ようこそ、08













「・・・でも、気になる事がまだあるんですけど・・・」



は、ひと段落着いたので、お茶でも・・と、日本に勧められ、
少しぬるくなったお茶を一口すすった後、一息つき、そして湯呑みを持ったまま、また視線を日本に戻した。

「あ、はい。どうぞ、仰ってください。」

その言葉に、『日本』と呼ばれる日本人形の様な容姿をした青年は、
こちらも湯呑みから視線をに戻し、言葉を返した。

「私がいた地球とか・・国民とか一般市民がいた世界と、
この・・トルコさんや日本さん達のいる世界。その二つが存在する訳ですよね?」
「はい、そうです。」
日本とは二人共、言葉を発しながら湯呑みをテーブルの上に戻す。
「この世界にいる・・日本さんやトルコさんは、国そのもの・・って事はじゃあ、
他の国々の方も・・こちらに存在するんですか?」

の心は、根本の謎が解けたお陰で、落ち着きを取り戻していた。
そしてはのんびりと、取りあえず脳裏に浮かんだ疑問を日本に問いかけていた。

「はい、いらっしゃいますよ。アメリカさんに近隣の方々も・・
トルコさんの所からだと、竹林を通ってきたかと思われますが、
その辺りに中国さんのお屋敷がありますよ。他にも、ロシアさんや台湾さん。
欧州の方々もドイツさん、イタリアさんなどは昔から仲良くさせて頂いていますし。他にも世界各国の方々が。」
日本はにっこりと微笑む。
「へぇ〜・・」
はそうなのか・・と、驚きというか不思議な話を聞いた後の様な、気の抜けた相槌をしてしまう。
「あ、こっちは国の世界っていう事ですけど、じゃあやはりこっちの世界には国の方々以外は存在しないんですか?」
「ええ、そうですね。後は・・そうですね、動物位でしょうか。」
その問いにも、日本は穏やかな表情で答えた。
「動物かぁ〜、動物はいるんですね。」

そう言うと、はまたお茶を一口飲もうと湯呑みを口元に持って行く。
しかしある疑問が浮かび、手を止めてまた日本に問いかけた。

「皆さんって・・こちらで何されてるんですか?普通に暮らしている・・だけですか?」

は、こっちで国の人々が何をしているのかが気になったのだ。
国というからには、何か国家的に重要な仕事をしているのか?と、思ったのだが・・・


「俺達がただ普通に暮らしてるだけじゃ、いけねぇってのかい?」


トルコがズズズっとお茶をすすった。
口元には、いつものニタニタ笑みがなかった・・
言葉の感じも・・トルコが少し怒っている様に感じ取れ、場の空気が一瞬に張り詰める。

「え、あ、いや・・えっと・・そうじゃなくて!
な、何か国家に係わる、重要なお仕事をされているの・・かと・・・」

は少し調子に乗り過ぎた・・と焦る。焦って言葉が早口になったり、しどろもどろになったり・・・。
いくら良い人達だからと言い、状況が状況だからと言い、出会ってまだ数日しか経っていない・・
日本となんて、さっき初めて会ったばかりなのに、ズカズカと入り込み過ぎだ・・と、
はやってしまった・・と、自分の迂闊さに心の中で自分を責めた。


「・・・・ブッ!ハハハ!なぁーに、そんなに焦ってんでぃ!冗談でえ、じょーだん。」


トルコはいきなり声を上げて笑い出すと、両腕を背後の畳に着き、くつろぐ体勢になりながらそう言った。

「・・・な・・あーもう!びっくりさせないで下さい!!」

はびっくりした!と言いながらテーブルに両腕を着き、脱力する。

「・・トルコさん、悪ふざけが過ぎますよ。」

日本も心臓が・・と、胸に手を置きながら言う。

「いやぁ、すまねぇな。」

トルコは悪びれた様子もなくそう言うと、体勢を元に戻した。

「私達は一応、国なので・・そうですね、そちらの世界を表としたら、
表での外交の・・・お手伝いというか、こちらでその国の方・・あ、私やトルコさんの様な、
国としてこちらにいる方とですね、会議したりして、表が上手く行く様に・・サポート的な事をしています。」

「ああ〜、やっぱりそうなんですね〜。」

日本がトルコに続き、言葉を発すると、は顔を上げ、日本の話を聞く。

「上司の方が変わる度に、指針も変わりますので・・・
こちらが仲のよい関係でも、表では険悪だったりしますので・・・」
逆もありますけど・・と、日本は苦く微笑みながら溜息をついた。
「・・・・上司?」
は日本の言葉に首を傾げる。

