ようこそ、06













(・・・・あ〜〜・・・・・)



トルコは少し宙を見つめながら、困っていた。
何故なら・・

「うっ・・うぇ、うぅうう・・・」

あれからしばらく、マンションの前でを慰めていたのだが、
なかなかが泣き止んでくれない・・・・
背中を軽く叩いてなだめているのだが、泣き止んでくれない・・・
「・・・・・・」
次第に、流石のトルコも周囲が気になってきた・・


「あー・・と、とりあえず中に入ろうな、な?」

トルコはそう言うと、頷きながらもまだぐずぐず泣いているを、
半ば引きずるようにマンション内へと入って行った。




また空調のおかげで心地良い空気に触れると、は少し落ち着きを取り戻し、
エレベーターの前でようやく泣き止んだ。
ずっ、と鼻をすすった後、はぁ。と、息を吐き出す。

「お、やっと泣き止んだかぃ?」

するとトルコがに声をかけた。

「!」

ああ・・そうだ・・・と、思いながらがそっとトルコを見ると・・

「・・・・・・・」

トルコは白い仮面の奥から見える緑色の瞳と、口元をニタニタとさせていた。
(ああ・・もう嫌だ・・)
は穴があったら入りたい・・・と、思いながら答える。

「はい・・すみませんでした・・・」
恥ずかしさで顔が熱くなるのがわかった。

「別にかまわねぇけどよぉ、入り口前じゃぁちっとなぁ〜一応住んでる訳だしよぉ。」

と、トルコが言っていると、ポーンとエレベーターの到着の音がなる。
あ。と、そこではある事に気がついた。


「トルコさん!部屋がなかったんですよ!」

そして、エレベーターに乗り込みながらはトルコに半ば叫ぶように言う。

「あ?」

トルコは21階のボタンを押しながら、顔をに向ける。

「はぐれた後、ここに戻ってきて、21階見たのに部屋がなくて・・・
それから25階から19階まで見たのに、部屋がなかったんです・・・しかも、
なんか急に周りの人の言葉がわからなくなって・・・。」

一体何なんですか?と、は早く答えが知りたくて、急かす様に聞く。

「あー・・まぁ、大体の原因は分かるけどよぉ・・まぁ・・百聞は一見にしかず。
てぇ、ことわざ日本にあんだろ?まぁ、もう少しで分かるからよ。」


あせんなぃあせんなぃ。と、トルコはまたニタニタとした笑みを浮かべながら言う。

「・・・・・・・」

は一体なんなんだろう・・・と、少し難しい顔をして俯いていると、
またエレベーターの音が鳴る。

そして、2人は21階のフロアに下りた。

(・・部屋・・なかったよね・・)
は自問自答する。
(なかった・・よ・・あんだけ探したもん・・)
そして、心の中でブツブツと言いながら、トルコの後ろを歩く。

そして、丁字を右に曲がると・・・


「なんであるの!?」


は思わず叫んでしまった。
先程探した時には見つからなかった・・存在しなかった
突き当たりの部屋の扉が今はちゃんとあるのだ。
(さっきなかったじゃん!!)
あんだけ探したのに!!と、がやり場のない怒りをふつふつと沸かしていると、
トルコがハハと、笑いながら廊下を歩いて部屋へと向かう。

「さっきなかったってぇのは確かだ、信じるぜぃ。」

そして、そんな事を言いながらトルコは部屋の鍵を開ける。

(・・・なんか・・そんなもったいぶらなくてもいいのに・・・)

と、は思いながらなんだか実はトルコさんは意地悪・・というか・・
なんか・・・・

(なんか、遊ばれてない・・あたし・・・・?)

と、は思った。

なんだか、トルコのニタニタ笑いを見るたびに、なんとなくそうは思っていたが・・・




そうこうしているうちに、トルコは鍵を開け、扉を開いた。

「おい、閉め出しちめぇぞ。」

そして、はその言葉に慌てて部屋に入った。







「・・・・・・」

戻ってきた部屋は出て来た時となんら変わりなく、
変わったのは、部屋の中が暗いのと、時計が進んでいる事位だ。


、こっちこっち。」

が部屋に入ってぼけっと部屋を見渡していると、
トルコがに声をかけた。

トルコは手招きして、がここに来てからまだ見てない部屋の方へとを呼ぶ。

「?」

はなんだろう。と、思いながらトルコが消えて行った部屋へと向かう。



「トルコさん?」

そして、廊下へと開け放たれたままの扉からひょいと、部屋の中を覗くと・・


「・・・・・・・・・・・」


は少し眼を見開き、呆然としてしまった。

扉から覗いたその部屋は、普通の広い部屋だったが、窓が一面ガラス張り・・・
しかし、綺麗な夜景が・・という訳ではなく、目の前に広がった光景は・・・・・


明るくサンサンと穏やかな陽の光・・・
さわさわと生い茂る、手入れされた草花。
そして、ポプラやその他の木々・・・

その向こうにはなんだか青い空と山などが見える。


「・・・・・・・」

はしばらく呆然とした後、立ち止まっていた扉の前で振り返り、
さっき通り過ぎたリビングを見る。
そして、また目の前の部屋を見る。
向こうの窓の外は夜なのに。こちらの窓の外は昼である。

(え・・ええ・・・?)

