ようこそ、03
真っ暗な闇の中から、ふっ・・と光の世界に戻る。
はまぶたを開け、静かに眠りから覚めた。
「お、おはようさん!起きたかい!?」
しかし、眼を開いた直後に飛び込んできたのは・・・白い仮面・・・そして濃い緑の瞳。
「・・・・っ!?」
はガバッ!と、後ろに逃げながら起き上がった。
「なんだぁ?人の顔見るなり逃げやがって!びっくりしたか?」
目元と口元しか見えない仮面をつけた男は、
ニタニタと腕組をして笑っていた。
(夢じゃ・・・・なかった・・・んだ・・。)
は、目の前に広がる日本の部屋ではない部屋と、目の前の男を見て思った。
「・・・・・・・・・」
そして、少しうなだれる・・・
「あぁ?なんだぁ?そんなくれぇ顔して・・・今日はこんなに良い天気なのによぉ!」
そう言って、白い仮面の・・本人曰く名をトルコという男が
開いた扉の先に広がった風景は・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
今まで見たことのない、テレビや雑誌越しでしか見たことのない、海外の風景だった。
扉を開けると、そこは白い広いテラス。
そして青い青い、日本の青さとは違う青い空。
そして、街並。
西洋と東洋が混ざり合ったような・・・・
アジアン・・アラビアンかと思えばヨーロッパとも言える不思議な街並だ。
「・・・・・・・うわぁ・・・」
は、寝やすいように着崩してぐちゃぐちゃになった外着のまま、
ベッドから出て扉に手をかけた。
「・・・・・・・・・」
見れば見る程、吸い込まれていく・・・ワクワクしてくる・・・こんな世界があったのか・・・。
自然と顔がほころぶ。
その表情を見て、トルコはニシッと頬を横にのばした。
「・・・・・・・・・・よし!んじゃ朝飯食ったら、街行ってみっか!」
「・・・え!?」
突然のトルコの提案にはトルコをバッと見て、驚いた表情をする。
「あ・・・でも・・・・・」
(早く帰らなきゃ・・・・・)
は思う・・・日本大使館に行って、早く帰って、心配してる人に挨拶して・・・・
(また、あの生活に戻るのか・・・・・)
の表情に、一瞬、暗い陰が落ちた。
「・・・・・・・・・」
そんなの表情をトルコは見過ごさない。
「なんでぇ、一日くれぇ。てか、半日だろうに。
そこのバザール見て、午後に帰ってくりゃいいだろ〜?」
さっ、朝飯朝飯!
と、トルコはの腕を引っ張る。
「え!あ・・!」
は、引っ張られるまま歩き出す。
「・・・・・・・・・」
そして、ちらと振り返り、扉の外を見た・・・・
(折角だし・・・半日位・・・・構わない・・・よね・・・・・)
「あまっ・・・!!!!」
は、げほ!と噴出しそうになる。
トルコがまずどうぞ。と出してくれた小さなカップに入った紅茶は・・・・
「す、凄く甘いですね・・・・・」
日本で飲んでいた紅茶の数段上の甘さだった・・・・。
トルコがチャイ飲むか?と言って出してきた普通の飴色に輝くストレートティーは、
小さいカップで出て来て、はチャイ?と思いながら口にしたのだが・・・
見た目からは想像もつかないくらい、甘かった。
「ん?砂糖入れといてやったんだが、やっぱ甘ぇか。
トルコではこんくれぇが普通なんだけどなぁ・・・やっぱよそのやつには甘すぎんだなぁ。
まぁ、本来は自分で入れるからよ、今回は本場の甘さつー事で!」
トルコはハハハ!と、豪快にあっけらかんと笑った。
さいですか・・・と、は思いながら、ピザのような、パンのような物を口に入れる。
(あ、これ美味しい・・・・)
そう思いながら、は甘い甘いチャイを少し飲み込んだ。
ここは、トルコの家のリビング。
リビングはどちらかというと西欧・・・というか、今風というか・・・
本当に最近のマンション・・・しかし、『高級』がつく。
広さや、家具・・調度品などから庶民のでも、そう伺える。
「お、これうめぇな。」
そこで、トルコはの向かいのソファに座り、大きな身体を悠然とソファにもたれかけ、
一口ケーキを食べていた。チャイをすすりながら・・・
「・・・・・・・・・」
あのチャイで、ケーキ・・・・甘いもの好きなもいささか眉を顰める。
「あ、そこにお前のもあっから、くってみな!」
そんな眼でトルコを見ていたら、違う意味に取られ、すすめられる。
「・・・・・・」
ノーと言えない日本人+どんな甘さか、体験してみたかった。
「じゃあ、いただきます。」
ケーキをフォークで切り、ひょいと口に入れる。
「・・・・・・・あっ・・・!」
まぁ!!という言葉が続かなかった。
つい、ティーカップを手に取るが、
そこに入っているのは、激甘チャイ・・・・・・・
「・・・・・お水・・・貰います・・・・・・」
飲めなかった・・・・ここでチャイは飲めなかった・・・・
はミネラルウォーターのふたを開ける。
水を飲みながら、このケーキであのチャイを飲んでいるトルコさんは
糖尿病とか、身体大丈夫なのだろうか・・・・と、いらない心配をしていた。
食事中、窓から見える外の風景から、このマンションは高層高級マンションだと察した。
しかし先ほどのテラスはなんだったのだろう・・・テラスからの風景はなんだったのだろう・・・と、
は思う。
そして、トルコから日本のどこに住んでた?や、歳など当たり障りのない質問をされ、
も上手く距離をとりながら、会話をしていた。
「さってと!食い終わったし行くか!」
食べ終わって早々に、トルコはそう切り出した。
せっかちな性格・・・なのかな・・・口調が江戸っ子だけに・・・と、
は思いながら二言返事で承諾する。
その後、服がぐしゃぐしゃなので、ついでにお風呂に入り身支度を整えた。
どうぞ、と借りた浴室には、何か・・・別の部屋の入り口があったが、
とりあえずシャワーだけ浴びて、浴室を出た。
浴室ももちろん豪華だったのは言うまでもない。
そのまま、身支度を整えつつ、基礎化粧品やブラシなどがある浴室に疑問を抱いた・・・
(ここホテル・・・?)