「あ、上司というのは、その国のトップの方の事です。首相や大統領など。」
「・・・上司・・て呼ぶんですね・・・やはり立場的に上司なんですか?」
「微妙な所ですが・・そうですね、やはり表を実際にどうこう出来るのは上司なので・・・・上司ですね。」

日本はそう言うと、何故か少し悲しそうな表情をした。

「・・・上司・・か・・嫌な上司もいますよね・・・」

は私の所にもいました。と、苦笑しながら言うと、ふと元いた世界・・・
表の世界を思い出し、はっとする。


「で、そういえば、何で私はいきなりこっちの世界に来ちゃったんですか?」


は肝心な質問を忘れていた。

そもそも何故突然、自分がこちらの世界に来てしまったのか。
ここまで来れば分かると思って、期待して来たのだ。
しかし・・・・・


「・・・・・・・それは・・ちょっと・・私にも・・・」


「え・・・」

日本から返って来たのは、しばしの沈黙と、しどろもどろの予想外の言葉だった。

「こちらの世界に、あちらの世界の方がいらしたという話は・・聞いた事もありませんし・・・
実際にお見かけした事も、もちろんありませんから・・トルコさんはご存知ですか?」

日本は助けを求めるかの様に、ずっと黙って二人の話を聞いていたトルコに話を振った。


「・・いんやぁ、俺も知らねぇなぁ・・前例ないんじゃねぇか?」


「・・・・・・・・・」


その言葉には黙り込む。

「こっちの世界と俺達のこたぁ、各国のトップしか知らねぇ。それに、他言無用。
側近にも、家族にも言っちゃあならねぇ。
そんでトップを降りる時には記憶が消える仕組みになってっから、知ってるやつぁ今の各国トップだけだ。
そんでこっちの世界には、そっちの人間を如何なる理由があろうとも、
連れて来ちゃあならねぇ。ってぇ、昔からの掟がある・・・」

トルコはテーブルの上に肘を置き、頬杖を付きながら、もう片方の手で湯呑みを持ち、
斜めにしたり回したりと、指先で遊ぶ様に動かしながら、そう淡々と語る。

「それに、こっちに来る方法は俺達国と一緒に・・さっきおめぇさんが見つからなかったってぇ騒いでた、
部屋の入り口から入るしか、方法はねぇんでい。
だから・・・おめぇさんが俺のベッドに落ちてきたっつーのは・・・
まず、ありえねぇ事で・・・俺達にもさっぱり。な、日本?」

そう言うと、トルコはズズッと、既に冷めてしまったお茶をすすった。
そして日本は、ええ。と頷く。


「・・え、えっと・・あの・・・」


はトルコの言葉に動揺を隠し切れない。けれど、心を落ち着かせて考える。

「えっと・・まぁ、来ちゃった事は・・理由は・・とりあえず置いておくとして、
私はこれからどうすれば・・・・いいんでしょうか?」

はしどろもどろに、二人を困惑した瞳で見つめた。

来てしまった事が説明付かなくても・・まぁ、それはいい。
良くないのだが、こちらの世界の人達も分からないのだから、
三人で話して考えてても、答えはそうそう見つからないだろう。
それよりも肝心なのは、今後の事・・・・


表の世界に帰れるのか・・・帰れる・・のか・・・



「・・・・・・・・・・」


の脳裏に陰がよぎった。



向こうに・・帰る・・・・


帰る・・・また、あの生活に・・・戻る・・・のか・・・



当然と言えば当然だ。
今まで暮らしていた様に、元の世界に戻り、また過ごし・・・暮らして行く・・・・


の胸の内に、複雑な思いが湧き上がり始めた。



「そうですね・・いきなりこちらに来てしまわれた様ですし・・ご家族の方も心配されてますでしょうし。」

が物思いに耽り、周りを忘れていると、日本がそう言葉を発する。
その言葉に、はある事に気が付いた。

「あ!こっちとあっちって、時間の流れは同じですか!?ほら、漫画だとよく1日が一月とかあるから・・・」

(もしそんなんだったら、私は一ヶ月以上、行方不明・・・・・)

は向こうの状況を考えて、焦り出す。


「あ、ご心配なく。時間は同じスピードです。」


大丈夫ですよ。と、日本はの気持ちを察してくれたのか、穏やかに微笑んだ。
そして日本は言葉を続ける。

「時間の事にまで気が付くとは、さすが日本の方ですね、異世界トリップ漫画とか読まれてましたか?」
「あ、はい。大好きなやつがありましたし。」
「まぁ、そうですか。タイトルは・・って、私ったらこんな事態ですのにすみません。」
「あはは・・・」