は訳が分からず、立ち尽くすしかなかった。


「はははっ、パニくってんなぁ。」

トルコはそう言いながら一面ガラス張りの窓を開く。
そこから、外に出ると、清々しそうな陽と空気の中で大きく伸びをした。

「ほら、おめぇもこい。行くんだからよぉ。」

と、は言われ、何がなんだかさっぱり訳が分からないが・・・・
とりあえずどこに行くのかは分からないが、行くしかないんだよね・・
と、思い、も窓に近づくと、そこから外へと出た。


「・・・・・・・」


外の空気はさっきまでいたトルコの外の空気と似ていたが・・・
また少し違う感覚がした。
空気が澄んでいて・・なんだか清らなかな感覚・・。

「・・・・」
陽の光も、風も気持ちよくて、も思わず深呼吸をする。

「こっちだぜぃ。」

するとトルコが、21階なのにずっと先に続いていると思われる草花の草原と、
自分家の庭を分けていると思われる柵を開き、その先に続く、
コンクリートではない、土の道を歩き出す。
「あ、はい。」
も何も分からないまま、とりあえずトルコについて行こうと、柵を越えた。



「・・・・・・」

「〜〜〜♪」

は「どこ行くんですか?」「この道なんですか?」等、
聞きたい事はたくさんあったが、さっき色々聞いて見たほうが早い。
と言われたので聞きたいのをぐっと堪え、トルコの横について歩いていた。

道は田舎の田んぼ道の様な感じで・・
人が歩いて自然と作られただろう土の道と、道脇には様々な草花が咲いている。
しかも、歩いていると、段々、草花の種類が変わってきているかの様に思えた。
それだけじゃない。
空気や、温度も・・・なんだか微妙に変わっていた。


「・・・竹林・・・」
歩いて30分位経った頃、周りの草花が竹林にいつの間にかなっていて、
はなんだかいやに疲れていた。
(少ししか歩いてないのに・・なんで疲れてんだろ・・)
まぁ、さっきまであんだけ歩いてたからかな・・と、が思っていると

「疲れちまったかぃ?」

そんなに気づき、トルコが声をかけた。
「あ・・はい・・なんか少し・・まだへばらないはずなんですけど・・」
と、が言うと、
「んー・・まぁ、仕方ねぇんじゃねぇかなぁ・・」
と、トルコは一人で何かを考え、顎をさすりながら独り言のようにつぶやいた。

「?」
が何が?と、また疑問に思っていると
「まぁ、もうすぐだからよぉ。」
と、トルコはニシッと笑った。

「・・・・はぁ・・」


(もうすぐ・・わかるのかなぁ・・・)



今までの疑問が全て解ければいいんだけど・・と、
は思いながらそのまま竹林をてくてくと歩いていた。

すると・・・

(あれ・・・?)

は、ふっとある事に気がついた。
空気が変わったのだ。
ここに来る間、何回か言い表すのは難しいが、空気の感覚が
変わったのだが、今また変わった。
そして、この空気は知っている・・・・・
は足元の草花も見る。

見た事のある雑草・・見慣れていた雑草・・・貧乏草とか言いながら
親指で友達に向かって弾いていたあの花・・・・・・

(え・・・もしかして・・・・)

と、が思った時、


「お、着いたぜぃ。」


トルコが前方を指差した。


そこには立派な、されど今の日本では見かける事も少なくなった、日本家屋があった・・・・・。









そのまま2人は家に近づいていき、その家の軒下に着くと、
表札の下にある、チャイムを押した。

ピンポーンと、チャイムの音が鳴る。
はトルコが押したチャイムの上の表札を見た。

(・・・・本田・・さん・・?)

表札には本田と書かれてあった。
表札も、年月を重ねて重厚感のある、上質の木を使った年季の入った表札だった。
がぼんやり表札を眺めていると、引き戸の向こうからパタパタと足音が聞こえてきた。


「はいはい、どちら様でしょうか?」

そして、ガラッと開かれた引き戸から現れたのは、
日本人形のような容姿をした、青年だった。

「・・・・・・・」

は思わず固まる。
たった一日しか経ってないが、日本人らしき人物に会えた嬉しさに固まった。
しかし、それと同時に浮かぶ疑問。
この人は誰なんだろう・・・・・。
すると、その謎はトルコが解いてくれた。

「よう!すまねぇな日本。急に邪魔しちまって。」

トルコはその青年にそう言った。

(・・・・日本・・さん・・?)

は一人きょとんとしていた。

「いえいえ、構いませんよ。何か御用が?」

と、『日本さん』と呼ばれる青年は答えた。
「ああ、用件はこの人のことなんだけどよ・・・。」
「・・・・・」
急にトルコに『この人』と言われ、は少しびっくりしたが、
日本さんと呼ばれる人と眼が合うと、会釈をした。

「こちらの方は・・・・」
「ああ〜・・・ちょっと話せば長くなるんだけど、どうやら日本人らしくてなぁ・・・」
「・・・日本の・・・方・・?」

『日本さん』は、トルコのその言葉を聞いて、少しきょとんと、眼を丸くした後、
言葉を続ける。

「立ち話もなんですから、どうぞお入りください。中に入ってお話しましょう。
なんだか、少し複雑なお話のようですし・・。」

日本はそう言うとにもにこっと微笑むと、2人を家へと招き入れた。










続。


2008/09/09....