ようこそ、02













(何かおもしれぇ事ねぇかなぁ・・・・)







トルコは、夜。
自室のベッドの上で本を読みながら、ふとそんなを思った。


特に、今が楽しくないわけではない。
EU入りの外交、国内の問題も膨大にある。
そして、それを苦に感じず、どうしてやろうか・・・と、楽しんで策を練っている。

しかし、やはりふと、昔を懐かしく思う時がある。
そんな事は野蛮だと、低俗だと言われるかもしれない。

だけど、戦いはやはり楽しい。


戦場での戦い、血が躍る感覚、生と死の境界、スリル、
勝利の達成感、爽快感は忘れられない物がある。


だけど、あの日々はもう来ないのも知っている。


(俺も歳くったなぁ・・・)


時折、そんな感傷的な気分に浸る。

もう、あの日々の様な戦いはこないと思う。
しかし、それに変わる何か面白い事は起きないか・・・・
トルコは考える。


そして、本のページをめくろうと、長く、ごつごつとしているが、
その外見とは裏腹に、柔らかく流れるように動く指を動かした時・・・・・・




ボン!




ベッドに背をもたれていたトルコの視界の右隅に、何か落ちてきた。

「!」

トルコは昔の癖からか、反射的に落ちてきた物を少し鋭い眼で見る。



「・・・・・・・・・・・・」



しかし、トルコはその『モノ』を見て、らしくなくきょとんとしてしまった。


それは、3秒くらい経つとピクッと動き、ガバッ!と顔を上げた。



「・・・・・・・・・へ?」


「え・・・・・?」



言葉を発したそれは、人間だった。

それも、この国の人間ではない。
この国の人間と比べると・・・

象牙色の肌。
幼い顔立ち。
小柄な身体。
艶やかな黒い髪。


(こいつぁ・・・・)


その容姿はアジア特有の物だった。
アジアのどこの国かは分からない、見慣れていないので同じに見えるが、
トルコから見れば、アジアの少女・・にも見える、女だった。

そこでトルコも何故だか分からないが、ほんの少し口が横にのびた。




「・・・えっ・・・え・・・?あ・・・」


そして、その女は見るからに混乱していた。

それは、トルコも同じだ。
何せ自分の部屋の天井から人が降って来たのだ。
その女は必死に状況を理解しようとおどおどとしている。

「・・・・・・・・・」

その様子は、トルコにとって、見ていて実に楽しいものだった。
獲物を見つけた・・・どうしてくれようか・・・という愉快な気分である。

そして、その女は言葉を発する。


「・・・えっ・・と・・・どなた・・・ですか・・・・」


(おーおー、混乱してるねぇ・・・)


トルコは思わずニタニタと人の悪い笑みを浮かべそうになるが、
堪えながら答える。


「・・・いや、お前さんがだれだい・・・?」


「・・・・・え!?」

そして、トルコの声を聞いて、その女は状況をようやく少しずつ理解してきたのか、
さらに、パニックになっていた。

部屋の中をきょろきょろと見回しながら、
僅かに手が震えているのをトルコは見逃さなかった。

「・・・・・・・・」

相手の微妙な仕草から、相手の思っていることを見透かして先の先を読む・・・
それは、欧州を相手にしているトルコにとっては至極当たり前のこと。
だから、この女の隠すわけでもない、分かりやすい感情からストレートな反応は、
トルコにとって見ていて逆に面白い。



(・・・・・・・・・神さん・・あんがとよ・・・・・)


しばらく楽しめそうだぜ。

トルコは、そう思いながらクスッと微笑むと、本を閉じた。
そして、その女に話しかける。




「お前さん、今、天井から降ってきたんだぜ?」










続。