(日本さんて漫画好きなのかな・・・)

口に袖を当て、ほほほ・・と焦りながら微笑む日本に、はそんな事を思う。

「って、ああ!?」

そしてまたもや、は叫ぶ。
「!?」
「な、なんでい!びっくりするじゃねぇかい!何度も何度も!」
その叫びに、日本とトルコの二人はビクッとして、トルコは思わず飲もうとしていたお茶を零しそうになる。

「・・・・・ヤバイ・・・てことは確実に仕事1日無断欠勤・・・・」

「「あ・・・」」

トルコと日本の声が重なる。
下を向き、凍り付くの心境が、同じ日本人だから分かるのか、日本は、まぁどうしましょう・・と、
口元に袖を当て、他人事なのだが、少しおろおろとしている。

「ど、どうしよう・・どうしよう・・・・」

は自分が仕事に行こうと玄関を出てから、そのままだという事を、ついうっかり忘れていた・・・
色々あって、それ所じゃない状況だったのだが・・・仕方ないと言えば仕方ないのだが・・・
しかしいざ、戻った時の事を考えると・・・どうしよう・・と、焦らずにはいられない。
胃がぎゅうっと縮まる感覚がする、冷や汗が出て来そうだ・・・
思わず、やる筈だった仕事の内容を思い浮かべてしまう。


「い、いや・・・あのでも、さん。1日位なら、こちらからあちらへ戻る際に、
会社や周囲には上手く誤魔化して頂ける様、私から頼みますので。」


日本は、落ち着いてください。とをなだめる。


「・・・え、私・・戻れるんですか・・・」


は日本の言葉から、今すぐにでも向こうへ戻れる雰囲気を感じ取り、日本に問いかけた。
そして帰って来た言葉は・・・・


「はい、うちの二つ目の玄関からあちらの世界へ繋がっていますので、すぐにでも帰れますよ。」


という、軽い返事だった。

「あ、そう・・・なんですか・・・・」

安心して下さい。と、にっこり微笑む日本の笑顔に、は有難うございますと、
喜びの笑顔で返すべきなのだが・・・の心には、喜びの気持ちはなく・・・
少しはあるのだろうが、様々な想いが絡みあった・・自分でもよく分からない、複雑な心境だった。


「・・・・・・・・・」


そしてほとんど日本との会話を聞いていただけのトルコだが、
仮面の下から今のそんなの心境が、ちらと伺えるその表情を・・見逃してはいなかった。
トルコは一人密かに、薄く微笑む。

「あ、でも一応、上司にお話しておかなければならないので、少しお時間を頂きますが・・。」
「あ、はい・・・・」

日本の言葉には少し伏せていた顔を上げ、微笑んだ。少し無理をして微笑んだ。


「しかしねぇ・・日本。」


「はい?」


今までほとんど黙っていたトルコが突然、会話に割って入る。
トルコはテーブルに付いていた肘を下げ、日本に向き直りながら話を続ける。


「こっちの事を知ってる人間を、あっちに戻して平気だと思うかい?」


「え・・・」
「・・・・・」

トルコの言葉に、日本とは言葉を詰まらせる。


「うちらは特に構わねぇし、問題もねぇけど・・・上司達が変な事しでかしゃしねぇと良いんだがねい・・・」


「「・・・・・・・・・・・」」

トルコはまた、あの少し愉快そうな、人の悪い笑みをうっすらと浮かべてそう言った。
日本とは、思わず黙り込んでしまう。

「なっ・・そ、そんな事!」
しかし日本はハッとし、咄嗟に言葉を返した。
「まぁ、俺もそんな事はしねぇと思うけど・・・なんせ前例がねぇんで、ちと心配に。」
トルコはそう言いながら微笑む・・・しかし、その笑顔は明らかに作った笑顔だった。
「「・・・・・・」」
その笑顔に、日本とは更に不安になる。


(・・・国に・・消される・・?)


は一人、かなりの不安に襲われていた。

映画で国家に消される、元から存在しなかった様にされる映画は結構見た事がある。
確かに国がその気になれば、民間人の一人や二人、消す事なんて容易いだろう。
しかしまさか・・自分がその立場になるかもしれないなんて・・夢にも思っていなかった。

(トルコさんが気付いてくれて良かったかも・・・)

消されると決まった訳ではないが、可能性がない訳でもない。
しかしふと、は思った。

トルコが自分の事を思い、言い出してくれた。そう思ったが・・・あの笑みが気になる。
あの愉しそうな、人の悪い笑みを今も愉しそうに浮かべている。

(・・・何か・・企んでる・・?)