ホテル住まいをしているのかなぁ・・と、なんだか謎が謎を呼ぶ、
自称トルコさんに、は一瞬、また不安を募らせた・・・・が、
まぁ・・・・まぁ・・・外に行ったら後は帰るんだし・・・・。
そして、会話をしていてどうやら悪い人ではない・・・と、は思っていた。
平和ボケな日本人の自分を騙すなんて簡単だろうが、取り合えず自分の観察眼を信じるしか今はない。
「さて、行きますか。」
トルコの渡してくれた服はごく普通の服だった。
ロングTシャツとジーパン。
味気ない気もするが、まぁ、別に知らない国で誰が見ているわけでもなし、
むしろ楽だった。
トルコが選んだのか、ロングTシャツの模様が少し異国風で面白かった。
は扉を開ける。
(21階・・・・)
は乗ったエレベーターで今いた階数を何気なく、ちらりと見た。
やはり、トルコの住まいは高層高級マンションだった・・・・
廊下に出て、エレベーターに乗って、廊下とエレベーターの清潔感と豪華さに、
予想は当たっていた・・・と、は思った。
因みにそこに住んでいらっしゃる、トルコ本人は・・・・・・
「・・・〜〜♪〜〜〜♪」
何かの鼻歌を上機嫌で歌っていている。
あの白い仮面を付けたままで。
(あれ・・・付けたままで外行くのかな・・・)
行くんだよね・・・と、は思う。
平気なのか・・・?海外では・・・トルコでは当たり前の風景?いや、目立つよね・・・・と、
色々思うが、まぁ・・・いいか。と、諦めというかあまりこだわらなくなったというか・・・
なんだか、ありえないことや未体験経験をたくさんして、
は今かなり物事に寛容になっていた。
投げやりとも言うが・・・。
そしてエレベーターはチンと音を立てて、1階に着いた。
トルコでは、1階を1階とは呼ばないみたいだ・・・・
昔、イギリスでは「なんとかフロア」と呼ぶ・・・と、英語の時間に習ったなぁ・・・と、
おぼろげな記憶を引き出す。
「ぼけっとしてるとおいてくぜい!」
ぼんやりとしていたの背中を、トルコはトンと、押した。
そして二人で歩き出すが、歩き出したトルコも、
ジーパンに麻のような素材のゆったりとした長袖の服を着ていた。
なんでもない服なのに、なんでトルコが着るとこんなに似合うのか・・・
格好よく見えるのか・・・は謎だった。
(身体つきがいいからかな?)
はちらりとトルコの腕を見る。
よくよく見てみれば、トルコはかなりいい身体をしていた。
肉体美とはこういう事を言うのかな・・・と、考える程に。
長身で、腕や足の長さは申し分ないし、筋肉も非常に良い付き方をしていた。
足りなくもなく、付きすぎでもない。それでいて、自然で締まっていて、
触りたくなるような・・・・
(ああ、彫刻とかで見た感じなんだ・・・・)
はふと思う。
それに加えて、短髪の黒髪とこの褐色の肌の色・・・肉体美を余計引き立たせる・・・
「ん?なんでい?」
すると、トルコが視線に気付き、に顔を向けた。
「・・・・いや・・どこに行くんですか・・・?」
そして、顔の仮面を見て、これがなければ更にいいか・・・・と、
は思いながら、適当に言葉を発する。
「・・・・・・」
そしてふと思った。
トルコさんはなんで仮面をつけているのか・・・・
そして素顔は・・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・」
はトルコの素顔が気になった。
そう言えば、外している所をまだ一度も見ていない・・・
何故仮面をつけているのか・・・趣味・・・なら、もっと気軽に付け外しするだろうし・・・
何か理由が・・・・・?
は思う。
しかし、それより何より・・・・気になるのは素顔。
(漫画のお決まりパターンだと、前髪で隠れた眼とか、仮面の下は美形なんだけどね・・・)
は正面を見ながらにやっと笑った。
(帰るまでに見れたらいいなー。)
そして、マンションのロビーを出た。
続。