・。」
は足を止めた。
澤村がバカなことを言わないうちに止めに入ろうとも思ったが、
少し澤村が自分の事をどう思っているのか、興味があった。
はおもわず耳を澄ます。

「・・・いいえ・・・僕にとってはさんが一番・・・誰よりもかわいいです。」

「やめーーーーーーーーーーーい!!」

その瞬間は真っ赤になりながらリビングに駆け込んだ。


「ラブラブじゃん〜〜!」


姉はそう言い、母、姉、弟はみんなニヤニヤとを見ている。
澤村はこっちを見て、にっこりと微笑んでいる。営業用スマイルで。
「〜〜〜〜っっ澤村君!!ちょっと来て!」
「うわっ!」
は、真っ赤になりながら澤村を掴み、二階の自分の部屋へと連れていった。




「あんたねぇ!どういうつもりよ!!!」
は澤村を連れこみ、バンッ!っと勢いよくドアを閉めると、
怒りと恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。
「・・・良い部屋すんでんなぁ。」
澤村は、部屋を見渡しながらそう言う。
「そうじゃないって!!!」
そんな澤村の態度にはぶち切れる。
「どうすんのよ!あんな事まで言って!後で大変なんだからね!も〜〜〜!!」
は頭を抱え込みながらうずくまる。
「・・・あんな事って?本当のことだろ・・・俺にとってお前は誰よりも・・・・。」
「うるさい!」
は澤村を蹴っ飛ばす。

「はぁ〜・・・下に行きたくない・・・・。」
は床に座り、側にあったクッションに顔をうずめる。
「・・・・良い家族じゃねぇか。」
澤村は壁に寄りかかりながら話し出した。
「・・・・・。」
は顔をうずめたまま、黙り込む。
「・・・お前の事を異常にかまうのは、お前がかわいくてしょうがねぇつーことだろ。
おまけに今の時代、家族みんなが仲良く話してるなんて、そんなにいないぜ。」
澤村は伸びをする。

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

その言葉にはクッションに突っ伏したまま、
澤村の失くした家庭のことを思い出す。

「それに別にどうだっていいじゃねぇか、彼氏がいようがいまいがよ・・・。」
「・・・・澤村君、なんかうまく丸め込もうとしてない?」
は澤村の言葉に顔を上げ、ポツリとつぶやいた。
「・・・さて、そろそろ帰るか・・・・。」
澤村は少し黙ったあと、歩いてドアへと向かう。
「あ!やっぱり!!」
「・・じゃあな。」
澤村はそう言うと、そそくさと出て行こうと、ドアを開けた。

「「「わっっ!」」」

すると、ドアの前で聞き耳を立てていた母、姉、弟がなだれこんできた。
の顔がひきつる。
「・・・な、なんなのよあんた達〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」


そして澤村は、最後の最後まで猫っかぶりを忘れずに、
にっこりと笑顔を、家族にふりまきながら、帰っていった。







終。