は漠然に、そう思った。
ただ単に、の身を案じて。ではないと思った。
だが、何を考えているのかまでは分からない。
なんと言うか・・トルコという人は、飄々としていて・・なかなか捉えられないというか・・。
そう言えば、話術が上手い気がする、世渡りも上手そうだ・・・
したたかなタヌキ・・・という言葉がの頭に浮かんだ。
だがまぁ・・・全体的に頭が良いんだろう。と、はこんな時に悠長にそんな事を考えていた。

「ま、どの道とりあえずは身元確認して、そんで上司に話して、周りの微調整して・・・
そいでやっと戻れるってぇ所だろうから、俺んとこでまた預かってるわ。」

するとトルコは、パンッと膝を軽く叩いて、話を切り替える様にそう言った。
ここでも何気にもう、トルコのペースだ。

「あ、いえ、うちの国の方ですし、うちで過ごして頂こうと思います。」
「・・・そうかい?だそうだぜぃ、。」
「あ、はい・・私はお二人の都合の良い方で・・・」

自分は希望を言える立場じゃないし、そもそも特に希望はない。 はそう思い、そう答えた。
しかし・・・


「残念だねぃ。しばらく居るなら、折角だからよぉ、あちこち連れてってやろうと思ったのに・・・
うちの観光名所やら、近々、ヨーロッパの方、数国周る予定もあったから・・・」


「えっ・・・」

トルコのその言葉に、 は思わず小さくつぶやいた。

(トルコ観光に・・ヨーロッパ巡り・・・・)

の心が揺れる・・・
自分に選択権などないのは分かっている・・しかし、出来るならば・・・


(観光したい・・旅行したい・・・・)


次の瞬間には、の心は決まっていた。

あっちの世界に戻れば、数ヶ国周る事なんてそうそう出来ない・・出来たとしても、
かなり先の話だろう。それか宝くじが当たるか。

行きたい・・・と、の心は揺れるが、しかし、自分から言い出す事は・・・

はぎゅっと膝の上で拳を握った。


「あ、あの・・・また、日本に戻るなら・・折角なので・・あの、しばらく海外で過ごしてみたいな・・と・・・」


は視線を伏せて、恐る恐る言葉を発した。

「多分・・向こうに戻ったら中々出来ない、貴重な体験ですし・・・あ、でも!
もちろんお二人に決めて貰って構いません!トルコさんのご迷惑にもなりますし・・・」

と、はそう言うと、そのまま言葉を終わらせた。
が黙った後、部屋にはしばしの沈黙が訪れる。
やっぱり言わなきゃ良かった・・・と、はその沈黙に押し潰されそうで、今更後悔した。
しかし。


「俺ぁ、迷惑でもなんでもねぇぜい。」


横に座っていたトルコが、そう言うとポンっとの頭にその大きな手をのせた。


「・・・・・・・・」


は少し目を見開く。

何で頭に手をのせられたのかは分からないが、頭に手をのせられたのは、小学生位以来じゃないか?と思い、
何だか恥ずかしくなったが、でもどこか嬉しくて、は戸惑いながら少し微笑み、そのまま下を向いた。

「・・そうですか・・さんがそうしたいと仰って、トルコさんも構わないのでしたら・・私も構いませんよ。」

さすが自ら、空気を読むことが特技だと言うだけあって、日本はその場の空気を読み、穏やかに微笑んだ。

「・・はい!有難う御座います!どうもお手数おかけしてすみません!」

は、その日本の言葉と笑顔に、嬉しそうな表情で顔を上げると、そう言いながら頭を下げた。

「いえいえ。戻る準備も迅速に進めときますね。
あ、早速で申し訳ないのですが、一応念のためですが、身元を調べて置きたいので・・
こちらの紙に本籍と現住所、お名前と生年月日をお書き頂いてよろしいですか?」

