代償。01













「お母さんの嘘吐き!こんなにいっぱいあるじゃない!!!」

もうすぐ、年が明けようとしていたある日。
は人ごみの中叫んでいた。


事の始まりは2時間前・・・。


!掃除の邪魔よ!!」
の母は掃除機を片手に持ちながら、ゴロゴロとコタツで寝ているに叫んだ。
「何〜?」
はめんどくそうに返事をする。
「何じゃないわよ、掃除の邪魔!ゴロゴロしてないでちょっとは掃除手伝いなさいよ。」
そう言うとの母はの横で掃除機をかけだした。
「うわ!うるさいなぁ〜・・いいじゃん〜、久しぶり休みなんだから〜。」
掃除機の音に、思わず耳をふさぎながらは少し声を大きくして文句を言った。
「そんなのあんたが部活やってるからでしょ、自業自得よ。」
母は冷たく言い放つ。
「な、あたしだって好きでやってるわけじゃ・・・・!」
母の言葉に、違う。と言おうとしたは、そう言いかけて口をつぐんだ。
入る事になったのは澤村のせいだ。
だが、最終的に入ると決めたのは自分・・・。
おまけに、母に澤村のことを言っても知らないので意味がない。
ムキになって言い返しても無駄だとは思い口をつぐんだ。
「何!?聞こえないわよ!」
「〜〜〜っっなんでもない!!」
そしてはまたゴロンと横になる。

「あ、ねぇ。そんなに暇ならちょっと買物行ってきてよ。」
そんなを見て、母は思い出したように掃除機のスイッチを切り、言った。
「え・・・やだよ、外寒いしめんどくさいもん・・・。」
母の言葉に振り向きもせずは答える。
「ごろごろして掃除の邪魔なんだしいいでしょ!
買い忘れちゃったものがあってね、軽いと思うし・・それなりの報酬はあげるから。」
「・・・・・・え。」
母の言葉には迷った。
実ははお金に関してはかなりがめつかった。
しかも、ここ最近部活があるためバイトも出来ず、月のお小遣いではちょっと苦しかった。
「う〜・・・・。」
は悩む。
「・・・・・行く!」


こうして、現在に至るのだった。



「重い・・やっぱり無理して買わなきゃよかった・・。」

は、買った物を持ちながら、そう呟いた。
買物を頼まれメモを貰ったが、いざ買おうとそのメモを見ると、中には大量の文字が書いてあった。
そしては、わざわざ全部買わずにやめとけば良いものを、意地で全部買ってしまったのだった。
なんとその量ビニール袋4つ分・・・。
おまけに、それぞれの袋がそれぞれ満杯。
男でも重いくらいのビニール袋の山は、女のにとっては、かなり重たかった。

(あ〜あ、こんな事なら誰か連れてくればよかったな・・。)
はフラフラと歩きながら、ため息をつく。
(誰かに会わないかな〜。)
がそう思ったとき。

「よう。フラフラして何やってんだ?」

の名を呼ぶ声。
(・・・この声は!?)
はバッと降り返る。
(やっぱり!!)
そう、そこにはの予想どうり、グレイのマフラーに黒のコートを羽織った、
上南一の色男、澤村正博の姿があった。
(・・・うわ〜かっこいい。)
は思わず見惚れる。
澤村のコート姿はシンプルだったが、『良い男は何を着ても似合う。』と言う言葉通り、
かなりカッコよかった。
それを確定つけるかのように、さっきからすれ違う女達が必ず降りかえり、
澤村に見惚れている・・。
「おい・・・?」
が、当の本人はいつもの事なので、気にせず、見惚れてボーっとしているに、
いぶかしげな目をむけている。
「え!ああ、澤村君・・・えっと、こんなところで何してるの?」
まさか、『見惚れていました。』など言えるはずもなくは笑って誤魔化す。
「ああ?ちょっと暇だったからな、フープにでも行こうかと思ってな。」
「え、ああ、そういえばこの近くだったっけ。」
澤村の言葉には思い出したのかのように言う。
「・・・で、お前は何してんだ?」
「え?ああ、あたしは買物頼まれちゃってさぁ〜、見てよこの量・・・・。」
っとは下においていたビニール袋を持ち上げる途中であることを思いついた。

(・・そうよ・・・この荷物、澤村君に持たせればいいんじゃない!!!)