日本はそう言うと、紙と鉛筆をテーブルの上に出し、スッと静かにの方に押し進めた。

「あ、はい。」

はその紙を受け取ると、言われた項目を書いて行く。


「しかし一体、何故こんな事になったのでしょうかねぇ・・」


が書き出すと、日本とトルコが会話をし始めた。

「イギリスのやつの黒魔術とかじゃねぇかい?召喚で呼び出したとか・・」
トルコはケラケラと笑いながら言う。
「黒魔術ですか・・・私はあの方の呪いで、我国の方がこんな目に・・?と、ちらと思いました。
それに最近・・ちょっと地震も多くて、色々と何かありそうで不安でしたし・・・・」
日本は溜息を吐く。
「あっはっはっ・・・てぇ、そりゃあ笑い事じゃねぇや。」
すまねぇ、日本。と、トルコは言った。


「・・・・・・」

はそんな二人の会話を、一人蚊帳の外で、紙に記入しながら横目に聞いていた。
会話に出てきたイギリスさんは、どんな人なのだろうか。とか、あの方の呪い?など、
心の中で色々と考えながら鉛筆を走らせる。

「出来ました。」

そして生年月日を書き終わると、は鉛筆を置き、日本に差し出した。

「有難う御座います。」

日本はそれを受け取ると、紙に書かれた文字に目を走らせ、そして確認し終わると、確かに。とに顔を向けた。

「調べて確認取れましたら、また後日ご連絡差し上げますので。」
「はい、よろしくお願いします。」

日本に微笑まれ、もにっこりと微笑み返した。


はようやっと、一通り終わったと安心し、ほっと安堵の息を吐く。


謎は大体解けた。
それに帰る方法も見つかり、案外簡単そうだ。
後は、トルコの所で待っていれば良い・・そうすれば、また元通り・・元の生活に・・・・・・・


「・・・・・・・・」


の顔が曇る。


正直、またあの生活に戻るのは嫌だ・・・・


けれど、戻らないでどうする・・戻らないわけには行かない。
心配する人がいる・・・家族や・・・友達・・・
それに元の世界に戻るのなら、出来るだけ早く戻った方が・・・何かと良いだろう。
あまり遅いと、職場や周りに色々と、更に気を回さなきゃいけなくて大変そうだ。


戻らなきゃ・・ならないのだ・・・



「・・・?」



「!」

また、一人物思いに耽っていたは、トルコに呼ばれ、ハッとする。


「どうしたんでぇ?」


トルコは少し顔を下げ、覗き込む様に、俯いていたの顔を伺う。
深い緑色の瞳がじっとを見つめていた。

「あ・・いえ!あの、お手洗いお借りして良いですか?」

は誤魔化すように、慌てて日本に顔を向ける。

「あ、はい。ご案内しますね。」
「あ、場所だけ言ってもらえれば!大丈夫です。」
立ち上がろうとした日本より早く、は手のひらを日本に向けて大丈夫ですと言葉を繰り返す。
「よろしいのですか?では・・廊下を左へ進んで、
突き当たりの角をそのまま左へ行きまして、最初に右手にある扉がお手洗いです。」
「有難う御座います。」

日本の説明を受けると、はお礼を言い、立ち上がり、障子を開けて部屋を出て行った。
障子を閉め、静かにスタスタと廊下を歩き角を曲がると、右手にトイレの扉が見えた。


「・・・はぁ・・」


これまたトイレも高級そうな造りが、それ一枚で伺える、トイレの引き戸の取っ手に手をかけると、
は重い大きな溜息を一つ吐いた。





「・・・・で、何を企んでいらっしゃるんですか?トルコさん。」


その頃部屋では、日本がトルコの湯呑にお茶を注ぎながら、そう問いただしていた。


「何がでぃ?日本。やぶからぼうに。俺ぁ別に、何も企んでなんかいねぇぜ?」


トルコはあんがとよ。と言いながら、差し出された温かいお茶の入った湯呑みを受け取る。

「あなたが何も企んでいない訳ないじゃないですか・・・
それに、何だか随分さんがお気に召している様ですけども・・・・・
うちの国の方に何かしでかしたら承知しませんからね。」

そう言うと、日本はにっこりと微笑んだ。
その笑顔はどこか恐い・・・

「・・・嫌だねぇぃ、俺はただ、人助けをしてるだけでぃ。」

と言いながら、トルコはお茶をすする。


「その言葉・・・・信じますからね。」


そう言うと、日本も瞳を伏せて静かにお茶をすすった。


「へいへい。」


トルコはそう言いながら、鼻から上を白い仮面で隠した顔の、唯一見える口元で、
日本に軽く微笑みながら、湯呑みをテーブルへと戻した。



(・・・・用心用心・・っとお・・)



しかし内心、トルコはそんな事を思いながら、密かに仮面の下に汗を浮かべていたのだった。










続。


2009/04/03....