は、心の中で踊った。
(あっ!・・・でも澤村君って、人のためとか絶対にしないよね・・・。)
は澤村の性格を思い出す。
(あ〜どうしよう!多分持ってくれないだろうなぁ・・・。
でも、これを1人で持って帰るなんて、絶対に嫌だ!!
・・しょうがない、いざとなったら最後の手段・・・・。)
がそう決意したとき。
「うわっ、なんだその量・・・。」
澤村はが持ち上げている荷物を見るなり、そう言った。
するとは今まで下げていた顔を上げる。
「ねぇ、澤村君。」
はにっこりと、満面の笑みを澤村に送る。
「・・・・。」
澤村はが何を言おうとしているのか察知したのか、まさか・・。という顔をしている。

「これ持っ」
「いやだ。」

「「・・・・・・・・・・・。」」

2人は額に青筋を立てながら微笑みあった。

「まだ全部言ってないじゃない!!」
先に沈黙を破ったのはだった。
「うるせぇ!どうせその荷物持てとか言うんだろ!!」
「う・・・そうよ!」
は開き直る。
「だってこれすっごい重いのよ!持ってくれたっていいじゃない!!」
の言葉に、澤村は荷物を見る、そしての肩に手を置いた。
「安心しろ。お前なら持てる。」
「なっ!」
「じゃあな、俺はそんなに暇じゃねぇんだ、1人でがんばんな。」
澤村はそう言うとひらひらと手を振って去ろうとした。
「あ・・!?」
(・・・こうなったら最後の手段!!!)
は、腹を決めた。

「・・クスン・・・酷いよ澤村君・・・。」

は手を顔にあて、泣き出す。
「!?」
これにはさすがの澤村もギョッとし、足を止めた。
「持ってくれたって・・いいじゃない〜〜〜。」
は更に泣く。
「お、おい・・何も泣くことは・・・。」
澤村は焦っている。

そうの最後の手段と言うのは『泣き落とし』だった。
さすがの澤村も、女の涙には勝てないと言うことを、先日知ったのだった。

(後、一押し・・。)

「澤村君の薄情者〜〜〜!!」

は心の中で、そうつぶやくと更に泣いた。

「ちょっと見てあそこ、女の子泣かしてるわよ。」
「まぁ〜本当。」

道の真ん中で女の子が泣いていれば、それはそれは目立つ。
周りから、非難の声があがってきた。

「〜〜〜っっわかったよ!持つよ・・持てばいいんだろう持てば!」
さすがの澤村もこれには絶えられなかったようだ。
ため息をつきながらそう言った。

「本当!?ありがとう!」
その途端はにっこりと笑いながら顔を上げた・・。





「ったく、なんで俺がこんな事しなきゃいけねぇんだよ・・・。」
澤村は両手に重いビニール袋を持ちながらそうつぶやいた。

あの後の策略にはまった澤村は、両手に重いビニール袋を持ちながら、
と2人の家へと向かっていた。

「ごめんねぇ〜、澤村君。」
は歩きながらにっこりと澤村に微笑む。
澤村は顔をひきつらせる。
「・・・泣き落としとはな、お前もやるようになったじゃねぇか。」
澤村はフッっと笑うとそう言う。
「あはは。澤村君ほどじゃないけどね。」
はにっこりと微笑みながら言う。
「「・・・・・・・・・。」」
2人は顔をひきつらせながら微笑み合った。


2人はそれ以降、黙々と歩いた。

「ねぇ、みてあの人!」

すると、通りすぎた人達の会話がの耳に入ってきた。
が振り向くとその声の主は、なぜかこっちを見ている。

(?・・・なんでこっちみてるんだろ?)
が不思議に思い周りを見ると、すれ違う大半の女の人達は全員振りかえり、こっちを見ていた。
(何?荷物大量に持ってるから?・・・違うよねぇ・・・・。)
は悩んだ。

(・・・・あ!そうか!澤村君!)

そう、彼女達は全員、澤村のことを見ていたのだった。
(・・・そう言えばあたし、『あの』澤村君と歩いてたんだっけ・・・そりゃあ目立つな。)
はいつも身近に澤村がいるせいか、澤村がかなりかっこいいと言うことをたまに忘れる。
もちろん、かっこいいということはわかっていたが、通りすぎる人が振り向くほどかっこいい。
と言うことを忘れていたのだった。
「・・・・・・・・。」
は澤村を盗み見る。

バスケをしているため程よくついた筋肉・・・。
平均以上の高い背・・・。
そして、女っぽい整ったかっこいい顔・・・。

「・・・・・。」
も思わず見惚れる。

「何、見惚れてんだよ。」

「!?」

すると澤村がニヤっと笑いながらこっちを向いた。
(うわ〜〜〜!!ばれたてた!!)
は真っ赤になる。
「なっ!・・・べ、別に見惚れてなんかないわよ!」
しかし、一応否定はしておく。
「じ、自意識過剰なんじゃないの。」
は真っ赤になったままの顔を背けた。
「自意識過剰ねぇ〜・・・。」
は見惚れていて気付いていなかったがはかなり澤村をジーっと見ていた。
あれで気付かないはずはない。ましてや澤村だ。
「あっ!ほら、信号変わっちゃう!走るよ!」
は逃げるように信号へと走っていった。
「あ!おい!ちょ、重い荷物持ってんのに走るか普通!この野郎〜〜!」

そう言いながら、点滅する横断歩道を二人は走って渡った。







続。